【完】神の落とし子の番

いとこんドリア

文字の大きさ
20 / 44

20.フェンリル

しおりを挟む
(ついでに言っておくがわしはカラスではないぞ。不死鳥フェニックスだ)
「え、不死鳥って……」
(一応、鳥達の親玉をしておるな。人間共に見つかるからカラスに姿を変えているだけだ)

 不死鳥フェニックスって有名なあの伝説上の霊鳥の事だろうか。いや、まさか。見た目はただの可愛らしいカラスにしか見えない。

(おれもただのカブトムシじゃないカブ。ゴールデンヘラクレスオオカブトだカブ)

 ヘラクレスオオカブトは昆虫界の帝王と言われている。その中でも特に伝説上の存在と呼ばれているのが黄金に輝く皮膚を持ったものだと聞いた事がある。それでも見た目はただのカブトムシだ。

 そんな頼りになる彼らは、たくさんの鳥達や虫達を従えて一斉に向こうの方へ飛んで行った。それを見送ってエイベルも急いでヴァイスの手当てを行う。

 ええと、おじいちゃんの教えでは止血にはヨモギやチドメグサ。手当をするには水と布代わりの葉っぱで……

 鳥達や虫達がヘイトタマールの追手共を引き付けている間、エイベルは余裕をもってヴァイスの手当てに集中する。
 時々、遠くから誰かの奇声や悲鳴が聞こえたような気もしたが、エイベルは空耳だよねと気にせずに手を動かした。

 
「これで応急処置はできた」

 一先ず簡単な手当ては終えて血は止まったが、ヴァイスの額などを触れば異常に熱い。やはり熱も出ているのだろう。ヴァイスの辛そうな表情がどんどん深くなっていくのを見て、エイベルは不安に駆られる。
 
 どうしよう。自分じゃあ祖父のようにこれ以上の処置などできない。熱を下げるには解熱薬の服薬と静かな場所で安静にさせなければならない。どうすれば……

(おい、エイベルか!?)

 ハッとして顔をあげると、背後には見慣れた毛並みを持ったニワトリがいる。

「も、もしかして……チャーボ君……!?」

 そうだと言わんばかりに「コケっ」と鳴いた。それにねずみのチュータやフクロウのフクコも姿を見せた。

(やっぱりエイベルザマス。無事でよかったザマス)
(ここで会えてよかったチュー)

 家を燃やされて安否が不明だった家での友達。生きて再会できた事に目尻に涙が溜まっていく。

「家を燃やされた時、すごく心配だった。死んじゃったのかって思って……みんな無事でよかったよぉ……」
(エイベルも無事でよかったコケ。あの時はなんとか逃げるのに必死だったコケ)
(でも途中でね、この白いオオカミさんがここまで逃がしてくれたんだチュー)
(炎が迫る中、間一髪で逃がしてくれたんザマス)

 そう言う三匹の背後には、白くて綺麗な毛並みの巨大なオオカミのような動物がいる。
 シューセンド兵が使役しているオオカミかと一瞬強張ったが、よく見れば全然美しさも大きさも違う。

「キミは?」
(我はフェンリル。フェンとでも呼んでくれ。普段は王家に飼われているオオカミとして身を窶しているのだが、本当は奴ら王家の人間を監視するためにスパイとして潜り込んでいたのだ)

 話し方やそう説明する様子が王家にいるオオカミよりよほど強くて賢そうだ。

「王家にスパイ……そうだったんだ。ウルフってオオカミとはまた違うのかな」
(ウルフは骨の髄まで人間に躾けられ肥やされた王家の犬だ。他の王家のオオカミもほぼ奴らの忠実な下僕となっている。まったく堕ちた奴らだと失望している)

 フェンは王家の手先となったオオカミ達に憤っている様子だ。

(我の知り合いからここにお前がいると聞いて急いでやってきたのだ)
「知り合いってカラス君とカブトムシ君の事かな)
(ああ。カラスの姿をしたフェニックスと、普通のカブトムシの姿をしたゴールデンヘラクレスオオカブトだろう。奴らは我の仲間であり、聖龍様を守る我と同じ配下でもある)
「そうなんだ。いっぱい配下がいるんだなぁ……ってそれより、友達が大怪我しちゃったんだ。このままじゃ死んじゃう。だからすぐに森に行って解熱薬を飲ませて看病したいんだよっ」

 解熱薬を作る薬草はこの辺にはなさそうだった。森に行けば薬師の卵であるぺぺが作っているかもしれない。

(わかっている。聖龍様は絶対に死なせてはならん。だから我の背に乗るがいい。我のスピードならすぐに森へ辿り着けるぞ)
「ありがとう。頼むよフェン君」

 銀の毛並みの背に乗り、自分とヴァイスが振り落とされないように紐でしっかり結びつける。もちろんチャーボ達も同じように結びつけた。

(では出発する。全員振り落とされないようにな)

 フェンが大地を蹴ると、全身に風を感じて猛スピードで背景が横切っていく。
 とても早い。馬車なんかよりも何よりも早い。あまりの高速に目を開けていられない程だ。
 それでも5分程度で見慣れた森の景色が見えて来て、その速さに改めて驚かされた。

 オオカミというのはこれほどまでにスピードが出るのだろうか。そう疑問を口にしたら「我はオオカミではない。フェンリルだ」と、訂正を要求してくるのだった。
 そんなフェンのおかげで数分程度で森に到着した。

「ありがとうフェン君!」

 森の入口に到着してすぐに背を降りると、エイベルの気配を感じ取った動物達が集まってくる。

「あ、エイベルだ」
「お~い!」
(エイベルー!)

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

処理中です...