空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

文字の大きさ
50 / 81
第3章 少年期 ミリア編

第四十九話「徽章と濡れ衣」

しおりを挟む
「戻ってきていませんね」

 シャルロッテとエリーゼは、ランスロットの部屋を見て眉をひそめる。
 エリーゼは、この数時間、全く眠っていない。
 というより、眠れていないと言った方が正しい。
 その理由は、言わずともわかるであろう。
 シャルロッテに自分のせいではないと言われたものの、やはり自分のとった態度が原因だと考えてしまうのである。
 ベルが訳もなくエリーゼ達のもとを離れるとは考えにくいし、エリーゼと別れたきり、ベルは戻ってこない。
 辻褄は、合っている。

 無論、ランスロットの言った通り、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性も考えられる。
 だが、それはそれで自分に腹が立つのだ。
 結局のところ、あの時にベルに対して冷たく当たることがなければ、ベルは外出をしていなかったかもしれない。
 一言、「あたし達も寝ましょう」と言うだけで良かったのだ。
 そんな簡単なこともできずに、自分の気持ちを晴らすためだけにきつく当たった自分が、どうしようもなく憎い。

「どうする? とりあえず、シャルロッテの言う通り、捜索願を出してみるか?」
「日中に捜して、それでも見つからなかったら、そうしましょうか」
「何で? すぐに出せばいいじゃない」
「まだ焦るには早いでしょう。
 私達の手で全く捜索をしないまま依頼をしても……」
「ミリアがどれだけ広いと思ってんのよ。
 三人だけでどうこうできるものじゃないでしょ?」
「そっ、それは確かに……」

 エリーゼの怒り交じりの助言に、シャルロッテはハッとする。
 ミリアは、ブルタ王国で最大の都市国家である。
 面積でいえば、グレイス王国第一都市のアヴァンよりも広大だ。
 そんな場所をたった三人で探して回るなど、不可能である。
 都市を全て回るのに、何日もかかるだろう。
 当然、大人数で探したり、捜索のプロに任せたからと言って、すぐに見つかるとは限らない。
 しかし、無闇に、しらみつぶしに探すのは効率的とはいえない。

「俺も、エリーゼの意見に賛成だ。
 俺達だけで探すというのは、得策とは言い難いだろう」
「分かりました。
 では、ギルドへ向かいましょう」




 ベルが見たものと同じ地図を、三人は凝視する。
 それを見て、一行は冒険者ギルドに向かった。

 依然として、雰囲気は悪い。
 誰が誰のせいにしているとか、そういうわけではない。
 それぞれが、自分に責任を感じているのだ。

「ここか」
「綺麗な所ね」

 ミリアの冒険者ギルドは、エリーゼ達が今までに見たどのギルドよりも綺麗だった。
 新築のような木の香り、整っていて綺麗な内装。
 この綺麗なギルドも相まって、ミリアの冒険者活動はデュシス大陸でも盛んな方である。
 ギルドの綺麗さで左右されることはないが、それでもミリアが人気であるのは確かだ。

 それでいうならば、ベル達が天大陸に転移してから初めて訪れたアルベーの町のギルドは、外観だけでいうとかなり年季の入った建物だった。
 そのせいか、中に入った時の外観との違いが大きかった。

「こんにちは。依頼のご希望ですか?」
「少し、聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと、ですか?」

 黒髪ボブの受付嬢は、首を傾げる。
 シャルロッテは紙を取り出し、カウンターに置いた。
 そしてペンを握り、絵を描き始めた。

「何よこれ」
「似顔絵です」
「だ、誰のだ……?」
「ベルですよ! 見て分かりませんか?!」
「分からないわよ!」

 特徴こそ捉えているものの、一目でベルとわかるものではなかった。
 受付嬢には、金色の毛をした犬と間違えられたほどだった。

「人探しをしている。この似顔絵は、一旦忘れてくれ」
「酷いです」
「金髪に、ローブをまとった男の子ですね。
 確認してきます」

 受付嬢は、カウンターの裏へ引っ込んでいった。

「ベル、どこにいるのかしら……」
「きっとどこかで無事でいますよ」
「ベルが簡単に死ぬとは思えん」
「死ぬとか縁起でもないこと言わないでちょうだい。
 何事もなく、元気で……いるわよ」

 エリーゼの声が僅かに震える。
 シャルロッテはエリーゼの肩にポンと手を置き、優しく撫でる。
 ランスロットも、エリーゼの背中に手を当てた。

 昨日まで一緒にいた仲間が、一夜にして消息を絶ってしまった。
 その事実が、エリーゼの心を蝕む。

 まして、エリーゼはまだ12歳だ。
 精神的にもまだまだ子供であり、感情の起伏が激しい。
 中々気持ちを前面に押し出せない反面、ベルのことはこれでもかというほどに気に入っている。
 これが仲間としての、友達としての気持ちなのか、はたまた別のものなのか。
 エリーゼ自身も、よくわかっていない。

