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第42話 ただいま
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私が気が付いた時には、全部終わった後だった。
悪い人は、みんな捕まったか逃げたかして、後に残ったのは壊されちゃった町並みだけ。
……私のスキルが暴走したせいで壊れたものもあるって聞かされた時は、申し訳なさ過ぎて泣きそうだった。
星さんが守ってくれたお陰で、怪我人も出てないし、全体として見れば私が出した被害は大したことないとは言って貰えたけど……配信で稼いだお金で、弁償出来るかなぁ?
だけど、それもこれも、みんなが無事だったからこそ考えられる、贅沢な悩みなのかもしれない。
今日、私を守ろうとして大怪我をした歩実さんが退院するって聞いて、心からそう思う。
「歩実さーん!!」
「おわっと……アリスちゃん、来てくれたんですね~」
探索者協会が運営する、都内にある大病院。その病室の一つに飛び込んだ私は、いつものスーツ姿で帰り支度をしている歩実さんを見付けて、思い切り抱き着いた。
本当は、もっと早く会いたかったんだけど……私自身、過負荷状態を起こした体の検査とかでずっと入院してたし、それが終わった後もテュテレールやウィーユ達の修理でかかりきりになっちゃってたから、顔を合わせられるのは久し振りだ。
歩実さんが元気そうで、本当に良かった。
そんな安堵の気持ちと、会えて嬉しいって気持ちと、色んな想いを込めてぐりぐりと顔を押し付けると、歩実さんは優しく私のことを撫でてくれた。
「もう、大丈夫なんですか? ごめんなさい、私のために……」
「気にしないでください、それが私の仕事ですし~……それに」
歩実さんが、私の体を一際強く抱き締める。
ぎゅぅっと、私の存在を確かめるみたいに。
「私は、アリスちゃんに笑っていて欲しかったから、頑張ったんですよ。どうしても気になるなら……謝るんじゃなくて、笑ってください。それが、私にとっては一番のご褒美ですから~」
「はい! ありがとうございます、歩実さん! 大好きです!」
私の笑顔なんかで歩実さんが喜んでくれるなら、思いっきり笑おう。
そう思って、目一杯の笑顔を見せながらお礼を言うと、歩実さんは「あ~~アリスちゃんやっぱり天使です~~」なんて言いながら、思いっきり頬擦りしてきた。
えへへ、ちょっぴり苦しいけど、温かいな。
「ちょっとちょっと~、歩実も確かに頑張ったけどさ、ウチだって頑張ったんだよ!? 一人で戦車にも立ち向かってさ。ウチにもアリスちゃんのご褒美ちょうだーい!」
そんなやり取りをしていたら、歩実さんの帰り支度を手伝っていた菜乃花さんが、腕を広げて寂しそうに抗議の声を上げていた。
それを聞いて、私はすぐに菜乃花さんの胸に飛び込んだ。
「もちろんです。菜乃花さんも、私のためにたくさん頑張ってくれたんですよね? 本当に、ありがとうございます。菜乃花さんも、大好きですよ」
えへへ、と笑いながら、菜乃花さんの胸にすりすりと顔を寄せて甘えてみる。
すると、菜乃花さんはなぜか固まったままぷるぷると震え始めた。
「菜乃花さん?」
こてん、と、菜乃花さんの胸元で首を傾げる。
すると、菜乃花さんはまるで、プツン、と何かの糸が切れたように力を抜き……猛然と、私を抱き締めながら顔を寄せて来た。むぎゃっ。
「もぉ~~!! アリスちゃんはどうしてこんなにも可愛いの? あーもう好き! ウチもだーいすき! チューしてあげるね!」
「ふわぁ!?」
私のほっぺに、これでもかってくらいちゅっちゅっとキスしてくる菜乃花さん。
嬉しいけど、今は歩実さんもいるし、テュテレールだって病室の入り口からずっとこっちを見てるから、恥ずかしいよ。
「菜乃花さん~? 流石にそれはスキンシップ過剰じゃないですか~?」
「えー? これくらい普通だよ、ウチとアリスちゃんの仲だもん。ねー?」
「え、えーっと、確かに嫌ではないですけど……ちょっと恥ずかし……」
