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お手柄
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「そ、そうか。僕は魅了魔法に……。確かに最近はボーッとすることが多くて変だとは思っていたんだ。シャルロットとは一ヶ月前に友人のパーティーに出席したときに知り合ったんだが……」
事情を説明すると案外というか、すんなりと魅了魔法にかかっていたことを認めるレイナード。
どうやら彼はシャルロットと一ヶ月前に出会って以降、時折、記憶があやふやになっていたらしい。
「どうやら、暗殺一族ってことを口にしたのも覚えていない。あたしたちも聞かなかったことする……」
「分かりました」
レイナードさんたちルミリオン公爵家が王族御用達の暗殺一族だと知ったということは、黙っていようと、私とフレメアさんは示し合わせた。
シャルロットは知らなかったじゃ済まないだろうけど……。
まぁ、余計なことには関わらずにこの一件を収めたい――。
「僕らルミリオン一族は暗殺者の家系なんだ」
「「――っ!?」」
――なんで言っちゃうのよ!
あー、これで私たちも秘密を知ってしまったことは誤魔化せない。
せっかく知らないふりで終わらせようとしたのに……。
「王家の影の存在として生きてきて、王家との信頼関係を確固たるものとしてきた。今回のアリシア様との結婚だってその一環。王国の闇の歴史を王族たちも背負うという約束も兼ねているんだ」
「はぁ……、それはなんとも……」
まぁ、王家としても闇をルミリオン家だけに背負わせないって意味なんだろうけど。
それを何故、私たちに話したんだろうか……。
「アリシア様は暗殺一族から僕らを解放しようと動いてくれているんだ。彼女と結婚する日、僕らルミリオン家の歴史は全て公表される。その結婚が潰されるところだったのだから、助かったよ」
「そ、そうなんですか。それで私たちに……」
あー、よかったわ。
なんだ、全部発表する予定だったのか。
それにしても、アリシア殿下ってかなり強い方なのね。そんな王家の闇に切り込むなんて……。
「君らはルミリオン家の恩人だ。商人のマルセル・サウスエルトやシャルロットがなんで僕らを恨んでいるのか分からないが――」
うーん。確かにシャルロットの口ぶりだと公爵家や王族に強い恨みを持っているみたいな感じだったわ。皆殺し、とか言っていたし……。
まぁ、それを解き明かすのは私たちの仕事ではないだろうから詮索はしないけど……。
こうして、私の宮廷ギルドでの最初の仕事は幕を閉じた。
◆
「ルシリアさ~ん、あなた持ってますね~。初仕事であんなに濃い仕事をこなすなんて」
ロイドさんは機嫌良さそうな声を上げて、私の初仕事が濃かったと感想を述べた。
そもそも、浮気調査ってなんなのよ。忘れかけていたけれど、それも普通じゃないから。
まぁ、確かに追っていた公爵令息が暗殺一族だったなんて展開などは予想してなかったけど。
ただの痴情のもつれだと思っていただけに……。
「ルミリオン家は暗殺稼業を営んでいて、どうやら王家の命令でこの国に仇を成すならず者たちを消していっていたみたいですね。それがことごとく、武器商人としてのサウスエルト家に打撃を与えて経営を逼迫させていたみたいです」
「逆恨みってことですか?」
「平たく言えばそうですね。まぁ、娘を使って公爵家の者たちとアリシア様を抹殺しようとしていたサウスエルト氏は必要悪だと言っていますが」
必要悪とはよく言えたわね。
悪いことをする連中に武器を流して儲けていたような商人が。
でも、良かったわ。公爵家の人たちは使用人も含めて全員拘束されていただけでみんな無事だったんだから。
「まー、何にせよお手柄です。ルシリアさん、フレメアさん。今回の働きをアリシア殿下に伝えたところ、殿下たちが結婚された後にはなりますが、お二人には勲章が授与されることが決定しました」
「えっ? 勲章が貰えるんですか?」
「滅多にないけど、間接的に王家と公爵家を守ったから」
「フレメアさんの言ったとおり、これを放置したら大惨事もあり得ました。それを未然に防いだお二人のこと、僕ァ上司として誇らしいですよ~」
まさか勲章までもらえるなんて。思ってもみなかったわ。
でも、あのレイナードのスピードについていったのはフレメアさんだし、私は彼女のサポートをしただけ。
それで同じ扱いなんて。何だか遠慮しちゃうな……。
「私が頂いても良いものなのでしょうか? ほとんどフレメアさんの功績なのに……」
