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最終話
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ピアノを演奏しているとミリムは突然、頭を押さえて「死にたい」と喚き出しました。
本当に苦しそうな表情で、悲痛な叫びを上げる彼女は毒薬を飲むと瓶の蓋を開けて液体を口にします。
そして、まもなくバタリと倒れてしまったミリムを見て、私は慌てて医者を呼びました。
――眠っているだけだったみたいです。
アンナさんがやってきて謝られました。
ミリムの記憶が突然に戻るようなことがあれば、死にたくなってしまうのでは、と予想して彼女に睡眠薬を渡していたらしいです。
彼女の急成長ぶりを見て嫌な予感がしたからと言っていますが、そこまで機転が利くものなのなと感心してしまいました。
ベッドで横になっているミリムは間もなくすると目を覚まします。
「…………わ、わたくし、まだ、生きていますの?」
「ミリム! 本当にあなたは、馬鹿なことを!」
私は大きな声を上げて、ミリムを叱ります。
この子は、本当に心配をかけて。
やっと、色んなことを話せるようになったと思ったのに、死にたいなんて馬鹿なことを言い出すなんて。
「お姉様、わたくしは、わたくしは、今までずっとシャルロットお姉様に嫌な思いを……。わたくしは、シャルロットお姉様のことを何にも考えていませんでした。いえ、それだけではありません。ずっと、何も考えずに生きていました。それが堪らなく恥ずかしいのです。もう消えてしまいたい……」
ミリムは自分の過去の行いを恥ずかしいと思い……死にたいと口にしているようです。
彼女の気持ちは分かります。
ミリムと接していて分かったことは、決して悪意があってわがままを言っていたワケではなかったことです。
善悪の判断がつくようになった彼女が自らの行いを恥じるようになったのは当然かもしれません。
ですが、彼女は大切なことを忘れています。
「ミリム、あなたは自らの行いを恥じていますが、反省は出来ていないみたいですね」
「お、お姉様? わ、わたくしは自分のやってきたことを反省していますわ。だから、消えて死んでしまいたいと――」
「いいえ。あなたは後悔はしていますが、反省はしていません。反省とは過去を省みて、同じことを繰り返さぬように努力することですから。逃げたいと声に出すことではないのです」
ミリムが苦しいことは分かっています。
ですが、今、この時こそが彼女が変われるかどうかの瀬戸際です。
歯を食いしばりながら、それでも恥に晒されることに耐えながら生きることを選択できれば、新しい人生が見えてくるかもしれません。
「お姉様……。わ、わたくし! 変わってみせます! どんな罪も受け入れて、どんなに苦しくなっても、いつかシャルロットお姉様のような淑女になるように!」
変わると断言したミリムの目は今までにない強い輝きを放っていました。
この子は大丈夫だと私は信じます。
きっと、いつか誰もが認める立派な淑女となるのでしょう。
◆ ◆ ◆
ミリムが自殺未遂をしてから、半年ほどが過ぎました。
エゼルスタのアーゼル家も公爵家も容赦なく潰されてしまい、父と母はエゼルスタに戻り平民となり、聞く話によるとリーンハルト様は王族に喧嘩を売り、投獄されてしまったみたいです。
エルムハルト様は釈放されてからも故郷には帰りたくないとして、自分の衣服を売って、それを元手に農具と僅かな土地を借りて、美味しいお芋を作っているのだとか。
農学を専門に勉強していたとは知りませんでした。
「ミリムがシスターになると修行に出て、もう三ヶ月ですか」
「三ヶ月ほど自ら独房に入り、裁判の結果を大人しく待っていた態度から情状酌量の余地が生まれたのだが、貴族という身分は既に捨てると決めていたのだろうな。向こうでも評判が良いらしい。懸命に神に祈りを捧げていると」
ミリムはシスター見習いとして、自らの希望で修道院へと行きました。
真面目に毎日、神に祈りを捧げて、救いを求める方々を助けようと懸命に動いているみたいです。
「結婚式に来てほしかったのだろう? 本当は」
「ええ、もちろんです。ですが、あの子の意思を尊重しました。ミリムも自分の人生を歩み始めていますから。私はもう心配していませんし、自分の人生を大事にします」
アルフレート様の差し出した手を握り締めて、私は大聖堂へと足を踏み入れます。
無事に今日という日を迎えられた幸せを噛み締めながら――。
