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二章禁断の愛の始まり

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 通学路から俺への侮蔑の眼差しが四方八方から注がれる朝は辛い。しかもくそ長い週末の始まりである月曜日。
 夢オチだったらどんなにいいかと思っていたが、そう現実は甘くはない。俺への評判はEクラスの奴隷という立場よりさらに下の強姦魔というレッテルが張られているので、もはや俺にだけ汚物を見るような目が注がれている。それを右から左に流して昨日見たエロ同人の妄想をしていると、

「架谷くん」

 神山さんらと宮本くんが急いで駆け寄ってきた。俺を心配してきてくれたのかな。

「おはよう神山さんも宮本くんも」

 俺が笑顔で返すと、二人は拍子抜けしたような、でも何か言いたげな顔で言い淀んでいる。

「あれれどうしたの二人とも」
「いや、架谷くん大丈夫なのかなって。こんな状態なのに学校に来れるのもだけど」
「ふむ……」

 まあ、無理もない。
 この町での俺は皆の衆から煙たがられているからな。みんなが俺を犯罪者のような目で見て接してきているわけで、普通の人なら耐えられないだろう。それどころか堂々と学校に来れる俺は、神経が図太くてイカれてんじゃないかって思われていても不思議ではない。

 だけど俺は似たような経験しすぎてちょっとやそっとじゃへこたれなくなったわけよ。自分の事で何言われても平気なくらいには。前向きなのが取り柄なのとイッツ開き直りに定評があると思っているので、まわりの連中の思い通りへこたれていたら矢崎の思う壺だ。これから矢崎を更正させるってのに、矢崎のショボいくそつまらん嫌がらせに屈するかよ。

「平気だと言えば嘘になるけど、それなりに耐性はついてるから平気だよーん」

 豆腐メンタルな親父を持つ俺としては強くなったとは思わんかね。じゃなかったらとうの昔につぶれているよなあ。そこだけは強いハートを持つようになった俺は自信を褒めたい。あの小学校時代のイジメと中学時代の逮捕という経験があったおかげで成長できたもんなのだから。

「架谷くん……」
「俺、矢崎の奴を更正させなくちゃいけないから負けてられないんだよね」
「そんな事……できるの?あの四天王の矢崎直だよ」

 さすがの神山さんも無理して俺に学校に来ないでほしいと言いたげだ。宮本くんなんて自分の事のように泣きそうになっている。教室に行けば椅子や机がないかもしれない。他のクラスの奴らに罵声を浴びせられるかもしれない。でもそんな事は小学校時代にやられた経験があるから、俺にとっては想定内だ。

「心配すんな」
 俺は二人の頭を撫でてやった。
「退屈な毎日より、こういう刺激ある毎日の方が俺としては張り合いがあるんだ。矢崎には負けないよ」

 二人を励ますための嘘だけどな。平穏が何よりです。家で二次元を漁りつつ浸りながらの平穏な日々がほしいです。俺の日常よ戻ってこいやぁ。


 我らがEクラスの教室の扉を開けると、俺の姿を見るなり驚きつつもワッと取り囲む面々。おうおう、みんな心配かけてすんま千円。世間からの俺への風当たりが強い中、ここのEクラスの仲間達はいつもと変わらず俺に接してくれるようで嬉しいよ。それに椅子も机も消えていなかった。結構汚れているという事は、曲者共の襲来から死守してくれたようである。

「それにしても呑気に学校来てていいの?家の方も大変なんでしょ?」
「別に大したことないよ」
「大したことないって……」
「俺の家族はみんな呑気者だし、前向きだし、格闘一家だからちょっとやそっとじゃへこたれない。収入源である親父がリストラした訳じゃないしどうってことないさ」

 親父はすぐ泣くくらい豆腐メンタルだけどやる時はやる。母ちゃんもドジだけど親父以上に精神力は強い。未来は世渡り上手なのであいつはあいつでうまい具合に立ち回れる。じいちゃんとばあちゃんは慕う人がたくさんいる教祖みたいな存在なので心配無用。よって俺の家族は全員心配無用だ。たとえ親父が職を失って自給自足サバイバル生活になったとしても生きてはいける。

「そ、そんなんで本当に大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。なんとかなるっしょ。問題は俺だよ俺」

 こんな状態が続くといろんな意味で今後の就職などに支障をきたしそうだな。今も簡単なバイトすら見つからずに支障をきたしている。困っちんぐマチ子先生状態。おこづかいがないとエロゲ買えねーし死活問題だ。

「バイトすらできねーって大変だな。甲斐、はめられたんだろ?矢崎の彼女に。つくづく人生ハードモードな親びんで気の毒だよ」

 俺の悲惨な状況を悲しんで健一が自分の事のように嘆いている。そんな涙目みせるなよ。男が涙を見せるのは好きな相手だけにしときなさい。

「俺がへこたれちゃ~あの四天王や秘密の花園に対抗できないだろ。やっと張り合えるような相手がでてきたんだ。俺としてはちょっと楽しみだったりー」

 そう胸を張りながら嘘乙あぴーるしていると、昨日の金髪ショートの美少女が席を立ち上がって出ていくのが見えた。もうサボるのかな。俺もたまにはさぼりたいなー。そういえばあの子の名前未だにわからないので訊いてみよう。

