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望んだ世界
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ガタガタガタ、ゴトゴトゴト。
気付けば列車に揺られていた。
体がしびれて上手く動かせない。
仕方なく私は、まだ気絶しているふりをしながら周囲の様子を伺った。
日本の電車とは明らかに違う列車の様相はそう、蒸気機関車だ。
見慣れない、とも違うがとにかく尋常じゃない事が起きている事は確かなようだ。
私はとにかくパニックにならないよう、自らの心を落ち着けた。
このボックス席には私と謎の人物だけ。
ほかの席にはまばらに人が座っているようだ。
埃っぽい砂煙の香りは開け放たれた窓から入ってきているものだろうか。
そこまで考えた時、向かいに座る謎の人物が口を開いた。
「起きているのはわかっている」
「…」
驚いたことに、謎の人物は若い女性だった。
ハットで顔がよく見えないから表情などはほとんどわからない。
かろうじて口が、立てた襟の隙間からたまに見えるくらいだ。
返事をせずさらに反応を見る。
「ふ。貴女、もう目くらい開けられるでしょ」
彼女は私がわざと黙っていることに気付いていた。
私は観念することにした。
目を開き体に力を戻す。
しかし列車の揺れの中では座る姿勢を維持することすら難しい。
「私の事、知っているんですか」
「それはそうでしょ。とてもよく知ってる。じゃなきゃ連れてこない」
どこか懐かしい気がするその声は、わざと短く区切りながら返事をしているようだ。
「たくさん聞きたいことがあるんですが」
緊張のかけらも無い彼女だが私からすれば誘拐犯である。
私が睨みつけても、彼女は肩をすくめるだけだった。
「気持ちはわかる。でもだめ。何も答えない」
「答えなくても反応を伺うことはできるんですよ。貴女は私をここに連れてきた、それは自分の意思だけど本意ではない。そして私に対して申し訳なくも思っているんじゃないですか?」
「饒舌ね。あたり。そしてはずれ」
彼女はそう言うと席から立ちあがった。
私も共に立ち上がろうとしたが力が入らなかった。
「私の手刀、とても痺れる。座ってろ」
「冗談。貴女、ここから立ち去る気でしょ」
「その通り」
女は肯定すると荷台から茶色いトランクを一つ降ろし私の隣に置いた。
「これ、貴女、使う」
そしてコートをはたとはためかせ、後部車両のドアへ歩き出した。
「待ちなさい!」
「待たない。幸運を祈る」
彼女は確かに笑いながら、伸ばした私の手に触れることなく行ってしまった。
それからどれくらい時間が経っただろう。
段々手足の先から少しずつ動かせるようになってきた。
後ろのボックス席に座る親子の会話を盗み聞きしたところ、この列車は今、王都ハレジオンという所に向かっているらしい。
「ねーママー。あとどれぐらいではるしおんにつくのー?」
「ハレジオンね。あと一時間くらいかしらね」
…なかなか遠いな。
とりあえず私は残されたトランクを調べることにした。
さっきの女性から私に対する敵意は無かった。
このトランクもよっぽど危険は無いだろう。
「えー、と何が入っているのかな、と」
トランクを膝の上にでんと置き、がばっと思い切って開く。
パッと見た感じの印象は。
「なんだかアナログなのばっかりね」
1500mlは入っている木でできた水筒、バゲットのサンドウィッチ、えんぴつ、ノート、コインが入った袋は財布だろうか。麻で出来た着替えが数枚に、中でも一番場所を取っていたのは濃紅のコートだった。
襟口やボタンは金色でなんとも私好みの色合いだ。
「厨二心を擽られる…!」
わくわくしながら袖を通してみる。
わかっていたがやはりサイズはぴったりだった。
「…あっつい」
じわっとくる車両内の温度に、思わず私はうだった。
コートは大事にトランクにしまっておこう。
「さて」
あと見ていないのはトランクの内ポケットだな。
手を突っ込んでみると。
カサ。
触れたものを取り出してみる。
それは茶色く褪せた小さな紙だった。手紙のようだ。
書かれていたのは簡潔な内容。
「拝啓、異世界から来た術者へ。
突然の事でさぞ驚いたことと思う。
この世界は今、元あった秩序が真っ二つに分かれ大きな戦の渦を巻いている。
このままでは本来と違う、良くない未来へ進んでしまう。
それを止めるためには、異世界から来た君の助けが欲しい。
どうか、どうか頼む」
「えー?」
本音が思わず口から飛び出した。
だって自分から来たわけでは無いし、この世界の事もよく知らないし、この手紙の主もわからないし、呼び捨てにされるのも嫌だし。
放っておいて元の世界に帰りたい、そう思った時、手紙から小さなメモがはらりと落ちた。
そのメモには一言。
「帰るには賢者の石が必要だ」
と、書いてあった。
「賢者の石だって!!?」
大声が思わず口から飛び出した。
ここは賢者の石が存在する世界、なのか!
