※ただし童貞を失ったら死ぬ

空兎

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荷物

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イージスとの決闘に決着がつき、なんやかんやありながらエルフっ娘が俺のハーレムメンバーに加入しました。なんでこんなことになったのかマジでわけわからんけど美人エルフがハーレムメンバーにいるとか胸熱ですわ。まあイージスのことなんだけど。

「そういえば君もヒナタのハーレムメンバーなのか?」
「はーれむ?」

なんて思っていたらイージスがとんでもないこと言い出した。いやいやいや!どろ子は違うよ!俺のハーレムメンバーとかじゃありませんよ!やめてぇ、なんかどろ子にハーレムって単語を聞かせるのにすっごく罪悪感がある!

「ヒナタの女なのか、ということだ」
「ん。じゃあ、はーれむ。どろ子、ひなたのもの」

どろ子がトトトッと俺のところにやってくる。それて顔を上げながらじっとこちらをみてくる。

「ん。どろ子ひなたのだからはーれむでいい?」

どろ子が小首を傾げる。

あ、尊い。なんかもう言葉も出ない。やばい、死ぬ。心臓爆発する。

心臓をバズーカで撃ち抜かれたのかというくらいの衝撃がくる。なんか心臓が無茶苦茶痛くてついでに息切れもしてきたんだけど俺大丈夫か?マジでどろ子の可愛さで死ぬかもしれん。

うわあああっ!!どろ子好き!ホント好き!なんと言っていいかわからないけど好き!心がぴょんぴょんするわ。

「うううっ、もちろんですぅぅ!!よろしくお願いしますぅっっ!」
「ん。どろ子もはーれむになった」
「ということは僕の先輩ということになるな。よろしく、どろ子殿」
「ん。よろしく、イージス」

どろ子とイージスが握手する。

というわけでどろ子も俺のハーレムメンバーとなったらしい。なんかもう目まで潤んできたわ。俺、異世界きてよかったよ。生涯童貞確定してるけど。

胸の動機も収まってきたので改めて現状について思い返すと散乱した丸兎を回収しないといけないことに気付く。このままだと貢献ルピにならないのだから集めないといけない。

うええ、ガーナ草原中に散っているよね?決闘の後片付けが大変すぎるわ。

と思ったけどふと辺りを見ると何処にも丸兎が落ちていない。え?どこいった?

「あのさ、」

誰かの声がして振り返ると獣人の子ども達がそこにいた。その後ろには膨れた袋がいくつも置いてある。

「さっきは助けてくれてありがとうな!俺、あのおっきな兎に捕まった時はもうダメだと思ったよ」
「うん、ザトを助けてくれてありがとう。お兄さんたちがあの大きな兎を倒してくれなかったらザトも死んじゃってだと思うし」
「これ、お礼になるかわからないけどお兄さんたちが倒した丸兎集めといたの」

確かに袋の口からは白い毛皮が見える。あの袋いっぱいに丸兎が詰まっているのだろう。おお、これは助かる。今からお片付け大変だと思ってたし。

そこでふとザトと呼ばれた犬耳少年が背中に誰かを背負っていることに気付く。でもピクリとも身動きしないし生気もない。

「その子……」
「ああ、リックはダメだった。腕引きちぎられた時にだいぶ持っていかれてたから、どうしようもなかった。このままここに置いておくと他のモンスターに食われちまうから連れて帰るんだ」

ザトがちらりと背負ったリックを見てそういう。ズキリと胸が痛む。出来る限りがんばったつもりだけれどもこうして目の前に失った命があるも何か胸にこみ上げてくるものがある。

「助けられなくてごめん」
「兄ちゃんは何も悪くないさ。弱い俺たちが悪かったんだ。食うか食わられるか、獣人は強さこそ正義。だから強くならねぇと」

ザトが自分に言い聞かせるようにそういう。まだ子どもなのに人格出来すぎていませんか?ハーレム作って喜んでいる自分が恥ずかしくなってきます。

「あのさ、集めてくれたお礼に好きなだけ丸兎持っていっていいよ」
「えっ!?いや、いいよ兄ちゃん。俺たちは駄賃が欲しくて丸兎を集めたわけじゃないんだ。恩義には仁義で報いるべきだからそうしたんだ。だから礼なんていいぜ!」

なんかまたかっこいいこと言いながらザトがブンブン首を振っているが、いやこれは俺の気持ちの問題なんです。このままだといたたまれないので何かしたくてたまらないの。

「このままだと俺が罪悪感で死にそうになるからお願いだから持っていってください」
「……正直丸兎をもらえるとすっごく助かる。本当にいいのか?」
「良い良い。すっごく良い」
「わかった。ありがとうな!兄ちゃん」

ザト達は持てるだけの袋を担ぐとぺこりと頭を下げて去っていった。良い子達だったなぁ。でもあれくらいの子達が当たり前にモンスターと戦う世界なんだね、ここ。結構ハードモードですわ。

