【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝

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傲慢な聖女(エキドナ視点)

 まったく、オーウェン殿下には困ったものですわ。
 まるで、わたくしが嘘をついてお姉様を追い出したみたいな言いがかりを。
 そりゃあ、お姉様が新たな聖女に内定したという話を聞いて、調子に乗られる前に濡れ衣を着せてやろうとしたのは本当です。
 あの“神託の杖”、前からデザインが気に入らなかったので、新しいものと交換して欲しかったですし……。

 聖女を辞めるかと思ったんですけど、まさか追放されるのを選ぶなんて、お姉様はバカですわ。あの愚鈍なお姉様が外で暮らすなんて三日も保ちませんの。

「とにかく、全部お姉様が悪いのです。これ以上、詮索しないでくださいまし」

「不快にさせて悪かったと思っています。すみません」

 オーウェン殿下のあの言い草、気に食わないったらありませんの。
 結局、わたくしの言うことを信じるとは言ってくれませんでしたし。
 あんな本ばかり読んでいるような詰まらない男。王子でなければ、こっちから願い下げですのに。
 ああ、腹立たしいですわ。嫌になりますの。

「あ、あのう。聖女様、そろそろ結界の方を。魔物の大群がこちらに向かってきていますゆえ」

「あら、あれくらいの魔物も処理出来ませんの? 仕方ありませんわね」

 この黒髪の護衛の女性。新人さんかしら。わたくしを急かすなんて無礼ですわ。
 最近、呼び出しが多くてイライラしますの。わたくし以外が皆、小さな力しか持たないから仕方ないんですけど。
 そう、この国で唯一の聖女であるこのわたくしに頼るしか手がないのですから。許して差し上げませんと。

極大魔炎砲ヘルフレイム……!」

「な、なんて大きさの魔法陣!? こ、こんなのところで大規模な炎魔法を放ったら――」

 魔物も、人も、全部わたくしからすると虫けらみたいな存在ですわ。
 まったく、こんな虫退治にわたくしを駆出すなんて……。

「あ、あのう。エキドナ様、結界の方は……。それに力任せに森を焼き払うのは如何なものかと……」

「ちっ……、分かっていますわよ。あなた、さっきから、クドいですわ」

「す、すみません」

 結界を張る前にゴミ掃除しただけじゃないですか。
 森を焼かなきゃ、魔物が焼けないんだから仕方ないでしょう。魔物だけ燃やすなんて器用なこと、出来るわけありませんわ。

光の結界ゴールドヴェール

 ったく、結界くらい五分もあればすぐに張れますの。
 わたくしよりも早く結界を作れる者などいないのに。どうして、この人はわたくしを愚鈍な落ちこぼれのお姉様の如く扱うのか理解できませんわ。

「わ、わわ、エキドナ様! あれ、ドラゴンじゃないですか!? 早く、結界を!」

「そんなに早く張れるわけないじゃないですか。ったく、もう。イライラしますわね」

 せっかく張りかけた結界をキャンセルして、わたくしは迫りくるドラゴンの腹に狙いを定めて、魔法陣を作る。
 魔物の量が異常に増えているとは聞いていましたが、こんなにも増えているなんて……。

大地の槍グランドスピア!」

 魔法陣から地面を隆起させて、巨大な槍を生み出して、それをドラゴンに放つ。
 たかが、ドラゴン。私の敵ではありません。せっかくの作業が中断したのはイラッとしますが。

「はぁ、面倒くさい。何か気分が乗りませんねぇ」

「そんなこと仰せにならずに、結界をお願いします」

「あなた、今日でクビで。結界は張って差し上げますから」

「そ、そんな。私の人事権は、王室が――」

「お黙りなさい。わたくしはオーウェン殿下の婚約者ですのよ。人事権など知ったことではありませんわ」

 ムカつく、この護衛の女はクビ確定として。まー、聖女ですから結界を張る作業を再開くらいはしましょうか。
 さて、もう一度、“光の結界ゴールドヴェール”を――。

「ま、またドラゴンです! 今度は二体!」

「えっ?」
「「グルルルルルルルルル!」」

 さっきからうざったいですわ。
 また、結界をキャンセルして――。って、間に合わないではありませんか……!
 ど、どうしましょう。こんなくだらないミスでこの天才であるわたくしが――。

双氷燕ダブルスワロ……!」

 黒髪の女はわたくしに襲いかかってきた二体のドラゴンの心臓部に二体の氷の燕を撃ち込んで、動きを停止させました。
 あ、あれは多重魔法マルチプレイ? 力のない魔術師たちが何とか威力を上げるために考えたという高等技術でしたっけ? 
 
