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第三章
夢見る少女は大志を抱く その③
しおりを挟む涼と蘭の父親である久住純一は、この年45歳になる。
昨今では見かけるのも珍しくなった七三分けの頭といい、濃く鋭い眉目といい、一見、役所勤め以外の職業が想像できないお堅い容貌の所有者だが、某大手商社に勤務するれっきとした商社マンである。
純一は手にする新聞に視線を落としたまま、隣に座る娘に小言にも似た声を向けた。
「蘭もいつまでも人に起こしてもらうのではなくて、そろそろ自分で起きれるようにならなくてはいかんな」
「わかってるもん。今朝はつい寝過ごしちゃったの。勉強のしすぎかしらね」
深夜までサッカーのゲームを夢中でやっていたくせによく言うよと、声ではなく表情で毒づく涼に気づくことなく蘭はキッチンのほうに向き直った。
「ねえ、お母さん。私のホットミルクは?」
「はいはい、できていますよ」
温雅な声とともにキッチンの奥からエプロン姿であらわれたのは、母親の美咲だった。
妻の美咲は夫の純一より4歳年下の41歳である。
この年齢の女性にしては背が高く、170センチちょうどある。
娘の蘭にも受け継がれた濡れたような漆黒の髪とすらりとしたスタイルを持つ女性で、大学生時代にファッション誌のモデルをしていたという美貌は、40歳を超えた今も色あせてはいない。
夫の純一とは同じ会社内での職場結婚であり、妊娠したのを機に会社を辞めて家庭に入った。
蘭が見たところ、180センチ弱とそれなりに長身ではあるが、見るからに「お役人」的風貌の父親とはお世辞にも釣り合いがとれているとは思えない。
若い頃の両親の写真を蘭は見たことがあるが、母親は文句なく美人であったが、父親はというと思ったとおり当時から役人の風貌であった。
どうしてお父さんと結婚したのと一度ならず疑問に思った蘭は、一度ならずその理由を美咲に訊ねたことがある。
それに対する母親の返答は、毎回、次のようなものだった。
「親切で、誠実で、温厚で、思いやりがあって。でも一番の理由は、なによりもお父さんに将来性を感じたからかしらね」
そう言って、美咲は娘に向かって悪戯っぽく笑うのだった。
純一は三十代半ばで大手商社の課長職に就き、将来の幹部候補として海外支社勤務にも抜擢された。
今春の帰国と同時に本社の部長となったが、四十代半ばでの部長職就任は異数の出世という。
そのあたりの話は蘭にはよくわからないが、美咲などに言わせると「同期の出世頭」ということらしいから、母親に先見の明はあったようだ。
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