「ごめん、イージス、どろ子。勝手に丸兎あげちゃって」
「殆どの獲物はヒナタが狩ったのだから気にすることはない。それに誰かに親切にするということは悪いことでもあるまい」
「ん。どろ子もべつにいい」

丸兎を狩ったのはふたりもなんだから勝手にあげたことを謝ると気にしてないという。好いパーティーメンバーに恵まれてよかったよ。

さて、そんなわけで丸兎はあげちゃったわけだけどまだまだ袋はある。これを3人で運ぶの?あ、まだ錬鍛兎バラサニーもあったんだっけ?どう考えても容量オーバーです。

錬鍛兎バラサニーもあるしどうやって運ぼうか」
「単に貢献ラピだけ欲しければ首だけで問題ないが錬鍛兎バラサニーは全身売れるからな。捨てるには少々惜しい」

どうやら貢献ラピが欲しいなら討伐部位を持っていけばいいようだ。でもお金も心許ないし稼げるなら稼いでおきたいよね。というか錬鍛兎バラサニー売れるのか。

錬鍛兎バラサニーって買い取ってもらえるの?」
「ああ、なんでも中々の珍味らしい」
「え、食べるの?」

これは予想外。錬鍛兎バラサニーはまさかの食用らしい。え、なんか嫌だ。全身ムキムキだし身が引き締まっておいしいのかもしへないがそれでも食べたいとは思わない。ボディビルダーを食べたいとは思わないだろ?つまりそういうことだ。

「……」
「どろ子、ギルド行って換金したら美味しいもの食べにいこ?ね?」
「ん。わかった」

どろ子がこくりと頷く。食用と聞いた瞬間じっと錬鍛兎バラサニーを見つめるどろ子をなんとか軌道修正した。うん、めっちゃ食べたそうなオーラ出てた気がするけどボディビルダーをむしゃむしゃするどろ子とか見たくないです。後でおいしい物食べに行くから今は我慢してくれどろ子。

「それはそうとこれどうやって運ぼう」
「誰かが先に戻って荷運びポーターを雇ってくるか荷車を借りるかだな」
「ん。荷車にぐるま?」
「箱に車輪がついたような物だ。車輪が回って進むただ物を持ち上げるより効率的に運ぶことができる」
「これ?」

そう言った瞬間どろ子の腕がドロドロと溶けてべしゃりと地面に落ちる。だけども誰かが何かいうよりも速くそれは形となりやがて荷車となった。

って、ええええっ!?荷車できた!どろ子って作れるの鎌だけじゃなかったの!?

「どう?」
「確かに荷車だが、どういうスキルだ。物を生み出すスキルなのか?」
「ん。どろ子の形をかえるスキル」
「そうか。自分自身の形を変えるスキルなのか。世の中には様々なスキルがある物なのだな」

イージスは納得したように肯いた。やっぱり一般的に見てもどろ子のスキルは特殊なのか。まあよくよく考えるとどろ子って泥だったもんね。そりゃ普通ではないか。

「ありがとう、どろ子。じゃあ上に物乗せて運ぶから持ち手離してくれない。女の子にこんな重い荷物運ばせるわけにはいかないから俺が引くよ」
「ん。むり。どろ子がはなすと形がくずれる」

どろ子が首を振る。どうやらこの荷車はどろ子の身体の一部で離すと荷車がなくなってしまうっぽい。ということは荷物をどろ子に運んでもらうことになってしまうけど、それは嫌です。ということで、

「【童貞の妄想ヴァージンドリーム】、どろ子!」

どろ子に変身する。そんでもって荷車は俺が作る。

手先を変えてどろ子がやったように荷車をイメージする。すると身体の中から何かがごっそりなくなったような感覚がして荷車が完成した。

え、なにこの感覚、こわっ、例えていうなら急に体重が半分になったような感じだ。

確かどろ子のスキルは自分の形を変えることだから自分の容積以上のものは作れないのかもしれない。うん、覚えておこう。

「荷車は俺が運ぶからどろ子は袋をこの上に乗せてくれる?」
「ん。わかった」
「どろ子よりも奇抜なスキルを持っている奴がいたな。僕だけでなくどろ子にもなれるのか」

ジトーっとした目でイージスがこちらを見ている。あんまり好意的ではないようだ。イージス的にはやはり人のスキルを使うのはどうかという考えなのかな?

「えっと、俺が憧れた人に変身できるスキルなんだけど、ダメ?」
「……まあスキルを得たとしても使いこなせるかは本人の資質が大きいというからな。すべて含めて君の実力だろう。ヒナタの【変幻の必撃矢フェイルノート】は美しかった」

イージスが表情を緩める。おおっ?これはお許しを得られたのかな?これから共に戦っていく仲間なのだから変なしこりは残したくなかったしイージスに認めてもらえてよかったよ。

3人で手分けして狩った兎を荷車に積み込む。さて、じゃあトリュフの街に戻りますか。

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