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一章/金持ち学園

四天王

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「それにしても、この学校て世間の学校とかけ離れてると思わない?いろんな意味で」
 由希が溜息がちに漏らす。
「かけ離れてるってたとえばどんな?」
「甲斐はまだ来たばかりで知らねえと思うけど、この学校ってEクラスを除くとろくな所じゃないんだ」

 健一や由希が言うに、Eクラスはほぼ全校生徒の中での最下級奴隷扱いだという。
 SからDクラスの生徒達は金持ちという立場を利用して、Eクラスを徹底的なイジメと従者制度で笑いものにするのだとか。ちなみに従者制度というのはSクラスだけに与えられた特権で、AからEまでのクラスを対象に一人自分の世話係をつけられる制度の事。言い方を変えれば完全なるパシリである。

「その従者制度というのがまた厄介で、一度選ばれるとずっとパシリにされるのよ。主人の命令は絶対に服従で」
「でも、ようはSクラスの生徒と関わりにならなければ従者に選ばれることはないわけで。おとなしくしてりゃあ従者にならずに平和に暮らせるんだ。触らぬ金持ちSクラスに祟りなしってな」
「ほんとそれよ!でもね…従者制度より一番厄介なのは四天王の事かな」
「四天王…?」
 甲斐は首をかしげた。
「学園の中でも特に頭がよくて、顔もよくて、財力もあって、カリスマ性が秀でている学園を牛耳る四人組の事だよ」と、由希が説明する。

 彼ら四天王は生徒会や理事長すら下僕にする王者四人衆の事。
 表向きは芸能人かアイドルグループのようで全校生徒から崇拝されているが、裏では権力を振りかざして非人道的な事を楽しむ悪の四人組だとEクラスは認識している。
 Eクラスの生徒はもちろんの事、それ以外のクラスでも、気に入らない生徒がいれば徹底的にイジメと暴力の的にして、それから徐々に自ら手を下して潰すという恐ろしい四人組である。
 もし彼らの機嫌を損ね、最大限に怒らせでもすれば、その生徒の親をなんらかの形で懲戒解雇に追い込んだり、親の会社自体を倒産に追い込んだり、圧力をかけて一族全てを路頭に迷わせる事だって造作ないという。それはもう家の醜聞を世間にばらされての事なので、社会的名誉も信用も悉く奪われる末路を辿る。
 彼らの餌食になった者は、五体満足でこの娑婆を生きていけないのだ。

「中でも矢崎直と相田拓実って二人が最悪。もう傲慢で非情で血も涙もない悪魔ね。何度このクラスの生徒が標的にされたかってくらい、いろいろ陰湿なことされたよね」
「ああ。ほんとに今までよく誰も退学せずに生きてこれたもんだぜって感じだよ。Eクラスのみんなで肩を寄せ合って助け合ったりしてさ…」
 由希と健一が辛かったなあとしみじみ語りあっている。
「そんなひどい目にあったんだ…」

 ていうか、矢崎直って…友里香ちゃんの兄らしいよな?
 兄なのにそんなひどい性格なんだろうか。

「そりゃあもうすごい事されまくったわよ。いきなり四天王の相田拓実がつまらないから楽しませろって命令出して、全校集会終了後にあたし達Eクラスを体育館に閉じ込めたんだよ。んで、閉じ込められたあたし達は出るに出られなくてしばらく待ってると、突然蛇やらカエル数百匹が天井から降ってくる有様で…もうあたし達は大パニック!四天王やら在校生共は爆笑して見てるんだからっ」
「…うえ…マジかよ…」
 蛇やカエルとはえげつない話である。まあ、あのGじゃないだけマシか。
「この間の全校集会の時は八つ当たりとか抜かして、在校生達から集団で卵ぶつけられるわ、Eクラスの私物すべて学校中に隠されるわで大変だった。ようは、あたし達はあいつらの退屈しのぎのおもちゃだと認識されてんのよ」
 由希が怒り心頭に今までの事を恨みがましく話した。
「Eクラス全体が全校生徒の標的にされてる感じなんだな…」
「そう。多分、明日にある全校集会の時にも絶対何かされるわよ。甲斐も初めて四天王のひどさを体験すると思うから、身構えておいた方がいいよ。あと、制服汚れると思うから着替えとジャージは常時準備しておいた方がいいね」
「わ、わかった」
 Eクラスというだけで奴隷やいじめの対象にされるなんて理不尽な話だと甲斐は思ったのだった。


 同時刻、矢崎家が傘下のクラウンホテル最上階スイートルームにて―――…
「あっ…ン…な、お…アッ」
 まだ昼間にも関わらず、軋むベットの上で乱れる裸の少女。
 開星の生徒の一人である。
 脱ぎ捨てられた制服はベットの床下に乱雑に捨てられている。相手をほとんど強姦みたいにベットに押し倒して、少女の制服を強引にはぎ取って、体を貪った。ただ、己のためだけのストレス発散と性欲処理のために。気にくわなければ暴力に訴えてスル事もあるし、そのまま犯す事だってある。その日の気分次第。飽きたら捨てればいいだけの事。黙っていてもこの容姿と財力のおかげで、勝手に男だろうが女だろうが寄ってくるのだから相手には困らない。そうして捨てた相手がどうなろうがこっちは知った事じゃあないし、知りたいとも思わない。
 たかが性奴隷に過ぎないのだから―――…。

