フッチボウ!

藤沢五十鈴

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第二章

ワンダーボーイ その①

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 そのことに最初に気づいたのは優子だった。

 チョコクッキーをボリボリと頬ばりながらグラウンドの青い芝をなぜともなく眺めていたとき、紅白戦の準備のためにいったんグラウンド外に出ていた選手たちがふたたび入ってきたのだ。

「ねえ、見て。いよいよ紅白戦が始まるみたいよ」
  
 優子が声を向けると、その隣でティーン雑誌の占いコーナーに見入っていた蘭と由美が同時に顔をあげた。

「本当? どれどれ……」
 
 蘭がグラウンドに視線を転じると、たしかに優子の言うとおり青色と赤色のビブスを着けた選手たちがセンターサークルに集まり、そこで主審の澤村からいくつかの説明をうけた後、各自のポジションに散っていくのが見えた。

 その中に涼の姿を蘭が見つけるまで時間は必要としなかった。

「見て、青いビブスのチームに涼がいる!」
 
 蘭が指を差し向けた方向を見やった優子と由美は、すぐに涼を見つけることができた。

 同じAチームの選手たちとボール回しをしていたのだが、二人の視線がとらえた選手はもう一人いた。
 
 同じようにチームメイトとボール回しをしつつ、ちらちらとなにやら突き刺すような視線を涼の背中に注いでいる園田の姿を。

「本当だわ。それにソノもいる。同じチームになったのね」

「見てよ。赤いビブスのチームには伊原さんがいるわよ」
 
 という由美の声に蘭と優子が同時に反対側のエリアに視線を転じたとき。Bチームのゴールキーパーを務める伊原の姿が一番に視界に映った。
 
 キーパー独自のユニフォームもさることながら、190センチになんなんとする日本人離れしたその長身は遠目にもよく目立つ。

「へえ、伊原さんも出るんだ。まあ、プレーをしながらのほうが、選手のレベルをより判別できるからってとこかしらね」
 
 という優子の観察はとくに根拠があってのことではないが、伊原が聞けば「さすが澤村コーチの娘。するどい」と賞したかもしれない。

「ふうん。あのおじさん、涼のチームと戦うんだ……」
 
 ゴールエリアの中で一人、念入りに膝の屈伸運動を繰り返している伊原を眺めやっていた蘭は、ふいに微笑をこぼした。

 それに続く「あのおじさんも気の毒にね」という声はごく低声のつぶやきであったのだが、隣の優子には聞こえたらしい。

 両目を軽くしばたたいた後、蘭に声を向けた。

「伊原さんが気の毒って、何のこと?」

「だって、仮にもプロの選手がいくら紅白戦とはいえ、まだアマチュアの涼に何点も取られたら格好が悪いじゃないの。ちがう?」

「それは、まあ、そうでしょうけど……」

「取れたらの話でしょう?」
  
 と、由美が隣から声をはさんできた。

「伊原さんからはそう簡単には点を取れないわよ。なにしろ伊原さんは、日本代表にも選ばれたこともある名ゴールキーパーなんだからね」

「へえ……あのおじさん、そんなにすごい選手なんだ」
 
 伊原が元代表選手であったことを知り蘭の顔に軽くない驚きの色が広がったが、それもごく短時間のことだった。

 「でもね……」という言葉の後に、蘭はふたたび口もとに意味ありげな微笑をたたえた。

「あのおじさんには悪いけど、それが取れちゃうのよね。なぜなら涼の蹴るシュートは普通のシュートじゃないからね。日本代表であろうとブラジル代表であろうと、止めるのはまず無理ね」

「普通のシュートじゃない? それってどういう意味?」
 
 そう訊き返してきた優子に、蘭は直接の返答を避けた。

「まあ、見てのお楽しみよ。涼がドリブルだけの選手じゃないってことがすぐにわかるからね」
  
 微笑をたたえながらグラウンドに視線を転じた蘭の隣で、優子と由美はきょとんとした顔を見あわせた。

「……それでは始めます」
 
 主審を務める澤村が片腕をあげて笛を鳴らすと、Aチームのキックオフで紅白戦が始まった。
 
 キックオフ直後、ボールはいったん後方に下げられ、Aチーム陣内深くで短いパス回しが何度か繰り返された後に大きく前方に蹴りだされた。
 
 ボールは宙空に大きな弧を描きながらハーフラインを越え、そのままBチーム陣内にまで飛んでいった。

 ほどなく降下してきたボールを追って、両チームの選手たちがいっせいに走りだした次の瞬間――。

「どけどけどけぇぇーっ!」
  
 ふいにグラウンドにとどろきあがったその猛々しい声に、両チームの選手たちは駆け足を止め、地上の一角に視線を走らせた。
  
 一瞬後、視線の先に彼らが見たのは、目端をつりあげ、歯ぐきをむきだしにして芝の上を疾走してくる園田の姿だった。
  
 170センチ弱とアスリートとしては小柄で、脚の肉づきもサッカー選手としては薄く細く、とても猛烈な瞬発力の所有者には見えないのだが、グラウンドを疾走するその姿はさながら草原を駆る豹のごとく軽快で俊敏だった。
  