「弱い術でも魔力を収束させれば竜をも穿つ。多重魔法マルチプレイを覚えておけば、あなたもいちいちキャンセルしなくとも魔法で迎撃出来たというのに、その体たらくか」

 わ、わ、わたくしのやり方にケチをつけるのですか!?
 な、な、何という屈辱。何という生意気さ……!
 多重魔法マルチプレイなんて弱い人が使う負け犬の技術ですの。元々、強いわたくしには必要ありませんわ。

「あなた、何者ですか? このわたくしに偉そうに意見を述べるなんて……!」

「これは失礼した。ボクは隣国、エルガイア王国からこちらの国のオーウェン殿下たっての願いで派遣された君の護衛だよ。まぁ、ボクを雇うためにエルガイアに多額の金と資源が送られたのだが、それは君には関係ないか」

 オーウェン殿下の願いによって派遣された護衛? 多額の金と資源と引き換えにわたくしの護衛をわざわざ新しく雇ったと言いますの?
 確かに、さっきは助けられましたが……。それはわたくしの力に対して失礼過ぎやしませんか?
 
「アーメルツの聖女は神童と呼ばれた天才だと聞いていたが、その才覚に溺れて実にお粗末さが目立つ。それで本当に国が守れるのかな?」

「わ、わたくしに向かってそんな口を利くなんて! あなた、生意気にもほどがありますわ……!」

「礼には及ばないよ。先輩としてアドバイスしただけだから。君よりも一年ばかり長く聖女をやっているからね」

 黒髪の女がポケットから取り出して、胸元に付けたのは聖女の証。魔石が埋め込まれて、教会の刻印が刻まれたブローチです。
 こ、この人、まさかエルガイア王国の聖女。あっちの聖女は三人いると聞きましたが、その中でも黒い髪の聖女は――。

「エルガイアの黒髪の聖女――アナスタシア・オルティミス。あ、あの“最強の聖女”と呼ばれている……」

「ボクの名前は知っていたか。お高く止まっていたから、平民出身の聖女の名前など知らないかと思っていたけど」

 知らぬはずがないではありませんか。
 この女のせいで、わたくしがどんなに活躍しても、天才や神童の二つ名の次に、アーメルツのアナスタシアとか、アナスタシアの再来とか、要らぬ名前が付いてくるのですから。
 十二歳で聖女になったわたくしの方が凄いのに。この人は先に生まれて、先に聖女になったというだけで、最強とか呼ばれていて、会ったことはなくとも大嫌いでした。

「なんであなたのような方がアーメルツに? あなたの守るべき国はエルガイアではありませんの?」
 
「もちろん、そうなんだけど。エルガイアには宮廷ギルドもあるからね。人手不足の深刻さはこの国ほどじゃないんだ。国王陛下も資源が豊富なアーメルツからの支援の方が欲しいと仰った。だから、ボクがしばらく君の助っ人になる方向に話が動いたのさ」

 い、意味が分かりませんの。わたくしだってきちんと仕事をこなしていたというのに。
 これでは、わたくしの、聖女としてのプライドが……。

「ああ、あと。ボクが助っ人になる一番の理由。それは、もうじき君が聖女じゃあいられなくなるかららしいよ。詳しくは知らないけど……」

「――っ!?」

 わ、わたくしが聖女ではいられない?
 そ、そ、そんなことって……。こ、これは、どういうことですの? 
 ま、まさか、オーウェン殿下が何かしたという……。
 く、屈辱ですわ。こんなのって、あり得ませんの……!
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