「アッ…直…し、幸せ…直にセックスで…あ、愛されて…」

 直と呼ばれた美青年は黒く滑稽に笑う。
 学校で見せていた華やかな一面とは打って変わって黒ずんだ瞳を見せた。

「愛されて?クク、何寝言ほざいてんだテメエ。誰がテメーみたいなブスを愛するかよ。たかが性奴隷が粋がるなよ…ドブスの成金が」
「アッんッ…それでも…幸せだから…あ、あ…イク。アア――ッ!」
 つくづく目障りな声…。
 男も女も抱く時はその甲高い声がひどく耳障りだ。
 わざとらしく嬌声を出しているのが丸わかりで萎えてしまう。こういう時しか使えない性奴隷のくせに、声までブスだと興が冷める。はやく終わらせて捨ててやろうと直は思ったのだった。


「あーつまんなーい。なーんかおもしろそうな事ないかなァ」

 ここは四天王のたまり場の高級ラウンジ。
 校舎の最上階に存在し、ガラス張りの壁から都会の景色を一望できる夜景の絶景ポイントでもある。
 一般生徒は入る事は許されず、生徒会すらも立ち入り禁止の区域。四天王に了解を得た者のみが入場できる。全てが最高級品の椅子やテーブルやソファーが並べられ、飲み物や食べ物など備え付けパネルを押せば自動的に運んでくれるオーダー式である。

「さっきからうるさいぞ、拓実」
 眼鏡をかけた美青年が苛立ちを口にする。
「だってぇー女の子達とゲームしてるのも飽きたしィ」

 拓実と呼ばれた四天王の一人は、この学校で上位に入る美女五人をはべらかせている。 名前は相田拓実あいだたくみ。四天王の中で一番女遊びがひどくてチャラ男。退屈だと先ほどからずっとわめいている。
 そのすぐ前の席には常に冷静で口数の少ない久瀬晴也くぜはるやがパソコンを弄っている。
 眼鏡をかけた学園一の秀才で彼も四天王の一人。

「お前はいつもそればかりだな」
「俺っちは退屈が大嫌いだからね。あーつまんないからEクラスの子達でも呼んで遊んじゃおうかなぁ。楽しい楽しい鬼ごっことか」
「またそれか。そんなものよく楽しめるな。Eクラスの生徒をいじめてそれで楽しめるのはお前と穂高くらいなものだぞ。直もたまに面白がっているがな」
「そういうハルっちはいっつもパソコン見てさ、まぁた株見たり勉強でもしてんの?」
「俺は人を弄んだり陥れたりして楽しむ事になんの面白みもわかん。そんな事をしているくらいなら、お前のいう株か勉強の方が楽しい」
「真面目ね~ハルっちは。人生楽しまないと損でしょ」
「お前みたいなのは俺はごめんだ」
 ハルが眼鏡をクイっと上にあげる。
「あれー珍しい、ハル君がここに来てるー」

 そこへ、いつもニコニコ笑顔で何を考えているかわからない穂高尚也ほだかなおやがやってきた。
 彼もまた四天王の一人。王子様のような外見とは裏腹に常に笑顔なので真意が読めない男である。

「俺は拓実がどうしても来いというから来てやっただけだ。全く、人をなんだと思っているのか…ぶつぶつ」
「穂高ちゃん、ねーねーなんか面白い事なーい?オイラヒマでさぁー」
 女の腰を抱きしめながら相田が楽しそうに訊く。
「うーん…ぼくも残念ながらヒマでさぁー…なんか面白い事ないか逆に拓実くんに聞きたいくらいだよぉ」
「えーー!そんなバナナぁー。じゃあ、直っちにまた面白い遊び聞こうかなぁ」
「残念だけど、直くんは今これないと思うよ。さっき学校サボってどっか行っちゃったの見たし。たぶんいつもの子とホテルだと思うよぉ」
 穂高がニコニコそう答えると、相田はつまらなさそうに舌打ちした。
「ちぇっ、ホテルかぁ。直っちどんだけセフレとしまくってんだか。可愛い男だろうが可愛い女だろうが見境ないよね」
「それは拓実君もじゃないの。四つ股してるって聞いたよぉ」
「いーじゃん四つ股くらい~。オイラ愛なんて信じないし、今のうちに遊んでおかへんと損っしょ。将来、どうせ好きでもない相手と政略結婚する事になるんなら、な・お・さ・ら」

 相田はあきらめを悟っているようにそう言うと、このラウンジになんとも言えない空気が漂った。同意するように穂高もハルも出された飲み物を一口含む。しんみりとしていた。


「まだここにいやがったのかよテメーら」

 制服を着ず、グレイのGパンと黒いシャツ姿で現れたのは矢崎直やざきなお
 曲者ぞろいの四天王の中で一番鬼畜で冷酷な男で、学園の中でも絶対的王者の帝王。
 世界的有数で日本一の大金持ちグループ矢崎財閥の御曹司である。

「あれれ?直っちはセフレと一緒じゃなかったん?」
「萎えたから捨ててきた」と、まるでどうでもよいように答える。
「捨てて来たって…あいかわらずねぇ。奴隷みたいに扱っちゃって。もうちょっと優しくしてあげないとだめよ~?特に女の子にはさ」
「愛人とか抜かして四つ股してるテメーには言われたくねぇな、拓実」
「ええやん別に。相手の子達も喜んでくれとるし、俺っちも気持ちよくなれて一石二鳥やからね!だいたい直っちはぁ~そんな邪険な扱いばっかしてるといつか後悔するんとちゃう?好きな子相手にはさ」
「え、直君好きな子いるの?」
 ニュースだと食いつく穂高。
「アア?んなモンいるわけねーだろ。勝手に作るなくそが!」
「えーでもいたら面白そうなのになぁ」
「そんなもんいねえし、作る気にもならねぇよ。残念ながら」
「でも、そう言う奴ほど、案外好きで好きでたまんない子がこの先できたりするんだよね。あのガードが固い友里香ちゃんだって、なんか恋してるみたいやし」
「は…友里香…?」
 呆気にとられる直。
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