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拝啓 深緑の魔女様
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『この森には入るな。残酷な魔女に喰われるぞ』
この村に伝わる言い伝えらしいが、定かじゃない。
むしろ見たことがない。
だから、ただの子供だましとか子供の教育のために作られた作り話だとか、信憑性が薄い。
だから、誰も森に近づかない。
何故か?それは森に入っても反対側には出ずに、必ず入ってきた場所に戻ってきてしまう。不思議な森だった。
気味が悪くて、誰も入らないのだ。
だが、同時にこんな噂もあった。
『森の緑を食べれば、どんな病も治る』
森に入り、採集してきた緑の葉は、森を出ると枯れてしまう。森の中では生き生きと咲いている花でさえも、森の外に出すと枯れてなくなる。
と、なると。
その場で食べなければならないわけだが…それがどうも難しいらしい。
これらを調査するために、派遣されたのが、俺。
いや、今は"僕"と言うべきか。
魔法で子供に変えられて背も縮んだ。どこからどう見ても10代くらいの子供。
無事調査を終えることは出きるのか…。
拝啓
深緑の魔女様へ
敬具
『この森には入るな。残酷な魔女に喰われるぞ』
この村に伝わる言い伝えらしいが、定かじゃない。
むしろ見たことがない。
だから、ただの子供だましとか子供の教育のために作られた作り話だとか、信憑性が薄い。
だから、誰も森に近づかない。
何故か?それは森に入っても反対側には出ずに、必ず入ってきた場所に戻ってきてしまう。不思議な森だった。
気味が悪くて、誰も入らないのだ。
だが、同時にこんな噂もあった。
『森の緑を食べれば、どんな病も治る』
森に入り、採集してきた緑の葉は、森を出ると枯れてしまう。森の中では生き生きと咲いている花でさえも、森の外に出すと枯れてなくなる。
と、なると。
その場で食べなければならないわけだが…それがどうも難しいらしい。
これらを調査するために、派遣されたのが、俺。
いや、今は"僕"と言うべきか。
魔法で子供に変えられて背も縮んだ。どこからどう見ても10代くらいの子供。
本当は24歳の178cmもある。国王直属の騎士団に所属しており、毎日厳しい訓練もこなす。
ある日団長から、王から知らせがきたと報告がされた。
「森に入り、調査してきてほしい」と王命が下されたと。
騎士団の中で結婚をしていないのは俺だけ…ということで俺の意思の有無もなく、決定された。
「団長!嫌であります!!」ビシッと敬礼しつつ、顔は苦虫を潰して食べたような顔をして、訴えた。小さすぎる反抗。届け俺の思い。
「その顔しても丁寧に言ってもだめだから。諦めろ」ニヤリと笑って、頭を撫でられる。
「・・・・・・」
届かなかった。
っつか、団長が行きなさいよ!
なんて言えなくて、当日が来てしまった。
友人の魔導士から軽く魔法について説明を受けた。
副作用や苦しむことはないらしい。ただ、魔法が解ける鍵があるようだ。それは、かけられた魔法によってそれぞれ違うらしく、言葉だったり、物だったり、人だったり、特殊なものから簡単なもの、日常的な仕草までも解ける鍵となる。
まぁ、完全に解けるには魔導士に頼むのが一番なんだが。
「だから、気をつけてね☆」とか言われても、無理だわ!
足の裏に魔方陣を書かれ、体が縮んでいく。
「しっかし・・幼少期のお前、可愛いな」
「うっせ」
「そう怒るな。任務が終われば解いてやるから」
「はぁ…」
平民の服に着替えて、村の少年になりすます。
「ますます可愛いな」
「やめろ、抱きつくな!ちょっ・・頭撫でるんじゃねぇ!」
俺に抱きつき愛でる友人を退けて、鞄を抱え直す。
鞄の中身は、短剣、地図、ペン、紙、式神数枚(連絡用)
食料(非常用干し肉)、着替え数枚、御守り、お金。
「じゃ、行ってくる!後は頼んだぜ」
「おう。必ず式神飛ばせよー!」
「はーい」
返事をして馬車に乗り、出発した。友人に見送られて。
「ぬああああああー!ここどこだよ」
絶賛森で迷子中…。はぁ、だから嫌だったんだよ。
迷って多分一時間くらいは経過してるはずだ。
この本の通りに歩いてるつもりだったんだけどなぁ…。
手に持っている本をもう一度見直した。一軒屋から見つけた日記帳だ。間違いないはずなんだけどな…どこで間違えたんだべ………。
遡ること一時間前。目的の村に到着。馬車を降りて村を通り抜けて、森に向かう。
森に近づくにつれて、人はおろか民家もない。
あるのは、一軒の廃墟と化したボロ家だけだ。
とりあえず入るが、やはり人の気配はない。
屋根にはすきま風が吹き付けて、壁も所々穴が空いている。
部屋の中は少し散らかってはいるが、もともと散らかる物が少ないのか、少し片せば住めなくもない。
二階建ての家のようだが、二階に上がる木の階段が腐っており、登れない状態。現に触ったら、全部崩れ落ちたしね。
でも、二階には何があるか気になるじゃないか。
ということで、登るために必要な木を探した。
長い木材を一本見つけた。しかも少し腐っている。
まぁ、登れなくもないかな?身体能力は高い方だ。まぁ、その辺はそれでカバーしてっと。
「木、足りるかな?」
木材を運ぶ。太く、長い角材。
「ふぅ」体が小さいといろいろ不敏だ。いつもの通りにとはいかないか…。
階段のあった場所に角材を立て掛ける。
「ギリギリか・・・」
ぐっと角材に軽くのし掛かってみる。
「登れなくもないかな?」
床に鞄を置いて、中から短剣を取り出した。
一応、念のために、ね。
角材の方に向き直り、まず深呼吸を一つ。
「すぅ~・・はぁー・・・ふっ」
よし!いける!
体に力をいれて体勢とる。角材に足を乗せて軽く息を吸い、素早く角材の上を走る。
とっとっとっ バキッ
「!」やばっ!
