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十二章明かされた過去と真実

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『今日、私の両親が来たんです』
『キミのご両親が……?それで何て……』

 私は今日起こったこと全てを一樹さんに打ち明けた。両親が特殊な血を持つ直を譲ってくれと来た事、その理由に矢崎財閥が直を養子に欲しがっている事。矢崎財閥はどんな事も平気でする血も涙もない組織だという事。両親と絶縁した事も話した。

『そんな事が……。矢崎財閥ってよくテレビやニュースでやってるあの世界有数の巨大財閥の事だよね?』
『ええ。私も裕福な家柄の令嬢とは言われていたけど、さすがにあの巨大な財閥とは一生関わる事はないだろうと思っていました。だけど、まさか私達の息子を欲しがるなんて……』
『とりあえず、すぐに明日にでもみんなと相談しよう。父さんや隣に住んでる架谷夫妻とも相談して』
『そうですね』
 
 今思えば、両親が損害を負ってしまった事がすべての引き金のような気がしていた。

 双子を産んでから大変ではあったが充実していた毎日。これらは嵐の前の静けさ、いわば幸せな静寂。これから想像もしない嵐の前の束の間のひと時だったように思えた。

 

『直君が矢崎財閥に!?』
『矢崎財閥ってあのテレビでよく騒いでやがる金持ち共の事か?』

 勝お義父さんや架谷夫妻を家に呼んで、私達は昨日あった事を三人にも話した。当然三人は驚いていた。そんな架谷夫妻は少し前に息子の甲斐君を授かり、今は第二子を妊娠中で身重な身なのに申し訳なかったけど、唯ちゃんは「いざとなったら旦那がいるし」と軽い口調で話した。

『さすがに、相手が悪いよね……』

 いくら架谷一族が最強に強いと言っても、相手は暴漢やチンピラとはわけが違う。とんでもない権力者だ。金で物を言わす連中なのだ。さすがに分が悪いと思ったはずだろう。

『でも、息子をよこせってまだ催促するような手紙とかはきてないんでしょ?ご両親の早とちりかもしれないし』
『わからないの。だけど、あんなに取り乱した両親が早とちりしたとも考えられないし』
『そっか……。でもいきなりやってくる可能性も無きにしもあらずって所よね。だって養子をとるなんて末端やマスコミにも極秘なんでしょ?用心するに越したことはないか。ねえ太郎さん』
『あーうん。そうだね、唯ちゃん。べろべろばー』

 一樹さんが台所で料理を作っている間、唯ちゃんの旦那さんの太郎さんがガラガラを持って子供達をあやしてくれている。太郎さんや勝お義父さんの変顔が息子の甲斐君や私達の子供達に好評なようで、泣きそうになっていた直の表情が和らいでいた。

 直はあの三人の中じゃ一番の泣き虫で、最近も夜泣きがひどかったから、時々こうしてお義父さんか太郎さんの手を借りたりしてあやすのに助けてもらっている。

 唯ちゃん曰く、旦那の方が子供をあやすのが得意なんだそうだ。お義父さんもこういうのは慣れているみたいで、私も一樹さんもあやすのはどうも苦手でうまく泣き止んでくれないのよね。


『あら可愛い。仲よさそう』

 私と唯ちゃんが三人の様子を覗くと、ベビーベットの上で泣きそうな直を甲斐君があやすようにニコニコしている。そして、ニコニコしながら直の頭を撫でて頬にキスまでしていた。それを微笑ましそうに見つめる私達。

『成長したらこの二人、ラブラブになるかしら』
『唯ちゃん、甲斐も直君も男同士だけど』
『今時なーに言ってるのよ太郎さんてば。男同士でも好きあってるなら私はいいと思うけど~』

 たしかに、体が弱くて泣き虫な直には元気いっぱいな甲斐君がぴったりかもしれない。そういう将来もありかもしれないなあと思っていると、甲斐君の隣にいた悠里が不機嫌になったように泣きだした。

『あら、今度は悠里ちゃんが泣いちゃったわね。もしかしてやきもちかしら。悠里ちゃんて双子のお兄ちゃんの直くんより甲斐の事大好きって感じだもんね。甲斐がそばにいると機嫌が直っちゃうし』
『ほお、そうなのか。大きくなったら取り合いに発展して三角関係になるかもしれんぞ。昼ドラじゃ昼ドラ!』
『昼ドラ……ねえ唯ちゃん。一人の女の子を巡って男同士で取り合うのはわかるけど、一人の男を巡って男女で取り合うってなんか変わってない?』
『もー太郎さんてばいちいちうるさいわね。そーゆーのは最近アリなのよ。BLが流行る時代なんだから萌えだと思えばいいの!』
『そ、そっかー。萌え、なのか。じゃあもし甲斐が直君と結婚したいって言っても唯ちゃんはいいのかい?』
『そうねぇ~もちろん祝福するわ。私達の子供達同士が結ばれてくれるなんてこんな嬉しい事はないもの』
『んだんだ。めでたい事だろ。二人が幸せに健康でいてくれりゃあなんだっていい』
『そうですね。私も本人達の意思を尊重するかな』

 お義父さんに同調するように、私も子供達が幸せならなんだっていいのだから。

『その前に、無事に明日も明後日もその先もずっとみんなが一緒にいられれば言う事ないんだけど……』

 今はまだ何も変わった事はないはずなのに、不穏な矢崎財閥の気配がすぐそこまで迫っている気がして不安は尽きない。

『大丈夫。いざとなったら旦那が直君を守ってくれると思うから』
『……ありがとう』
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