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第三章
夢見る少女は大志を抱く その②
しおりを挟む一瞬、とぼけているのかと涼は思ったのだが、真顔の蘭を見てどうやら本当に忘れていることを知り、深いため息の後、疲労感をにじませた声で語をつないだ。
「今日から俺がラバーズのサテライトチームの練習に参加すると言ったら、『私も練習を観に行く。絶対に行くからね!』と言いだしたのはお前だろうが。昨夜のことなのに、もう忘れたのか」
「あっ、そっか。今日は練習に参加する日だったのよね」
ようやくそこまでは思いだせた蘭であったが、肝心の時間がどうにも思いだせない。
「それで何時からだっけ、練習って?」
「午前9時からだよ。そしてこれが、現在の時刻だ」
涼はキャビネットの上にあった水晶造りの置き時計を手に取ると、それを蘭の眼前に突きつけた。
二本の針が指ししめす時刻を見て、蘭が驚いたように目をみはる。
「ええっ、もうこんな時間なの!?」
「小平の練習場までの移動時間を考えたら、あと30分後には家を出なくちゃ練習開始に間にあわない。その間に出かける用意をしなければ、泣こうがわめこうが家においていくからな」
「ちょ、ちょっと待ってよ、すぐに用意するから!」
あわてふためいた蘭はベッドから文字どおり飛びあがり、すばやくパジャマを脱ぎ捨てて下着姿で室内を駆けだした。
一目散に向かったのはクローゼットだ。
中から花柄のカットソーワンピースとデニムのレギンスパンツを取り出してすばやく着替えると、蘭はくるりと踵を返して部屋を飛びだし、そのままドタドタと床板を踏みならしながら一階の洗面所へと駆け降りていった。
「レディねぇ……」
無造作に脱ぎ捨てられたパジャマを拾いあげてベッドの上におくと、涼も部屋を出て階段を降りていった。
「おはよう、お父さん」
「おや、ようやく起きたか」
洗面所から戻ってきた蘭は、和室に換算して16畳ほどの広さを持つダイニングルームに足を踏み入れると、食卓で新聞を読んでいた父親の隣に座った。
わずかに遅れてスポーツバックを肩にダイニングにやってきた涼が、その向かいの席に腰をおろす。
すでに食卓の上には、厚切りのライ麦パン、レーズン入りのロールパン、肉だんご入りのホワイトスープ、ベーコンエッグ、トマトとレタスのサラダ、苺のヨーグルトかけといった立派な朝食が並べられ、食欲を刺激する匂いを発していた。
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