「それは違う。ルシリアさんは五つの魔法を同時に使うという離れ業であたしを助けてくれた。これは間違いなくルシリアさんしか出来なかったこと」
勲章を頂くことに躊躇すると、フレメアさんは私に助けられたと言う。
そうかしら。私のサポートなんて、微々たるもののような気がする。
最後の治癒光雨以外は全部初級魔法だし……。
「でしょうね~。実際、繊細な戦いだったと聞いています。なんせ、また。レイナード殿は暗殺のプロ中のプロ。実力的にフレメアさんと遜色ありません」
「そうですね。レイナードさんは相当な達人でした」
「そんな彼を殺さずに行動不能に追い込み、魅了魔法を解除するのは至難だったはず。今回の功績は間違いなくお二人のものですよ」
目を細めてロイドさんはフレメアさんに同調する。
そこまで言われたら私も頑張ったような気がするわ。
今までのことがあったから卑屈になっていたのかもしれない。聖女になったときは努力が実を結んだ喜びを噛みしめる間もなく追放されたし。
でも、ようやく……私は自分のことを褒められそう。私、頑張ったんだよね? 誇っていいんだよね……。
「これもまた、後日になりますがお二人が勲章を授与する日には、パーティーを開きますのでそのつもりで。精一杯、お洒落してくださいよ。晴れ舞台なんですから。いやー、めでたい!」
「何だか、ロイドさんの方が喜んでいるような気がしますね」
「そりゃあ、新人である君が手柄を立てたんです。心配もしていましたし、嬉しいですよ。僕ァそういう親心のある上司ですから~」
そんなに私のこと心配してくれていたんだ。何だか、申し訳ないような、嬉しいような……。
最初の印象は掴みどころのない、冷たそうな人って感じだったけど、全然違うみたい。
ロイドさんは情のある優しい人だった……。
「ロイド、次回のギルド長選挙で有利になる実績が作れて良かったって考えているの?」
「そうそう、これであの口うるさいギルド長を引きずり下ろすことが……! って、何を言わせるんですか~。ルシリアさんが聞いているじゃありませんか!」
あー、そういうこと。
別に良いんだけど。ロイドさんって、出世欲が強いんだ。
見たところ、二十代後半って感じだし、それで宮廷ギルド内の管理職についているんだから十分に出世していると思うんだけど。
こうして、私は宮廷ギルドに来て最初の仕事で勲章を授与される働きをした、という快挙を成し遂げた。
これは私の人生にとって、大きな成功体験だった――。
事情を説明すると案外というか、すんなりと魅了魔法にかかっていたことを認めるレイナード。
どうやら彼はシャルロットと一ヶ月前に出会って以降、時折、記憶があやふやになっていたらしい。
「どうやら、暗殺一族ってことを口にしたのも覚えていない。あたしたちも聞かなかったことする……」
「分かりました」
レイナードさんたちルミリオン公爵家が王族御用達の暗殺一族だと知ったということは、黙っていようと、私とフレメアさんは示し合わせた。
シャルロットは知らなかったじゃ済まないだろうけど……。
まぁ、余計なことには関わらずにこの一件を収めたい――。
「僕らルミリオン一族は暗殺者の家系なんだ」
「「――っ!?」」
――なんで言っちゃうのよ!
あー、これで私たちも秘密を知ってしまったことは誤魔化せない。
せっかく知らないふりで終わらせようとしたのに……。
「王家の影の存在として生きてきて、王家との信頼関係を確固たるものとしてきた。今回のアリシア様との結婚だってその一環。王国の闇の歴史を王族たちも背負うという約束も兼ねているんだ」
「はぁ……、それはなんとも……」
まぁ、王家としても闇をルミリオン家だけに背負わせないって意味なんだろうけど。
それを何故、私たちに話したんだろうか……。
「アリシア様は暗殺一族から僕らを解放しようと動いてくれているんだ。彼女と結婚する日、僕らルミリオン家の歴史は全て公表される。その結婚が潰されるところだったのだから、助かったよ」
「そ、そうなんですか。それで私たちに……」
あー、よかったわ。
なんだ、全部発表する予定だったのか。
それにしても、アリシア殿下ってかなり強い方なのね。そんな王家の闇に切り込むなんて……。
「君らはルミリオン家の恩人だ。商人のマルセル・サウスエルトやシャルロットがなんで僕らを恨んでいるのか分からないが――」
うーん。確かにシャルロットの口ぶりだと公爵家や王族に強い恨みを持っているみたいな感じだったわ。皆殺し、とか言っていたし……。
まぁ、それを解き明かすのは私たちの仕事ではないだろうから詮索はしないけど……。
