フッチボウ!

藤沢五十鈴

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第三章

夢見る少女は大志を抱く その⑥

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 ひとつには、涼をなじった「不届きな」チームがどこか特定してやろうという考えがあったかもしれない。

 だが、どのチームのユニフォームも夢の中で涼が着ていたものとはデザインが異なった。

 やがてサッカーに関するニュースが終わると、蘭は手に持っていたマグカップをテーブルに戻し、どことなく神妙な表情で涼に向き直った。

「ねえ、涼」

「なんだ?」

「涼は、いつかはヨーロッパのクラブチームでプレーする気なんでしょう?」

「うん。できればな」

「そうよね……じゃあ、私も今のうちにイタリア語かスペイン語でも習得しておかなくちゃね。いつでも一緒に行けるように」

 さすがにブラジルからの帰国子女だけあって、涼も蘭もポルトガル語はネイティブに近い感覚で話すことができるし、英語も日常会話ていどなら問題ない。

 だがポルトガル語や片言の英語だけでは、欧州四大リーグの国々――イングランドのプレミアリーグ、イタリアのセリエA、ドイツのブンデスリーガ、スペインのリーガ・エスパニョーラ――でプレーするには心もとない。

 とりわけ、今や世界最高峰のプロリーグと謳われるスペインのリーガ・エスパニョーラに行くとすれば、スペイン語の習得は必須だ。

 むろん、それは涼も同様の話なのだが、その涼はというとベーコンエッグを乗せた皿を手にしたまま、なにやら呆気の表情で向かいの席の蘭を見つめている。

 自分の語学習得宣言に驚いたのかしら?

 そう蘭は思ったのだが、じつは別種の驚きであったことをすぐに知ることとなった。

「お前も一緒に来るだって? 何のために?」

「な、何のためって……」

 真顔で反問されて、蘭はとっさの返答に窮した。
 
 なにしろプロ選手となった涼の代理人となり、自分もサッカー界で活躍するという野望は、まだ秘密にしておかなければならないのだ。

 ごく短時間、思考のエンジンを必死に回転させたあげく、苦しまぎれに蘭が口にした答えは次のようなものだった。

「それは、いろいろあるじゃないの。ほら、涼の身のまわりの世話とかね」

 すると、それまで黙って二人のやりとりを聞いていた美咲がくすりと笑った。

「そういう台詞はね、蘭。せめて一人で起きれるようになってから言いなさい」

 母親の絶妙のツッコミに、おもわず涼は「ぷっ」と小さく吹きだした。

「お、起きれるもん!」

 顔を真っ赤にして蘭は反駁したが、今朝にかぎらず毎日のように起こしてもらっていては、説得力などありはしない。

「まあ、いいさ。一緒に来たければ来てもさ」

 涼は笑うのをこらえるように言うと、慎重な性格にふさわしい一語をつけくわえた。

「もっとも、行けたらの話だけどな」

「行けるわよ、涼なら。絶対にね」

 涼の顔を見つめる蘭の瞳には、真剣すぎる光が満ちていた。

 日本のプロリーグはもちろん、本場ヨーロッパのプロリーグでも活躍するであろうことを、微塵も疑っていない輝きがその双眸にはあった。



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