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第三章
夢見る少女は大志を抱く その⑨
しおりを挟む微妙に表情を曇らせた涼に気づくことなく、蘭は無邪気に語をつないだ。
「仮にも元代表選手なんだし、涼とあの三人がチームに合流すれば、ラバーズも少しは強くなるんじゃないの。なぜかはわからないけど、優子は『私は期待薄だけどね』とか言ってたけどね」
「そうなればいいけどな」
口ではそう応じたものの、じつのところ「期待薄」という優子の意見に涼もまったく同感だった。
どういう選手かまだよく知らない永見は(おおよその察しはつくが)ともかく、紅白戦を通じて知り得た西城と園田の「守備嫌い」のプレースタイルは、フォワードの選手にも前線で守備をさせるのが主流となっている昨今のサッカー界では、とても通用するとは思えない。
紅白戦の前、プレースタイルが原因であちこちのチームを解雇されていると伊原が言っていたが、当然だろうなと涼などは思う。
あの三人がテストに合格したと聞いて、もしかしたら澤村コーチと伊原さんは今頃、苦虫を噛みつぶしている最中かもしれないな。そんな意地悪な思いが脳裏をよぎった。
もっとも、涼自身は知りようもなかったが、その推察は正鵠を得ていたのである。
「ああっ、ちょっと、あれ!」
突然、蘭が声を高くさせた。「どうした?」と声をかけるよりも早く、涼はその理由を知った。
バス停の前方百メートルほど先の道路を、一台の路線バスが不機嫌そうなエンジン音を響かせながら走ってきたのだ。
それが自分たちが乗ろうとしているバスであることに二人が気づくまで、時間は必要としなかった。
「ほらほら、バスが来ちゃったわよ。涼がグズグズしているからよ、もう!」
「あのな……」
じろりとした視線を横に走らせたとき、すでに蘭の姿はそこになく、「待って、待って!」と手を振りながら駆けだした後だった。
やれやれと言いたげな表情でひとつ息を吐くと、涼はふと空を見あげた。
穏やかという表現がぴったりの、青すぎるほど青い深い色調の碧空が見つめる先に広がっている。
なにげなくその碧空を見ていた涼は、ふとブラジル時代の友人たちのことを思いだした。
この碧空の続く地球の反対側で、今頃レイたちは全国大会三連覇をめざして猛烈な練習に励んでいるんだろうなと、そんな思いが脳裏をよぎったのだが、涼はふいにおかしくなった。
日本が朝なら、時差からいってブラジルは夜中であることに気づいたからだ。
いくらレイナウドが超のつく練習熱心な性格でも、さすがに夜中まで練習しているわけがない、と思う……。
「ちょっと、涼。何してるのよ。早く来なさいよ!」
「ああ、今行くよ」
片手をあげて蘭に応えると、涼もその場から駆けだしていった。
そんな二人の行く手では、件の路線バスが停留所に止まったまま、あいかわらず不機嫌そうなエンジン音を響かせながら二人の乗車を待っていた……。
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