踏んだ足下が折れた。どうやら完全に腐っていたようだ。
咄嗟にボロボロの手すりに足をつく。
バキバキッ
「!!」ここもだめか!
「あと少し!」
下半分の角材はもう下に落ちてしまったが、辛うじて残っている手すりと手に持っている短剣と落ちる前に拾った残りの角材があれば、まだいける!
落ちる寸前に壁に角材を刺して体を揺らし、クルンと回って角材に足をついた。壁も脆いため長くはもたず、バキバキッと音を出して下に落ちていく。
「よっしょ!」
落ちる前に角材を蹴って跳び、右手に持った短剣を壁に刺し、体を少しでも前へ。
朽ちそうだが残っている手すりを足場にし、壁に短剣を刺しながら交互に登り、上へ上へと跳んだ。
トッ ゴシャッ ガラガラガラ ズシャァ
「ふぅ」
危なかったー。
間一髪で上の階の床に足がついた。
「降りるときは、落ちるときかな・・・」
下に落ちた木の残骸を見てため息をつく。こりゃあ、降りるのも苦労するな…。
「さてっと」
着いた場所をぐるりと見渡す。
ベッドに机に本棚。ざっと見て二畳半といったところか。
全部に埃がかかっており、机や本棚の上など全部が白くなっていた。
「けほっ・・・、何年使われてないんだ?ここ」
とりあえず環境が悪いため、窓を開けた。
ガタガタと建て付けの悪い窓をなんとか開けて、新しい空気を部屋に入れる。
澄んだ風と草木の緑のいい匂い。
「見張らしもいい。ここはいい場所だ」
くるりと向き直り、気になるところを探り始める。
まずは机の中から。
「おや?」
早速有力な物を発見した。日記帳だ。
「まだ読める」
パラパラとめくる毎に埃が舞う。
けほけほと咳き込みながら、外に向かって本を出し、パンパンと手で本を叩いて埃を落とした。
「これで読め・・・ない」後ろの数ページが開かない。
「これは魔法か?」
糊とかではないな。くっつき方が妙に変だ。
「解除方法はないのか」
どこかにメモ書き程度に書き記してあるとか。まぁ、マヌケな奴じゃない限り、そんなことしないだろうけど…。
とりあえずキョロキョロと周りを見渡す。
「ん?」
ふと目に入った。埃をかぶって白くなっている机の上の端に小さく何か書いてあるのが気になったのだ。
「なに・・・」
手で擦ると、文字が書いてあった。
「Dear dark green witch.(親愛なる深緑の魔女へ。)?」
パァン
「!!」
机に書かれている文字を読むと、日記帳が光だし、開かない数ページがパラパラとめくれるようになったのだ。
「ははは・・・マヌケがいたか」
数ページと思っていたページは、かなりの厚さがあった。
魔法で隠していたのか。やるな。
「えっーと・・・」
初めから読んでみることにした。
最初のページには、日記ではなく料理のレシピが書かれていた。俺も見たことがない料理のレシピだ。
「見たこともない食材もあるな」
何だこの、珍しい形の葉は。効能までも書いてある。
しばらく料理のレシピが記されたページが続いた。ざっと百はあったか?
「次は?」
パラッとめくると、今度こそ日記のようだ。
某月某日 晴れ
森の調査のために、今日からこの小屋に住む。
ここは、昼は静かで空気がよく、風も心地よい。夜は空気が澄んでいて、とても静かだ。だが、微かに風と共に聞こえる歌。あの噂は、本当なのだろうか。
「歌」
窓の方に耳をそばだてる。目を閉じて集中するが、風の音と鳥の鳴き声だけが聞こえる。
「特になしっと」
次をめくる。 パラ
某月某日 深夜
夜、寝ていると外で物音がして、目が覚めた。
窓を覗くと誰かいる。誰だろう…。
暗くてよく見えないが、一応様子を観察しているとどうやら花?を摘んでいるように見える。何をしているのだろう。
「花?」薬草か何かか?
考えても分からないため、次のページをめくる。 パラ
某月某日 夜
また人影。今度は森から出てきたのを見た。
今日は雲一つ無く、月が綺麗に出ている。
月明かりに照らされて見えた人は、不思議な人だった。
濃い緑色の髪に色白の肌、黒いマントを身に纏った小柄な女性。
もっと見たかったが、これ以上身を乗り出すと見つかりかねない。次もまた来てくれるだろうか。
「濃い緑の髪・・・やっぱり魔女はいるんだな」
次のページをめくりかけたとき、どこから抜け落ちたのか一枚の紙切れが落ちてきた。
「?なんだこれ?」
広げて見ると、森全体が模写されており、詳しく道がわかるように森の特徴や辿る線が書かれている。所々赤色でポツリポツリと点が着いている。目印なのだろう。
「やった!地図だ」
これを頼りに森に入れば、行けるのでは?
「思い立ったが吉日。日もまだ高い。行くか」
この行動が浅はかだったのだろう、明日にすれば良かったなと何度目かの後悔が頭を過る。
そして、現在に至る訳なのだが・・・・・。
「まずい、日が落ちてきた」
地図通りに歩き、赤色の点の目印は、木の幹にリボンが結んであり、多分それが目印だとわかった。途中までは迷わず行けたはずなのだが、木の幹のリボンが高い位置に有るため、上を見上げなから歩かないと行けない。そして、薄暗くて見えにくく、葉で隠れて探しにくいという難点。
同じところをぐるぐる回っていることだけはわかる。
何度も同じ色のリボンを見ているからだ。
「今日はここで野宿か・・・何も出ませんように」
丁度いい切り株を見つけて、そこで野宿することになった。
火を起こし、非常食を食べる。
「はぁ、疲れた。日記は明日また読もう・・・だめだ、眠い・・・」お腹を満たした後、急な眠りが俺を襲う。目を擦り、ローブを体にかけた。
何で、こんなに・・眠いんだ・・ろ・・・・ぅ・・・・・・─────意識が徐々に遠退いていった。
?声が聞こえる。誰だ?
