23 / 26
第三章
夢見る少女は大志を抱く その⑥
しおりを挟むひとつには、涼をなじった「不届きな」チームがどこか特定してやろうという考えがあったかもしれない。
だが、どのチームのユニフォームも夢の中で涼が着ていたものとはデザインが異なった。
やがてサッカーに関するニュースが終わると、蘭は手に持っていたマグカップをテーブルに戻し、どことなく神妙な表情で涼に向き直った。
「ねえ、涼」
「なんだ?」
「涼は、いつかはヨーロッパのクラブチームでプレーする気なんでしょう?」
「うん。できればな」
「そうよね……じゃあ、私も今のうちにイタリア語かスペイン語でも習得しておかなくちゃね。いつでも一緒に行けるように」
さすがにブラジルからの帰国子女だけあって、涼も蘭もポルトガル語はネイティブに近い感覚で話すことができるし、英語も日常会話ていどなら問題ない。
だがポルトガル語や片言の英語だけでは、欧州四大リーグの国々――イングランドのプレミアリーグ、イタリアのセリエA、ドイツのブンデスリーガ、スペインのリーガ・エスパニョーラ――でプレーするには心もとない。
とりわけ、今や世界最高峰のプロリーグと謳われるスペインのリーガ・エスパニョーラに行くとすれば、スペイン語の習得は必須だ。
むろん、それは涼も同様の話なのだが、その涼はというとベーコンエッグを乗せた皿を手にしたまま、なにやら呆気の表情で向かいの席の蘭を見つめている。
自分の語学習得宣言に驚いたのかしら?
そう蘭は思ったのだが、じつは別種の驚きであったことをすぐに知ることとなった。
「お前も一緒に来るだって? 何のために?」
「な、何のためって……」
真顔で反問されて、蘭はとっさの返答に窮した。
なにしろプロ選手となった涼の代理人となり、自分もサッカー界で活躍するという野望は、まだ秘密にしておかなければならないのだ。
ごく短時間、思考のエンジンを必死に回転させたあげく、苦しまぎれに蘭が口にした答えは次のようなものだった。
「それは、いろいろあるじゃないの。ほら、涼の身のまわりの世話とかね」
すると、それまで黙って二人のやりとりを聞いていた美咲がくすりと笑った。
「そういう台詞はね、蘭。せめて一人で起きれるようになってから言いなさい」
母親の絶妙のツッコミに、おもわず涼は「ぷっ」と小さく吹きだした。
「お、起きれるもん!」
顔を真っ赤にして蘭は反駁したが、今朝にかぎらず毎日のように起こしてもらっていては、説得力などありはしない。
「まあ、いいさ。一緒に来たければ来てもさ」
涼は笑うのをこらえるように言うと、慎重な性格にふさわしい一語をつけくわえた。
「もっとも、行けたらの話だけどな」
「行けるわよ、涼なら。絶対にね」
涼の顔を見つめる蘭の瞳には、真剣すぎる光が満ちていた。
日本のプロリーグはもちろん、本場ヨーロッパのプロリーグでも活躍するであろうことを、微塵も疑っていない輝きがその双眸にはあった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる