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便利な親指
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朝、目覚ましを止めようとして、親指が硬いことに気づいた。
皮膚の代わりに、白いプラスチックの軸がある。先端には金属の玉。ボールペンだった。
寝ぼけているのかと思い、もう一度目を閉じてから開いたが、変わらない。インクの匂いがわずかにする。私は布団の中で親指を転がし、カチ、と心の中で音を鳴らした。実際にカチッと鳴った。
「……書けるのか、これ」
一度だけそう呟いて、あとは普通に起きた。洗面所で歯を磨くとき、コップを持つのに少し角度を調整する必要があった。泡がついたので流水で洗った。インクは出なかった。タオルで拭くと、先端がきれいに光った。
朝食のメモを書いた。冷蔵庫に貼る買い物リストに、親指で「牛乳」と書いた。線は少し細かったが読める。仕事に遅れそうだったので、そのまま靴を履いた。改札でICカードを出すのに、親指が引っかかって少し手間取った。
職場では特に問題はなかった。書類にサインするとき、同僚にペンを借りずに済んだ。誰も気づかない。私も言わない。昼休みに親指のインクが減っている気がして、少し不安になったが、午後には戻っていた。
夜、風呂に入る前にキャップが欲しいと思ったが、どこにもなかった。
翌朝、目覚ましを止めようとして、また硬さを感じた。今度は細長い銀色で、先が斜めに光っている。カッターだった。刃は出ているが、血は出ない。私は慎重に角度を変え、洗面所へ行った。
ヒゲ剃りの代わりに、封筒を開けた。ゴミ袋の口を切った。切れ味はいい。朝食のパン袋もきれいに開いた。危ないので、使わないときは指を立てないようにした。
仕事では段ボールを開ける係になった。便利だと言われた。私は黙ってうなずいた。昼、指先に付いたテープの糊を、シンクで洗い流した。刃は鈍らない。
帰り道、手袋を買おうか迷ったが、いつものスーパーでいつもの牛乳を買った。家に帰り、冷蔵庫のメモに「手袋」と書き足した。字は少し震えた。
夜、布団に入る。親指は静かだ。明日も朝は来る。目覚ましは、まぁ止められるだろう。
皮膚の代わりに、白いプラスチックの軸がある。先端には金属の玉。ボールペンだった。
寝ぼけているのかと思い、もう一度目を閉じてから開いたが、変わらない。インクの匂いがわずかにする。私は布団の中で親指を転がし、カチ、と心の中で音を鳴らした。実際にカチッと鳴った。
「……書けるのか、これ」
一度だけそう呟いて、あとは普通に起きた。洗面所で歯を磨くとき、コップを持つのに少し角度を調整する必要があった。泡がついたので流水で洗った。インクは出なかった。タオルで拭くと、先端がきれいに光った。
朝食のメモを書いた。冷蔵庫に貼る買い物リストに、親指で「牛乳」と書いた。線は少し細かったが読める。仕事に遅れそうだったので、そのまま靴を履いた。改札でICカードを出すのに、親指が引っかかって少し手間取った。
職場では特に問題はなかった。書類にサインするとき、同僚にペンを借りずに済んだ。誰も気づかない。私も言わない。昼休みに親指のインクが減っている気がして、少し不安になったが、午後には戻っていた。
夜、風呂に入る前にキャップが欲しいと思ったが、どこにもなかった。
翌朝、目覚ましを止めようとして、また硬さを感じた。今度は細長い銀色で、先が斜めに光っている。カッターだった。刃は出ているが、血は出ない。私は慎重に角度を変え、洗面所へ行った。
ヒゲ剃りの代わりに、封筒を開けた。ゴミ袋の口を切った。切れ味はいい。朝食のパン袋もきれいに開いた。危ないので、使わないときは指を立てないようにした。
仕事では段ボールを開ける係になった。便利だと言われた。私は黙ってうなずいた。昼、指先に付いたテープの糊を、シンクで洗い流した。刃は鈍らない。
帰り道、手袋を買おうか迷ったが、いつものスーパーでいつもの牛乳を買った。家に帰り、冷蔵庫のメモに「手袋」と書き足した。字は少し震えた。
夜、布団に入る。親指は静かだ。明日も朝は来る。目覚ましは、まぁ止められるだろう。
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