【スピンオフ】学園トップに反抗したら様子がおかしくなったいろいろ

いとこんドリア

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平和な世界線in女体化

女になっちまいました3

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 最悪だあの性悪女。なんて事してくれんだ。

 まるでデリヘルかソープ嬢もどっこいどっこいなスケスケ姿である。これで下心丸出しな男と遭遇なんてしてみろ。こんな平凡地味子でも美味しく頂かれてしまうじゃねえか。奴らは地味だろうが派手だろうが、色気と体でしか判断しないのは元男の自分がよくわかっているので、この格好で外に出たらまず無事では済まない。

 婦警さんにでも遭遇して事情を説明すれば服を貸してくれそうだが、ここら辺の交番は遠いし、身を隠すような場所もない。人通りの多い派手な繁華街ばかりだ。スマホが入ったカバンも矢崎の車の中に置いて来てしまったし、財布もない。下着丸出しな無一文変態女の汚名なんて負いたくない。


「右よし、左よし」

 キョロキョロと左右確認。前方確認。上空確認。

 よし、四方八方誰もいないな。備えるようにしてコソコソと女子トイレを脱出。下着を手で隠しながら抜き足差し足忍び足。

 そうして敵がいないかを注視して進む様子はまるで敵襲に備える軍人のようである。

 アイアム軍人。客イコールいずエネミー。本日のミッションは無事ホテルを抜け出して帰る事。楽なようで楽じゃないミッション達成は困難を極めるだろう。周りに敵は多すぎるので、ゲーム難易度は激ムズ。まずはこの下着が見える部分を隠せる布かなんかがありゃあいいのだが、なかなか見つからない。

 最初は支配人に助けを請おうか考えたが、ホテル側に話すと矢崎に顛末がバレそうだし、あいつにバレるのは気が引けた。一応誘ってくれた相手だし、こんな格好を見られたくはないし、あと男として屈辱だし。キスされてからなぜか意識して落ち着かないし。これが一番認めたくない所。

 それにあいつに助けられるのは体育祭の時を思い出すから申し訳ないのもある。もう迷惑を掛けたくない。奴の手なんて借りなくても自分は対処できる。いつもみたいに。

 弱体化はしているが、元男の架谷甲斐をなめるなよ。


 その頃、レストラン内では矢崎直が椅子に座ってイライラしながら待っていた。腕を組んで眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにしている。


 *


 クソ、あのバカどこ行ったんだよ。遅ぇ。

 せっかくテメーのために最高級肉をたんまり食わせてやろうと待ってやがるのに、お花畑とやらで時間かかりすぎだろ。でっけぇ大便でもして流れなくて手こずってやがるのか。腹でもくだしたか。ま、Eクラス出身の奴らは下品を絵に描いたのばっかだからそれもありえそうだ。

 っつーかオレを待たせるとは生意気だ。次会ったら悪戯まがいなお仕置きしてやる。


「ねえ、直様一人ですかあ?」
「あたし達と飲みましょうよ~」

 ほら言わんこっちゃない。余計な女共が寄って来たではないか。

「連れがいる。お前らはお呼びじゃない」
「そうよ。連れがいるの」

 別の女が代弁してくれたと思えば、椅子越しに背後から腕をまわされていた。嗅ぎなれた香水の香りが漂う。

「あたしという連れがね」

 腕をまわして現れた網走梨華が流し目をすると、誘ってきた女達はさすがに相手が悪いとわかり残念そうに去って行く。

「うぜえ。今はお前の相手なんてしてられない。連れがいるって言っただろ」

 鬱陶しそうにまわされている腕をどかそうとするも、梨華は腕を離そうとはしない。

「あの子の事待ってるの?でも残念ね。あの子、帰ったわよ」
「…………あ?」
「さっきトイレであったの。急用ができたから帰るって。あなたに言っといてくれって頼まれたの」

 梨華が肩に顔を埋めている。

「……アイツが、そう言ったのかよ」

 急激に体が冷えていく気がした。確認がとれていないとわかっていても、どこか信ぴょう性があった。

「ええ。何の急用かはわからないけれど家の事じゃない?それにね、なんだか面倒くさいとも話していた。あなたといる事が」
「……っ」

 今までの行いから好かれているとは思っていなかったし、嫌いだって言われた事もある。嫌がられる理由なんて心当たりがありすぎて否定すらできない。

「だから、あたしと別な場所で飲みましょ。久しぶりに熱い夜を過ごしたいの」

 熱を送るような視線で見つめられ、手を絡めてくるこの女。オレはもうそれどころじゃなかった。
 架谷との距離感に悲しくなり、悄然と遠くを見据えた。
  

 *

「はあ……なんとかレストランを脱出できたが、これからが問題だな。タクシーを拾って帰らないとっ。金は親父に出させるか」
 
 外に出てから大通りをコソコソと隠れながら歩く。近くのゴミ置き場で拾った丁度いいタオルを腰に巻いて、下着は隠せることに成功した。しかし、履いていた靴は慣れないピンヒール。足には靴擦れがたくさん出来てしまい痛いものだ。