元婚約者は可愛いだけの妹に、もう飽きたらしい
~完結~
本当に苦しそうな表情で、悲痛な叫びを上げる彼女は毒薬を飲むと瓶の蓋を開けて液体を口にします。
そして、まもなくバタリと倒れてしまったミリムを見て、私は慌てて医者を呼びました。
――眠っているだけだったみたいです。
アンナさんがやってきて謝られました。
ミリムの記憶が突然に戻るようなことがあれば、死にたくなってしまうのでは、と予想して彼女に睡眠薬を渡していたらしいです。
彼女の急成長ぶりを見て嫌な予感がしたからと言っていますが、そこまで機転が利くものなのなと感心してしまいました。
ベッドで横になっているミリムは間もなくすると目を覚まします。
「…………わ、わたくし、まだ、生きていますの?」
「ミリム! 本当にあなたは、馬鹿なことを!」
私は大きな声を上げて、ミリムを叱ります。
この子は、本当に心配をかけて。
やっと、色んなことを話せるようになったと思ったのに、死にたいなんて馬鹿なことを言い出すなんて。
「お姉様、わたくしは、わたくしは、今までずっとシャルロットお姉様に嫌な思いを……。わたくしは、シャルロットお姉様のことを何にも考えていませんでした。いえ、それだけではありません。ずっと、何も考えずに生きていました。それが堪らなく恥ずかしいのです。もう消えてしまいたい……」
ミリムは自分の過去の行いを恥ずかしいと思い……死にたいと口にしているようです。
彼女の気持ちは分かります。
ミリムと接していて分かったことは、決して悪意があってわがままを言っていたワケではなかったことです。
善悪の判断がつくようになった彼女が自らの行いを恥じるようになったのは当然かもしれません。
ですが、彼女は大切なことを忘れています。
「ミリム、あなたは自らの行いを恥じていますが、反省は出来ていないみたいですね」
「お、お姉様? わ、わたくしは自分のやってきたことを反省していますわ。だから、消えて死んでしまいたいと――」
「いいえ。あなたは後悔はしていますが、反省はしていません。反省とは過去を省みて、同じことを繰り返さぬように努力することですから。逃げたいと声に出すことではないのです」
ミリムが苦しいことは分かっています。
ですが、今、この時こそが彼女が変われるかどうかの瀬戸際です。
歯を食いしばりながら、それでも恥に晒されることに耐えながら生きることを選択できれば、新しい人生が見えてくるかもしれません。
「お姉様……。わ、わたくし! 変わってみせます! どんな罪も受け入れて、どんなに苦しくなっても、いつかシャルロットお姉様のような淑女になるように!」
変わると断言したミリムの目は今までにない強い輝きを放っていました。
この子は大丈夫だと私は信じます。
きっと、いつか誰もが認める立派な淑女となるのでしょう。
◆ ◆ ◆
ミリムが自殺未遂をしてから、半年ほどが過ぎました。
エゼルスタのアーゼル家も公爵家も容赦なく潰されてしまい、父と母はエゼルスタに戻り平民となり、聞く話によるとリーンハルト様は王族に喧嘩を売り、投獄されてしまったみたいです。
エルムハルト様は釈放されてからも故郷には帰りたくないとして、自分の衣服を売って、それを元手に農具と僅かな土地を借りて、美味しいお芋を作っているのだとか。
農学を専門に勉強していたとは知りませんでした。
「ミリムがシスターになると修行に出て、もう三ヶ月ですか」
「三ヶ月ほど自ら独房に入り、裁判の結果を大人しく待っていた態度から情状酌量の余地が生まれたのだが、貴族という身分は既に捨てると決めていたのだろうな。向こうでも評判が良いらしい。懸命に神に祈りを捧げていると」
ミリムはシスター見習いとして、自らの希望で修道院へと行きました。
真面目に毎日、神に祈りを捧げて、救いを求める方々を助けようと懸命に動いているみたいです。
「結婚式に来てほしかったのだろう? 本当は」
「ええ、もちろんです。ですが、あの子の意思を尊重しました。ミリムも自分の人生を歩み始めていますから。私はもう心配していませんし、自分の人生を大事にします」
アルフレート様の差し出した手を握り締めて、私は大聖堂へと足を踏み入れます。
無事に今日という日を迎えられた幸せを噛み締めながら――。
元婚約者は可愛いだけの妹に、もう飽きたらしい
~完結~
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美味しいwお芋www🤣🤣🤣