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第四十話
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いよいよ、この日がやって来ました。
思えば、リーンハルト様から婚約破棄するぞと告げられて妹に婚約者を奪われたという悲しい出来事から、色々ありまして、ついに私は結婚します。
相手は隣国、アルビニア王国の王太子、アルフレート殿下。
トラブル続きで、殿下には随分と不快な思いをさせてしまったり、面倒をかけてしまったり、したと思うのですが――殿下は私のことをずっと支え続けて下さいました。
「アルフレート様はずっとシャルロット様を自らの妻にするのだと意気込んで、エゼルスタ語の勉強をされていたのですよ。それはもう、理想の女性に出会えたと興奮して――あんなに情熱的な一面もあったのかと驚かされました」
王宮に来てから、ずっと私の身の回りの世話をして下さっている、ジーナはアルフレート殿下が如何に私のことを想っていてくれたのか力説しました。
そういった話は本人からも聞いていたのですが、他人からの伝聞だとまた違った感じで捉えられ、なんだか照れる気持ちもありながら、心が温かくなります。
――そんなことを考えていますと、部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえました。
ジーナが応対しようとドアを開けます。どなたでしょう……?
「あら、アイリーン様ではありませんか。シャルロット様に御用ですか?」
「先日は少ししか挨拶出来なかったから、ちょっと時間をくれないかしら?」
「アイリーン殿下、先日はどうもすみません。緊張してしまって……」
アルフレート殿下の妹君で、この国の王女であるアイリーン殿下が私のもとに来られました。
アイリーン殿下とは、この国に到着したばかりのときにアルフレート殿下と共に挨拶をしたきりだったのですが、なんの用事でしょう……。
「ホント、アルビニア人と変わらない感じで流暢に話すのね。兄さんはエゼルスタ語下手なのに」
「そ、そんなことありません。アルフレート殿下のエゼルスタ語は完璧ですよ」
「別に世辞なんかいいわよ。……ジーナ、席を外してくれるかしら?」
「承知いたしました……!」
腕を組みながら、アルフレート殿下と同じく青い瞳で私を見据えアイリーン殿下は人払いをされます。
その長い金髪もアルフレート殿下そっくりで、二人が兄妹であることは知らない人が見ても察しがつくでしょう。
しかし、人払いをするほど重要な話とは何でしょう? 先程から凄い威圧感を感じてはいるのですが……。
「あなた、この前……、ピアノとバイオリンの演奏していたわよね?」
「は、はい……! 三曲ほど披露させていただきました。アルフレート殿下からのリクエストもありましたので」
先日、結婚式とは別にアルフレート殿下が婚約者をお披露目するためのパーティーも開いて頂いたのですが、そのときに私は殿下から頼まれてピアノとバイオリンの演奏を披露しました。どれも、こちらで流行っている曲です。
とても緊張はしたのですが、何とか失敗せずにパフォーマンスを終えてホッとしたのを覚えています。
もしかして、あの演奏の際に、アイリーン殿下を腹立たせる何かをしてしまったのでしょうか……。
「あのさ、今は誰も居ないから、あなたに言うけど――え、演奏最高でした! もう、私、感動しちゃって! 鳥肌がすごくて……! あ、握手とかって、して貰える?」
「えっ? あ、握手ですか? は、はい。分かりました」
急に顔を赤らめてアイリーン殿下は私に握手を求めました。
差し出された手は少しだけ震えており、握るとひんやりと冷たかったです。
「あ、あと、もう一つお願いがあるんだけど……」
「もう一つのお願い? ……どうぞ、何なりと申し付けください」
握手をして、その手を見つめながらたどたどしい口調でアイリーン殿下はもう一つお願いごとがあると仰せになりました。
何やら思いつめた感じに見えますが――
「あ、あの! シャルロットお義姉様って呼んでも良いかしら!?」
大きな声で、真剣な顔つきで、アイリーン殿下は私を姉と呼んでも良いかと聞かれます。
そうでしたね。当たり前ですが、私はこれから彼女の義姉になるのでした。
妹が二人になるということですか……。
「……そう呼んで頂けたら、嬉しいです。何だか、アルフレート殿下の妻として認められたような気がしますから」
「あはっ……! これから、よろしく! シャルロットお義姉様!」
ニコリと笑ったアイリーン殿下と再び握手をする私。
彼女の手のひらはいつの間にか温かくなっていました――。
思えば、リーンハルト様から婚約破棄するぞと告げられて妹に婚約者を奪われたという悲しい出来事から、色々ありまして、ついに私は結婚します。
相手は隣国、アルビニア王国の王太子、アルフレート殿下。
トラブル続きで、殿下には随分と不快な思いをさせてしまったり、面倒をかけてしまったり、したと思うのですが――殿下は私のことをずっと支え続けて下さいました。
「アルフレート様はずっとシャルロット様を自らの妻にするのだと意気込んで、エゼルスタ語の勉強をされていたのですよ。それはもう、理想の女性に出会えたと興奮して――あんなに情熱的な一面もあったのかと驚かされました」
王宮に来てから、ずっと私の身の回りの世話をして下さっている、ジーナはアルフレート殿下が如何に私のことを想っていてくれたのか力説しました。
そういった話は本人からも聞いていたのですが、他人からの伝聞だとまた違った感じで捉えられ、なんだか照れる気持ちもありながら、心が温かくなります。
――そんなことを考えていますと、部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえました。
ジーナが応対しようとドアを開けます。どなたでしょう……?
