【完】学園トップに反抗したら様子がおかしくなった(かねもち学園)

いとこんドリア

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十八章/黒崎家

164.黒崎家の過去8

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『ああ、そうそう。私があなた方にお会いしたかったのは、今後の事を話しておこうと思ったからなんです』
『今後の事?』

 訝しげに私達が社長を見つめる。決していい話ではないだろう事が薄々読めた。

『直が16歳になるまでは矢崎には一切関わらないと、直に会わないと約束してほしいのですよ』

 その契約書だと言わんばかりに秘書らしき人物からペンタブを差し出された。
 画面には秘密保持契約書なんて御大層な名前が電子書類として出ており、読み進めていくと一条から十条まで、直や矢崎家には関わらないと約束する事を文章にしている。16歳にしたのは御曹司としての一区切りだそうで、あえてこの年齢にしたらしい。
 もし破る事があれば、独自の賠償責任が発生するとの事。約束を破らない様に下部の欄に署名しろという事だろうか。ふざけている。と、思わずそのタブレットを叩き壊したくなった。

『こんなの約束できるわけありません!』
『そうよ!こんなので私達の意思が変わるとでも思ってんの!?』

 当然、私たち一同は不服だった。

『ですが、あなた方のような人がいると直の教育の妨げになる。跡取りとしての自覚が薄らいでしまいかねないんですよ。下手をすれば成長と共に直は本当の事を知り、本当の両親を探しかねないでしょう。そうならないように、我々としては直の過去の存在全てをなかった事にしたいんです。邪魔な存在は最初から芽を摘んでおかないと厄介になる。念には念を、ですよ』
『なかった事に……私達が……邪魔な存在……。冗談じゃありません。なかった事に、だなんて』

 目の前が真っ暗になった。一年という短い間ではあったが、家族みんなで過ごした楽しかった思い出が蘇ってくる。走馬灯のように。それを全て夢にでもしろと言うのだろうか。

『でなければ、私たちはあなた方を決して無視できないでしょう』

 社長の眼が冷たく細めいた。

『あまりこうは言いたくありませんが、我々がその気になればあなた方を簡単にどうこうする事が可能なんですよ。それこそ日本にいられなくする事など造作ない程にね。簡単に言えば社会的地位を失う。働き口をすべて無くし、路頭に迷い、どこへ行っても白目を向かれ、村八分にされる日々が待っている。そうなってもよろしいと?』
『なっ!』
『っ……』
『気分次第で外国の僻地へ送る事だって容易いんですよ。治安が最悪に悪い中東あたりの国などにね。どうしても要求を呑めなければ、そうなっても致し方ないでしょう』

 言葉が出てこなかった。ここでもし否定すれば、矢崎財閥を敵にまわし、本当に私たちは反社会的な立場に追いやられかねないだろう。彼らの黒い噂はこの世界では有名で、それこそ一家心中なんて生易しいもの。気に食わない相手の全てを根こそぎ崩壊させていくグループなのだ。
 そうなれば、直を取り返すどころではなくなる。二度と逢えなくなる。自分の命は直や悠里のためなら犠牲にしても構わない覚悟だが、二人を助けるために今それを投げ出す事は犬死にも同然だ。無駄な事をして二人に逢える機会を失うのはよくない。

『あなた方がここで反発すれば、我々に牙をむいた者達とみなし、我々は全力であなた方を絶望へと突き落とさなければならない。私としてはできれば手荒な真似はしたくない。直の肉親であるあなた方にね』
『…………』
『最低っ!このクソ野郎ッ!』

 我慢していた唯ちゃんが、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか椅子から勢いよく立ち上がった。

『ゆ、唯ちゃん落ち着いて!お腹の子に障るから』

 太郎さんが怒り狂いそうになっている唯ちゃんを押さえている。太郎さんに抱っこ紐で抱かれている甲斐君まで今にも泣き出しそうで、それが目に入らないほど唯ちゃんは相手の理不尽さに怒ってくれている。子供達のために……。

『落ち着けるわけないじゃない!こんな最悪な奴らに直君がとられたのよ!悠里ちゃんだってどこの馬の骨かわからん奴らに養子にとられてさ!あんまりだっ!!』
『唯ちゃんもういい』

 私は自ら声を出して制した。

『早苗ちゃん!?いいの!?こんな最低最悪な腹黒金持ち野郎に直君がとられちゃうんだよ!?』
『ここで暴れたらますます分が悪くなるでしょう?それに唯ちゃんは妊娠中なんだから暴れちゃお腹の子に影響を与えちゃう。私、自分の子供も大事だけど、親友の唯ちゃんや一樹さんや太郎さんも大事だから。だから、みんなに何かあったら気が気じゃいられないもの』
『早苗ちゃん……』
『早苗……』
『この場は……大人しく引き下がるしかないよ……』

 ごめんね……直……悠里……。助けられなかった事を……。
 みすみす辛い人生を送らせてしまうかもしれない事を……許して。
 
『まあ16年後、成長した直と面会くらいならさせてあげてもいいでしょう』
『え……』と、悄然と顔をあげる私達。
『ただし、その時次第の話ですがね』

 社長の黒い微笑みを前に、私達は黙ってその契約書にサインをする事しかできなかった。
 
 *

「それで、私達は16年も実の子供達と離れ離れになってしまったの」

 一先ず、早苗がそこまで話し終えると、甲斐を含むその場のみんなは怒りと悲しみを宿したような面持ちで黙っていた。誰もが数秒言葉を発せなかった。

「あの後、ブラックリストみたいなのに載っちゃったみたいでね。やくざのような連中に暴力を振るわれたり、命を狙われる事も何度かあったよ」
「っ……そんな事にまでなってたのかっ」

 甲斐は拳を握りしめながら怒りを露にしている。

「あたしらや誠一郎さんがなんとかその連中共から黒崎夫婦を守って今まで過ごしてきた感じ。相手次第で多少は怪我する事もあったけど、あんたと未来にだけには悟られないように生活していたのよ。陰ながら私達は私達であのバカ社長一味と戦ってたわけ。だから、黒崎一家にとってもだけど、私達にとってもあのバカ社長とは因縁があんの」
「そうだったのか。つか母ちゃんの性格からしてよくあのバカ社長を殴りに行かなかったな」
「だってあんたもいたし、それに未来も妊娠中だったから下手に動き回れなかったのよ。そうじゃなかったら、矢崎財閥の連中を片っ端から潰して歩いていたわよ。それくらい腹立つ野郎だったんだから!あーもう16年前の事なのに未だにあのバカ社長の腹黒い笑顔を思い出すだけでムカつきが止まらんわ。太郎さんもそう思ったでしょ!?」
「う、うん。そりゃあ腹立ったけど、ぼくは唯ちゃんがいつ社長を殴るのかハラハラしていたよ」
「あんな奴本当ならボッコボコにして当然でしょうが!!死刑よ死刑!」

 
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