「ほらぁ! 羨ましかったら、歩実もやればいいんだよ。反対側のほっぺは空いてるよ?」
「えぇ!?」
菜乃花さんからの思わぬ煽りに、私は目を丸くする。
けど、歩実さんはそれを真に受けちゃったみたいで……本当に私の隣に来て、ほっぺにキスし始めた。
「アリスちゃん、伝えられていませんでしたが……私からも、退院おめでとうございます~、アリスちゃんが元気になってくれて、本当に嬉しいですよ~」
「あ、ええと、そう言ってくれるのは嬉しいんですけど、あの、チューは恥ずかし……」
「おお~、歩実もノリノリだねぇ、ウチも負けないぞ~」
「ふみゃあ~~!?」
なぜか両側から抱き締められて、好き放題キスされるという変な状況になっちゃってる。テュテレールは見てるだけで助けてくれないし。
どうしよう、と思っていたら、病室に新しくもう一人、女の人が入ってきた。
「……大の大人が二人して、何を小さい子を虐めてるんですか」
「あ、茜お姉ちゃん~!」
救世主の登場に、私は大急ぎでお姉ちゃんのところへ向かって抱き着いた。
よしよし、と私のことを撫でながら、お姉ちゃんが二人のことをじとーっと睨む。
その視線を受けて、歩実さんはそっと目を反らし、菜乃花さんはむしろ開き直るように胸を張った。
「そんなこと言って、本当は茜ちゃんだってアリスちゃんを猫可愛がりしたいって思ってるでしょ!?」
「いや、私は普通に妹みたいに思ってるんで、そんなアホみたいな可愛がりかたしないですけど」
「なん……だと……?」
そんなバカな……みたいな感じで、菜乃花さんが崩れ落ちる。
その様子に溜め息を溢しながら、お姉ちゃんは隣に立つテュテレールに矛先を向けた。
「テュテレールも、保護者なんだから助けてあげなさいよ」
『アリスが本気で嫌がるようなら止めに入るつもりだった。だが、そうではないのであれば、功労者たる二人には報酬が必要だと判断した』
歩実さんや菜乃花さんに言われた時も思ったけど、私の存在ってご褒美扱いなの? どういうこと?
「まあ、それに関しては、あまり力になれなかった私にとやかく言う権利はないけど。あの人……星羅さんに連れていかれただけだし」
「あ、そうそう! その星羅だよ! あいつ、今どこで何してるの!? 落ち着いたら色々と説教してやろうと思ってたんだけど!!」
『浮雲星羅は、既に東京を離れたと思われる。菜乃花によろしく、と伝言を頼まれた』
「あんの気分屋のお馬鹿ぁぁぁ!! まーたウチに何の断りもなしにいなくなって!! 局長も、『あいつはもうそういう存在だと思って諦めるしかない』とか言うし……ウチは納得してないから!!」
むっきー! と、菜乃花さんが地団駄を踏む。
星……星羅さんと初めて会った時、「知り合いの職員に怒られるからやだ」って言ってたけど、あれって菜乃花さんのことだったんだね。
でも……その様子を見てると、多分嫌いだから避けてるんじゃなくて、お互いに信頼してるからそういう感じになるんだろうなって思った。
えへへ、何だか微笑ましいかも。
「みんな、何を騒いでるんだ?」
「あ、局長!」
そんな騒がしい病室に、またしてもお客さんが現れる。
菜乃花さんや歩実さんの上司、高遠さん。
そんな彼が、やや呆れ顔で口を開いた。
「病院側からクレームが入っているぞ、もう少し静かにしてくれとな」
「うぐっ、ごめんなさーい」
高遠さんからの注意に、菜乃花さんが真っ先に謝る。
けど、私も騒がしくしていた自覚があるから、歩実さんと一緒に頭を下げた。
「ごめんなさい、うるさくしちゃって……」
「気にするな、悪いのはそこの大人達だ。子供は元気なくらいでちょうどいい」
高遠さんがそう言って、私の頭を撫で始めた。
流石にそれはどうかと思ってぷくっと頬を膨らませると、苦笑と共に「すまない」と再度謝られた。
「ここまで巻き込んでしまったんだ、子供扱いはよくないな。では、仕事の話をしようか」
そう言って、高遠さんが話してくれたのは、事件の顛末だった。
ひとまず、事件に関する報道の加熱は収まったこと。
