20 / 27
瘴気
「ミュー、ミュ、ミュウ!」
不機嫌そうなマルルの声に私は起こされる。
そういえば、最近は特務隊の仕事ばかりで殆ど構ってあげられなかったわね。
「おいで、マルル」
「ミュー!」
「あら?」
近付いてきたマルルの頭の双葉から蕾が顔を出していた。
これって、成長したってこと? ていうか、重い。
見た目は大して変わっていないのに、膝の上に乗った感覚が想定の二倍くらいに感じる。
「精霊族ってことしか分からないのよね。あなたは一体、何者なの?」
「ミュ~?」
全身を傾けて、首を傾げるような仕草をするマルル。
言葉、通じているのかしら? イマイチ、よくわからないわ。
まぁいいか。今度、休みが取れたらいっぱい遊んであげよう。
ようやく一人で仕度をすることになれた私は手早く鬱陶しい寝癖を直して準備を始める。
今日からの仕事はなかなか大がかりなものとなるらしい。
ロイドさんは成功させれば先日頂いた勲章以上の褒美が貰えるとか言っていたけど……。
どんな依頼が来たのやら。単純に不安だわ。
そんなことを考えながら私は特務隊の執務室へと向かった……。
「やぁ、ルシリアさん。今日もきっちり時間どおり感心ですねぇ」
「は、はい。今日はヴォルニットさんとフレメアさんも同じ依頼なんですか?」
「うっす。ルシリアさん、よろしくっす」
「まだあたしたちも詳しいこと聞いてない……」
指定した時間どおりに執務室に入ると、既にヴォルニットさんとフレメアさんが室内にいた。
フレメアさんとは何度か同じ依頼を受けて仕事したが、ヴォルニットさんは基本的に護衛を受け持っていると聞いていたので、一緒に業務にあたるのは初めてね。
二人とも詳しい話は聞いていないみたいだけど、何なのだろう? やっぱり王族の護衛関連とかかしら。
「では、皆さんがお揃いになったところで、本日の依頼をお話しましょう。皆さんは“瘴気”というものについてご存知でしょうか?」
「瘴気、ですか? 瘴気というのは、そのう。魔物の核を形成する因子と言われている、魔界の空気でしたっけ?」
「さすがはルシリアさん。聖女だけあって、よく勉強されていますねぇ」
この世界は二つの別世界と繋がっていると言われている。
一つは天界と呼ばれる神や天使の居住域。そして、もう一つが魔界。悪魔や魔物の居住域だ。
魔物が地上に出てくるのは、その魔物を創り出す瘴気というものが魔界から地上へと漏れているからだと言われている。
魔界から地上に繋がる小さな穴が無数にあり、そこから瘴気が僅かに放出されていて、魔物が発生するのだと。
こんなことは常識というか、何というか、この世の摂理に関することだから当然知っているわよ。
「それで、今回の依頼というのは瘴気が何か関連するのですか?」
「とっても関係あります。昨今の魔物の大量発生の要因がその瘴気量の増加なのですが、それが大地震によってある場所の瘴気孔が広がったことに由来するものだという研究結果が得られたのです」
瘴気の量が増えれば、それに比例して魔物が増える。
だから去年から魔物の量が格段に増えたのは瘴気が増えたからなのは間違いないと言われていたけど。
まさか、その増えている場所が特定出来るとはね。それは大きな研究結果だわ。
原因さえ分かれば、それを止めることが出来るのだから。
「ということは、今回の依頼というのは……」
「その瘴気っていうのを減らすってことっすね」
「でも、どうやって……」
その前置きなら、そうとしか考えられないわよね。
でも、フレメアさんの言うとおりどうやってそんなことを可能とするんだろう? まぁ、方法があるから呼び出されたんだろうけど。
「方法は宮廷ギルドの魔道具開発チームが考えてくれました。瘴気孔に蓋をする為の魔道具を開発したのです」
すごいわ。そんなの作ったんだ。
エルガイア王国の叡智の結晶。王宮に認められた知識人が多く在籍するという宮廷ギルド所属の研究チームの一つ、魔道具開発チームは画期的な発明をしたと聞いて私は素直に驚いた。
「じゃ、じゃあ、もう魔物が出てこない世の中になるってことっすか?」
