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9.エムルエスタの王族
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私が追放処分を受けた日、エムルエスタ王国の王太子であるサイラス殿下と出会ったのですが、彼の膂力もまた規格外でした。
ドラゴンを両断した剣捌きは常人では考えられない、まさに神業と言っても過言ではないでしょう。
「エムルエスタ王国は、武人の国なんだ。俺の曾祖父が自ら先陣を切って、戦国の世で名だたる武人を倒し、国をデカくしたからな。各国で不可侵の条約を結んだ今でも王族たる者は強くなくてはならんと俺もガキの頃から親父殿に鍛え上げられたのさ。谷に落とされたりしてな」
明るく話していましたが、サイラス殿下の幼少期は過酷としか言えません。
谷に突き落とされたり、魔物のいる雪山で一ヶ月生き延びることを強要されたり、逞しくなるためとはいえ、異常な修行メニューを実践させられていたみたいです。
「大変ですね。国のトップに立つというのは。並大抵の努力で許されないなんて……」
あの時、私を制止して剣を振り下ろしたサイラス殿下の後ろ姿を忘れることはないでしょう。
月光が銀髪に反射され、幻想的な雰囲気も相まって、私には神々しくも見えたのです。
「いや、リルア殿の魔法の修練もとんでもないって。正確に言えば聖女としての務めだったのかもしれんが、ギブアップしなかったのは凄い」
「私のあれは、聖女とはそういうものだと思い込んでいましたので。修行という認識などなかったものですから」
「だから凄いんだよ。まぁ、初めて会ったときはコントロールがおぼつかないように見えたから、追撃を止めておいて良かったけどな。今は完全に力を掌握できている。リルア殿は最も神に近い力を持っているんだ」
熱く私の力について語るサイラス殿下。
神に最も近い力――この国では神子と呼ばれる存在らしいですが……。
「この前も聞いたよ。宮廷魔道士として北の山に現れたヒドラとかいう首が何個もあるような竜を仕留めたとか」
宮廷魔道士としての仕事は結界を張らないだけで魔物を相手にするという点では同じです。
私は修行が一段落すると、宮廷魔道士として積極的に働きました。
助けてくれたサイラス殿下への恩返しと言いましょうか……。
「で、ここからが本題なんだけど……」
「は、はい。本題があったのですね」
「明日、親父殿に会ってくれないか? リルア殿に挨拶がしたいって聞かないんだ」
エムルエスタの国王陛下が私などに挨拶を? そ、それは光栄なことですが、なぜサイラス殿下は気まずそうなカオをしているのでしょう。
何度か止めたような口ぶりですが……。
「いや、そのう。言いにくいんだが、親父殿は神子としての力を持つリルア殿をすごく気に入っているみたいなんだ」
「……はい? それはとても名誉なことです。どうして言いにくいことになるのでしょう?」
「だから、な。どうやら親父殿、リルア殿を俺の婚約者にしたいんだってさ。も、もちろん、断ってくれて良いからな。今まで結婚の話とか後回しにしていたクセにいきなりだから驚いたよ」
「…………」
いえ、私の方がもっと驚いています。
ど、どういうことですか? わ、私がサイラス殿下の婚約者に――?
ドラゴンを両断した剣捌きは常人では考えられない、まさに神業と言っても過言ではないでしょう。
「エムルエスタ王国は、武人の国なんだ。俺の曾祖父が自ら先陣を切って、戦国の世で名だたる武人を倒し、国をデカくしたからな。各国で不可侵の条約を結んだ今でも王族たる者は強くなくてはならんと俺もガキの頃から親父殿に鍛え上げられたのさ。谷に落とされたりしてな」
明るく話していましたが、サイラス殿下の幼少期は過酷としか言えません。
谷に突き落とされたり、魔物のいる雪山で一ヶ月生き延びることを強要されたり、逞しくなるためとはいえ、異常な修行メニューを実践させられていたみたいです。
「大変ですね。国のトップに立つというのは。並大抵の努力で許されないなんて……」
あの時、私を制止して剣を振り下ろしたサイラス殿下の後ろ姿を忘れることはないでしょう。
月光が銀髪に反射され、幻想的な雰囲気も相まって、私には神々しくも見えたのです。
「いや、リルア殿の魔法の修練もとんでもないって。正確に言えば聖女としての務めだったのかもしれんが、ギブアップしなかったのは凄い」
「私のあれは、聖女とはそういうものだと思い込んでいましたので。修行という認識などなかったものですから」
「だから凄いんだよ。まぁ、初めて会ったときはコントロールがおぼつかないように見えたから、追撃を止めておいて良かったけどな。今は完全に力を掌握できている。リルア殿は最も神に近い力を持っているんだ」
熱く私の力について語るサイラス殿下。
神に最も近い力――この国では神子と呼ばれる存在らしいですが……。
「この前も聞いたよ。宮廷魔道士として北の山に現れたヒドラとかいう首が何個もあるような竜を仕留めたとか」
宮廷魔道士としての仕事は結界を張らないだけで魔物を相手にするという点では同じです。
私は修行が一段落すると、宮廷魔道士として積極的に働きました。
助けてくれたサイラス殿下への恩返しと言いましょうか……。
「で、ここからが本題なんだけど……」
「は、はい。本題があったのですね」
「明日、親父殿に会ってくれないか? リルア殿に挨拶がしたいって聞かないんだ」
エムルエスタの国王陛下が私などに挨拶を? そ、それは光栄なことですが、なぜサイラス殿下は気まずそうなカオをしているのでしょう。
何度か止めたような口ぶりですが……。
「いや、そのう。言いにくいんだが、親父殿は神子としての力を持つリルア殿をすごく気に入っているみたいなんだ」
「……はい? それはとても名誉なことです。どうして言いにくいことになるのでしょう?」
「だから、な。どうやら親父殿、リルア殿を俺の婚約者にしたいんだってさ。も、もちろん、断ってくれて良いからな。今まで結婚の話とか後回しにしていたクセにいきなりだから驚いたよ」
「…………」
いえ、私の方がもっと驚いています。
ど、どういうことですか? わ、私がサイラス殿下の婚約者に――?
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