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決闘
しおりを挟むそんなわけで勝者特典になんの喜びの感じない決闘が始まったのだけど負けるわけにはいかない。かかっているのは俺の右腕ですからね。夜の恋人を失うわけにもいかないので真剣に頑張りましょう。
弓を構えて丸兎を射抜いていく。矢が自動装填されるって便利ですね。10本ほど射ったけど1本も外してませんよ。これはいい調子じゃね?
そう思ってチラリとイージスの方を見た瞬間言葉を失う。え、何あれ、レーザービーム?
よくSF映画で艦隊がチュンチュン光線打ってるじゃん。あんな感じ。
イージスの手からは絶え間なく緑の光線が放たれている。あれ?イージスが持っているのって弓じゃなくてマシンガンだっけ?恐ろしく速い射ち方に唖然とする。
1匹倒したと思ったらまた次の丸兎を射っている。速射スキルが違いすぎますよ。え、ちょ、これやばいんじゃね?
このままでは差をつけられる一方なので俺も続けて矢を放つようにする。でもうまくいかない。思うように矢を放たないし続けて射つと精度が落ちて丸兎に当たらないことがある。あわあわ。
スキルとスペックは同じはずなのに経験の差がもろに出ていますわ。そりゃ長年自分の身体として戦ってきたイージスとモビルスーツ着たてほやほやの俺では勝負になりませんよね。でもならないじゃ困るのでなんとかしないといけない。うむ、どうしよう。
そうこうしている間にも影は伸びていく。そういえば日が暮れてくると影の伸びが速くなるって小学校の理科の授業で習った気がする。やべぇ、思ったよりも時間がないかもしれないぞ?
今更どろ子モードになったとしても近接戦闘型のどろ子ではイージスに追いつかないだろう。勝つためにはやはりこの弓矢を駆使するしかないだろう。
そういえば錬鍛兎倒した時になんだか矢が大きくなったなぁ。ひょっとしてこのスキル、矢を自動装填する以外にも能力あるんじゃない?
でも俺にそれを知る術はない。イージスに聞いても絶対に教えてくれないよね。聞いたらそのまま矢で射抜かれそうです。
うーむ、どうしたものか。いや待てよ?スキルを見る方法ってあるよね?
俺が最初に【童帝】なんていう悲しすぎるスキルを把握したのはどうやってだったか。それは神様からある言葉を教えられたからだ。
「【開示】!」
瞬間緑の画面が開いた。思った通りスキルの欄に新たなワードが書き加えられている。
〔スキル〕
【変幻の必撃矢】
魔力を変換して矢を生成する。使用した魔力により矢の本数や威力を変えることができる。魔力0の状態で射つと必滅の矢と引き換えに死ぬ。
これがイージスのスキルか。【開示】は俺の今の状態がわかるって神様言っていたし取り敢えずイージスのスキルがわかってよかったな。
思った通り魔力を矢に変える能力みたいだけど他にも本数や威力も変えれのか。あと魔力0で使うと死ぬらしい。なんなの?スキルには即死判定がついてるの?でも必滅の矢が射って死ぬイージスと童貞失って死ぬ俺、死に方のカッコ良さが違いがありすぎない?
なんにしても俺がイージスに勝つにはこの【変幻の必撃矢】を使いこなすしかない。矢の作成にも本数増やすのも威力を上げるのも魔力がいるっぽいし鍵となるのは間違いなく魔力残量だろう。
そのまま【開示】で自分の残量を見る。残り『MP 32』となっていた。
え、思ったより残ってない。確か元々100くらいあったよね?めっちゃ減ってない?
