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十一章/修学旅行(前編)
82.新たな出会い
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「ぎゃああーー寝坊したーー!!」
修学旅行当日に寝坊した甲斐は、布団を蹴飛ばして飛び起きた。
どうやらアラームを間違えていつもの時間に設定してしまい、本来起きる時間をとうに過ぎてしまっていた。
当然朝食を食べる余裕なんてなく、急いで着替えて猛ダッシュで寮を出る。
集合時間は6時30分。残り30分で到着できるだろうか。
「いそげえええーー!」
やむを得ずパルクールで家々の屋根を飛び歩く。人の家の屋根を通学路にするなんて申し訳ないが、今だけは見逃してほしい。せっかくの修学旅行に遅刻して参加できないなんて悲惨である。
「はあ……間に合ったっ」
パルクールの時間短縮もあって、空港前行きのバスになんとか乗り込む事に成功。交通渋滞などで遅れなければギリギリ到着できるはず。そうして恋人の直に朝のメッセージを送っておく。
寝坊して遅刻をした事を送ると呆れながらも心配していたが、今なんとかバスに乗り込めた事を返信すると、気を付けて来いと返ってきた。
こんな風に恋人みたいなやり取りをしている自分がなんだか不思議だ。
少し前までリア充にならずに童貞として一生を生きていくつもりでいたが、まさか恋人ができるなんて人生わからないものだ。
ただ、相手は同性だが。
「おい350円だと!値上がりなんて聞いてねえぞゴルァ!」
いきなりの乱暴な声にふと顔を上げると、何やら運転手とガラの悪い乗客三名が揉めているようだった。
「す、すみません。今日から運賃を値上げしたんですよ」
「ああん?そんなのしらねーよ。いつもの330円だと思ってたのに20円も値上がりとかなめてんのかてめえ!」
「ひえっ、そうは言われましても」
ガラの悪い乗客の一人は運転手の胸倉をつかみながら怒鳴り散らした。残りの二人も畳みかけるように運転手に文句を言っている。いかにも見た目が反社も真っ青な香ばしい連中だ。
「たった20円で文句とかいい大人が……ヒソヒソ」
「20円くらい払えないのかしら……コソコソ」
「それに値上りするのは前から告知していたのに……ボソボソ」
乗客たちが口々に非難めいた目で見る。
それでも怖そうな相手に表立って正面から文句を言える者はおらず、ただ不満げに小声で呟くだけ。
「なんか文句あんのかお前ら」
ガラの悪い一人が乗客に向けて睨むと、乗客達は一斉に視線をそらした。
「あるに決まってんだろ」
しかし甲斐だけはイライラした様子で返事をした。
「ただでさえ遅刻ギリギリで落ち着かない状態なのにお前らのせいで遅刻なんてシャレにならねーわ」
「あんだと!なんだてめえ!」
「高坊のガキのくせに生意気だな」
「ボコボコにされてえのか!」
「ボコボコにされるのはお前らだ。20円くらいとっとと払えカス。払えねーならとっとと降りろ」
甲斐は問答無用で三人を高速でひねりあげ、一気に地面に這いつくばらせた。
「ぐへえっ!つえええ!」
「ガキのくせに手も足も出ねえ」
「こいつ化け物だろ」
「誰が化け物だ。はやく20円払って降りろや。ぶち殺すぞ」
甲斐が切羽つまり過ぎて血走った目で睨むと、三人は蒼白。20円を放り投げてすぐにバスを降りて行った。
とんだ雑魚を相手にしてしまったがこうでもしないとマジで遅刻するのだ。
「わっはっは!」
そんな時、誰かの笑い声が響いてきた。
「いやーいいものを見せてもらったぞ。お若いの、強いのぅ」
甲斐の背後から一際威厳のありそうな初老の男とお付きの長身男が現れた。
「まだまだこんな勇ましい若者がちゃんといるようで、わしはスカッとした」
「噂に聞いていた通りの人のようですね、御前」
「奴が気に入るわけじゃ」
初老の男は着物を着ており、長身の男はこげ茶の髪にスーツを着たとてつもないイケメンであった。
