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かわいい絨毯
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朝、目覚ましが鳴るより先に、足裏がくすぐったくて目が覚めた。
こういう目覚め方は、だいたいろくな理由がない。
布団から片足を出した瞬間、居間の絨毯が、もぞ、と盛り上がった。毛足が指に絡み、まるで遊び相手を見つけた子どものようにじゃれてくる。
私は一度だけ息を吐いた。深くも浅くもない、どうでもいい溜め息だ。
「朝から元気だな」
そう言って、それ以上は何も言わない。言葉を増やすと、面倒が増える。
洗面所へ向かうと、絨毯は当然のように追ってくる。ずるずると、音もなく。かかとを軽く噛む。噛む、というより圧だ。存在を主張する、控えめな圧。
歯を磨き、水を止め、口を拭く。踏まれたがっているので踏む。沈み、戻る。反応はいつも同じだ。習慣というのは、だいたい信用できる。
朝食の支度をしていると、冷蔵庫の前でしゃがんだ膝の下に、いつの間にか敷き込まれている。滑らないから正直、助かる。
フライパンを振ると、足元で毛が波打つ。跳ねた油が落ちないように、絨毯が身体を寄せてくる。私は火を弱め、換気扇を回す。合理的な判断だ。
出勤前、靴を履く。
玄関までは来ないでほしいが、来る。
靴紐を引っ張られる前に、軽く踏み、撫でる。静かになる。鍵をかける間、背中に触れないでほしいが、まあ、別に困らない。
帰宅すると、部屋の中央で待っている。待ち方が妙に堂々としている。
掃除機を出すと逃げてった。
コードに絡まないよう、声を低くして「そこ」と言うと従う。
吸い口を近づけると、またじゃれる。私は回避し、角から先にかける。世界はだいたい、角から崩れる。
夜、床でストレッチをする。背中に敷かれる。
体重を預ける。テレビの音が遠くなる。時間が溶ける。こういう時間の使われ方は、嫌いじゃないな。
眠くなって布団に入ると足元で絨毯が丸くなる。暖かい。
明日の天気を確認し、アラームを設定。灯りを消す。
暗くなっても、床は静かに動いている。
朝、今度はスリッパがじゃれついた。
汚いからやめて欲しい。
こういう目覚め方は、だいたいろくな理由がない。
布団から片足を出した瞬間、居間の絨毯が、もぞ、と盛り上がった。毛足が指に絡み、まるで遊び相手を見つけた子どものようにじゃれてくる。
私は一度だけ息を吐いた。深くも浅くもない、どうでもいい溜め息だ。
「朝から元気だな」
そう言って、それ以上は何も言わない。言葉を増やすと、面倒が増える。
洗面所へ向かうと、絨毯は当然のように追ってくる。ずるずると、音もなく。かかとを軽く噛む。噛む、というより圧だ。存在を主張する、控えめな圧。
歯を磨き、水を止め、口を拭く。踏まれたがっているので踏む。沈み、戻る。反応はいつも同じだ。習慣というのは、だいたい信用できる。
朝食の支度をしていると、冷蔵庫の前でしゃがんだ膝の下に、いつの間にか敷き込まれている。滑らないから正直、助かる。
フライパンを振ると、足元で毛が波打つ。跳ねた油が落ちないように、絨毯が身体を寄せてくる。私は火を弱め、換気扇を回す。合理的な判断だ。
出勤前、靴を履く。
玄関までは来ないでほしいが、来る。
靴紐を引っ張られる前に、軽く踏み、撫でる。静かになる。鍵をかける間、背中に触れないでほしいが、まあ、別に困らない。
帰宅すると、部屋の中央で待っている。待ち方が妙に堂々としている。
掃除機を出すと逃げてった。
コードに絡まないよう、声を低くして「そこ」と言うと従う。
吸い口を近づけると、またじゃれる。私は回避し、角から先にかける。世界はだいたい、角から崩れる。
夜、床でストレッチをする。背中に敷かれる。
体重を預ける。テレビの音が遠くなる。時間が溶ける。こういう時間の使われ方は、嫌いじゃないな。
眠くなって布団に入ると足元で絨毯が丸くなる。暖かい。
明日の天気を確認し、アラームを設定。灯りを消す。
暗くなっても、床は静かに動いている。
朝、今度はスリッパがじゃれついた。
汚いからやめて欲しい。
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