「あら、アイリーン様ではありませんか。シャルロット様に御用ですか?」
「先日は少ししか挨拶出来なかったから、ちょっと時間をくれないかしら?」
「アイリーン殿下、先日はどうもすみません。緊張してしまって……」
アルフレート殿下の妹君で、この国の王女であるアイリーン殿下が私のもとに来られました。
アイリーン殿下とは、この国に到着したばかりのときにアルフレート殿下と共に挨拶をしたきりだったのですが、なんの用事でしょう……。
「ホント、アルビニア人と変わらない感じで流暢に話すのね。兄さんはエゼルスタ語下手なのに」
「そ、そんなことありません。アルフレート殿下のエゼルスタ語は完璧ですよ」
「別に世辞なんかいいわよ。……ジーナ、席を外してくれるかしら?」
「承知いたしました……!」
腕を組みながら、アルフレート殿下と同じく青い瞳で私を見据えアイリーン殿下は人払いをされます。
その長い金髪もアルフレート殿下そっくりで、二人が兄妹であることは知らない人が見ても察しがつくでしょう。
しかし、人払いをするほど重要な話とは何でしょう? 先程から凄い威圧感を感じてはいるのですが……。
「あなた、この前……、ピアノとバイオリンの演奏していたわよね?」
「は、はい……! 三曲ほど披露させていただきました。アルフレート殿下からのリクエストもありましたので」
先日、結婚式とは別にアルフレート殿下が婚約者をお披露目するためのパーティーも開いて頂いたのですが、そのときに私は殿下から頼まれてピアノとバイオリンの演奏を披露しました。どれも、こちらで流行っている曲です。
とても緊張はしたのですが、何とか失敗せずにパフォーマンスを終えてホッとしたのを覚えています。
もしかして、あの演奏の際に、アイリーン殿下を腹立たせる何かをしてしまったのでしょうか……。
「あのさ、今は誰も居ないから、あなたに言うけど――え、演奏最高でした! もう、私、感動しちゃって! 鳥肌がすごくて……! あ、握手とかって、して貰える?」
「えっ? あ、握手ですか? は、はい。分かりました」
急に顔を赤らめてアイリーン殿下は私に握手を求めました。
差し出された手は少しだけ震えており、握るとひんやりと冷たかったです。
「あ、あと、もう一つお願いがあるんだけど……」
「もう一つのお願い? ……どうぞ、何なりと申し付けください」
握手をして、その手を見つめながらたどたどしい口調でアイリーン殿下はもう一つお願いごとがあると仰せになりました。
何やら思いつめた感じに見えますが――
「あ、あの! シャルロットお義姉様って呼んでも良いかしら!?」
大きな声で、真剣な顔つきで、アイリーン殿下は私を姉と呼んでも良いかと聞かれます。
そうでしたね。当たり前ですが、私はこれから彼女の義姉になるのでした。
妹が二人になるということですか……。
「……そう呼んで頂けたら、嬉しいです。何だか、アルフレート殿下の妻として認められたような気がしますから」
「あはっ……! これから、よろしく! シャルロットお義姉様!」
ニコリと笑ったアイリーン殿下と再び握手をする私。
彼女の手のひらはいつの間にか温かくなっていました――。
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