甲斐は訝し気に二人を見ていると、運転手がすっかり怯えた声で話しかけてきた。
「あ、あの……しゅ、出発してもよろしゅうございましゅでしょうか……」
「おお、すまんすまん。もう大丈夫だからとりあえず運転手さんや出発してくれたまえ」
気を取り直して発車。しかしこのまま乗り続けていても集合時間に遅れてしまうかもしれない。結構なタイムロスをしてしまったようだ。甲斐は頭を抱えた。
「うう、どうしよう……こりゃ遅刻かも」
「どうかしましたか」
「行先の空港に間に合うか微妙でして……」
「ああ、そういえば開星は今日から修学旅行でしたね」
「知っているんですか」
「ええ。知り合いが開星の生徒なので。よろしければ車で送りましょうか。騒ぎを止めてくれたお礼です」
「いいんですか!?」
お言葉に甘えて甲斐は車に乗せてもらう事にした。
次のバス停で降りると、事前に連絡を入れていたのか用意されたベンツが停車されていた。高級車からしてこの二人はただ者ではなさそうだ。
イケメンが運転する事になり、甲斐は助手席に乗った。
「そういえばそちらの名前を聞いてなかった」
怪しい者ではないとは思うが警戒しなさ過ぎたと反省。
「おっと、名乗るのが遅くなってすまんな。わしはこういう者だよ」
甲斐は名刺を受け取る。
「花園誠一郎さん」
「今はほとんど隠居しているようなものでな、まあ……その名前は世を忍ぶ仮の名前なんだ」
「へえ……仮名ね」
やはり只者ではなさそうだ。
「素性がバレると厄介な事が多くての。ワケあって花園と名乗っている。運転しているのはわしの護衛の相沢真生だ」
イケメンは運転をしながら頭を下げた。
「相沢真生です。よろしくお願いしますね、架谷甲斐くん」
こちらを一瞥してふわりと笑うイケメン。四天王並みに整った容姿にこりゃあモテそうだと思った。
「あれ、俺の名前を知っているんですか」
「そりゃあ、噂でよく聞きますから。そのうち、学校でも会うと思います」
「……え」
その後、高速道路で相沢のプロ並みのドライビングテクニックのおかげかギリギリ空港に到着した。
二人に礼を言い、甲斐はEクラスと無事合流できたのであった。
修学旅行当日に寝坊した甲斐は、布団を蹴飛ばして飛び起きた。
どうやらアラームを間違えていつもの時間に設定してしまい、本来起きる時間をとうに過ぎてしまっていた。
当然朝食を食べる余裕なんてなく、急いで着替えて猛ダッシュで寮を出る。
集合時間は6時30分。残り30分で到着できるだろうか。
「いそげえええーー!」
やむを得ずパルクールで家々の屋根を飛び歩く。人の家の屋根を通学路にするなんて申し訳ないが、今だけは見逃してほしい。せっかくの修学旅行に遅刻して参加できないなんて悲惨である。
「はあ……間に合ったっ」
パルクールの時間短縮もあって、空港前行きのバスになんとか乗り込む事に成功。交通渋滞などで遅れなければギリギリ到着できるはず。そうして恋人の直に朝のメッセージを送っておく。
寝坊して遅刻をした事を送ると呆れながらも心配していたが、今なんとかバスに乗り込めた事を返信すると、気を付けて来いと返ってきた。
こんな風に恋人みたいなやり取りをしている自分がなんだか不思議だ。
少し前までリア充にならずに童貞として一生を生きていくつもりでいたが、まさか恋人ができるなんて人生わからないものだ。
ただ、相手は同性だが。
「おい350円だと!値上がりなんて聞いてねえぞゴルァ!」
いきなりの乱暴な声にふと顔を上げると、何やら運転手とガラの悪い乗客三名が揉めているようだった。
「す、すみません。今日から運賃を値上げしたんですよ」
「ああん?そんなのしらねーよ。いつもの330円だと思ってたのに20円も値上がりとかなめてんのかてめえ!」
「ひえっ、そうは言われましても」
ガラの悪い乗客の一人は運転手の胸倉をつかみながら怒鳴り散らした。残りの二人も畳みかけるように運転手に文句を言っている。いかにも見た目が反社も真っ青な香ばしい連中だ。
「たった20円で文句とかいい大人が……ヒソヒソ」