クスクスと笑う声。驚いている声。
二人の男女の声が聞こえる。
「ねぇ、この人寝てるよ。クスクス、死にたいのかなぁ」
「だめだよ、魔女様に知らせなきゃ」
「少しくらい味見をしたってバレはしないよ。あんただってそう思うでしょう?」
「でもこの間失敗して魔女様に舌を切り落とされそうになったじゃないかぁ」
「もう大丈夫、ほとぼりも冷めた頃よ。今度はそんなヘマなんて、しない」
「やっぱり止めようよ」
「いいから!あたしは目ん玉をもらうわ。あんたは逃げられないように足首を食べなさい。いいわね」
「うん・・・・」
なんの相談・・・・
目を開けると、目の前には化け物が…!
「うわっ!なんだ!?」慌てて起き上がり、切り株に背中をぶつけてしまったがそれどころではない。目の前の花のような生物が気になって。
紫色の花びらの一部に目が一つついており、花の花粉の部分、真ん中には大きな口にギザギザの歯がいくつもついていた。それが二つゆらゆらと動いている。
「チッ!起きたのか!匂いが薄かったのか!?あぁー!!失敗した!失敗した!!魔女様に舌を切られる!」
「だから言ったのに」
「そうだ!起きたからってなんなの。その場で食べちゃえば、痕跡なんて残らないじゃない。キャハハ!あたしって頭いいわ!」
は!?食う?俺を!??
ザザザザザザと茎を伸ばして俺の方に近づいてきた。
「待て待て待て!」
「何よ!」
「君たちは、一体誰だい?」
伸びる茎がピタリと止まった。二つの花は顔を見合せるようにしばらく止まり、もう片方の花が声を出した。
「君も変なこと言うね。僕たちのこの姿を見ても“誰“なんて、そんなの言われたこと無いよ」
「大抵は、泣き叫ぶか、恐怖で声を失って気絶するかだもの」
「まぁ・・、そうなるね。で?君たちは誰だい?」
「あたし達は姉弟さ。名前は…忘れたわ」
「僕も、忘れた」
「そうか」
「もういいでしょ、あたし達のことなんて知っても意味ないもの。だって、あんたはここで死ぬんだから」
再びザザザザザザと茎が伸び始める。
まずい!時間稼ぎをするつもりが、間に合わない!
「ああ!もしかして、お腹空いているのかい?」
「「??」」
よし!動きが止まった、
「ほら、これ!この干し肉をやるよ。今料理してやるから、さ?ね?」
「干し肉…」
「干し肉……」
二つの花の口からよだれがボタボタと落ちている。
火をもう一度起こし、干し肉を軽く焼く。
香ばしい匂いが干し肉からし始めると、二つの花はその肉に吸い込まれるように少しずつ火の側に近づいてきた。
「!」
そのまま焼けて居なくなってくれればと思ったが、幻覚か何か分からないが、一瞬二つの花が人間の男の子と女の子の姿に見えたのだ。手を伸ばしている姿が見えたので、慌てて声をかけた。
「こら、危ないから下がって!火傷したらどうするんだ」
二つの花を軽く押し退けて、火から遠ざける。
「変なの」
「変なの」
顔を見合せて、感想を漏らした。
表情は見えないのに、声だけで不思議そうにしているということがわかる。
「えっと…あ、こんなもんかな。はい」
焼けた干し肉をふぅふぅと冷まし、二つの花の口に持っていった。
パクリと食べながら、二つの花は手もない状態で上手に肉を食べている。喋りながら。
「自ら食べさせてくれるなんて、変な人もいたものね」
「美味しいね、お姉ちゃん」
「・・・そうね」
幾つか干し肉を焼いて食べさせて焼いて食べさせてを繰り返し、お腹がいっぱいだと言わんばかりに茎の部分が大きく膨れ上がっていた。まるで蛇が何かを呑みこんだ腹のようにも見える。
「久々だわ、焼いたものを食べたのは。あんた、いい人ね」
「そりゃ、どうも」
「で?何でこんな森にいたんだい?」
「魔女に会いに来たんだけど、道が分からなくなってね」
「魔女様に?何でまた?」
「どうしても会いたくて?」
いい言い訳が見つからない。とりあえず誤魔化す。
「やっぱりあんた、変だわ(笑)」
ポンポンになったお腹を重そうに持ち上げながら、俺を一つしかない目が見据える。
「いいよ、教えてあげる。あんたのその後ろに有る切り株。何て言われてるか知ってる?」
「切り株?いや、知らない」
「それ、死者の切り株って言われてんの。あたし達はそこに繋がってるのよ」
「え・・・」
「何で繋がれてるのか忘れたけど、その切り株の生えてる根、よく見てみて。時計の文字盤のように生えてるの、わかる?」
「確かに、見事な根が十二本生えてる」
切り株を見てみると、丁度等間隔に丸く並んだ根が十二本あった。
「その根が指す十二時の方向に向かって真っ直ぐ進みなさい。その先にも何かあると思うけど、あたし達はここから動いたことがないから、分からないわ」
「道中、お気をつけて。肉、ありがとう」
「あぁ、お前達も元気でな。教えてくれてありがとう」
彼女達の花びらを軽く撫でるとくすぐったそうに手にすりと花びらを寄せた。
彼女達に手を振って分かれた後、言われた通りに真っ直ぐ歩いた。
あの花、なんだったか…どこかで見たことある。
確か…………。
確信が持てず、日記帳を開く。もしかして書いてあるかもしれないと思いながらページをめくると、花の絵が幾つか書いてあるのを見つけた。
“紫苑“
花言葉・・・「あなたを忘れない」「追憶」「遠くにいる人を思う」「思い出」など
そうだ、思い出した。あの紫の花は紫苑だ。
何で切り株に生えていたのだろうか。
あの子達は一体…。
そう考えながらしばらく歩く。
どこまでも青々と生い茂った木、木、木、木、木 …………。
そろそろなんか見えてきても良いんじゃない?