 降下してきたボールに一番に追いつくと、吸いつくようなトラップでボールをキープ。とっさのことに呆然とするほかの選手たちを尻目にドリブルで駆けあがっていく。
  
 その園田の前方には、同じAチームのフォワードの選手が、左右両サイドにはミッドフィールダーの選手がそれぞれサポートのために併走して園田からのパスを待っていたのだが、当の園田の目には味方の存在などまるで見えていなかった。
  
 それも当然で、このとき園田の意識と視力はチームメイトには微塵も向けられておらず、すべて仮設テントに陣取るクラブ幹部たちに向けられていたのだ。

「わっはっは! 見てますか、社長さん。この流れるような華麗なドリブ……」
 
 突然、園田の声が消えた。

 ペナルティーエリアまでもう10メートルの距離まで迫ったところで、横合いから接近してきた相手選手にスライディング・タックルをくらい、ボールを奪われたばかりか勢いあまって横転したのだ。

「……な、なんだぁ!?」
 
 芝の上を五転六転し、それでもすぐに半身を起こしたとき。園田の目に映ったのは自分からボールを奪って揚々と走り去っていく、顔も名前も知らないテスト選手のうしろ姿だった。
 
 呆然とした態で園田が芝の上にしゃがみこんでいると、その鼓膜に容赦のない罵声が投げつけられてきた。

「何やってんだ、あんた。ボールを持ちすぎなんだよ!」

「…………!!」
  
 痛烈な、だが正論すぎる罵声におもわずカッとなった園田は、憎悪みなぎる形相で発声者を捜したが見つけることはできなかった。 

 屈辱にたぎる眼光を周囲に投げつけたとき、そこに見たのはボールを追って入り乱れるようにグラウンドを駆ける両チームの選手たちであった。
  
 こうなるともはや誰が発声者なのか特定するのは不可能で、やり場のない怒りに園田は歯を噛みならしながら、足下の芝に拳を何度も叩きつけるのだった。
  
 園田がグラウンドの芝に八つ当たりをしている間にも、攻撃に転じたBチームはショートパスやサイドチェンジを繰り返しながらAチーム陣内へと攻めこんでいった。

 咆哮にも似た声がグラウンドに響きわたったのは、右サイドをドリブルで突破してきた選手がコーナー近くまで走りいたったときである。

「俺だぁーっ! 俺にボールを出せぇぇーっ!」
  
 にわかに鼓膜を刺激したその金属質の叫びに、それまで右サイドに意識を集中させていたAチームの守備陣は、ぎょっとした視線を反対側の左サイドに走らせた。

 そこに見たのは、ライン際を猛然と疾走してくる西城の姿である。
  
 キックオフ直後から守備を完全に放棄して一人前線に張りついていたのだが、攻めあがってきた味方の選手に気づくと一転、それまで所在なげにたたずんでいたライン際から駆けだし、勢いそのままにペナルティーエリアに突入してきたのだ。
  
 ゴールエリア内にクロスボールが蹴りこまれてきたのは直後のことである。
  
 ライナー性の強いボールが鋭い回転をあげながら宙空を疾走し、エリア内に駆けこんできた西城めがけて一直線に飛んでいく。
 
 まさに測ったようなピンポイントのクロスボールに、元スペインリーガーは吠えた。

「うおおーっ、先制点はもらったぁーっ!」
  
 ボールを胸でトラップした後、すぐさまドリブルでペナルティーエリアを突破し、華麗に先制点をゲット。ついでに長期契約もゲットする。そこまでの計画がこのとき、西城の脳裏では練られていた。
  
 だが、背後から静かに迫ってきたひとつの人影が、その都合の良すぎる計画を阻んだ。

 トラップ体勢をとった西城の後背から何者かが音もなくその前に躍りでて、飛来してきたボールを寸前でカットしたのだ。

「な、なんじゃあ!?」
 
 まさかのボールカットに西城が目玉をひんむいたとき。その大きく見開かれた目がとらえたのは20番の青いビブスを着けた最年少テスト選手の幅の広い背中だった。

「お、お、お前……!?」

「へへっ、どうも」
 
 邪気のない笑みで応じたのも一瞬、底知れない驚愕に声をあえがせる西城をよそに、涼はすぐさまドリブルでその場を駆けだしていった。
 
 流れるようなとしか表現のしようがないその躍動感あふれる高速のドリブルは、先のテストの結果がフロックでないことを証明していた。

 四方から止めにかかる相手チームの選手を一人、二人、三人とたてつづけにかわし続け、やがてセンターラインを越えたとき。涼は一瞬、前方に視線を投げた。パスの出し手を見つけるためだ。