「20円くらい払えないのかしら……コソコソ」
「それに値上りするのは前から告知していたのに……ボソボソ」
乗客たちが口々に非難めいた目で見る。
それでも怖そうな相手に表立って正面から文句を言える者はおらず、ただ不満げに小声で呟くだけ。
「なんか文句あんのかお前ら」
ガラの悪い一人が乗客に向けて睨むと、乗客達は一斉に視線をそらした。
「あるに決まってんだろ」
しかし甲斐だけはイライラした様子で返事をした。
「ただでさえ遅刻ギリギリで落ち着かない状態なのにお前らのせいで遅刻なんてシャレにならねーわ」
「あんだと!なんだてめえ!」
「高坊のガキのくせに生意気だな」
「ボコボコにされてえのか!」
「ボコボコにされるのはお前らだ。20円くらいとっとと払えカス。払えねーならとっとと降りろ」
甲斐は問答無用で三人を高速でひねりあげ、一気に地面に這いつくばらせた。
「ぐへえっ!つえええ!」
「ガキのくせに手も足も出ねえ」
「こいつ化け物だろ」
「誰が化け物だ。はやく20円払って降りろや。ぶち殺すぞ」
甲斐が切羽つまり過ぎて血走った目で睨むと、三人は蒼白。20円を放り投げてすぐにバスを降りて行った。
とんだ雑魚を相手にしてしまったがこうでもしないとマジで遅刻するのだ。
「わっはっは!」
そんな時、誰かの笑い声が響いてきた。
「いやーいいものを見せてもらったぞ。お若いの、強いのぅ」
甲斐の背後から一際威厳のありそうな初老の男とお付きの長身男が現れた。
「まだまだこんな勇ましい若者がちゃんといるようで、わしはスカッとした」
「噂に聞いていた通りの人のようですね、御前」
「奴が気に入るわけじゃ」
初老の男は着物を着ており、長身の男はこげ茶の髪にスーツを着たとてつもないイケメンであった。
甲斐は訝し気に二人を見ていると、運転手がすっかり怯えた声で話しかけてきた。
「あ、あの……しゅ、出発してもよろしゅうございましゅでしょうか……」
「おお、すまんすまん。もう大丈夫だからとりあえず運転手さんや出発してくれたまえ」
気を取り直して発車。しかしこのまま乗り続けていても集合時間に遅れてしまうかもしれない。結構なタイムロスをしてしまったようだ。甲斐は頭を抱えた。
「うう、どうしよう……こりゃ遅刻かも」
「どうかしましたか」
「行先の空港に間に合うか微妙でして……」
「ああ、そういえば開星は今日から修学旅行でしたね」
「知っているんですか」
「ええ。知り合いが開星の生徒なので。よろしければ車で送りましょうか。騒ぎを止めてくれたお礼です」
「いいんですか!?」
お言葉に甘えて甲斐は車に乗せてもらう事にした。
次のバス停で降りると、事前に連絡を入れていたのか用意されたベンツが停車されていた。高級車からしてこの二人はただ者ではなさそうだ。
イケメンが運転する事になり、甲斐は助手席に乗った。
「そういえばそちらの名前を聞いてなかった」
怪しい者ではないとは思うが警戒しなさ過ぎたと反省。
「おっと、名乗るのが遅くなってすまんな。わしはこういう者だよ」
甲斐は名刺を受け取る。
「花園誠一郎さん」
「今はほとんど隠居しているようなものでな、まあ……その名前は世を忍ぶ仮の名前なんだ」
「へえ……仮名ね」
やはり只者ではなさそうだ。
「素性がバレると厄介な事が多くての。ワケあって花園と名乗っている。運転しているのはわしの護衛の相沢真生だ」
イケメンは運転をしながら頭を下げた。
「相沢真生です。よろしくお願いしますね、架谷甲斐くん」
こちらを一瞥してふわりと笑うイケメン。四天王並みに整った容姿にこりゃあモテそうだと思った。
「あれ、俺の名前を知っているんですか」
「そりゃあ、噂でよく聞きますから。そのうち、学校でも会うと思います」
「……え」
その後、高速道路で相沢のプロ並みのドライビングテクニックのおかげかギリギリ空港に到着した。
二人に礼を言い、甲斐はEクラスと無事合流できたのであった。
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