「なあ、健一。あの金髪の美少女の子知ってるか?」
「え、ああーあの金髪ね……篠宮恵梨しのみやえりか。急にどうしたんだ。もしかしてあの子に興味わいてきたとか」
「いや、そういうわけじゃねーけど繁華街で見かけてさ」
 繁華街で見かけて平手打ちかまされたけどな。
「んーあの子は……あんま関わるのよした方がいいぜ」
 健一はなぜか尻込みする様子である。
「え、なんでだ?」
「あの子、矢崎直の元カノだって話だからだよ」
「え……元カノ?え!?」

 俺は言葉が続かないほど驚いた。あの矢崎の元カノだと!?
 いやまあ超絶美男美女お似合い同士なんだろうけど、まさかの元カノだったとは仰天である。でもあの子俺らと同じEクラスだよな。矢崎の元カノならなんで奴隷と有名なEクラスの子なんだろ。この学園のカースト制度から見てEクラスの生徒が恋人だなんて矢崎自身も嫌がりそうなはずだが……
 弱味を握られているとか?無理矢理されたとか?うーん……

「なんで矢崎はEクラスの子を彼女にしてたんだろ?」
「なんでかは知らないが、あの篠宮恵梨は元々Sクラスだったんだよ」
「え……Sクラスだったの」

 矢崎らが在籍する最上級優遇クラスってやつか。金持ちの中でも超エリートしか在籍できないとかなんとか言ってたな。特に四天王はカードゲームでいうSSRスーパーレアURアルティメットレアか。四人そろえばLRレジェンドレアクラスかもしれん。ぐへー身分の差が月と便所並みの差が開いてるよ。

「そう。元々Sクラスで結構有名な家育ちだったみたいだが、お家騒動的なので勘当されてEクラスになったって噂だよ。何があったか詳しくは知らないけど、これだけは結構有名な話。でもEクラスに成り下がったと言っても、矢崎の元カノって効力は絶大みたいで、誰も彼女を俺達みたいな奴隷にしようと考える者はいないみたいだ。それに元々の俺達Eクラスからすれば、得体が知れないから腫れ物扱う感じで接しにくい子だなって印象だ。なに考えているかわかんねーし、Eクラスになったとしても矢崎の元カノという肩書きでSクラスの生徒扱いだしな」
「そう、なんだ」
「ちなみに神山さんも元Sクラス推薦だったんだ」
「え、神山さんも?」

 意外であった。秘密の花園に狙われていたので、てっきり始めからEなのかと思っていたよ。

「そう。あんな超絶美少女で親が結構裕福な家だからさ、当初はSクラスに推薦状がきてたんだ。だけど神山さんは中学が一緒だった由希が心配で自ら進んでEクラスになったらしい。親には猛反対されて嘆かれていたけどな。あと神山さんの熱烈なファンの人達とかにも嘆かれて、学園の三大美女がEクラスにってモテない成金野郎軍団からは相当悲しまれていたな。幼馴染みなのに知らなかったのか?」
「いや、しらんかったよ。家は金持ちだろうなとは思ってたけど」

 神山さんの家は羽振りがよさそうだとは思っていた。そんでもって両親はやたらと俺の事を敵視していたっけ。

 小学校時代に俺がパンツを盗んだ犯人扱いされた時だって、ほら見たことかって勢いで畳み掛けてきていたな。特に父親の方は娘コンこじらせていて、娘の神山さんも呆れていたくらいだ。たぶん、俺の家が貧乏すぎて見下していたのもあるんだろうけど、娘が心配だからって意味もあるんだろう。それは親としては当然だろうけどさ。

「つーか学園三大美女?」
「神山さんの事と、あと俺が恋慕を抱く佐伯先生と矢崎の元カノの篠宮恵梨の事。その三人だけはSクラス並の別格扱いさ。四天王が女子人気すごいなら男子人気はその三人がすごいな」
「へぇ……まあたしかにあの三人だけ次元が違う美女だなとは思ってたな。それにしたってその三人ともが俺らがいる下流階級クラスだなんて不思議なもんだ」
「ふふん、おかげでその三人のファンクラブ共は、三人ともEクラスというATフィールドが邪魔をしてモーションをかけにいけないというある意味ざまあ状態だったりする。アプローチしたいがために軽々しくEクラスなんかに行けば、自分もEクラス扱いされて遊ばれたりターゲットにされるかもしれないから、自分可愛いさに抜け駆けもアタックもできない臆病者な連中なわけだ。佐伯先生狙いの俺としちゃあ度胸のない邪魔者がいなくてラッキーだったりするしね。まあとにかく、篠宮の事……首突っ込むのやめた方がいいよ。矢崎の元カノってだけで地雷だしな」

 健一にそう促されたが、そう言われるとなんだか余計に気になってくる。昨日街で出会ったご縁もあるのだろうけれど、それ以外に放っておけないというか……
 
 そんな時、ピンポンパンポーンと校内放送が流れた。

『えー強姦魔でオレの従者の架谷甲斐。貴様に用があるから五分以内に展望ラウンジに来い。来なければわかってんだろうな?』

 は?なんだこの校内放送。と、俺や健一達みんながざわつく。どう聞いても矢崎の野郎の声だったから無視しようかなとか考えていたら、

『尚、無視して来なければ、貴様が昨日買った薄い本の題名と中身を朗読する。まず一冊目、おげれる私を好きにして……という本から。中身はヒロインの女がおっさん共やゴブリン共にひどい目にあい、アへ顔ダブルピースで締めくくるというドスケベ本のようだ。という事で暇な奴は心して聞くように』

 
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