どうやら丸兎や錬鍛兎との戦闘で割とMPを使っていたらしい。なんてこった、【開示】で逆転への手がかりをゲットできるかと思ったら絶望が深まっただけでした。どう考えてもイージスの方が俺よりMP残っているよね。オワタ。
「決闘の途中で何をしている。いつまでそこで立ち尽くしているのだ」
悪すぎる現状に打ちひしがれていると後ろから声をかけられた。イージスだ。振り返ると不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
「まさか諦めたのか?決闘を途中で放棄するような誇りなき者であるならば容赦はしない。この場でその酷薄な魂を射抜くぞ」
イージスは怒っているようだ。このままだと決闘終わる前に死にそうです。
「やめるつもりはないよ」
「その割には手が止まっているようだが?」
「君を倒す算段を立ててたんだよ」
まあその算段はおちゃかになったけど。MP32とかむりぽよ。
「まだ闘志は失っていなかったのか。それならばいい。だがもうまもなくこの勝負も終わりだぞ?」
そういうとイージスが弓を構える。俺にではない。上空に向けて弓を引き絞り腕を離した。
「【変幻の必撃矢】!」
瞬間緑が弾け飛ぶ。イージスの手から離れた緑の矢はいくつにも枝分かれ辺りに降り注ぐ。
まるで花火が上がったようだった。
その矢の先には当然のように丸兎がいた。緑の矢は順に草原を跳ね回る丸兎達を貫いていく。緑の草原には白と赤が散った。
これが【変幻の必撃矢】、魔力を矢に変換して敵を撃ち抜くイージスの必殺技。え、マジかっこいい。凄い、強い、無双キャラのオーラがむっちゃ出てる。アレっすね、イージスはよくゲームにいる細身やけどやたら強いクール系イケメンって感じっすね。なんで俺がそのポジじゃないんだろう?俺もイケメンで無双したいっす。
「これで僕のべきことはやった。時間もないようだが貴様はどうするつもりだ?」
イージスの能力に感動してたら現実を突きつけられる。あ、やべえ。俺この勝負負けたら右腕取られるんだった。
チラリと影の方を見るとどろ子が今にも岩に届きそうな影を見ながら『もうカゲとどく?まだ?』と首を傾げてる。そんなどろ子も可愛いけど、うわっ、本格的にやばい。あの調子だともう5分も待たないんじゃないか?この決闘も終わり方が近づいている。
だけれども未だ打開策は思いつかない。最後にイージスが射った花火のような射出では軽く100本は矢が飛び出したように見えたぞ?MP的にはボロ負けだ。俺の全魔力を費やしたところでイージスの仕留めた丸兎の数を上回るとは思えない。
なにかないだろうか。俺がイージスを上回れる物がひとつでいいからないだろうか。顔もMPも足の長さも全部ボロ負けだけど何か1個くらいは俺にいいところがあってもいいでしょう!
その時ふとどろ子の姿が視界に入る。じっと影を見つめながら『だめ、ひなたまだだからカゲだめ』と影を押さえるような動作をしている。なにあの子、むっちゃかわいい。影の前に手を置いても影の伸びは変えられないけどそれでも可愛い。むしろそこが可愛い。俺の為に一生懸命になってくれるどろ子はかわいい。
その時ふと思った。あ、そうだ。俺がイージスよりも優れている物あったじゃん。うん、これなら負けない、イージスだけじゃなくて絶対に誰にも負けない。
弓を構える。これが最後の一撃だ。これにかける。
「その構え、また僕の真似か?まあいい。人生最後の弓引きだ。悔いが残らないようにすると良い」
「イージス、ひとつ言っておくことがある」
俺の言葉にイージスが怪訝そうな顔をする。
「なんだ?決闘の取り決めを無かったことにしてほしいなど口にしたら今すぐ君の心臓を撃ち抜くぞ」
「ちがうよ。今から俺が勝つからその理由を言っておこうと思って」
瞬間イージスの雰囲気が変わったのを感じる。
「ほう、この圧倒的な成果を目の前にして君が勝つとそういうのか?」
「ああ」
「人間とエルフでは生まれ持った魔力量に大きな隔たりがある。それでも君が勝つというとは面白い、理由を聞いておこうか」
イージスは腕を組みこちらを見ている。エルフと人間って魔力量違うのかよ。じゃあはなから魔力勝負では俺に勝ち目はなかったのだ。
俺が勝つ為には俺の力を最大限使いこなさなければならない。俺の力、それは、
「どろ子が可愛いことだ」
「……何?」
「いやだからどろ子は可愛いだろ?顔が圧倒的に可愛い。所作も可憐。この地上に舞い降りた天使と言っても過言ではないね」
「何を言ってるのだ」
イージスが割とドン引いた顔をしているけど純然たる事実ではないか。うん、どろ子は可愛い。間違いない。
どろ子だけじゃない、女の子は皆可愛い。俺を騙したわけだけど兎耳の子は笑顔とマシュマロが素晴らしくて受付の熊耳さんは落ち着いた雰囲気の部活の先輩にいて欲しい系お姉さんだ。女の子は皆可愛い。俺は女の子が大好きだ。
だから俺はこんな能力を授かってしまったのだろう。正直この能力をもらった時は悲しみしかなかったが使える物は使います。
俺の童貞力は53万だ。
「【童帝】で童貞力を魔力に変えて、放て【変幻の必撃矢】!!」
瞬間、星が降る。
白い光が夕暮れ時を照らさんばかりに放たれそして落ちてくる。まるで流星群だ。
白い矢は次々と草原に落ちていく。当たっていない矢もあるだろう。だけれどもそんなことは関係ないくらいの数の矢があたりに降り注ぐ。錬鍛兎のおかげで皆逃げてしまっていて本当によかった。残っていたら割とガチで危なかったぞ。
そしてガーナ草原から丸兎は1匹残らず消え去ったのだった。
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