53 / 53
最終話
ピアノを演奏しているとミリムは突然、頭を押さえて「死にたい」と喚き出しました。
本当に苦しそうな表情で、悲痛な叫びを上げる彼女は毒薬を飲むと瓶の蓋を開けて液体を口にします。
そして、まもなくバタリと倒れてしまったミリムを見て、私は慌てて医者を呼びました。
――眠っているだけだったみたいです。
アンナさんがやってきて謝られました。
ミリムの記憶が突然に戻るようなことがあれば、死にたくなってしまうのでは、と予想して彼女に睡眠薬を渡していたらしいです。
彼女の急成長ぶりを見て嫌な予感がしたからと言っていますが、そこまで機転が利くものなのなと感心してしまいました。
ベッドで横になっているミリムは間もなくすると目を覚まします。
「…………わ、わたくし、まだ、生きていますの?」
「ミリム! 本当にあなたは、馬鹿なことを!」
私は大きな声を上げて、ミリムを叱ります。
この子は、本当に心配をかけて。
やっと、色んなことを話せるようになったと思ったのに、死にたいなんて馬鹿なことを言い出すなんて。
「お姉様、わたくしは、わたくしは、今までずっとシャルロットお姉様に嫌な思いを……。わたくしは、シャルロットお姉様のことを何にも考えていませんでした。いえ、それだけではありません。ずっと、何も考えずに生きていました。それが堪らなく恥ずかしいのです。もう消えてしまいたい……」
ミリムは自分の過去の行いを恥ずかしいと思い……死にたいと口にしているようです。
彼女の気持ちは分かります。
ミリムと接していて分かったことは、決して悪意があってわがままを言っていたワケではなかったことです。
善悪の判断がつくようになった彼女が自らの行いを恥じるようになったのは当然かもしれません。
ですが、彼女は大切なことを忘れています。
「ミリム、あなたは自らの行いを恥じていますが、反省は出来ていないみたいですね」
「お、お姉様? わ、わたくしは自分のやってきたことを反省していますわ。だから、消えて死んでしまいたいと――」
「いいえ。あなたは後悔はしていますが、反省はしていません。反省とは過去を省みて、同じことを繰り返さぬように努力することですから。逃げたいと声に出すことではないのです」
ミリムが苦しいことは分かっています。
ですが、今、この時こそが彼女が変われるかどうかの瀬戸際です。
歯を食いしばりながら、それでも恥に晒されることに耐えながら生きることを選択できれば、新しい人生が見えてくるかもしれません。
「お姉様……。わ、わたくし! 変わってみせます! どんな罪も受け入れて、どんなに苦しくなっても、いつかシャルロットお姉様のような淑女になるように!」
変わると断言したミリムの目は今までにない強い輝きを放っていました。
この子は大丈夫だと私は信じます。
きっと、いつか誰もが認める立派な淑女となるのでしょう。
◆ ◆ ◆
ミリムが自殺未遂をしてから、半年ほどが過ぎました。
エゼルスタのアーゼル家も公爵家も容赦なく潰されてしまい、父と母はエゼルスタに戻り平民となり、聞く話によるとリーンハルト様は王族に喧嘩を売り、投獄されてしまったみたいです。
エルムハルト様は釈放されてからも故郷には帰りたくないとして、自分の衣服を売って、それを元手に農具と僅かな土地を借りて、美味しいお芋を作っているのだとか。
農学を専門に勉強していたとは知りませんでした。
「ミリムがシスターになると修行に出て、もう三ヶ月ですか」
「三ヶ月ほど自ら独房に入り、裁判の結果を大人しく待っていた態度から情状酌量の余地が生まれたのだが、貴族という身分は既に捨てると決めていたのだろうな。向こうでも評判が良いらしい。懸命に神に祈りを捧げていると」
ミリムはシスター見習いとして、自らの希望で修道院へと行きました。
真面目に毎日、神に祈りを捧げて、救いを求める方々を助けようと懸命に動いているみたいです。
「結婚式に来てほしかったのだろう? 本当は」
「ええ、もちろんです。ですが、あの子の意思を尊重しました。ミリムも自分の人生を歩み始めていますから。私はもう心配していませんし、自分の人生を大事にします」
アルフレート様の差し出した手を握り締めて、私は大聖堂へと足を踏み入れます。
無事に今日という日を迎えられた幸せを噛み締めながら――。
元婚約者は可愛いだけの妹に、もう飽きたらしい
~完結~
本当に苦しそうな表情で、悲痛な叫びを上げる彼女は毒薬を飲むと瓶の蓋を開けて液体を口にします。
そして、まもなくバタリと倒れてしまったミリムを見て、私は慌てて医者を呼びました。
――眠っているだけだったみたいです。
アンナさんがやってきて謝られました。
ミリムの記憶が突然に戻るようなことがあれば、死にたくなってしまうのでは、と予想して彼女に睡眠薬を渡していたらしいです。
彼女の急成長ぶりを見て嫌な予感がしたからと言っていますが、そこまで機転が利くものなのなと感心してしまいました。
ベッドで横になっているミリムは間もなくすると目を覚まします。
「…………わ、わたくし、まだ、生きていますの?」
「ミリム! 本当にあなたは、馬鹿なことを!」
私は大きな声を上げて、ミリムを叱ります。
この子は、本当に心配をかけて。
やっと、色んなことを話せるようになったと思ったのに、死にたいなんて馬鹿なことを言い出すなんて。
「お姉様、わたくしは、わたくしは、今までずっとシャルロットお姉様に嫌な思いを……。わたくしは、シャルロットお姉様のことを何にも考えていませんでした。いえ、それだけではありません。ずっと、何も考えずに生きていました。それが堪らなく恥ずかしいのです。もう消えてしまいたい……」
