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五章仮面ユ・カイダー爆誕

5ー20

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 はあ……どうしたものか。
 なんで俺こんな嫌な気持ちになってんだろ。まるでほしいゲームがどこ行っても売り切れだったり、あと一歩のところで違うファンに買われたりという心境に近い。

 矢崎と草加がキスしている所を見た途端にこの不快感さ。矢崎の野郎が何していようが関係ないのに一体どうしたって…………あ。

 キスしたからイライラして、それで草加が矢崎を好きって聞いてから余計にそれがひどくなったって事は……

 リア充が妬ましいからか?
 うむ、確かにそれは腹立つ。腹は立つがここまでイラつきはしないだろうし、第一俺は二次元派なので三次元の奴らが乳くりあってようが勝ち組自慢してようが勝手にしてろって思うタイプだ。リア充はなんとなくムカツクけどな。

 でも、この思った以上のムカつきようはなんだ?なんでこんなに腹立っているんだ。一向にこのムカムカが治らんよ。
 野郎同士のラブシーンを見てしまって気色悪いと思ってしまってんのかな。同性同士だもんなー。偏見はないと思っててもいざ見ると、無意識に生理的嫌悪感を感じているのかも。そもそも知っている奴のラブシーンなんて見たくねえし。

 くそ、矢崎め。
 あんなの見せやがって。思いっきりぶん殴ってや「架谷!」
 噂をすればなんとやら。息を切らせた奴が近づいてくる。

「出やがったなこの嘘つき野郎!!」

 俺は鬼の形相で勢いよく振り返った。背後から近づいてくる奴の気配に気づいていたのだ。

「は?」

 呆気にとられている矢崎。しらばっくれる気かこの野郎。俺がバカだからと思って舐めやがってよ。リア充はまじで爆発しろ。そして、俺に愛人関連とすべて手を切ると言ったその嘘つきの口を縫い込んでやるわ。覚悟しろや。

「よくも俺を騙したな。女とすべて手を切ると言いながら俺に不快な光景を見せやがって!女がダメだと思って男の趣味に走ったのか貴様!」
「は……?や……お前、誤解してる」

 矢崎は俺の言っている事をなんとなく理解したようだ。でも反省しないなら鉄拳制裁だぞ。

「五階!?お前のいるラウンジは確かに五階にあるだろうがあそこは五階とは言えねーんだよ!!このとうへんぼくが!マジ意味不明だ!!」
「……お前の方が意味不明だ。そもそもそういう意味の五階じゃねーよ!アホか!」
「アホ言うなくそったれがよ!そもそもどういう五階だよ!俺はな、お前が少しずつ更正してくれているのをあれほど嬉しく思っていたのに、愛人と手を切るどころかもやしみたいな野郎とあんな事してやがってよぉ……嘘をついたのがゆるせねーんだよ!嘘つき野郎!」
「だから誤解だっつってんだろ!!た、たしかにあいつから抱きつかれて抵抗しなかったオレも愚かだが、それくらいはあくまで不可抗力だ。文句言うんじゃねぇよ!!」
「それくらい文句言うなだと!?抱き合っているどころかき、き、き、き、ききキスしてkぐいで!!」

 童貞な俺は気恥ずかしくなってしまって思いっきり舌を噛んでしまった。俺のが恥ずかしいわ。いてえ。

「……キス?そんなもんしてねーよ!」
「うそをつくな!顔を近づけあってたじゃねーか!女ならいざ知らず、男同士でなんてありえねーわ!」
「っ……キスはしてない。それは間違いない……が、お前は……男同士がありえないとか……思ってるのか……?」
「そ、そりゃありえないだろ」

 俺がはっきり言うと、矢崎は傷ついたような顔をしたのがハッキリわかった。
 それでも俺の言い分は止まらない。
 
「嘘つかれてショックな状態だとなんでも気持ち悪く見えちまうに決まってんだろ!お前が誰かと至近距離で一緒にいるのを見て大変不愉快だった。胸焼けがひどかった。こんなにもイライラするなんて全部てめえのせいだ!」

 どうしてくれる!と、矢崎を強く睨み付けた。

「お前……そんなにも……」

 矢崎が何かを言いかけた所で、

「誰かー!!」
「私の息子を助けてえ!」

 近隣でたくさんの悲鳴の声があがっていた。

「なんだ……?」
「知らん。今はこっちの話をしていt「あっち優先だろ」

 矢崎と話しているとイライラしてくるので、話の腰を折る形で悲鳴があった方向へ走った。矢崎は後ろの方で文句を言っているが無視。面倒な事は嫌いだが、悲鳴を放っておけるほどさすがに心は狭くないので、最低限の正義感の方を優先だ。ぶっちゃけ矢崎から逃げるための口実でもあるけど。

 さすがの矢崎も俺の走りの早さには追ってこない様子でホッとする。50Mを4秒台で走る俺をなめるなよ。

 悲鳴が聞こえた先は市役所前。大勢の人々が集まっていた。
 パトカー数台も駆けつけており、見るからに大事件発生の様子だ。この頃は放火や爆発事件がなくて平和だったのにな。

「どうしたんですか」

 俺がたまたま隣にいた人に事情を訊ねた。

「それが変な武装集団がいきなりトラックでやってきて、市役所を占拠して今立て込もってるんだ」
「変な武装集団ねえ。なんで市役所なんだろ」

 銀行なら強盗目的だろうが、なぜかの市役所に首をかしげる。 

「なんか金目的ではないらしい。誰々を探しているとかなんとか」
「誰々を……?」

 もしかして……と思い当たった時、向こうから拡声器で『聞け愚民ども』と声が響き渡る。

『三時間以内に浅井康夫という男をここに連れてこい』

 拡声器の声は変声機を使われているために何者かは不明だ。それに要求は浅井か。ということは、武装集団の正体は白井の手の者で間違いないだろう。

『あと逃走資金用に100億ドルも準備しておけ。こっちは十数人の職員とガキの身柄を預かっている。だから余計な真似はできん。仮にもし余計な真似をしやがったら職員を一匹ずつ公開処刑する。それに三時間以内に浅井と100億ドルを用意できなければ全員爆弾でここら一帯を吹き飛ばしてくれる。職員共の命が惜しければ要求をのむ事だ!』

 こんな町中での突然のテロ宣言にまわりの人々は騒然。市民は逃げ惑い、警察もオロオロしてどうしていいかわからない状態だ。そもそも三時間で100億ドルを準備できる銀行があるかって話だ。バカじゃねえの。
 
「奴等はよほどあの男を野放しにされると都合が悪いらしいな」

 オレの電光石火に振りきられていた矢崎がやっとのんびり歩いて来た。

「だから、強行手段に出たという事だ」

 その言葉通り、浅井にはそれ以上になにか秘密が隠されている気がする。でなければ放火や爆破で狙われないだろうし、テロを起こしてまで身柄を要求なんてしないだろう。
 殺したいほど都合の悪い何かがまだあるのだろうな。
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