【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝

文字の大きさ
25 / 27

すべてを失った聖女(エキドナ視点)

しおりを挟む
 えっ? えっ? えっ? ええっと、わたくし、そのう。今、どうするのが正解ですの?

「エキドナさん、どうかいたしましたか? 随分と顔色がよろしくないみたいですが」

「お、オーウェン殿下! 酷いですわ! あんまりです! まるでわたくしが嘘をついているみたいな言い草ではありませんか! ぐすん……! わたくしは、わたくしは、聖女として、この国のためにどれだけ……!」

 涙を流しながらわたくしは訴えました。
 だってそうでしょう? ちょっとした悪ふざけでお姉様を追放したのに、それだけでわたくしが罪に問われるなんて!
 それじゃ、わたくしが馬鹿じゃありませんか!

「エキドナさん、はっきりと申し上げるのは酷ですが……。私はあなたが“神託の杖”を壊したと思っています。嘘をついているとも、ね」

「そ、そんな! 婚約者ですのよ! わたくしはオーウェン殿下の婚約者ですの! そうですわ! オーウェン殿下、その証人が嘘をついているのです!」

 そ、そうですよ! そう、そう、そう!
 わたくしはオーウェン殿下に何か吹き込んだクソったれの証人とやらは嘘つきってことにすればいいですの!
 聖女であるわたくしと、どこの馬の骨とも分からない証人。
 どっちが信憑性があるのか、どうか、はっきりしているでしょう!

「おやおや、証人が嘘をついているとは盲点でした。私も心を痛めていますよ。エキドナさん、君のことは婚約者として敬愛していましたから」

 敬愛していた? わざとらしく肩をすくめながら、そんな嘘っぽいこと言わないでもらえません?
 あなたは優しいだけが取り柄のボンクラ王子でしょう。
 そのくせ、わたくしのことを見下していたじゃないですか! 王族だからって、わたくしを下に見て!
 
 で、す、が、「盲点」と言いましたね。わたくしは聞き逃しませんでしたよ。

 その証人を嘘つきにしてしまえばわたくしの勝ちじゃないですか! どうせ、口だけの証拠なんですから……!

「オーウェン殿下! その証人を捕らえてくださいまし! その者はわたくしを非情な罠に嵌めようとしていますの! わたくしはお姉様が裏庭で杖を壊したシーンをばっちり見ていましたから!」

 ああ、見知らぬ証人さんごめんなさい。
 ですが、わたくしを貶める証人なんて存在価値はありませんの。
 ほんの少し、いえ本当はこれっぽっちも悪いとは思っていませんが、証人さんには犠牲になってもらいましょう。

「なるほど、苦しいですがその可能性もありますね」

 よっしゃーーーーっですわ!
 乗り切った! 逃げ切った! 何とか押し切った! ですの!
 このわたくしの罪を問うなんておこがましいったらありゃしないのです。
 罪人なんて、鈍臭くて、才能もない落ちこぼれお姉様がぴったりじゃないですか。

 まったく、オーウェン殿下もこれに懲りたらもう二度とこのわたくしを――。

「“神託の杖”の破片が見つかったんですよ。北の山で」

「ぴえっ!?」

「アネッサさん、例のものを持ってきてください」

「かしこまりました。殿下」

 ちょっと待ってください。
 アネッサがなんで、動いているんですか? 下流貴族の我が家の使いパシリのくせに。
 な、な、何よ、あれ。まさか、わたくしが粉々にした“神託の杖”の一部を見つけたとでも言うのですか?
 だって、山の中ですよ。山の中で壊したんですよ。あんなに広い山でどうしてあんなに小さな破片を……!

「こちらの破片はエキドナ様が発見されたとされる“神託の杖”の残骸にぴったりと当てはまります。そして、こちらはオーウェン殿下の仰ったように北の山の奥地で見つかりました」

「と、いうわけです。エキドナさん。……以上のことから私は“神託の杖”が壊された場所はローエルシュタイン邸の裏庭ではなく、北の山だと断定しました」

「うぐっ……」

 き、北の山で“神託の杖”が壊されたと断定した、ですって。
 そ、そ、それがどうしたっていうのですか。
 わたくしが、わたくしが、それで壊したって証拠にはならないじゃないですか……。
 アネッサ、あんたは何でオーウェン殿下の手先を……! あの、裏切り者……!

