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第三章
夢見る少女は大志を抱く その④
しおりを挟むキッチンから出てきた美咲は、蘭の前にはホットミルクが入ったマグカップを、涼の前にはブラックのコーヒーが入ったマグカップをそれぞれおいた。
「はい、二人ともどうぞ。熱いから気をつけてね」
「うん。いただきます」
蘭が美味しそうにホットミルクをすすりはじめると、涼もマグカップを手に取りコーヒーをすすった。
美咲もエプロンをはずして食卓に着き、しばしの静けさがダイニングルームをつつみこんだが、紙面から顔をあげた純一の声がそれを破った。
「そういえば、今日からチームの練習に参加するんだったな、涼は」
「うん。正式な契約はまだ先らしいけど、澤村さんと伊原さんという人が、サテライトチームの練習に参加できるようにとりはからってくれたんだ」
「そうか、いよいよ涼もプロサッカー選手か……」
受け皿のコーヒーカップを手に取り、純一は語をつないだ。
「まあ、試合に出れるようになるのはまだまだ先だろうが、早いうちからプロの空気に慣れておくのはいいことだな」
すると、ホットミルクをすすっていた蘭が嬉々とした声をはさんできた。
「なに言ってるのよ、お父さん。涼の実力なら明日からだって試合に出られるわよ。ねえ、涼?」
同意を求められた涼は声に出してはなにも言わず、マグカップを手に微笑を口もとにたたえただけである。
――あの日。
入団テストを終えて帰宅した二人は、その日の夕食の席でさっそくラバーズの入団テストを受けたことや、プロ契約を打診されたことを純一と美咲に告げた。
もっとも、ベテラン噺家さながらの饒舌ぶりで説明したのはもっぱら蘭であり、主役のはずの涼はというと、「そうよね、涼?」と意見を求められるたびに静かにうなずくだけであったが。
契約の話を聞かされたとき、純一も美咲もそれほど驚くことはなかった。
お世辞にもサッカーに詳しいとはいえない二人だが、長男がサッカー選手として天性の才能を有していることだけは承知していたからだ。
ついでに言えば、入団テストを受けたのは涼の意志などではなく、蘭の「強い勧め」であったことも二人は見抜いている。
そうでなければ物静かで控えめな性格――蘭と比較してだが――の涼が、高校生のうちからプロ選手になることを望むわけがなかった。
とはいえ、蘭とは異なる意味で、涼がいずれプロのサッカー選手になることは純一も美咲も望んでいたことなので、むろん反対などしなかった。
「しっかりやれよ」と純一は言い、「がんばってね」と美咲は応援した。
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