主犯は荒馬って人になってて、私を襲った子──白銀狼奈ちゃんの行方は、未だに分かってないってこと。
「今回の件を未然に防げなかったことで、俺達探索者協会の立場はかなり弱くなった。申し訳ないが、白銀狼奈の捜索は打ち切る他ないだろう」
『そうか』
高遠さんの宣告に、テュテレールは心なしか悲しそうに呟く。
私は全然覚えてないんだけど、三歳頃までは何度か一緒に遊んだことのある相手だったみたい。
テュテレールがこれだけ気にするってことは、それだけ仲良しだったんだろうな。
「気にしないでください。狼奈ちゃんを探すのは、私達も出来ますから」
「そうは言うが……君は、言ってはなんだが、あれほどの暴走を起こしたばかりだ。あまり自由に行動は出来ないぞ」
「大丈夫です」
ポン、と、私は胸を叩く。
どうするつもりなんだと疑問符を浮かべるみんなに、私は笑顔で答えた。
「私に、考えがありますから」
探索者協会から提供されていた家が壊れちゃったから、当座を凌ぐために小さなアパートを貸し与えられた。
その一室で、私はテュテレールの前に立つ。
腕の中に、テュテレールが撮影した狼奈ちゃんの写真を抱えて。
『いいのか? アリス。確かに、配信によって広く情報を募るというのは一つの手だが、有用な手掛かりが得られる可能性は1%にも満たない』
「いいの。それでも、私は私に出来ることをしたいから」
そう、私の考えは、人気配信者っていう立場を使って、視聴者のみんなに狼奈ちゃんを探して貰おうっていうもの。
テュテレールの言う通り、手掛かりなんて何も得られないかもしれない。
それでも、何もしないなんてことは出来ないから。
「私、これからはもっと頑張りたい。テュテレールに頼ってばっかりじゃなくて、自分でも何か出来るようになりたいんだ」
そして、いつか──テュテレールが、もう武器を持たなくても大丈夫だって。
私を、ボロボロになりながら守らなくても問題ないって、そう思って貰えるくらい、強くなりたい。
それが──私の夢だから。
「だからね、ほら! 早く配信始めよう! ずーっと出来なかったから、きっとみんな寂しがってるよ!」
『……そうだな。では、始めよう』
テュテレールの合図と共に、その体に内臓されたカメラが作動し、私の姿を配信し始める。
そんなテュテレールに向かって、私はいつも通りの──目一杯の笑顔を浮かべて、挨拶した。
「みんな、ただいま!!」
悪い人は、みんな捕まったか逃げたかして、後に残ったのは壊されちゃった町並みだけ。
……私のスキルが暴走したせいで壊れたものもあるって聞かされた時は、申し訳なさ過ぎて泣きそうだった。
星さんが守ってくれたお陰で、怪我人も出てないし、全体として見れば私が出した被害は大したことないとは言って貰えたけど……配信で稼いだお金で、弁償出来るかなぁ?
だけど、それもこれも、みんなが無事だったからこそ考えられる、贅沢な悩みなのかもしれない。
今日、私を守ろうとして大怪我をした歩実さんが退院するって聞いて、心からそう思う。
「歩実さーん!!」
「おわっと……アリスちゃん、来てくれたんですね~」
探索者協会が運営する、都内にある大病院。その病室の一つに飛び込んだ私は、いつものスーツ姿で帰り支度をしている歩実さんを見付けて、思い切り抱き着いた。
本当は、もっと早く会いたかったんだけど……私自身、過負荷状態を起こした体の検査とかでずっと入院してたし、それが終わった後もテュテレールやウィーユ達の修理でかかりきりになっちゃってたから、顔を合わせられるのは久し振りだ。
歩実さんが元気そうで、本当に良かった。
そんな安堵の気持ちと、会えて嬉しいって気持ちと、色んな想いを込めてぐりぐりと顔を押し付けると、歩実さんは優しく私のことを撫でてくれた。
「もう、大丈夫なんですか? ごめんなさい、私のために……」
「気にしないでください、それが私の仕事ですし~……それに」
歩実さんが、私の体を一際強く抱き締める。
ぎゅぅっと、私の存在を確かめるみたいに。