「いえいえ、世界中に無数にある瘴気孔を塞ぐのは無理です。ただ、今回塞ぐのは普通の瘴気孔よりも数段大きなサイズですから。それを一つ塞ぐだけで世界中の魔物の出現率を大きく減らすことは可能でしょうね」
そっか。そうよね。
そんな都合のいい話はないってことか。
世界中の山や森、海や草原など目に見えないくらいの小さな穴があってそこから瘴気が漏れて魔物が住まうようになっているんだもん。
簡単にそれは止められないわよね。
人や動物が多く住んでいるところは核が出来上がる前に、知らない間に潰されたりして魔物が生まれることは稀みたいだけど……。
まぁ、最近は瘴気が増えすぎてそれも怪しくなっているから、減らせるだけでもかなり違うことは間違いないわ。
それにしても、世界中に影響するサイズって、かなりの大きさよね。
「数段大きなサイズってどのくらい?」
「平均の十兆四千億倍です」
「「「――っ!?」」」
大きな数字すぎてちょっと理解が出来ないわ。
そもそも、生きていて兆って単位を使ったことがないわよ。
国家予算でも億単位で済む話だし。
「隊長~、その何兆倍とかよくわかんないっすけど、ヤバいところそうっすね。その大穴あいているところ」
「ええ、とってもヤバいところです。だから、我々特務隊が護衛をするんですよ。魔道具開発チームが無事に穴を塞げるように」
ようやく話が繋がった。
そういうことか。なるほど。
瘴気が何兆倍とか溢れ出てくるポイントに魔物が少ないはずがない。
だから無事に魔道具を使うにしても護衛が必須というわけか。
「ロイドさん、今、我々と仰せになりましたか?」
「ええ、今回の指揮は僕が執りますよ~。僕ァ安全な場所でこんなに大きな仕事を皆さんに丸投げするほど、無責任じゃあありませんから」
「ギルド長選挙の票稼ぎね」
「間違いないっすね」
責任ある行動を示そうとするロイドさんに対して、フレメアさんもヴォルニットさんも冷ややかじゃない。
でも、この依頼を達成出来たら、魔物に苦しめられている世界中の人たちを助けられるわ。
私たちは巨大瘴気孔を塞ぐという大仕事に協力することとなった。
不機嫌そうなマルルの声に私は起こされる。
そういえば、最近は特務隊の仕事ばかりで殆ど構ってあげられなかったわね。
「おいで、マルル」
「ミュー!」
「あら?」
近付いてきたマルルの頭の双葉から蕾が顔を出していた。
これって、成長したってこと? ていうか、重い。
見た目は大して変わっていないのに、膝の上に乗った感覚が想定の二倍くらいに感じる。
「精霊族ってことしか分からないのよね。あなたは一体、何者なの?」
「ミュ~?」
全身を傾けて、首を傾げるような仕草をするマルル。
言葉、通じているのかしら? イマイチ、よくわからないわ。
まぁいいか。今度、休みが取れたらいっぱい遊んであげよう。
ようやく一人で仕度をすることになれた私は手早く鬱陶しい寝癖を直して準備を始める。
今日からの仕事はなかなか大がかりなものとなるらしい。
ロイドさんは成功させれば先日頂いた勲章以上の褒美が貰えるとか言っていたけど……。
どんな依頼が来たのやら。単純に不安だわ。
そんなことを考えながら私は特務隊の執務室へと向かった……。
「やぁ、ルシリアさん。今日もきっちり時間どおり感心ですねぇ」
「は、はい。今日はヴォルニットさんとフレメアさんも同じ依頼なんですか?」
「うっす。ルシリアさん、よろしくっす」
「まだあたしたちも詳しいこと聞いてない……」
指定した時間どおりに執務室に入ると、既にヴォルニットさんとフレメアさんが室内にいた。
フレメアさんとは何度か同じ依頼を受けて仕事したが、ヴォルニットさんは基本的に護衛を受け持っていると聞いていたので、一緒に業務にあたるのは初めてね。
二人とも詳しい話は聞いていないみたいだけど、何なのだろう? やっぱり王族の護衛関連とかかしら。
「では、皆さんがお揃いになったところで、本日の依頼をお話しましょう。皆さんは“瘴気”というものについてご存知でしょうか?」
「瘴気、ですか? 瘴気というのは、そのう。魔物の核を形成する因子と言われている、魔界の空気でしたっけ?」
「さすがはルシリアさん。聖女だけあって、よく勉強されていますねぇ」
この世界は二つの別世界と繋がっていると言われている。