こうして、私の宮廷ギルドでの最初の仕事は幕を閉じた。
◆
「ルシリアさ~ん、あなた持ってますね~。初仕事であんなに濃い仕事をこなすなんて」
ロイドさんは機嫌良さそうな声を上げて、私の初仕事が濃かったと感想を述べた。
そもそも、浮気調査ってなんなのよ。忘れかけていたけれど、それも普通じゃないから。
まぁ、確かに追っていた公爵令息が暗殺一族だったなんて展開などは予想してなかったけど。
ただの痴情のもつれだと思っていただけに……。
「ルミリオン家は暗殺稼業を営んでいて、どうやら王家の命令でこの国に仇を成すならず者たちを消していっていたみたいですね。それがことごとく、武器商人としてのサウスエルト家に打撃を与えて経営を逼迫させていたみたいです」
「逆恨みってことですか?」
「平たく言えばそうですね。まぁ、娘を使って公爵家の者たちとアリシア様を抹殺しようとしていたサウスエルト氏は必要悪だと言っていますが」
必要悪とはよく言えたわね。
悪いことをする連中に武器を流して儲けていたような商人が。
でも、良かったわ。公爵家の人たちは使用人も含めて全員拘束されていただけでみんな無事だったんだから。
「まー、何にせよお手柄です。ルシリアさん、フレメアさん。今回の働きをアリシア殿下に伝えたところ、殿下たちが結婚された後にはなりますが、お二人には勲章が授与されることが決定しました」
「えっ? 勲章が貰えるんですか?」
「滅多にないけど、間接的に王家と公爵家を守ったから」
「フレメアさんの言ったとおり、これを放置したら大惨事もあり得ました。それを未然に防いだお二人のこと、僕ァ上司として誇らしいですよ~」
まさか勲章までもらえるなんて。思ってもみなかったわ。
でも、あのレイナードのスピードについていったのはフレメアさんだし、私は彼女のサポートをしただけ。
それで同じ扱いなんて。何だか遠慮しちゃうな……。
「私が頂いても良いものなのでしょうか? ほとんどフレメアさんの功績なのに……」
「それは違う。ルシリアさんは五つの魔法を同時に使うという離れ業であたしを助けてくれた。これは間違いなくルシリアさんしか出来なかったこと」
勲章を頂くことに躊躇すると、フレメアさんは私に助けられたと言う。
そうかしら。私のサポートなんて、微々たるもののような気がする。
最後の治癒光雨以外は全部初級魔法だし……。
「でしょうね~。実際、繊細な戦いだったと聞いています。なんせ、また。レイナード殿は暗殺のプロ中のプロ。実力的にフレメアさんと遜色ありません」
「そうですね。レイナードさんは相当な達人でした」
「そんな彼を殺さずに行動不能に追い込み、魅了魔法を解除するのは至難だったはず。今回の功績は間違いなくお二人のものですよ」
目を細めてロイドさんはフレメアさんに同調する。
そこまで言われたら私も頑張ったような気がするわ。
今までのことがあったから卑屈になっていたのかもしれない。聖女になったときは努力が実を結んだ喜びを噛みしめる間もなく追放されたし。
でも、ようやく……私は自分のことを褒められそう。私、頑張ったんだよね? 誇っていいんだよね……。
「これもまた、後日になりますがお二人が勲章を授与する日には、パーティーを開きますのでそのつもりで。精一杯、お洒落してくださいよ。晴れ舞台なんですから。いやー、めでたい!」
「何だか、ロイドさんの方が喜んでいるような気がしますね」
「そりゃあ、新人である君が手柄を立てたんです。心配もしていましたし、嬉しいですよ。僕ァそういう親心のある上司ですから~」
そんなに私のこと心配してくれていたんだ。何だか、申し訳ないような、嬉しいような……。
最初の印象は掴みどころのない、冷たそうな人って感じだったけど、全然違うみたい。
ロイドさんは情のある優しい人だった……。
「ロイド、次回のギルド長選挙で有利になる実績が作れて良かったって考えているの?」
「そうそう、これであの口うるさいギルド長を引きずり下ろすことが……! って、何を言わせるんですか~。ルシリアさんが聞いているじゃありませんか!」
あー、そういうこと。
別に良いんだけど。ロイドさんって、出世欲が強いんだ。
見たところ、二十代後半って感じだし、それで宮廷ギルド内の管理職についているんだから十分に出世していると思うんだけど。
こうして、私は宮廷ギルドに来て最初の仕事で勲章を授与される働きをした、という快挙を成し遂げた。
これは私の人生にとって、大きな成功体験だった――。
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