ミリムは自分の過去の行いを恥ずかしいと思い……死にたいと口にしているようです。
彼女の気持ちは分かります。
ミリムと接していて分かったことは、決して悪意があってわがままを言っていたワケではなかったことです。
善悪の判断がつくようになった彼女が自らの行いを恥じるようになったのは当然かもしれません。
ですが、彼女は大切なことを忘れています。
「ミリム、あなたは自らの行いを恥じていますが、反省は出来ていないみたいですね」
「お、お姉様? わ、わたくしは自分のやってきたことを反省していますわ。だから、消えて死んでしまいたいと――」
「いいえ。あなたは後悔はしていますが、反省はしていません。反省とは過去を省みて、同じことを繰り返さぬように努力することですから。逃げたいと声に出すことではないのです」
ミリムが苦しいことは分かっています。
ですが、今、この時こそが彼女が変われるかどうかの瀬戸際です。
歯を食いしばりながら、それでも恥に晒されることに耐えながら生きることを選択できれば、新しい人生が見えてくるかもしれません。
「お姉様……。わ、わたくし! 変わってみせます! どんな罪も受け入れて、どんなに苦しくなっても、いつかシャルロットお姉様のような淑女になるように!」
変わると断言したミリムの目は今までにない強い輝きを放っていました。
この子は大丈夫だと私は信じます。
きっと、いつか誰もが認める立派な淑女となるのでしょう。
◆ ◆ ◆
ミリムが自殺未遂をしてから、半年ほどが過ぎました。
エゼルスタのアーゼル家も公爵家も容赦なく潰されてしまい、父と母はエゼルスタに戻り平民となり、聞く話によるとリーンハルト様は王族に喧嘩を売り、投獄されてしまったみたいです。
エルムハルト様は釈放されてからも故郷には帰りたくないとして、自分の衣服を売って、それを元手に農具と僅かな土地を借りて、美味しいお芋を作っているのだとか。
農学を専門に勉強していたとは知りませんでした。
「ミリムがシスターになると修行に出て、もう三ヶ月ですか」
「三ヶ月ほど自ら独房に入り、裁判の結果を大人しく待っていた態度から情状酌量の余地が生まれたのだが、貴族という身分は既に捨てると決めていたのだろうな。向こうでも評判が良いらしい。懸命に神に祈りを捧げていると」
ミリムはシスター見習いとして、自らの希望で修道院へと行きました。
真面目に毎日、神に祈りを捧げて、救いを求める方々を助けようと懸命に動いているみたいです。
「結婚式に来てほしかったのだろう? 本当は」
「ええ、もちろんです。ですが、あの子の意思を尊重しました。ミリムも自分の人生を歩み始めていますから。私はもう心配していませんし、自分の人生を大事にします」
アルフレート様の差し出した手を握り締めて、私は大聖堂へと足を踏み入れます。
無事に今日という日を迎えられた幸せを噛み締めながら――。
元婚約者は可愛いだけの妹に、もう飽きたらしい
~完結~
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(515件)
あなたにおすすめの小説
『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』
六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。
王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。 数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。
そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。
「復讐? いいえ、これは正当な監査です」
リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。 孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。 やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。
クリスティーヌの本当の幸せ
宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
令嬢たちの華麗なる断罪 ~婚約破棄は、こちらから~
櫻井みこと
恋愛
婚約者である令嬢たちを差し置いて、ひとりの女性に夢中になっている婚約者たち。
その女性はあまりにも常識知らずだったから、少し注意をしていただけなのに、嫉妬して彼女をいじめていると言いがかりをつけられる。
どうして政略結婚の相手に、嫉妬などしなければならないのでしょう。
呆れた令嬢たちは、ひそかに婚約破棄の準備を進めていた。
※期間限定で再公開しました。
悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした
みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。
会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。
そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
読後感がよく、なかなか感動するお話でした。
シリアスとユーモアのバランスが取れていること、ストーリー展開が自然であること。
その他様々な要素が組み合わさり、爽やかで後腐れのない作品になったのだと思いました。
美味しいwお芋www🤣🤣🤣