見え隠れする根を辿って、ようやと一本の木にたどり着いた。
「本当に繋がっている」
あの切り株から伸びていた幹がこの木とも繋がっている不思議。木の周りを一周してみた。
繋がった根に立派な幹、青々とした葉とくるくると細い蔦が幹に絡み付いて不思議な柄のように見える。
「なんだ、これは・・・・・」
その木の根も同じく時計盤のようには生えており、三時の方向に不思議な形を見つけた。
踞るように座った女性の姿のような形が幹と一体化していたのだ。
「死んでいるのか…?」
「あ、ら?ど、なた?」
「!?」急に声が聞こえ、驚いて周りを見回したが、出所が分からない。
「あ、な たど、な、た?」
「え…」にわかに信じがたいことが目の前で起きていた。
幹と一体化している踞るように座った女性の姿ような形が喋ったのだ。身体全体は動かないが、微かに口だけを動かして言葉を発している。
「こ、こんにちは」
「こ、んに、ち、は」
喋りにくいのだろう。途切れ途切れに言葉を紡いで話している。
「あの…大丈夫ですか」
「・・・・・・」
今の質問は、だめだったようだ。失礼だったかもしれない。
「すみません(汗) えっと…ここはどこでしょうか」
「こ、こ は。待 ち、焦 が 、れ の、 木」
「待ち焦がれの木?」
「そ、う」
「全部の木が、ですか?」
「そ、う」
周りを見ると生えている一本一本の木に何体か踞るような姿やしゃがんで真っ直ぐじっと見つめる姿、膝を抱えて膝に頬を預けてる姿など。まるで彫刻のように綺麗な形のまま、木の幹に寄りかかってそこにある。
「これ全部、人なのですか?」
「・・・・・・・」
人が木と一体化するなんて聞いたことがない。
この者達は木の栄養分となってしまったのか…。
「ずっ、と ……ま、って る。や、く 、そ くし、たの…。あ、の ひ と、は む か、え、に……………」
ふっ、と急に言葉が途切れた。
「・・・・・」死んだのか?
「…ゆ び、、きぃ、り げ………ま、ん、…… ……」
ふっ…と微かに息が切れる音が聞こえた。
「・・・・・・・」・・・。
シン。と辺りが静寂になった。
木になっている彼女の目からじわりと水が染み出し、一滴一滴溢れては、落ちる。
「安らかにお眠りを」黙祷を捧げていると、彼女から淡い青い光が。フワリと彼女から球体が現れ、くるくると踊るように浮いている。
するとどこからか別の球体が現れ、踊っていた彼女と一緒になった。喜んでいるみたいに愛おしそうにくっついてくるくると二つの球体は回る。
そのまま徐々に上へ上へと昇っていき、空に溶けるように消えて見えなくなった。
「迎え、来たんかな…」居なくなった空をじっと見て、呟く。そうだといいなと願いこめて。
もう一度彼女の方を見ようと下を見ると、いつの間にか足元いっっぱいのラベンダーが色鮮やかな紫色を風に揺らして咲いていた。彼女の死を花達が慰めるかのように俺と彼女と彼女達を優しく包む。
「!?」いつ咲いたんだ!?
ラベンダーの香りで少し落ち着いたところで、木の根を探る。次はどこに向かえば…。
探していると、ふと気になるところがあった。
一体化した何体かの人が同じ方向を向いていることに。
「さっき来た道が十二時だとして、今度は、九時の方向に向かえばいいってこと…か?」
今回は道を聞けなかったので、勘でいくしかない。
九時の方向に少し進み、出入り口前で彼女達に黙祷と祈りを捧げて、その先に進むことにした。
地図に森の絵の中に道順と木の根を模して書き足す。
次いでに花の名前も調べた。
“ラベンダー“
花言葉・・・「あなたを待っています」「期待」「沈黙」「清潔」
不思議な光景だった。あの出来事は、忘れまい。
彼女と最期に話せて良かった。
まだ少し胸が痛む。
服についたラベンダーの香りがそれを緩和させる。
大丈夫。大丈夫…。そう暗示をかけながら、歩いた。
だいぶ歩いた。
「ちょっと休憩」
草の上にトスっと座る。疲れた歩けない。
歩いても歩いてもたどり着かない。もしかして、このままだと明日には骨になってたりして、俺。
ははは、と笑っていると、茂みが揺れてガサガサと音がする。
「!?」なんだ!?誰かいるのか?
怖々とゆっくり茂みを覗くと、そこに小さな男の子が後ろを向いて何かをしている。
あ、良かった。人がいた。迷子かな?と思い、声をかける。
「あの…」
ビックリして振り向いた男の子の様子があまりにも不気味なことにこちらも驚き、一本後ろに後退りをした。
「あはっ、人だぁ!」
無邪気に笑う顔と声とは裏腹に、顔と口の周りには、さっきまで食べ散らかしていた何かの血がべっっとりついている。手や服までも血に染めて、にこにことこちらに笑顔を向けて笑っている。
「狂ってる…」
後退りしたあと、方向転換し走って逃げた。
足が恐怖に負けなくて良かったと思いながら、無我夢中で逃げる。後ろからザザザザザザッと追いかけてくる早い足音が聞こえる。
冗談で明日には骨になってるとか言ってる場合じゃない!これは今日中に骨になる!!嫌だ!
後ろをチラリと見る。いない!
どこ行ったと辺りを見回していると、目の前で木の上から男の子が降ってた。
「うわあああああああああーーー!!」
「ねぇ、遊ぼよぉ!ねぇ!」
男の子の目には涙が流れているのに、口は笑っている。「なんだこいつ!」・・狂っている。
道に外れて、走った。何でこんなにしつこく追いかけてくるのか分からない。
服の香りで落ち着・・・「服だ!この香りが目印だったとは!」
盲点だった!くそ!どこかで匂いを落とさなければ!
とりあえず明かりのある方に向かう。暗すぎて動きが読みにくい。走りながらあちこちを目で探す。
「見つけた!」明かりのある場所!
