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八章御三家と球技大会とアンチ王道

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「まあ、今まで保健室でのんびり菓子食ってて、さらに巨大化一直線になりそうだし、練習どころか今日の試合にもなかなか参加してくれなかったけど、総子ちゃんてキーパーソンには間違いないよね」
「だよねー愛のパワーって時には思わぬ力発揮してくれそうじゃん」
「恋する漢女おとめは好きな人のためならなんだってできるらしいからね」
「そもそも総子ちゃんが参加してくれなかったら人数不足で終わってたんだから。参加してくれただけありがたいよ」
「ほんとそうだよ!さっすが御局女番長!我らが神様何様ブスタンク様!私達の勝利の女神ィ~!」

 他のEクラス女子も次々花野にヨイショ発言。褒めてるのかようわからん。

「ちょっとあんた達!それ褒めてるのか貶してるのかどっちなのよっ!」
「褒めてるんだよ総子ちゃん!甲斐君のためにがんばれるでしょ?」

 笑顔で俺のためと強調して花野にやる気を出させようとする悠里。キミも腹黒くなったよね。

「あなたのダーリンが見てくれているじゃないっ」
「そーそーあなたの甲斐君があなたを見ているのよ。好きな人のためだと思ってガンバローよ!」

 ここで急に参加しないとか駄々をこねられても困るので、Eクラス女子一同が一丸となって彼女をおだてまくっている。優勝のためだから煽てる内容が内容なだけに俺は何とも言えない心苦しさがあるというか、居た堪れないというか……俺をダーリンとか言って強調するのやめてもらえますかね?花野が調子に乗って後で勘違い行動してきても困るんですけど……って聞いてますか女子の皆さん。

「っ……ふん。仕方ないわね!そこまで言うならあたしが頑張ってあげない事もないわ!愛するダーリングのためなんだから。運動は時には美容と健康にもいいって話だし~綺麗になるためには適度な運動も必要よね」

 花野がぶつぶつ文句を言いながらも引き続き参戦確定でホッ。この決勝までこうやって煽てながら勝ち進んできた様子を見ると、Eクラス女子達も相当苦労したんだろうなと涙ぐましい背景が想像できる。花野の参加を促すことがまず大前提で、その参加を誘発させるにはある意味決勝に進むより難しかっただろうから、どうかその苦労が報われてほしいもんだよ。だがしかし、俺を花野の餌にするのはやめろっつーのバカ女共。 

「くふふ、いくら鼻の穴が三つある豚饅頭を一匹連れてこようが我らが百合ノ宮には勝つ事は不可能よ。あたしらの崇高なる愛の力を思い知るがいい。そして跪くがいい!あたしとお兄ちゃんの障壁となる者は一匹たりとも根絶やしにしてくれるわ!」

 相変わらず勝気な未来のバックに黒いオーラが見えるよ。もはやどこの悪役ヴィランだよってくらい顔も口調も邪悪な魔王みたいである。

 ああ、オラが不甲斐ないばかりに妹が……未来が不良さなっちまっただ。オラの可愛い妹よもどってこいぃ~!(´;ω;`)

「甲斐さんとのキスはこの勝負の勝者側にあり、MVPにだけ与えられる権利。しかし、どこぞの誰ぞにその唇があっさり奪われてしまうなんて許しがたい権利だと思いますわ。その権利を死守するためにもわたくし、甲斐様のために頑張ります!そして、頑張った暁にはどうかキッスを受け取ってくださいませ」

 えぇー……。そこまでして俺のキス券が欲しいのかね。でもMVPだからって相手からすれば好きでもない相手にキスしなきゃならんのは許しがたい権利なのは同感である。しかも拒否権なしに唇にするわけで、食堂タダ券は大歓迎だが、キス券はさすがに強要罪に当てはまる気がする。

「甲斐君の唇は渡さないよ!甲斐君にだって選ぶ権利はあるんだから。好きでもない人からのキスって相当嫌だろうしね。だから、甲斐君の妹だろうが百合ノ宮のお嬢様だろうが、甲斐君の童貞が奪われるのだけは見たくないから私、甲斐君を守るよ!」

 ちょっと斜め上に闘志を燃やす熱い悠里。キスどころか俺の童貞喪失を心配してくれているのはちょっとおかしい気もする。いやまあ、あの妹達の行動力や鬼気迫るモノを考えれば危機意識を持った方がいいんだろうけどさ、俺襲われる前提なんすかね?女の子からの逆レイプってやつっスか?最近の女子は行動力と積極性がありすぎて俺ついてけねー。

「どうでもいいけど、早く始めてくんない?」

 やる気があるのかないのか、マイペースな篠宮がごもっともな事を突っ込む。おっしゃる通りだ。早く始めてくれ。そして俺の事で取り合うのはやめてくれ。

「ぬおああああ!甲斐君のキスはああああたしのものおおおお!!」

 170越えの巨体もだが、顔面がもはや化け物じみている花野さん。彼女がMVPを取ることはないだろうが、そうならないためにEクラスのその他の女子の皆さんもほどほどに頑張っていただきたい。世にも奇妙な愛憎劇というか昼ドラに巻き込まれたくないんで頼みます。