「お待たせしました。
 皆さまがおっしゃっている男の子ですが、『ベル・パノヴァ』というお名前でお間違いないでしょうか?」
「はい、そうです」
「何かわかったの?!」
「それが……」

 受付嬢は口を噤んだ。
 エリーゼも、シャルロッテも、ランスロットも、息をのんでその答えを待つ。
 そして、口を開いて事実が告げられた。

「――昨日の夕方ごろ、衛兵によって捕らえられたそうです」




---ベル視点---



「だーかーら!
 僕は何もしてませんって!」

 ワイ、取り調べなう。
 普通投獄前にやるもんだろ。
 無実だったらどうするんだ。
 実際俺は無実だぞ。

 と、何度も無実を主張しているのだが。

「いい加減、吐いたらどうなんだ。
 いくら子供だとはいえ、上流貴族の徽章を盗むなんて……」
「してないって言ってるじゃないですか……」

 このように、全くもって聞く耳を持ってくれない。
 俺の罪状は、この検察官の言う通り、『上流貴族の徽章の窃盗』である。
 罪状も何も、俺はやってないつってんのに。
 「早く終わらせたいならとっとと吐け」だの、「自白するなら罪が軽くなる」だの言って、
 俺の言うことなんか聞こうとすらしてくれない。
 この国には傲慢な人間しかいないのだろうか。
 自分が一番偉いと思い込んでいる奴らばかりだ。

 はぁ。
 あの時、大人しく宿にいればな。
 なんて後悔を、俺はこの二日間で何度もした。
 エリーゼからの謎の冷たい対応で気が狂ったんだ。
 エリーゼが悪いとは言わない。
 悪いのは全部俺だ。

 その後数十分間、取調室に拘束されたが、否認をし続けたら今日の所は許してもらえた。
 次の取り調べは一週間後だという。
 何があっても俺は罪を認めたりしない。

「おっ、戻ったか」
「どうだった?」
「奴ら、全然僕の話を聞いてくれません。
 いくら容疑を否認しても、『さっさと吐け』の一点張りで」
「ははっ。まあ、そうだろうよ。
 この監獄にいる奴らは、揃って頭がイカれてやがるからな」
「私達ははっきり有罪なのだ。
 お前にそんなことを言う資格はないだろう」
「なんだと?」
「ま、まあまあ……」

 ゾルトとシェインは、あまり仲が良くなさそうなんだよな。
 シェインが無神経なのか、ゾルトが短気なのか。
 原因はどちらにもあるような気もするが。

「んがぁぁぁぁ……」
 
 ダリアは爆睡中である。
 あの後、ゾルトと夜通しトランプをしていたらしい。
 俺は途中で寝落ちしていた。
 ゾルトは物凄い体力だな。
 オールでトランプなんて、飽き性の俺からしたら考えられない。

「おい、ダリア。起きろ。
 今日から、もう計画を立て始めるんだろう?」
「んん……わがった……」

 ダリアはゆっくりと体を起こし、体中の関節から音を鳴らしながら背伸びをした。
 あんなに音が鳴るのは羨ましいな。
 かつては俺も生粋の関節鳴らしマスターだったんだが……。

「じゃ、第一回脱獄会議を始めまーす。
 はーい、拍手ー」

 軽い感じで始まったな。
 とりあえず手を叩いておくか。

「何か意見がある奴はいるかい?」

 ダリアが言った瞬間、沈黙が流れた。
 ま、そんなに急に意見を求められても答えられないわな。

 ちなみに俺は、色々考えた。
 例えば、このトイレからの脱出だ。
 これを頑張って外すことができれば、排水管から海に出られる。

 だが、これには懸念点がいくつもある。
 まず第一に、汚い。
 大小便が通るところなんだから、汚いに決まっている。
 それに、海には殺人鬼であるサメがいる。
 なるべく海からの脱出は避けるべきだ。
 これまでに脱出を試みた奴らは、その全てが溺死かサメに殺されたかだ。
 やめておくのが賢明だろう。

 後は、俺の魔術による牢獄からの正面突破だ。
 俺の土魔術で、この鍵穴に適合する形の鍵をいくらでも作れる。
 ほら、ナルシスの件の時に一度やったことがあるやつだ。

 だが、こちらにも懸念点がある。
 正面突破なんてしようとしたら、確実に他の衛兵やらに見つかってしまう。
 そうなってしまえば、大人しく捕まるか、衛兵の命を奪うしかなくなってしまう。
 もちろんまた捕まってしまうのは避けたいが、犠牲は払いたくない。
 人を殺してしまえば、いよいよ殺人の罪に問われてしまう。
 それだけは、絶対にナシだ。

 それ以外にも、色々考えた。
 考えた結果、辿り着いた結論。
 それは、

「正面突破です」

 ズバリ、これだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...