そこに向かう途中、何度か男の子が伸ばした手に皮膚を裂かれそうになった。幸いかすり傷で済んだが、危なかった…。
俺が明かりのある場所に着いたとき、その場所に入れないのか、男の子が寂しそうに俺を見て、帰っていく。
「はぁはぁハァハァハァハァはぁ…ぐっ、ゲホゲホッ…はぁー疲れたぁ!!」
その場でどさりと倒れるように寝転んだ。
この村に伝わる言い伝えらしいが、定かじゃない。
むしろ見たことがない。
だから、ただの子供だましとか子供の教育のために作られた作り話だとか、信憑性が薄い。
だから、誰も森に近づかない。
何故か?それは森に入っても反対側には出ずに、必ず入ってきた場所に戻ってきてしまう。不思議な森だった。
気味が悪くて、誰も入らないのだ。
だが、同時にこんな噂もあった。
『森の緑を食べれば、どんな病も治る』
森に入り、採集してきた緑の葉は、森を出ると枯れてしまう。森の中では生き生きと咲いている花でさえも、森の外に出すと枯れてなくなる。
と、なると。
その場で食べなければならないわけだが…それがどうも難しいらしい。
これらを調査するために、派遣されたのが、俺。
いや、今は"僕"と言うべきか。
魔法で子供に変えられて背も縮んだ。どこからどう見ても10代くらいの子供。
無事調査を終えることは出きるのか…。
拝啓
深緑の魔女様へ
敬具
『この森には入るな。残酷な魔女に喰われるぞ』
この村に伝わる言い伝えらしいが、定かじゃない。
むしろ見たことがない。
だから、ただの子供だましとか子供の教育のために作られた作り話だとか、信憑性が薄い。
だから、誰も森に近づかない。
何故か?それは森に入っても反対側には出ずに、必ず入ってきた場所に戻ってきてしまう。不思議な森だった。
気味が悪くて、誰も入らないのだ。
だが、同時にこんな噂もあった。
『森の緑を食べれば、どんな病も治る』
森に入り、採集してきた緑の葉は、森を出ると枯れてしまう。森の中では生き生きと咲いている花でさえも、森の外に出すと枯れてなくなる。
と、なると。
その場で食べなければならないわけだが…それがどうも難しいらしい。
これらを調査するために、派遣されたのが、俺。
いや、今は"僕"と言うべきか。
魔法で子供に変えられて背も縮んだ。どこからどう見ても10代くらいの子供。
本当は24歳の178cmもある。国王直属の騎士団に所属しており、毎日厳しい訓練もこなす。
ある日団長から、王から知らせがきたと報告がされた。
「森に入り、調査してきてほしい」と王命が下されたと。
騎士団の中で結婚をしていないのは俺だけ…ということで俺の意思の有無もなく、決定された。
「団長!嫌であります!!」ビシッと敬礼しつつ、顔は苦虫を潰して食べたような顔をして、訴えた。小さすぎる反抗。届け俺の思い。
「その顔しても丁寧に言ってもだめだから。諦めろ」ニヤリと笑って、頭を撫でられる。
「・・・・・・」
届かなかった。
っつか、団長が行きなさいよ!
なんて言えなくて、当日が来てしまった。
友人の魔導士から軽く魔法について説明を受けた。
副作用や苦しむことはないらしい。ただ、魔法が解ける鍵があるようだ。それは、かけられた魔法によってそれぞれ違うらしく、言葉だったり、物だったり、人だったり、特殊なものから簡単なもの、日常的な仕草までも解ける鍵となる。
まぁ、完全に解けるには魔導士に頼むのが一番なんだが。
「だから、気をつけてね☆」とか言われても、無理だわ!
足の裏に魔方陣を書かれ、体が縮んでいく。
「しっかし・・幼少期のお前、可愛いな」
「うっせ」
「そう怒るな。任務が終われば解いてやるから」
「はぁ…」
平民の服に着替えて、村の少年になりすます。
「ますます可愛いな」
「やめろ、抱きつくな!ちょっ・・頭撫でるんじゃねぇ!」
俺に抱きつき愛でる友人を退けて、鞄を抱え直す。
鞄の中身は、短剣、地図、ペン、紙、式神数枚(連絡用)
食料(非常用干し肉)、着替え数枚、御守り、お金。
「じゃ、行ってくる!後は頼んだぜ」
「おう。必ず式神飛ばせよー!」
「はーい」
返事をして馬車に乗り、出発した。友人に見送られて。
「ぬああああああー!ここどこだよ」
絶賛森で迷子中…。はぁ、だから嫌だったんだよ。
迷って多分一時間くらいは経過してるはずだ。
この本の通りに歩いてるつもりだったんだけどなぁ…。
手に持っている本をもう一度見直した。一軒屋から見つけた日記帳だ。間違いないはずなんだけどな…どこで間違えたんだべ………。
遡ること一時間前。目的の村に到着。馬車を降りて村を通り抜けて、森に向かう。
森に近づくにつれて、人はおろか民家もない。
あるのは、一軒の廃墟と化したボロ家だけだ。
とりあえず入るが、やはり人の気配はない。
屋根にはすきま風が吹き付けて、壁も所々穴が空いている。
部屋の中は少し散らかってはいるが、もともと散らかる物が少ないのか、少し片せば住めなくもない。
二階建ての家のようだが、二階に上がる木の階段が腐っており、登れない状態。現に触ったら、全部崩れ落ちたしね。
でも、二階には何があるか気になるじゃないか。
ということで、登るために必要な木を探した。
長い木材を一本見つけた。しかも少し腐っている。
まぁ、登れなくもないかな?身体能力は高い方だ。まぁ、その辺はそれでカバーしてっと。
「木、足りるかな?」
木材を運ぶ。太く、長い角材。
「ふぅ」体が小さいといろいろ不敏だ。いつもの通りにとはいかないか…。
階段のあった場所に角材を立て掛ける。
「ギリギリか・・・」
ぐっと角材に軽くのし掛かってみる。
「登れなくもないかな?」
床に鞄を置いて、中から短剣を取り出した。
一応、念のために、ね。
角材の方に向き直り、まず深呼吸を一つ。
「すぅ~・・はぁー・・・ふっ」
よし!いける!
体に力をいれて体勢とる。角材に足を乗せて軽く息を吸い、素早く角材の上を走る。
とっとっとっ バキッ
「!」やばっ!
踏んだ足下が折れた。どうやら完全に腐っていたようだ。
咄嗟にボロボロの手すりに足をつく。
バキバキッ
「!!」ここもだめか!