一つは天界と呼ばれる神や天使の居住域。そして、もう一つが魔界。悪魔や魔物の居住域だ。
魔物が地上に出てくるのは、その魔物を創り出す瘴気というものが魔界から地上へと漏れているからだと言われている。
魔界から地上に繋がる小さな穴が無数にあり、そこから瘴気が僅かに放出されていて、魔物が発生するのだと。
こんなことは常識というか、何というか、この世の摂理に関することだから当然知っているわよ。
「それで、今回の依頼というのは瘴気が何か関連するのですか?」
「とっても関係あります。昨今の魔物の大量発生の要因がその瘴気量の増加なのですが、それが大地震によってある場所の瘴気孔が広がったことに由来するものだという研究結果が得られたのです」
瘴気の量が増えれば、それに比例して魔物が増える。
だから去年から魔物の量が格段に増えたのは瘴気が増えたからなのは間違いないと言われていたけど。
まさか、その増えている場所が特定出来るとはね。それは大きな研究結果だわ。
原因さえ分かれば、それを止めることが出来るのだから。
「ということは、今回の依頼というのは……」
「その瘴気っていうのを減らすってことっすね」
「でも、どうやって……」
その前置きなら、そうとしか考えられないわよね。
でも、フレメアさんの言うとおりどうやってそんなことを可能とするんだろう? まぁ、方法があるから呼び出されたんだろうけど。
「方法は宮廷ギルドの魔道具開発チームが考えてくれました。瘴気孔に蓋をする為の魔道具を開発したのです」
すごいわ。そんなの作ったんだ。
エルガイア王国の叡智の結晶。王宮に認められた知識人が多く在籍するという宮廷ギルド所属の研究チームの一つ、魔道具開発チームは画期的な発明をしたと聞いて私は素直に驚いた。
「じゃ、じゃあ、もう魔物が出てこない世の中になるってことっすか?」
「いえいえ、世界中に無数にある瘴気孔を塞ぐのは無理です。ただ、今回塞ぐのは普通の瘴気孔よりも数段大きなサイズですから。それを一つ塞ぐだけで世界中の魔物の出現率を大きく減らすことは可能でしょうね」
そっか。そうよね。
そんな都合のいい話はないってことか。
世界中の山や森、海や草原など目に見えないくらいの小さな穴があってそこから瘴気が漏れて魔物が住まうようになっているんだもん。
簡単にそれは止められないわよね。
人や動物が多く住んでいるところは核が出来上がる前に、知らない間に潰されたりして魔物が生まれることは稀みたいだけど……。
まぁ、最近は瘴気が増えすぎてそれも怪しくなっているから、減らせるだけでもかなり違うことは間違いないわ。
それにしても、世界中に影響するサイズって、かなりの大きさよね。
「数段大きなサイズってどのくらい?」
「平均の十兆四千億倍です」
「「「――っ!?」」」
大きな数字すぎてちょっと理解が出来ないわ。
そもそも、生きていて兆って単位を使ったことがないわよ。
国家予算でも億単位で済む話だし。
「隊長~、その何兆倍とかよくわかんないっすけど、ヤバいところそうっすね。その大穴あいているところ」
「ええ、とってもヤバいところです。だから、我々特務隊が護衛をするんですよ。魔道具開発チームが無事に穴を塞げるように」
ようやく話が繋がった。
そういうことか。なるほど。
瘴気が何兆倍とか溢れ出てくるポイントに魔物が少ないはずがない。
だから無事に魔道具を使うにしても護衛が必須というわけか。
「ロイドさん、今、我々と仰せになりましたか?」
「ええ、今回の指揮は僕が執りますよ~。僕ァ安全な場所でこんなに大きな仕事を皆さんに丸投げするほど、無責任じゃあありませんから」
「ギルド長選挙の票稼ぎね」
「間違いないっすね」
責任ある行動を示そうとするロイドさんに対して、フレメアさんもヴォルニットさんも冷ややかじゃない。
でも、この依頼を達成出来たら、魔物に苦しめられている世界中の人たちを助けられるわ。
私たちは巨大瘴気孔を塞ぐという大仕事に協力することとなった。
あなたにおすすめの小説
姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。