空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第4章 少年期 アラキア編

第七十五話「中間地点」

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 出発してから二日目の夜。
 未だ森を抜ける気配はないが、着実に目的地に近づいているはずだ。
 ランスロットは俺とは違って方向感覚に優れている。
 竜人族は、空間認識能力に長けているらしいからな。
 東西南北すら危うい俺にとって、こんなに羨ましい能力はない。
 ルナディアに、空間認識力に優れた魔眼をもらえばよかった。

「戻ったぞ」

 ランスロットが、暗闇から現れた。
 こんな風貌の男が茂みから現れたら、知らない人が見たら泣き叫ぶだろうな。

「今日はイノシシの肉ね!」
「ご馳走じゃん!」

 ランスロットは、食材調達係。
 一日三回の休憩の度に、俺たちの元を離れて狩りに出る。
 こいつは強すぎるから、いなくなる心配がない。

「木の枝たくさん持ってきたよー」
「助かります」

 エルシアは、俺たちの目の届く範囲で木の枝を集める。
 火を起こすための燃料だな。
 薪を集めるくらいならそんなに遠くまで行く必要はないため、その辺で調達できる。

「『フレイム』」

 そして、火起こし係は俺だ。
 飲料用の水も、俺の魔術で賄える。
 魔術って、つくづく便利だなぁ。

「丸焼きでいいか?」
「他にできそうな料理もないしね」

 ランスロットは大きな木の枝にイノシシを丸ごとぶっ刺した。
 そして、俺が起こした火の上に置いた。
 肉の焼けるいい匂いが、鼻腔を通って脳に直接染みわたる。
 塩コショウとかあれば、最高なんだろうけどな。
 そんな贅沢は言えないから、素材の味を楽しむしかないわけだが。

「暇!」

 どっしりと胡坐をかいて座っているエリーゼが声を上げた。
 そう、エリーゼはやることがないのだ。
 否、できることがない。

 食材調達を手伝おうにも、ランスロットが一瞬で片付けてしまう。
 薪の調達も一人で事足りるし、魔法も使えない。
 ずいぶん前に俺が教えたものも、もうやり方を忘れてしまったらしい。

 綺麗に役割分担されているから、エリーゼが入る余地はないのだ。

「いいじゃないですか。エリーゼは王女様なんですから、僕達に任せてゆっくりしていてください」
「いつの話してんのよ。あたしはもう王女じゃないわ」

 エリーゼの隣に座ると、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
 国が滅びようが、王女は王女だ。
 苗字が変わらない限り、エリーゼは一国の王女様なのだ。

「エルシアって、料理はできるの?」
「一人で暮らしてた時期は、自炊してたからね。
 ある程度の料理ならできるよ」
「ふーん。じゃあ、あたしに教えなさいよ」
「生活が落ち着いたら、教えてあげようじゃぁないか」

 そういえばミリアにいた頃、一時期ではあったが料理にはまっていた時期があったな。
 毎回、試食役が俺だった。
 お世辞にも美味しいとはいえなかったが、決して口には出さずに黙々と口に運び、「美味しい」という毎日だった。
 十年間で十本の指に入るくらい、苦痛な毎日だったな。

「でも、どうして急に料理なんて?」
「お、王女たるもの、料理の一つくらいできなきゃダメでしょ!」
「都合のいい王女様だなぁ。
 それとも、誰かに作ってあげられるようになりたいとか?」
「……ちっ、違うわよ!」

 と、エルシアの言葉に強めに否定した後、俺の方をチラチラと見る。
 頬を赤くしながら、何度も視線を合わせては下を向く。
 なんだい。はっきり言ってごらんよ。

「む。この肉、美味いな」
「これ、普通のイノシシの肉ですか?」
「ああ。というか、この辺りは全く魔物が出ない」
「集落に行くまでには、何回か遭遇したよね」

 こんなにうっそうと木々が生い茂っているのに、そんなことあるのか。
 普通、こういう場所って魔物の巣窟になるはずなんだけどな。
 言われてみれば確かに、ここまで魔物に遭遇したことがない。
 ラッキーというべきか、嫌な兆候なのか。
 前者であることを祈ろう。

 もう、頼むから平和に帰らせてくれ。
 どうして毎度毎度、災難に見舞われなければならないのだ。

 この中に、トラブルメーカーがいる。
 絶対俺だな。

「恐らく、明日には森を抜けられるはずだ」
「やっとかぁ……。
 こんなに木ばっかりの所に長い間いたら、気が滅入っちゃうよ」

 そうだろうか。
 茶色と緑に包まれた空間で、目に優しいと思うんだけどな。
 木と草の匂いも心が落ち着くし。

「アラキアには、どのくらい滞在するの?」
「前にも言ったが、アラキア公国には中央大陸とデュシス大陸を結ぶ港がある。
 そこからは、週に一回定期便が出るのだ。それに合わせるように、考えて生活しなければならない」
「それ、今度こそ大丈夫なんでしょうね。
 前みたいに、何か月も街にいなきゃならない、みたいなことにならないかしら?」
「全部、集落で聞いたことだ。信憑性は高い」

 天大陸からデュシス大陸に渡る際、海が荒れる時期にラゾンに到着してしまったため、二か月ほどラゾンで待たされることになった。
 まあ、そのおかげで俺は杖を買えたわけだが。
 でも、もうその杖を使うことはもうないんだろうな。
 このシャルロッテの杖は、絶対に手放せない。

「腹を満たしたら、すぐに寝るぞ」
「その前に水浴びだけでもさせなさいよ。お願いね、ベル」
「えぇ。また僕がやるんですか?」
「ベルしかできる人いないでしょ?」
「じゃ、わたしもお願いしよっかなー。チラチラ」

 口でそう言いながら、ニヤニヤしながら俺を見るエルシア。
 別に、水を浴びせるぶんにはいいんだけど、なんか変な気分になるんだよな。
 美人二人に自分の体で作り出される水をかけるなんて、こじらせた人からしてみれば絶頂ものだろ。
 俺は正常で紳士なジェントルマンだから、そうはならないが。

 それに、いくら背中を向けてもらっているとはいえ、ほぼ素っ裸だぞ。
 俺がどれだけ心を無にするのに苦労しているか、知らないだろうな。

「今日は水浴びなしです」
「何でよ!」
「アラキア公国に着いたら、好きなだけお風呂に入ればいいじゃないですか」
「そういう問題じゃないのよ! あっ、待ちなさい!」
「迷子にならないようにするんだぞ」
「見てないで助けてください!」

---

 道中、なんと森の中に温泉が湧いている場所を見つけた。
 エリーゼがすぐに服を脱ぎ捨てて温泉にダイブした時はかなり焦ったな。
 もしかしたら、何者かが張った罠であるかもしれないし。
 油断は禁物だと何度も言っているのに、本当に困った奴だ。

 エリーゼ、エルシアの順に温泉に入ったため、男二人は後回しになった。
 まあ、入れたからいいけど。

---



 そんなこんなで、森を抜けた。
 ようやく、中央大陸に一番近い国に来たのだ。
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