「あと少し!」
下半分の角材はもう下に落ちてしまったが、辛うじて残っている手すりと手に持っている短剣と落ちる前に拾った残りの角材があれば、まだいける!
落ちる寸前に壁に角材を刺して体を揺らし、クルンと回って角材に足をついた。壁も脆いため長くはもたず、バキバキッと音を出して下に落ちていく。
「よっしょ!」
落ちる前に角材を蹴って跳び、右手に持った短剣を壁に刺し、体を少しでも前へ。
朽ちそうだが残っている手すりを足場にし、壁に短剣を刺しながら交互に登り、上へ上へと跳んだ。
トッ ゴシャッ ガラガラガラ ズシャァ
「ふぅ」
危なかったー。
間一髪で上の階の床に足がついた。
「降りるときは、落ちるときかな・・・」
下に落ちた木の残骸を見てため息をつく。こりゃあ、降りるのも苦労するな…。
「さてっと」
着いた場所をぐるりと見渡す。
ベッドに机に本棚。ざっと見て二畳半といったところか。
全部に埃がかかっており、机や本棚の上など全部が白くなっていた。
「けほっ・・・、何年使われてないんだ?ここ」
とりあえず環境が悪いため、窓を開けた。
ガタガタと建て付けの悪い窓をなんとか開けて、新しい空気を部屋に入れる。
澄んだ風と草木の緑のいい匂い。
「見張らしもいい。ここはいい場所だ」
くるりと向き直り、気になるところを探り始める。
まずは机の中から。
「おや?」
早速有力な物を発見した。日記帳だ。
「まだ読める」
パラパラとめくる毎に埃が舞う。
けほけほと咳き込みながら、外に向かって本を出し、パンパンと手で本を叩いて埃を落とした。
「これで読め・・・ない」後ろの数ページが開かない。
「これは魔法か?」
糊とかではないな。くっつき方が妙に変だ。
「解除方法はないのか」
どこかにメモ書き程度に書き記してあるとか。まぁ、マヌケな奴じゃない限り、そんなことしないだろうけど…。
とりあえずキョロキョロと周りを見渡す。
「ん?」
ふと目に入った。埃をかぶって白くなっている机の上の端に小さく何か書いてあるのが気になったのだ。
「なに・・・」
手で擦ると、文字が書いてあった。
「Dear dark green witch.(親愛なる深緑の魔女へ。)?」
パァン
「!!」
机に書かれている文字を読むと、日記帳が光だし、開かない数ページがパラパラとめくれるようになったのだ。
「ははは・・・マヌケがいたか」
数ページと思っていたページは、かなりの厚さがあった。
魔法で隠していたのか。やるな。
「えっーと・・・」
初めから読んでみることにした。
最初のページには、日記ではなく料理のレシピが書かれていた。俺も見たことがない料理のレシピだ。
「見たこともない食材もあるな」
何だこの、珍しい形の葉は。効能までも書いてある。
しばらく料理のレシピが記されたページが続いた。ざっと百はあったか?
「次は?」
パラッとめくると、今度こそ日記のようだ。
某月某日 晴れ
森の調査のために、今日からこの小屋に住む。
ここは、昼は静かで空気がよく、風も心地よい。夜は空気が澄んでいて、とても静かだ。だが、微かに風と共に聞こえる歌。あの噂は、本当なのだろうか。
「歌」
窓の方に耳をそばだてる。目を閉じて集中するが、風の音と鳥の鳴き声だけが聞こえる。
「特になしっと」
次をめくる。 パラ
某月某日 深夜
夜、寝ていると外で物音がして、目が覚めた。
窓を覗くと誰かいる。誰だろう…。
暗くてよく見えないが、一応様子を観察しているとどうやら花?を摘んでいるように見える。何をしているのだろう。
「花?」薬草か何かか?
考えても分からないため、次のページをめくる。 パラ
某月某日 夜
また人影。今度は森から出てきたのを見た。
今日は雲一つ無く、月が綺麗に出ている。
月明かりに照らされて見えた人は、不思議な人だった。
濃い緑色の髪に色白の肌、黒いマントを身に纏った小柄な女性。
もっと見たかったが、これ以上身を乗り出すと見つかりかねない。次もまた来てくれるだろうか。
「濃い緑の髪・・・やっぱり魔女はいるんだな」
次のページをめくりかけたとき、どこから抜け落ちたのか一枚の紙切れが落ちてきた。
「?なんだこれ?」
広げて見ると、森全体が模写されており、詳しく道がわかるように森の特徴や辿る線が書かれている。所々赤色でポツリポツリと点が着いている。目印なのだろう。
「やった!地図だ」
これを頼りに森に入れば、行けるのでは?
「思い立ったが吉日。日もまだ高い。行くか」
この行動が浅はかだったのだろう、明日にすれば良かったなと何度目かの後悔が頭を過る。
そして、現在に至る訳なのだが・・・・・。
「まずい、日が落ちてきた」
地図通りに歩き、赤色の点の目印は、木の幹にリボンが結んであり、多分それが目印だとわかった。途中までは迷わず行けたはずなのだが、木の幹のリボンが高い位置に有るため、上を見上げなから歩かないと行けない。そして、薄暗くて見えにくく、葉で隠れて探しにくいという難点。
同じところをぐるぐる回っていることだけはわかる。
何度も同じ色のリボンを見ているからだ。
「今日はここで野宿か・・・何も出ませんように」
丁度いい切り株を見つけて、そこで野宿することになった。
火を起こし、非常食を食べる。
「はぁ、疲れた。日記は明日また読もう・・・だめだ、眠い・・・」お腹を満たした後、急な眠りが俺を襲う。目を擦り、ローブを体にかけた。
何で、こんなに・・眠いんだ・・ろ・・・・ぅ・・・・・・─────意識が徐々に遠退いていった。
?声が聞こえる。誰だ?
