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11.バカ殿
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「小屋作りって大変だけど、動物達と一緒に作ると楽しいね」
「おいら、熊さんやゴリラさんも手伝ってくれるとは思わなかったよ」
目の前には立派な小屋が建っている。4人は住めるくらいのそれなりの大きな小屋だ。
家具やキッチンもちゃんと作り、ベットも人数分用意した。精霊の加護がついているので雨風などの自然の猛威はない。
考えてみれば城下に住むよりとても快適で安心なんじゃないかと思う。
「ヴァイス君も疲れているのに放課後手伝ってくれてありがとう」
楽しそうなエイベルを見て、ヴァイスは微笑む。
「いい経験をさせてもらった。それに、お前が幸せならそれでいいから」
「え……」
「これからも、そうやって笑ってさえいてくれるならいい」
「ヴァイス君……」
「お前の幸せが、オレの願いだから……」
どうしてか彼の表情は少し暗い。どうしたんだろう。
「じゃあな。また学校で」
「あ、うん……また学校で」
なんだか名残惜しく感じたが、また明日学校で会えるからいいかと気にせずルルとぺぺとも別れ、エイベルも自宅へ帰った。
家には祖母が一人夕食を作って待ってくれていた。マリファナはあれ以来まだ帰ってきていないようだ。
「エイベル、今いいかい」
その晩の食後、祖母がエイベルの寝床の屋根裏部屋を訪れた。話があると言われて窮屈だが部屋に通す。
「お前にこんな事を今言うのもあれだと思うんだけど……」
祖母が深くため息を吐いて、改めてまっすぐこちらを見つめる。
「母親のマリファナとお前は血が繋がっていないんだよ」
「え……」
「父親とも繋がっていない。お前は元々、私たちが拾ってきた孤児だったんだよ」
「え、ええ。ぼくが孤児っ!?」
驚きながらも妙に納得してしまえるのは、マリファナや父がいつも自分に愛情を与えるような態度ではなかったからだ。そもそも、自分は母親とも父親とも全く似ていないと前々から思っていた。
「お前も明日で15。真実を話しておこうと思っていたんだよ」
「おばあちゃん……」
「だからと言って血の繋がりがなくても、お前は私と亡くなった爺様の孫だよ。そこは気にしないでおくれ」
「っ……うん、おばあちゃん」
むしろ、祖父母がいてくれてよかったと思っている。ほぼ育ての親である祖父母がいなかったら自分はここにはいなかっただろうし、むしろ生きてはいなかったとさえ思う。
「ねえ、おばあちゃん。あの人は……お母さんはまだ帰ってこないのかな」
あんな母親でも多少の心配はある。長年一緒にいた情が。
「さあね。あの子は嫌な事があるとすぐ家出を繰り返すような子だったから……育て方が悪かったのは後悔しているよ。あんなわがままになっちゃって。親戚からの影響を受けすぎたようだ」
マリファナは元々祖父母のいう事をきく真面目な娘だったそうだ。
しかし、祖父母を嫌う意地の悪い親戚が、マリファナを陰で甘やかし続けてその影響をとても受けてしまい、あのような我儘で自己中で他責思考に育ってしまったそうだ。
その上、男好きで惚れっぽい。祖父母も長年苦労しながらも教育し直そうとしたが、矯正空しく今もあまり変わる事はなかった。
「明日、マリファナの酒場に様子を見に行ってみるよ。お前は明日は第二の性別検査だったね」
「うん。特に異常がないからベータで変わりないと思う」
翌日、いつも通り学校に行く際、朝から妙に気怠かった。
熱っぽいし体も重い。風邪でもひいてしまったかなとふらつく足どりで歩いていると、つい前を歩いていた生徒と肩が当たってしまった。
その反動で棚に当たり花瓶が揺れて、水がその生徒にほんの僅かだがかかってしまう。
「あーー俺の制服がぁあ!」
大騒ぎするその生徒の顔を見て、エイベルは顔面蒼白になった。