「私は、アリスちゃんに笑っていて欲しかったから、頑張ったんですよ。どうしても気になるなら……謝るんじゃなくて、笑ってください。それが、私にとっては一番のご褒美ですから~」
「はい! ありがとうございます、歩実さん! 大好きです!」
私の笑顔なんかで歩実さんが喜んでくれるなら、思いっきり笑おう。
そう思って、目一杯の笑顔を見せながらお礼を言うと、歩実さんは「あ~~アリスちゃんやっぱり天使です~~」なんて言いながら、思いっきり頬擦りしてきた。
えへへ、ちょっぴり苦しいけど、温かいな。
「ちょっとちょっと~、歩実も確かに頑張ったけどさ、ウチだって頑張ったんだよ!? 一人で戦車にも立ち向かってさ。ウチにもアリスちゃんのご褒美ちょうだーい!」
そんなやり取りをしていたら、歩実さんの帰り支度を手伝っていた菜乃花さんが、腕を広げて寂しそうに抗議の声を上げていた。
それを聞いて、私はすぐに菜乃花さんの胸に飛び込んだ。
「もちろんです。菜乃花さんも、私のためにたくさん頑張ってくれたんですよね? 本当に、ありがとうございます。菜乃花さんも、大好きですよ」
えへへ、と笑いながら、菜乃花さんの胸にすりすりと顔を寄せて甘えてみる。
すると、菜乃花さんはなぜか固まったままぷるぷると震え始めた。
「菜乃花さん?」
こてん、と、菜乃花さんの胸元で首を傾げる。
すると、菜乃花さんはまるで、プツン、と何かの糸が切れたように力を抜き……猛然と、私を抱き締めながら顔を寄せて来た。むぎゃっ。
「もぉ~~!! アリスちゃんはどうしてこんなにも可愛いの? あーもう好き! ウチもだーいすき! チューしてあげるね!」
「ふわぁ!?」
私のほっぺに、これでもかってくらいちゅっちゅっとキスしてくる菜乃花さん。
嬉しいけど、今は歩実さんもいるし、テュテレールだって病室の入り口からずっとこっちを見てるから、恥ずかしいよ。
「菜乃花さん~? 流石にそれはスキンシップ過剰じゃないですか~?」
「えー? これくらい普通だよ、ウチとアリスちゃんの仲だもん。ねー?」
「え、えーっと、確かに嫌ではないですけど……ちょっと恥ずかし……」
「ほらぁ! 羨ましかったら、歩実もやればいいんだよ。反対側のほっぺは空いてるよ?」
「えぇ!?」
菜乃花さんからの思わぬ煽りに、私は目を丸くする。
けど、歩実さんはそれを真に受けちゃったみたいで……本当に私の隣に来て、ほっぺにキスし始めた。
「アリスちゃん、伝えられていませんでしたが……私からも、退院おめでとうございます~、アリスちゃんが元気になってくれて、本当に嬉しいですよ~」
「あ、ええと、そう言ってくれるのは嬉しいんですけど、あの、チューは恥ずかし……」
「おお~、歩実もノリノリだねぇ、ウチも負けないぞ~」
「ふみゃあ~~!?」
なぜか両側から抱き締められて、好き放題キスされるという変な状況になっちゃってる。テュテレールは見てるだけで助けてくれないし。
どうしよう、と思っていたら、病室に新しくもう一人、女の人が入ってきた。
「……大の大人が二人して、何を小さい子を虐めてるんですか」
「あ、茜お姉ちゃん~!」
救世主の登場に、私は大急ぎでお姉ちゃんのところへ向かって抱き着いた。
よしよし、と私のことを撫でながら、お姉ちゃんが二人のことをじとーっと睨む。
その視線を受けて、歩実さんはそっと目を反らし、菜乃花さんはむしろ開き直るように胸を張った。
「そんなこと言って、本当は茜ちゃんだってアリスちゃんを猫可愛がりしたいって思ってるでしょ!?」
「いや、私は普通に妹みたいに思ってるんで、そんなアホみたいな可愛がりかたしないですけど」
「なん……だと……?」
そんなバカな……みたいな感じで、菜乃花さんが崩れ落ちる。
その様子に溜め息を溢しながら、お姉ちゃんは隣に立つテュテレールに矛先を向けた。
「テュテレールも、保護者なんだから助けてあげなさいよ」
『アリスが本気で嫌がるようなら止めに入るつもりだった。だが、そうではないのであれば、功労者たる二人には報酬が必要だと判断した』
歩実さんや菜乃花さんに言われた時も思ったけど、私の存在ってご褒美扱いなの? どういうこと?
