恐怖ファイル

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ザリガニ焼き

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事件は現場で起こっている。刑事ドラマのセリフだったか?平和を謳歌する我々の日常日々平穏で有り難いものだ。しかし、である。物書き殺すにゃ刃物は要らない。なぜならこんなに日々平穏だと物書きはネタに困り、フリーライターの俺ももさっぱり仕事にならない。だからさ。こうして少ない人脈を当たり、誰かいいネタを持ってる奴はいねえかと探すのも立派な仕事のうちだ。ニートでありオタクでありながらその道に通じる専門的知識などカケラもない使えない奴ただの引きこもりってことか。伊佐坂トシオ、結構トシ食ってるがいつもブラブラしてる気楽な脳天気なんかを相手にネタ探しなんて憂鬱以外の何物でもない。よう、トシオ、俺だよ。久しぶりだなお茶でも飲みに行こうぜ。久しぶりとかって、お前が呼び出したんだろが。時間過ぎても来ないからあちこち探してたのを捕まえて久しぶりだなもないもんだぜ。そう言うなよ。「そうだトシオ、お前何か面白い情報持ってねえか」「情報?そんな唐突にいわれてもねえ」「あるのかないのか、それを聞いてるんだ」「無い」「無い~?無いってこたねえだろ」「答える気がないってんだな薄情な奴め」「新しく発掘した取って置きの店だとか一風変わった店だとか人に教えられない、教えたくない穴場見たいな変な所を教えてくれればいいんだよ」「お前昔からそういうの探して歩くの好きだったからさ」「「え?変わった店の取材」「一軒くらい知らないこともないことはないけどな」「んだよ、もったいぶんなよ」「とっときなんだよ広く周知されて荒らされちゃ困るんだ」「礼ぐらいするよ」「うーん、じゃあ教えるけどさ一応内緒だぜ。興味本位の客が大量に押し寄せることのないように頼む」「記事にはするけど取材で得た秘密を喋ったりしないよ。約束する」「実はさ昔、学校帰りに寄ってたお好み焼きの店でさ、シーフードお好み焼きにザリガニを使ってたって噂があるんだエビ玉って言って」「へえ強烈だな」エビじゃねえじゃん「妖しいだろ」「うん、それで」「それだけだよ。後はお前が確かめろよ」「ええ、なんだよ散々気を持たせやがってそれっぽっちか」「取材のネタだろ取材しろよ」トシオは適当に先に歩いて行くとどんどん辺鄙な場所に向かってゆく。朧気な風景が銀色に染まってゆく。大きな工場以外の建物が無い場所だ。そのプラントの壁の色が視界を覆い尽くす。コンビニもカフェやレストランなどのショップも姿を消して人の往来もとんと見かけないにも関わらず、トシオは迷わず奥へ奥へと裏道をゆく。「ここ ここ、この店なんだよ」急に上ずった声を上げるトシオが指差すのは昔で言う駄菓子屋みたいな商店だった。「へえーこんな店まだ生き残っているんだ」「ああ、学校帰りに小遣い握り締めて来るガキの通うその学校もないのにな」木製の引き戸に手をかけ多少ガタが来ているレールの上を滑らせるとクリーム色に塗られた木製の戸に嵌められた半透明のデザインガラスが震えるようにビリビリと音をさせながら開く。ツンと熱した油の匂いがする。頭に白いナプキンを被り、赤い半袖シャツにエプロン姿の老齢の女性がホールに出て接客をする。「ミックスモダン二つとコーラ二本下さい」案内したトシオがさっさと注文する。「それと、と言いかけて口ごもる。店内を見回すも例のシーフードのお品書きが見当たらない。それ目当てに訪れたと警戒されては色々やり難い。お品書きを見てから極めて自然に頼めば怪しまれることもない。「らっしゃい」注文をしてからいらっしゃいと言われたのは初めてだ高齢にもかかわらず店を切り盛りする女店主がアルマイトの椀に入った調味料の混ざった小麦粉を水で溶きながら千切りのキャベツと豚のスライスとイカの切り身を入れて卵を落とし、手早くかき混ぜる。アルマイトの椀をステンレスのスプーンで引っ掻く甲高い音がリズミカルに響く。昔よく聞いた音だ、店の雰囲気と相まってノスタルジーを感じる。ほどなくプリンカップに入った油引きを携えて女店主がコーラを運んでくる。
その手が震えている。だが、それらを狭いテーブルのこれまた狭いスペース、鉄板の横に手早く置くとテーブルの下にあるガスコックを捻りガスマッチで火を付ける。もう一体型テーブルの鉄板から熱気が上がる。肝心のコーラはコップが運ばれてこないので細かいガスの泡を踊らせるオブジェと化している。それが鉄板の熱を受けてゆっくり熱せられてゆくのか。ガラスの瓶がうっすらと曇る。瓶口ラッパ飲みで飲むか、否コップを頼めばいいだけだ。待っている間だけならいいがヘラでお好み焼きを食べながらラッパ飲みはできないししたくない。がっついて中坊みたいな真似して恥をかくこともない。

十分に鉄板が熱せられてくる。はい、おまっとさん。
「これこれここに来る楽しみはお婆ちゃんのこの一言を聞くのがいいんだよな、鉄板に引いた油の匂いと具材が運ばれてくるタイミングがピッタリなんだ。なんかほっこりするんだ。しかもちっとも待ってねえし。手際がいいからなお婆ちゃんこの道数十年ていう年季の入った技がスゴいしな。褒めてもおまけしないよ」「くうーいい味出してるし」「からかってるのかい。食ってからお言い」
俺は粉モンを頬張りに来たんじゃあない核心に迫るべくして遂にそれを実行したすみませんシーフードありますか?女店主は徐に冷蔵庫を開けて暫し中を確認するとエプロンを外し勝手口のサッシ戸をカラカラと開けて出ていってしまった。何と無用心なのだろうか。今我々が脱兎の如く玄関から走り去れば無銭飲食にまんまと成功してしまう。それはそうと店をほったらかして店主はどこへ行ったのだろう。「何しに行ったのかなあ、トシ、店の裏手に市場はあるか?普通仕入れに行くぐらいなら配達してもらうんじゃないかな市場はないけど用水路はあるかな。用水路?ちょっとまて、この先に自動車工場あったろ。てことは水質に問題ありだぜ。工場ならずっとあったぜ。ちょっと見に行ってみないかといって出口は玄関しかない。表から出てみるか。ある種の後ろめたさを感じながら玄関をでるトシが叫ぶ食い逃げええっ ちょ、おま、いいかげんにしろよ
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