「エキドナさん、あなたが裏庭で“神託の杖”が壊されたと証言されていますが、それは真っ赤な嘘です。そして、それが嘘だとするとあなたがあの時間帯に裏庭にいたということも嘘になる。そして、あなたは“北の山”で壊されたはずの“神託の杖”の残骸を持っていた」

「お、オーウェン殿下、ですから。わたくしは……」

「もうこの辺でよろしいでしょう? そろそろお認めになってください。エキドナさん、あなたが姉であるルシリアさんに濡れ衣を着せたこと。そして、あなたこそが“神託の杖”を破壊した真犯人だということを……!」

 ど、ど、どうしてこうなってしまいましたの?
 どこで、間違ってしまったというのですか。
 だって、おかしいじゃありませんか。いつもみたいに調子に乗っているお姉様を困らせてやろうとしただけですのに。
 
 わたくしが、わたくしが、こんな目に遭うなんて、どう考えても間違っていますわ。

「オーウェン殿下、もう満足しましたでしょう? 真相とかどうでもいいではありませんか。わたくしは全てを許します。殿下の無礼な態度も飲み込んでこの国の安寧のために力を尽くしますから」

 そうですわ。わたくしこそ、真の聖女。
 この国はわたくしの天才的な才覚によって守られているのです。
 結界を張って、たくさんの魔物を殺して、癒やしの魔法で多くの人を救って。貢献し続けてきたのです。
 
 わたくしのような大きな国益を生み出す人間を裁くなんて、王族としてあるまじき行為ですわ。
 そう、多少のヤンチャくらい許されて然るべきじゃないですか。

「エキドナさん。あなたがこの国のために尽くしてくれたのは事実です。私はそれに関しては敬意を持っています」

「そ、そうですよね。でしたら、わたくしを……!」

「ですが、だからといって、いやだからこそ。私はあなたの犯した罪を許すわけにはいきません。国家に貢献した者が好き勝手を許すとなれば必ず国家の基盤が腐敗します。王族としてそれを看過するわけにはいかないのです」

 この頭でっかちのウスラトンカチ!
 正論を振りかざして何が面白いんですか!
 王族としてって、王族なんか生まれが良いだけの無能集団ではありませんか!

「エキドナさん、あなたほどの方がなぜ姉君を嵌めようとなどしたのです? そんなことしなくてもあなたは――」

「……ちっ、どうやっても許されないと仰るのですね?」

「私の性格、ご存じでしょう? こんなことをした理由、聞かせてもらってもよろしいですか?」

「はぁ……、ルシリアお姉様を嵌めた理由? そんなの分かりませんわ。なんとなく虐めたくなりましたの。ルシリアお姉様だけですから。わたくしが思い通りに出来なかったのは。何を言っても、実力の差を見せつけても、諦めないあの瞳が大嫌いでした……!」

 気に入らなかった。
 あの瞳がわたくしにとっては目障りだった。
 無駄な努力はやめろと何度も、何度も言いましたのに、あの女は最後にはわたくしと同格の聖女にまでなりやがったのです。
 
 認められるはずありませんわ。忌々しい。

「あなたの傲慢さが勝手に敵を作っていたのですね。その短慮さだけは同情します。たっぷり反省してもらいますよ。牢獄の中で……!」

「くっ、うぐぐぐぐぐ……!」

 なぜ、この世はわたくしの思い通りにいきませんの!?
 ぐぐぐぐぐっ! ああああ! どうして、わたくしが! うううううう、ううっ……!
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』  王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――

私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?

木山楽斗
恋愛
平民であるため、類稀なる魔法の才を持つアルエリアは聖女になれなかった。 しかしその実力は多くの者達に伝わっており、聖女の部下となってからも一目置かれていた。 その事実は、聖女に選ばれた伯爵令嬢エムリーナにとって気に入らないものだった。 彼女は、アルエリアを排除する計画を立てた。王都を守る結界をアルエリアが崩壊させるように仕向けたのだ。 だが、エムリーナは理解していなかった。 部下であるアルエリアの失敗の責任を取るのは、自分自身であるということを。 ある時、アルエリアはエムリーナにそれを指摘した。 それに彼女は、ただただ狼狽えるのだった。 さらにエムリーナの計画は、第二王子ゼルフォンに見抜かれていた。 こうして彼女の歪んだ計画は、打ち砕かれたのである。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

処理中です...