心臓が早鐘を打つ。
まだ、本当に賢者の石があるかもわからない。
この手紙の信憑性も無い。
でも心の奥が気付いていた。
この世界の可能性に。
気付けば列車に揺られていた。
体がしびれて上手く動かせない。
仕方なく私は、まだ気絶しているふりをしながら周囲の様子を伺った。
日本の電車とは明らかに違う列車の様相はそう、蒸気機関車だ。
見慣れない、とも違うがとにかく尋常じゃない事が起きている事は確かなようだ。
私はとにかくパニックにならないよう、自らの心を落ち着けた。
このボックス席には私と謎の人物だけ。
ほかの席にはまばらに人が座っているようだ。
埃っぽい砂煙の香りは開け放たれた窓から入ってきているものだろうか。
そこまで考えた時、向かいに座る謎の人物が口を開いた。
「起きているのはわかっている」
「…」
驚いたことに、謎の人物は若い女性だった。
ハットで顔がよく見えないから表情などはほとんどわからない。
かろうじて口が、立てた襟の隙間からたまに見えるくらいだ。
返事をせずさらに反応を見る。
「ふ。貴女、もう目くらい開けられるでしょ」
彼女は私がわざと黙っていることに気付いていた。
私は観念することにした。
目を開き体に力を戻す。
しかし列車の揺れの中では座る姿勢を維持することすら難しい。
「私の事、知っているんですか」
「それはそうでしょ。とてもよく知ってる。じゃなきゃ連れてこない」
どこか懐かしい気がするその声は、わざと短く区切りながら返事をしているようだ。
「たくさん聞きたいことがあるんですが」
緊張のかけらも無い彼女だが私からすれば誘拐犯である。
私が睨みつけても、彼女は肩をすくめるだけだった。
「気持ちはわかる。でもだめ。何も答えない」
「答えなくても反応を伺うことはできるんですよ。貴女は私をここに連れてきた、それは自分の意思だけど本意ではない。そして私に対して申し訳なくも思っているんじゃないですか?」
「饒舌ね。あたり。そしてはずれ」
彼女はそう言うと席から立ちあがった。
私も共に立ち上がろうとしたが力が入らなかった。
「私の手刀、とても痺れる。座ってろ」
「冗談。貴女、ここから立ち去る気でしょ」
「その通り」
女は肯定すると荷台から茶色いトランクを一つ降ろし私の隣に置いた。
「これ、貴女、使う」
そしてコートをはたとはためかせ、後部車両のドアへ歩き出した。
「待ちなさい!」
「待たない。幸運を祈る」
彼女は確かに笑いながら、伸ばした私の手に触れることなく行ってしまった。
それからどれくらい時間が経っただろう。
段々手足の先から少しずつ動かせるようになってきた。
後ろのボックス席に座る親子の会話を盗み聞きしたところ、この列車は今、王都ハレジオンという所に向かっているらしい。
「ねーママー。あとどれぐらいではるしおんにつくのー?」
「ハレジオンね。あと一時間くらいかしらね」
…なかなか遠いな。
とりあえず私は残されたトランクを調べることにした。
さっきの女性から私に対する敵意は無かった。
このトランクもよっぽど危険は無いだろう。
「えー、と何が入っているのかな、と」
トランクを膝の上にでんと置き、がばっと思い切って開く。
パッと見た感じの印象は。
「なんだかアナログなのばっかりね」
1500mlは入っている木でできた水筒、バゲットのサンドウィッチ、えんぴつ、ノート、コインが入った袋は財布だろうか。麻で出来た着替えが数枚に、中でも一番場所を取っていたのは濃紅のコートだった。
襟口やボタンは金色でなんとも私好みの色合いだ。
「厨二心を擽られる…!」
わくわくしながら袖を通してみる。
わかっていたがやはりサイズはぴったりだった。
「…あっつい」
じわっとくる車両内の温度に、思わず私はうだった。
コートは大事にトランクにしまっておこう。
「さて」
あと見ていないのはトランクの内ポケットだな。
手を突っ込んでみると。
カサ。
触れたものを取り出してみる。
それは茶色く褪せた小さな紙だった。手紙のようだ。
書かれていたのは簡潔な内容。
「拝啓、異世界から来た術者へ。
突然の事でさぞ驚いたことと思う。
この世界は今、元あった秩序が真っ二つに分かれ大きな戦の渦を巻いている。
このままでは本来と違う、良くない未来へ進んでしまう。
それを止めるためには、異世界から来た君の助けが欲しい。
どうか、どうか頼む」
「えー?」
本音が思わず口から飛び出した。
だって自分から来たわけでは無いし、この世界の事もよく知らないし、この手紙の主もわからないし、呼び捨てにされるのも嫌だし。
放っておいて元の世界に帰りたい、そう思った時、手紙から小さなメモがはらりと落ちた。
そのメモには一言。
「帰るには賢者の石が必要だ」
と、書いてあった。
「賢者の石だって!!?」
大声が思わず口から飛び出した。
ここは賢者の石が存在する世界、なのか!
心臓が早鐘を打つ。
まだ、本当に賢者の石があるかもわからない。
この手紙の信憑性も無い。
でも心の奥が気付いていた。
この世界の可能性に。
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