クスクスと笑う声。驚いている声。
二人の男女の声が聞こえる。
「ねぇ、この人寝てるよ。クスクス、死にたいのかなぁ」
「だめだよ、魔女様に知らせなきゃ」
「少しくらい味見をしたってバレはしないよ。あんただってそう思うでしょう?」
「でもこの間失敗して魔女様に舌を切り落とされそうになったじゃないかぁ」
「もう大丈夫、ほとぼりも冷めた頃よ。今度はそんなヘマなんて、しない」
「やっぱり止めようよ」
「いいから!あたしは目ん玉をもらうわ。あんたは逃げられないように足首を食べなさい。いいわね」
「うん・・・・」
なんの相談・・・・
目を開けると、目の前には化け物が…!
「うわっ!なんだ!?」慌てて起き上がり、切り株に背中をぶつけてしまったがそれどころではない。目の前の花のような生物が気になって。
紫色の花びらの一部に目が一つついており、花の花粉の部分、真ん中には大きな口にギザギザの歯がいくつもついていた。それが二つゆらゆらと動いている。
「チッ!起きたのか!匂いが薄かったのか!?あぁー!!失敗した!失敗した!!魔女様に舌を切られる!」
「だから言ったのに」
「そうだ!起きたからってなんなの。その場で食べちゃえば、痕跡なんて残らないじゃない。キャハハ!あたしって頭いいわ!」
は!?食う?俺を!??
ザザザザザザと茎を伸ばして俺の方に近づいてきた。
「待て待て待て!」
「何よ!」
「君たちは、一体誰だい?」
伸びる茎がピタリと止まった。二つの花は顔を見合せるようにしばらく止まり、もう片方の花が声を出した。
「君も変なこと言うね。僕たちのこの姿を見ても“誰“なんて、そんなの言われたこと無いよ」
「大抵は、泣き叫ぶか、恐怖で声を失って気絶するかだもの」
「まぁ・・、そうなるね。で?君たちは誰だい?」
「あたし達は姉弟さ。名前は…忘れたわ」
「僕も、忘れた」
「そうか」
「もういいでしょ、あたし達のことなんて知っても意味ないもの。だって、あんたはここで死ぬんだから」
再びザザザザザザと茎が伸び始める。
まずい!時間稼ぎをするつもりが、間に合わない!
「ああ!もしかして、お腹空いているのかい?」
「「??」」
よし!動きが止まった、
「ほら、これ!この干し肉をやるよ。今料理してやるから、さ?ね?」
「干し肉…」
「干し肉……」
二つの花の口からよだれがボタボタと落ちている。
火をもう一度起こし、干し肉を軽く焼く。
香ばしい匂いが干し肉からし始めると、二つの花はその肉に吸い込まれるように少しずつ火の側に近づいてきた。
「!」
そのまま焼けて居なくなってくれればと思ったが、幻覚か何か分からないが、一瞬二つの花が人間の男の子と女の子の姿に見えたのだ。手を伸ばしている姿が見えたので、慌てて声をかけた。
「こら、危ないから下がって!火傷したらどうするんだ」
二つの花を軽く押し退けて、火から遠ざける。
「変なの」
「変なの」
顔を見合せて、感想を漏らした。
表情は見えないのに、声だけで不思議そうにしているということがわかる。
「えっと…あ、こんなもんかな。はい」
焼けた干し肉をふぅふぅと冷まし、二つの花の口に持っていった。
パクリと食べながら、二つの花は手もない状態で上手に肉を食べている。喋りながら。
「自ら食べさせてくれるなんて、変な人もいたものね」
「美味しいね、お姉ちゃん」
「・・・そうね」
幾つか干し肉を焼いて食べさせて焼いて食べさせてを繰り返し、お腹がいっぱいだと言わんばかりに茎の部分が大きく膨れ上がっていた。まるで蛇が何かを呑みこんだ腹のようにも見える。
「久々だわ、焼いたものを食べたのは。あんた、いい人ね」
「そりゃ、どうも」
「で?何でこんな森にいたんだい?」
「魔女に会いに来たんだけど、道が分からなくなってね」
「魔女様に?何でまた?」
「どうしても会いたくて?」
いい言い訳が見つからない。とりあえず誤魔化す。
「やっぱりあんた、変だわ(笑)」
ポンポンになったお腹を重そうに持ち上げながら、俺を一つしかない目が見据える。
「いいよ、教えてあげる。あんたのその後ろに有る切り株。何て言われてるか知ってる?」
「切り株?いや、知らない」
「それ、死者の切り株って言われてんの。あたし達はそこに繋がってるのよ」
「え・・・」
「何で繋がれてるのか忘れたけど、その切り株の生えてる根、よく見てみて。時計の文字盤のように生えてるの、わかる?」
「確かに、見事な根が十二本生えてる」
切り株を見てみると、丁度等間隔に丸く並んだ根が十二本あった。
「その根が指す十二時の方向に向かって真っ直ぐ進みなさい。その先にも何かあると思うけど、あたし達はここから動いたことがないから、分からないわ」
「道中、お気をつけて。肉、ありがとう」
「あぁ、お前達も元気でな。教えてくれてありがとう」
彼女達の花びらを軽く撫でるとくすぐったそうに手にすりと花びらを寄せた。
彼女達に手を振って分かれた後、言われた通りに真っ直ぐ歩いた。
あの花、なんだったか…どこかで見たことある。
確か…………。
確信が持てず、日記帳を開く。もしかして書いてあるかもしれないと思いながらページをめくると、花の絵が幾つか書いてあるのを見つけた。
“紫苑“
花言葉・・・「あなたを忘れない」「追憶」「遠くにいる人を思う」「思い出」など
そうだ、思い出した。あの紫の花は紫苑だ。
何で切り株に生えていたのだろうか。
あの子達は一体…。
そう考えながらしばらく歩く。
どこまでも青々と生い茂った木、木、木、木、木 …………。
そろそろなんか見えてきても良いんじゃない?