「おい、ド平民……よくも俺様に肩をぶつけて大事な制服を濡らしてくれたな」
スイーツ国のアンソニーだった。
「も、申し訳ありませんっっ!!大変失礼な事を!」
ぼんやり歩いていた自分が悪いのだから、とにかく謝らなければと必死で頭を下げた。
「謝れば済むって問題じゃないだろう。アンソニー様の清潔な制服を貴様は水滴で汚したんだぞ!平民の分際で王族の制服をな!それがどういう事かわかっているのか!ああん!?」
アンソニーの側近も怒り心頭でエイベルを見下ろす。
「本当に申し訳ありませんっ!!」
土下座をして顔を床につけても謝り続ける。
遠巻きに見ていた貴族生達は「あいつ終わったな」とか「収容所送りけって~い」などと揶揄している。
「いい度胸だぜ。水滴すらおれ様の制服は聖域で許されないというのをわかっていなかったようだな」
「アンソニー様、いかがいたしましょうか。このド平民の処遇を」
「ふふふ、とりあえずこの制服の代金を払ってもらうしかないな。慰謝料もプラスで。そうすれば収容所送りだけは勘弁しといてやるよ」
さらさらと側近が請求書に金額を記入したものを提示する。
「こ、これほどの金額は……っ」
エイベルは顔色をますます悪くさせる。卒倒しそうな金額だ。
「これでも安くした方だぜ。おれ様は寛大で優しいからな。平民の事まで考える事ができるおれってば有能~」
高位貴族ならポケットマネーで一括で支払える金額だ。しかし平民で貧しい家系のエイベルにとっては大金も大金。一生働いても払えない金額だった。
「あ、あの……さすがにこの金額は……」
「あぁん?払えねえってのか。これでも寛大な御心で優しい金額を提示してやったのに。貧乏平民とはいえこれ以上はもう安くできねえぜ。借金してでも払いな」
「っ、そんな」
青い顔で半泣きのエイベルはどうしようかと震える。祖母に迷惑をかけてしまう。それどころか払えなければ収容所送りだ。完全に途方に暮れた。
「どうした、エイベル」
「あ……ヴァイス君……!」
震えて泣き出しそうなエイベルを見かねたヴァイスが声を掛けてきた。
「おいら、熊さんやゴリラさんも手伝ってくれるとは思わなかったよ」
目の前には立派な小屋が建っている。4人は住めるくらいのそれなりの大きな小屋だ。
家具やキッチンもちゃんと作り、ベットも人数分用意した。精霊の加護がついているので雨風などの自然の猛威はない。
考えてみれば城下に住むよりとても快適で安心なんじゃないかと思う。
「ヴァイス君も疲れているのに放課後手伝ってくれてありがとう」
楽しそうなエイベルを見て、ヴァイスは微笑む。
「いい経験をさせてもらった。それに、お前が幸せならそれでいいから」
「え……」
「これからも、そうやって笑ってさえいてくれるならいい」
「ヴァイス君……」
「お前の幸せが、オレの願いだから……」
どうしてか彼の表情は少し暗い。どうしたんだろう。
「じゃあな。また学校で」
「あ、うん……また学校で」
なんだか名残惜しく感じたが、また明日学校で会えるからいいかと気にせずルルとぺぺとも別れ、エイベルも自宅へ帰った。
家には祖母が一人夕食を作って待ってくれていた。マリファナはあれ以来まだ帰ってきていないようだ。
「エイベル、今いいかい」
その晩の食後、祖母がエイベルの寝床の屋根裏部屋を訪れた。話があると言われて窮屈だが部屋に通す。
「お前にこんな事を今言うのもあれだと思うんだけど……」
祖母が深くため息を吐いて、改めてまっすぐこちらを見つめる。
「母親のマリファナとお前は血が繋がっていないんだよ」
「え……」
「父親とも繋がっていない。お前は元々、私たちが拾ってきた孤児だったんだよ」
「え、ええ。ぼくが孤児っ!?」
驚きながらも妙に納得してしまえるのは、マリファナや父がいつも自分に愛情を与えるような態度ではなかったからだ。そもそも、自分は母親とも父親とも全く似ていないと前々から思っていた。
「お前も明日で15。真実を話しておこうと思っていたんだよ」