「Eクラスの男子の皆さん、バスケの決勝戦ですので体育館に集合してください~!」

 万里ちゃん先生が俺達を呼びにきた。女の戦いの勝者は正直皆目見当がつかないが、俺達Eクラス男子一同も試合が迫っているので、Eクラス女子の勝利とMVPによる自分の(唇と貞操の)無事を信じてその場を後にした。

 
 バスケの決勝戦の試合会場は、当然ながら超満員もいい所であった。なんせ決勝は四天王の矢崎と久瀬が出場。その二人を見たいがために大半の生徒達はこちらに大集合しているのだ。

 もはや勝負云々というより、ただの娯楽というかお祭り騒ぎみたいなもの。こちとら食堂のタダ券のために全身全霊で勝ち上がってきたというのに、ただ矢崎と久瀬の様子が観たい。そのためだけに金を払ってでもこの超満員体育館に行きたい。そんな輩ばかりだ。

 ていうか入場料発生してんのかよ。呆れた。

「きゃあー!直様ーっ!!」
「いやあー!ハル様ー!!」

 相変わらずすげえ熱気と女子の悲鳴だ。こんな黄色い悲鳴を聞いていると逆に悲しみの悲鳴に変えたくなるのが僻み根性丸出しの男の願望である。俺はミーハー共が嫌いだからな。そして、フラグクラッシャーでもある。

「くぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlp」
「おい。竜ケ崎が緊張しすぎて意味わからん言葉呟いているぞ」
「中二病もさすがにこの場では心の崩壊マイハートカタストロフィなんだろうな」
「メンタルが阿鼻叫喚パンデモニウムってところか。気持ちはわからんでもない」

 運動音痴の竜ケ崎もよくここまで頑張ってついてこれたものだ。今日だけは褒めてやりたいよ。もし優勝できたら、後日お気に入りの妹萌え美少女アダルトDVDでもやるか。中古品の。



「ここまでよく勝ち進んだな、Eクラスの雑魚共」
「矢崎……」

 学校でいる時と、二人きりでいる時の態度が全く違うのは、自分達の関係をバレないようにするためだ。念には念を入れて対立関係を演じている。矢崎は相変わらず学校では作られた人格の俺様鬼畜ドSだし、俺は歯向かう生意気なEクラスの従者。でも本当の矢崎はよく笑顔を見せる根が素直な寂しがり屋で、そんな俺はエロい事に興味を持ち始めた脱処女間近なリア充。

 学校にいる間だけは素の自分達は秘密なのだ。 

「貴様らみたいな奴隷Eクラスが勝ち進むとは思っていなかった。侮っていたよ。だからお前らの頑張りに免じて、ちょっとばかり本気を出してやる」
「そりゃあ嬉しいね。あんたが本気なんて。楽しみにしているよ矢崎のお坊ちゃん」

 学校での偽りの姿を見ていると、俺だけが素の矢崎の姿を知っているから、偉そうな態度は少し違和感を覚える。普段はあんな素直で可愛い奴なのにねー。
 だけど、今は学校。世を忍ぶ仮の姿。手は抜かん。食堂タダ券のために!

「ひいい、四天王の矢崎直と久瀬晴也……い、威圧感すげえ」

 ヘタレEクラスの野郎共はすっかり四天王相手に委縮しまくっている。びびって腰が抜けている奴までいて、ちょっと心配になってきた。

「別に危害を加えられるわけじゃねーんだから堂々としていろよお前ら。練習通りやればいいって」
「だ、だって……矢崎直だぜ。目つきだけで小便ちびりそうになったし。久瀬晴也は無表情で不気味だし」
「ほんと、甲斐はよく怖くないよなー」
「怖いと思うから怖いんだろ。むしろ怖がるとそれ逆効果。相手にも余計に嫌な風に捉えられちまうんだぜ」
「そ、そうなんだろうけど……やっぱあの威圧感バリバリな四天王を間近で見ると恐怖心の方が勝っちまうよ」

 まあ、無理もない。数か月前までは開星の生徒を恐怖のどん底に落としていた奴らだ。逆らえば地獄が待っていると噂されていた相手など、今更怖くないと説いた所でそう簡単には順応できないよな。

「でも、見れば見るほど本当にイイ男よねぇ~矢崎直も久瀬晴也も。両者とも身長180超えの長身で、あの美しい容姿に文武両道。おまけに家は超大金持ち。ハイスペックすぎて手が届かないのもわかるわ~」

 オネエ系の五反田が矢崎や久瀬に見惚れている。五反田って男か女かどっちだと訊かれれば心は絶対女だよな。

「ハイスぺすぎて俺達モテない野郎共が余計惨めになるよな。この世にあんなちーとで天才が存在しているなんて」
「くそっ!イケメン滅びろ!あんなイケメン野郎共にこれ以上負けてたまるか!」
「そうだそうだ!モテない野郎な俺達でも今日ぐらいは鼻を明かしてやるぜ!」
「脳筋Eクラス!いくぞおおお!!」
「「うおおおお!!」」
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