見え隠れする根を辿って、ようやと一本の木にたどり着いた。
「本当に繋がっている」
あの切り株から伸びていた幹がこの木とも繋がっている不思議。木の周りを一周してみた。
繋がった根に立派な幹、青々とした葉とくるくると細い蔦が幹に絡み付いて不思議な柄のように見える。
「なんだ、これは・・・・・」
その木の根も同じく時計盤のようには生えており、三時の方向に不思議な形を見つけた。
踞るように座った女性の姿のような形が幹と一体化していたのだ。
「死んでいるのか…?」
「あ、ら?ど、なた?」
「!?」急に声が聞こえ、驚いて周りを見回したが、出所が分からない。
「あ、な たど、な、た?」
「え…」にわかに信じがたいことが目の前で起きていた。
幹と一体化している踞るように座った女性の姿ような形が喋ったのだ。身体全体は動かないが、微かに口だけを動かして言葉を発している。
「こ、こんにちは」
「こ、んに、ち、は」
喋りにくいのだろう。途切れ途切れに言葉を紡いで話している。
「あの…大丈夫ですか」
「・・・・・・」
今の質問は、だめだったようだ。失礼だったかもしれない。
「すみません(汗) えっと…ここはどこでしょうか」
「こ、こ は。待 ち、焦 が 、れ の、 木」
「待ち焦がれの木?」
「そ、う」
「全部の木が、ですか?」
「そ、う」
周りを見ると生えている一本一本の木に何体か踞るような姿やしゃがんで真っ直ぐじっと見つめる姿、膝を抱えて膝に頬を預けてる姿など。まるで彫刻のように綺麗な形のまま、木の幹に寄りかかってそこにある。
「これ全部、人なのですか?」
「・・・・・・・」
人が木と一体化するなんて聞いたことがない。
この者達は木の栄養分となってしまったのか…。
「ずっ、と ……ま、って る。や、く 、そ くし、たの…。あ、の ひ と、は む か、え、に……………」
ふっ、と急に言葉が途切れた。
「・・・・・」死んだのか?
「…ゆ び、、きぃ、り げ………ま、ん、…… ……」
ふっ…と微かに息が切れる音が聞こえた。
「・・・・・・・」・・・。
シン。と辺りが静寂になった。
木になっている彼女の目からじわりと水が染み出し、一滴一滴溢れては、落ちる。
「安らかにお眠りを」黙祷を捧げていると、彼女から淡い青い光が。フワリと彼女から球体が現れ、くるくると踊るように浮いている。
するとどこからか別の球体が現れ、踊っていた彼女と一緒になった。喜んでいるみたいに愛おしそうにくっついてくるくると二つの球体は回る。
そのまま徐々に上へ上へと昇っていき、空に溶けるように消えて見えなくなった。
「迎え、来たんかな…」居なくなった空をじっと見て、呟く。そうだといいなと願いこめて。
もう一度彼女の方を見ようと下を見ると、いつの間にか足元いっっぱいのラベンダーが色鮮やかな紫色を風に揺らして咲いていた。彼女の死を花達が慰めるかのように俺と彼女と彼女達を優しく包む。
「!?」いつ咲いたんだ!?
ラベンダーの香りで少し落ち着いたところで、木の根を探る。次はどこに向かえば…。
探していると、ふと気になるところがあった。
一体化した何体かの人が同じ方向を向いていることに。
「さっき来た道が十二時だとして、今度は、九時の方向に向かえばいいってこと…か?」
今回は道を聞けなかったので、勘でいくしかない。
九時の方向に少し進み、出入り口前で彼女達に黙祷と祈りを捧げて、その先に進むことにした。
地図に森の絵の中に道順と木の根を模して書き足す。
次いでに花の名前も調べた。
“ラベンダー“
花言葉・・・「あなたを待っています」「期待」「沈黙」「清潔」
不思議な光景だった。あの出来事は、忘れまい。
彼女と最期に話せて良かった。
まだ少し胸が痛む。
服についたラベンダーの香りがそれを緩和させる。
大丈夫。大丈夫…。そう暗示をかけながら、歩いた。
だいぶ歩いた。
「ちょっと休憩」
草の上にトスっと座る。疲れた歩けない。
歩いても歩いてもたどり着かない。もしかして、このままだと明日には骨になってたりして、俺。
ははは、と笑っていると、茂みが揺れてガサガサと音がする。
「!?」なんだ!?誰かいるのか?
怖々とゆっくり茂みを覗くと、そこに小さな男の子が後ろを向いて何かをしている。
あ、良かった。人がいた。迷子かな?と思い、声をかける。
「あの…」
ビックリして振り向いた男の子の様子があまりにも不気味なことにこちらも驚き、一本後ろに後退りをした。
「あはっ、人だぁ!」
無邪気に笑う顔と声とは裏腹に、顔と口の周りには、さっきまで食べ散らかしていた何かの血がべっっとりついている。手や服までも血に染めて、にこにことこちらに笑顔を向けて笑っている。
「狂ってる…」
後退りしたあと、方向転換し走って逃げた。
足が恐怖に負けなくて良かったと思いながら、無我夢中で逃げる。後ろからザザザザザザッと追いかけてくる早い足音が聞こえる。
冗談で明日には骨になってるとか言ってる場合じゃない!これは今日中に骨になる!!嫌だ!
後ろをチラリと見る。いない!
どこ行ったと辺りを見回していると、目の前で木の上から男の子が降ってた。
「うわあああああああああーーー!!」
「ねぇ、遊ぼよぉ!ねぇ!」
男の子の目には涙が流れているのに、口は笑っている。「なんだこいつ!」・・狂っている。
道に外れて、走った。何でこんなにしつこく追いかけてくるのか分からない。
服の香りで落ち着・・・「服だ!この香りが目印だったとは!」
盲点だった!くそ!どこかで匂いを落とさなければ!
とりあえず明かりのある方に向かう。暗すぎて動きが読みにくい。走りながらあちこちを目で探す。
「見つけた!」明かりのある場所!
そこに向かう途中、何度か男の子が伸ばした手に皮膚を裂かれそうになった。幸いかすり傷で済んだが、危なかった…。
俺が明かりのある場所に着いたとき、その場所に入れないのか、男の子が寂しそうに俺を見て、帰っていく。
「はぁはぁハァハァハァハァはぁ…ぐっ、ゲホゲホッ…はぁー疲れたぁ!!」
その場でどさりと倒れるように寝転んだ。
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