「まあ、それに関しては、あまり力になれなかった私にとやかく言う権利はないけど。あの人……星羅さんに連れていかれただけだし」
「あ、そうそう! その星羅だよ! あいつ、今どこで何してるの!? 落ち着いたら色々と説教してやろうと思ってたんだけど!!」
『浮雲星羅は、既に東京を離れたと思われる。菜乃花によろしく、と伝言を頼まれた』
「あんの気分屋のお馬鹿ぁぁぁ!! まーたウチに何の断りもなしにいなくなって!! 局長も、『あいつはもうそういう存在だと思って諦めるしかない』とか言うし……ウチは納得してないから!!」
むっきー! と、菜乃花さんが地団駄を踏む。
星……星羅さんと初めて会った時、「知り合いの職員に怒られるからやだ」って言ってたけど、あれって菜乃花さんのことだったんだね。
でも……その様子を見てると、多分嫌いだから避けてるんじゃなくて、お互いに信頼してるからそういう感じになるんだろうなって思った。
えへへ、何だか微笑ましいかも。
「みんな、何を騒いでるんだ?」
「あ、局長!」
そんな騒がしい病室に、またしてもお客さんが現れる。
菜乃花さんや歩実さんの上司、高遠さん。
そんな彼が、やや呆れ顔で口を開いた。
「病院側からクレームが入っているぞ、もう少し静かにしてくれとな」
「うぐっ、ごめんなさーい」
高遠さんからの注意に、菜乃花さんが真っ先に謝る。
けど、私も騒がしくしていた自覚があるから、歩実さんと一緒に頭を下げた。
「ごめんなさい、うるさくしちゃって……」
「気にするな、悪いのはそこの大人達だ。子供は元気なくらいでちょうどいい」
高遠さんがそう言って、私の頭を撫で始めた。
流石にそれはどうかと思ってぷくっと頬を膨らませると、苦笑と共に「すまない」と再度謝られた。
「ここまで巻き込んでしまったんだ、子供扱いはよくないな。では、仕事の話をしようか」
そう言って、高遠さんが話してくれたのは、事件の顛末だった。
ひとまず、事件に関する報道の加熱は収まったこと。
主犯は荒馬って人になってて、私を襲った子──白銀狼奈ちゃんの行方は、未だに分かってないってこと。
「今回の件を未然に防げなかったことで、俺達探索者協会の立場はかなり弱くなった。申し訳ないが、白銀狼奈の捜索は打ち切る他ないだろう」
『そうか』
高遠さんの宣告に、テュテレールは心なしか悲しそうに呟く。
私は全然覚えてないんだけど、三歳頃までは何度か一緒に遊んだことのある相手だったみたい。
テュテレールがこれだけ気にするってことは、それだけ仲良しだったんだろうな。
「気にしないでください。狼奈ちゃんを探すのは、私達も出来ますから」
「そうは言うが……君は、言ってはなんだが、あれほどの暴走を起こしたばかりだ。あまり自由に行動は出来ないぞ」
「大丈夫です」
ポン、と、私は胸を叩く。
どうするつもりなんだと疑問符を浮かべるみんなに、私は笑顔で答えた。
「私に、考えがありますから」
探索者協会から提供されていた家が壊れちゃったから、当座を凌ぐために小さなアパートを貸し与えられた。
その一室で、私はテュテレールの前に立つ。
腕の中に、テュテレールが撮影した狼奈ちゃんの写真を抱えて。
『いいのか? アリス。確かに、配信によって広く情報を募るというのは一つの手だが、有用な手掛かりが得られる可能性は1%にも満たない』
「いいの。それでも、私は私に出来ることをしたいから」
そう、私の考えは、人気配信者っていう立場を使って、視聴者のみんなに狼奈ちゃんを探して貰おうっていうもの。
テュテレールの言う通り、手掛かりなんて何も得られないかもしれない。
それでも、何もしないなんてことは出来ないから。
「私、これからはもっと頑張りたい。テュテレールに頼ってばっかりじゃなくて、自分でも何か出来るようになりたいんだ」
そして、いつか──テュテレールが、もう武器を持たなくても大丈夫だって。
私を、ボロボロになりながら守らなくても問題ないって、そう思って貰えるくらい、強くなりたい。
それが──私の夢だから。
「だからね、ほら! 早く配信始めよう! ずーっと出来なかったから、きっとみんな寂しがってるよ!」
『……そうだな。では、始めよう』
テュテレールの合図と共に、その体に内臓されたカメラが作動し、私の姿を配信し始める。
そんなテュテレールに向かって、私はいつも通りの──目一杯の笑顔を浮かべて、挨拶した。
「みんな、ただいま!!」
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