フッチボウ!

藤沢五十鈴

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第三章

夢見る少女は大志を抱く その⑦

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 そんな蘭に涼は何か物言いたげであったが、ナプキンで口もとをぬぐった後に口に出したのは別のことだった。

「じゃあ、そろそろ出かけようか。練習時間に遅れたら失礼だからな」

「うん、そうね」

 蘭も椅子から立ちあがると、二人は異口同音に「行ってきます!」と声をあげて、ダイニングから出ていった。

 基本的にはおおらかな気質の父ではあるが、こと挨拶に関しては厳しい人なので、この点は二人もしっかりしている。

 静けさが訪れたダイニングで純一はあいかわらず黙然と新聞を読んでいたが、やがて読み終えた新聞を静かに閉じた。

「ヨーロッパか……夢のある話でけっこうだな」

 誰にともなくつぶやくと、純一はたたんだ新聞をテーブルにおいた。

「しかし涼はしょうがないとしても、蘭までいなくなると寂しくなるな」

 どことなく物悲しそうな純一の声に、コーヒーを飲んでいた美咲は可笑しげに微笑した。

「まだ先の話ですよ。それに行けるかどうかもわからないじゃありませんか」

「うん。まあ、そうだけどな。親としては向こうで成功してほしいよな」

 そうですねと応じながら、美咲は空になった自分のカップにコーヒーを注いだのだが、ふと心づき、

「それにしても、あなた。そんなにゆっくりしていてよろしいの?」

「出社まではまだ時間はあるぞ」

「そうですけど、昨日、言ってませんでしたか?」

「うん、何を?」

「ほら、今日は朝から臨時の会議があるとかなんとかって……」

 次の瞬間、純一は飲んでいたコーヒーを吐きだし、

「そ、そうだった!」

 妻の一語に仰天した純一は文字どおり椅子から飛びあがると、エリート商社マンらしからぬ狼狽の態でダイニングから駆け出ていった。


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