 すばやく左右に眼球を動かし、ドリブルを続けながらグラウンドの状況を分析する。
 
 両サイドには複数の味方選手が広がって涼からのパスを待っていたが、どの選手にも相手選手のマークがぴたりとついている。

 これではパスを出したところでカットされる可能性が高いし、通ったとしても直後の動きが封じられ、攻める流れを停滞させてしまいかねない。

(相手のマークがついているし、サイドへの展開は厳しいか。けど、前線はもっと厳しそうだしな……)
 
 サイドから前線に視線を転じた涼の表情が微妙にくもった。
 
 見つめる先には園田の姿がある。
 
 ペナルティーエリアの二メートルほど外側で、ぴょんぴょんと跳びはねながら「俺はここにいるぞ、少年!」だの「ブラジル帰りならパスを通してみろ!」だのと、わめきながらパスを要求する姿は、見たくなくてもつい視界に入ってしまう。
 
 相手選手のマークはなくボールを出すつもりならいつでも通せるが、それでも園田へのパスという選択肢が涼の脳裏で育まれなかったのはポジショニングにある。
  
 現在、Bチームのディフェンス陣は伊原の指示で最終ラインを大きく上げ、ゴールキーパーの伊原と園田との間に選手は一人もいない。

 つまり園田がボールを要求している位置は、完全なオフサイドポジションだったのだ。

 これではボールを蹴りだした瞬間にも線審のフラッグがあがってしまう。

 そのことに気づいていないのは先制点に執念を燃やすあまり、周囲がまるで見えていない園田くらいなものだ。

「そんなところで要求されてもなあ……」
  
 ぼやきにも似た声を漏らした次の瞬間。涼の視線がグラウンドの一点に固定された。

 強烈なキックによってボールが蹴りだされたのは直後のことだ。

 Bチーム陣内に散在する味方の選手の中にただ一人だけ、マークがついていない選手を見つけたのだ。
  
 一瞬で蹴りだされたボールは跳ねるようにグラウンドの上を疾走し、40メートルほど先にいた味方選手の足下へ一直線に飛んでいった。

 まさかのロングパスに、パスを受けた選手ですらとっさに動けないほどだ。

「へえ、なんとねえ……」
 
 一連のプレーをゴール前で見ていた伊原は、おもわず感嘆の声を漏らした。

 距離にして40メートルはあるであろうロングパスを軽々と、しかも実戦で通されては、いくら相手チームのプレーとはいえさすがに感心するしかない。

 ましてそれが、プロ経験のない高校生によるものならばなおさらであろう。

「なるほど、サンパウロFCの経歴は伊達じゃないってことか」
  
 だが、感心したのも束の間。伊原の顔がふいにひきしまった。

  パスをうけたAチームの選手がわずかな距離をドリブルで駆けあがった後、ゴール前にクロスボールを蹴りこんできたのだ。
  
 宙空を飛んでくるボールに向かって、園田をはじめとするAチームの選手たちがいっせいに駆けこんでくる。

 むろんボールに反応したのはAチームの選手だけではない。

「まかせろっ!」
 
 するどく叫ぶと同時に、伊原は芝の上を駆けだした。
 
 その巨体には似つかわしくない俊敏な動きで落下点にいち早く到達すると、ジャンプ一番、飛来してきたボールを強烈すぎるパンチングではじきとばした。
 
 ボールが降下してきたその瞬間。園田を含めたAチームの選手数人が宙空で伊原と競りあったのだが、189センチ・90キロの体格をほこる伊原の前ではまるで無力だった。
 
 競りあったAチームの選手たちは伊原の前にことごとくはじきとばされ、軽量の園田にいたってははじきとばされたあげく芝の上に背中から叩きつけられ、「ほげぇーっ!」と悲鳴をあげて転げまわったほどだ。