「おばあちゃん……」
「だからと言って血の繋がりがなくても、お前は私と亡くなった爺様の孫だよ。そこは気にしないでおくれ」
「っ……うん、おばあちゃん」
むしろ、祖父母がいてくれてよかったと思っている。ほぼ育ての親である祖父母がいなかったら自分はここにはいなかっただろうし、むしろ生きてはいなかったとさえ思う。
「ねえ、おばあちゃん。あの人は……お母さんはまだ帰ってこないのかな」
あんな母親でも多少の心配はある。長年一緒にいた情が。
「さあね。あの子は嫌な事があるとすぐ家出を繰り返すような子だったから……育て方が悪かったのは後悔しているよ。あんなわがままになっちゃって。親戚からの影響を受けすぎたようだ」
マリファナは元々祖父母のいう事をきく真面目な娘だったそうだ。
しかし、祖父母を嫌う意地の悪い親戚が、マリファナを陰で甘やかし続けてその影響をとても受けてしまい、あのような我儘で自己中で他責思考に育ってしまったそうだ。
その上、男好きで惚れっぽい。祖父母も長年苦労しながらも教育し直そうとしたが、矯正空しく今もあまり変わる事はなかった。
「明日、マリファナの酒場に様子を見に行ってみるよ。お前は明日は第二の性別検査だったね」
「うん。特に異常がないからベータで変わりないと思う」
翌日、いつも通り学校に行く際、朝から妙に気怠かった。
熱っぽいし体も重い。風邪でもひいてしまったかなとふらつく足どりで歩いていると、つい前を歩いていた生徒と肩が当たってしまった。
その反動で棚に当たり花瓶が揺れて、水がその生徒にほんの僅かだがかかってしまう。
「あーー俺の制服がぁあ!」
大騒ぎするその生徒の顔を見て、エイベルは顔面蒼白になった。
「おい、ド平民……よくも俺様に肩をぶつけて大事な制服を濡らしてくれたな」
スイーツ国のアンソニーだった。
「も、申し訳ありませんっっ!!大変失礼な事を!」
ぼんやり歩いていた自分が悪いのだから、とにかく謝らなければと必死で頭を下げた。
「謝れば済むって問題じゃないだろう。アンソニー様の清潔な制服を貴様は水滴で汚したんだぞ!平民の分際で王族の制服をな!それがどういう事かわかっているのか!ああん!?」
アンソニーの側近も怒り心頭でエイベルを見下ろす。
「本当に申し訳ありませんっ!!」
土下座をして顔を床につけても謝り続ける。
遠巻きに見ていた貴族生達は「あいつ終わったな」とか「収容所送りけって~い」などと揶揄している。
「いい度胸だぜ。水滴すらおれ様の制服は聖域で許されないというのをわかっていなかったようだな」
「アンソニー様、いかがいたしましょうか。このド平民の処遇を」
「ふふふ、とりあえずこの制服の代金を払ってもらうしかないな。慰謝料もプラスで。そうすれば収容所送りだけは勘弁しといてやるよ」
さらさらと側近が請求書に金額を記入したものを提示する。
「こ、これほどの金額は……っ」
エイベルは顔色をますます悪くさせる。卒倒しそうな金額だ。
「これでも安くした方だぜ。おれ様は寛大で優しいからな。平民の事まで考える事ができるおれってば有能~」
高位貴族ならポケットマネーで一括で支払える金額だ。しかし平民で貧しい家系のエイベルにとっては大金も大金。一生働いても払えない金額だった。
「あ、あの……さすがにこの金額は……」
「あぁん?払えねえってのか。これでも寛大な御心で優しい金額を提示してやったのに。貧乏平民とはいえこれ以上はもう安くできねえぜ。借金してでも払いな」
「っ、そんな」
青い顔で半泣きのエイベルはどうしようかと震える。祖母に迷惑をかけてしまう。それどころか払えなければ収容所送りだ。完全に途方に暮れた。
「どうした、エイベル」
「あ……ヴァイス君……!」
震えて泣き出しそうなエイベルを見かねたヴァイスが声を掛けてきた。
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