「セカンドボール!」
  
 着地と同時に伊原が叫んだ。こぼれ球をキープしろという意味だ。

 ふらふらと宙空を舞うボールめがけてBチームの選手たちが走りだし、もう一度攻撃につなげたいAチームの選手たちも群がるように駆けよっていく。
  
 数秒後、いち早く落下点に到達したのはBチームの選手だ。

 落ちてくるボールにあわせてジャンプし、ヘディングでさらにボールをはじきとばす。
  
 だが、はじかれたボールの行く手にいたのは味方の選手ではなく、相対するAチームの選手――涼だった。

 軽く膝を曲げた姿勢で、頭上から落ちてくるボールに視線を固定させている。
  
 あきらかに「タイミング」を狙っているその姿を視認したとき、伊原の心身に得体の知れない緊張が走った。

「おいおい、まさかその距離から……?」

「いっけぇーっ!」
 
 伊原がおもわず身がまえたのと、気合いのこもった涼の声がグラウンドに響いたのと、落下してきたボールに合わせて涼がシュートを打ったのは、すべて同時のことだった。
 
 ノートラップ・ボレーシュート。

 蹴り放たれたボールは猛烈な速度とスピンをともなって宙空を疾走し、伊原の守るゴールめがけて一直線に飛んでいった。

「ほ、本当かよっ!?」
 
 底知れない驚愕に目をみはったのも一瞬、伊原はとっさに跳躍し、ゴール上隅に向かって片腕を伸ばした。

 タイミング的には遅れたものの日本人離れした長い腕がそれを補い、間一髪、伊原はパンチングでボールをはじくことに成功した。
 
 はじかれたボールはそのままペナルティーエリア内を転々。近くにいたBチームの選手があわてて駆けより、ボールをサイドラインの外に大きく蹴りだすとホイッスルが鳴り、いったんプレーは止まった。

 見学エリアから悲鳴にも似た声があがったのはほぼ同時のことである。

「ああっ、惜しいぃぃ!」
 
 一瞬、ゴールが決まったと確信してベンチから立ちあがった蘭であったが、伊原のセービングからサイドラインへのクリアーへと続く光景に歓喜の態から一転、秀麗な顔をゆがませて足下のコンクリートをどんどんと踏みつけた。

 無意識のうちに地面を何者かの顔面に擬したこと、疑いようもなかった。
 
 そんな蘭の隣では、優子と由美がグラウンド内に視線を固定させたまま、そろって口をあんぐりと開いていた。

「……ちょ、ちょっと、なんなのよ、今のシュートは!?」
  
 ようやく声をしぼりだした由美は、瞬きを繰り返しながら隣の優子を見やった。

 視線の先にいる優子の顔も、由美のそれとほとんど変わらないものだった。

「ゴールまでけっこう距離があったわよね?」

「う、うん。たぶん30メートルくらいあったと思うけど……」
  
 言いさして言葉をのみこんだ優子は、ゆっくりとグラウンド内に視線を戻した。

 見つめる先にはボールを追ってグラウンドを駆ける涼の姿がある。

「それなのにトラップもせず、ダイレクトでシュートを打つなんて……しかもあんな距離から正確にゴール枠を狙えるなんて……」

「ふふん。あのくらいのプレー、うちの涼にしてみたらお茶の子レベルよ」

 驚きを隠せない様子の優子と由美に気をよくしたのか。蘭はそれまでの歯ぎしりの態から一転、得意顔で二人を見やったが、ふいに何かを思案するような表情になると、ふたたびグラウンドの中に視線を戻した。

 その目に映るのはチームメイトに大声で指示を飛ばす伊原の姿である。

「それにしてもあのおじさん。涼のボレーシュートによく反応できたわね。あの位置から狙ってくるのがわかっていたのかしら?」

「きっとそうよ。なにしろ伊原さんはカンというか、先読みのするどさには定評のある人だから。でも……」
 
 言いさして沈黙した優子に、蘭がゆっくりと視線を向ける。

「でも?」

「たぶん、防いだ伊原さんも驚いているんじゃないかしら?」
  
 優子の観察はふたつながら的中していた。
  
 涼のボレーシュートを防ぐことができたのは偶然でもなんでもなく、15年にもおよぶプロ選手としての経験によって切磋されたゴールキーパーとしての「嗅覚」のなせる結果であった。

 選手の微妙な表情の変化や動作から次のプレーを見抜く伊原の洞察力は、澤村にして「もう超能力の域だな」と言わしめるほどだ。
  
 一方で、防いだとはいえ伊原にしてみれば「まさか!」と思ったことが現実になったわけで、表面上ほど平静ではいられなかった。
 
 真上から落ちてくるボールにタイミングを合わせて、ダイレクトでシュートを打つ。

 これだけでもそうとうな技術を必要とするのに、それにくわえて30メートルの距離からゴール枠を正確に狙ってきたとあっては、さすがの元代表ゴールキーパーも舌を巻くしかなかった。

「まぐれか? それとも本当に狙って……?」
  
 いずれにせよ、普通の高校生ではない。
 
 それを確信した瞬間、伊原は身体の奥底からぞくぞくとするような奇妙な興奮を自覚したのだった。




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