 今は脱いでゴミ置き場で拾ったサンダルを代用している。靴は高いブランドもので勿体ないのでちゃんと持参。
 後日、この靴とドレス代をあわせて矢崎にちゃんと返す予定だ。いくらか知らないが50万くらいだろうか。出費が痛いが仕方あるまい。パンチラ博士のバイトを増やすか。

 矢崎におごってもらう気満々だったが、あの性悪女に誤解されたのがいけなかった。変な関係ではない事を証明するために、やはり食事代もドレスアップ代も返金しないと気が済まない。別に恋人同士じゃないのだから。
 
「いてっ」

 考え事をしていたせいで前を歩いていた連中の一人とぶつかってしまった。いかんいかん。これじゃあわき見運転をするドライバーと一緒である。すぐに「すみません」と一言謝罪をすると、よく見ればお約束の、

「姉ちゃん。いてぇじゃねぇか。俺の肩が脱臼しちまったらどうするんだ」

 人相が悪いチンピラ連中との遭遇であった。とほほ。

「そーだそーだ!脱臼したらどうすんだ!」

 おまけみたいにいる下僕共も騒ぐ。

「……はあ。それくらいで脱臼するかよ。大げさなんだよ」
「あ?姉ちゃん。誰に口利いてんだコラ!俺はここら辺じゃ有名な族に所属している鬼瓦様だぜ。泣く子も黙る存在をそんな風に言うたあ命知らずだな。俺様は強いんだぜ」

 そう得意げに言う男の顔はドン引きするほどブタ顔である。暴走族に所属していても顔が残念で笑いそうになった。いや、直視できん。無理。笑っちまう。ぶひひ。

「自分で強い言ってちゃ世話ないよな。ナルシストの豚瓦様。ぷぷぷ」

 いつもみたいに挑発するノリで返す俺。チンピラとかによく絡まれちまう性質なのかも。

「この女ッ!おい、やっちまえ!!その可愛らしい顔を滅茶苦茶にしてやれ!」


 *

 何、傷ついてんだか……。

 自嘲するように笑う。なんでこんな風に悩まなくてはならないのだろう。あいつの行動一つ一つに。あいつのささいな言動でいちいち傷ついて、溜息を吐かなくてはならないのが本当に悔しい。報われる事のない想いに必死になっている自分自身もありえないが。

「ねえ直~。今から行くバーはね、行きつけの超穴場で~」

 隣で梨華が楽しげに話しかけてくるが、全く持って興味が出てこない。何を話しているかも、何でここにいるのかももうどうでもよくて、ただ流されるまま車に乗せられていたのだけは微かに覚えていた。

 ああ、多分……いつもみたいに自棄になって、誰構わず女と寝て不貞腐れるだけ。いつものパターンだ。
 きっとこの後も、自分のストレスの捌け口にして抱くのだろう。

 架谷に嫌いだと言われた時もその夜はそんな風に過ごしていたっけ。その日はもう誰と寝たかなんて覚えていないが、とにかくこのひどい鬱屈した感情をどうにかできるのなら誰だってよかった。今夜もそんな気分。
 
 どうせ報われない。どんなに想ってもオレの独りよがり。見当違いな片想いに過ぎない。それでも一緒にいたくて、少しでも振り向いてくれるならとらしくもないアプローチを繰り返していたが、それも無駄なような気もしてきた。
 
 
 信号待ちで交差点を停車中にふと窓の外を眺めると、見知った顔が一瞬だけ路地裏から見えた。ほんの一瞬だったけれど、あれは間違いなくアイツだった。どうやら男共に絡まれているようだった。一瞬で全身が熱くなり、心臓は早鐘を打つ。

 そして、信号待ちから発車してすぐに気が付いたら口を開いていた。

「停めろ」
「え」
「いいから停めろ」

 運転手に強引に命令して停車させると、扉を開けて無我夢中で車を降りて走っていた。後ろの方で梨華が「どうしたの」だとか「どこにいくの」だとかいう声が聞こえるがどうでもよかった。架谷の存在だけしかもう見えていなかった。


「おい、この女強いぞ!」
「ひ弱で細っこい体してるくせにありえねえ」
「クソ!このアマッ!!」

 自棄を起こした男のポケットからカッターが取り出される。カッターは架谷に向けられ、架谷が別の者を蹴散らしている最中にそれで襲い掛かろうとする男。しかし、男は強い力で引き留められて吹っ飛んだ。オレの力で。

「矢崎!なんでここにっ!」

 架谷が回し蹴りを決めた所で現れたオレに驚いている。

「何をしているんだよお前は」

 こんな場所で全く。

「何って、そりゃあこいつらに絡まれてだなー」

 しゃべりながら架谷は連中の一人に拳を入れて投げ飛ばし、オレも襲い掛かってくる連中に軽く肘鉄をして腕を捻りあげた。全員をあっさり二人で片付けた後、オレは改めて架谷を睨むように見つめた。


「お前、帰ったんじゃなかったのかよ」
「……は?いや、まあ帰ろうとは思ったけど。ていうかお前こそなんでここにいるんだよ」
「お前の姿が見えたから来たんだろうが」
「あー……まあ突然姿をくらましたのは悪かったと思ってる。せっかく誘ってくれたのに途中で勝手に帰っちゃってさ。でもこっちもいろいろあって帰らざるをえなかったんだ。その……お前のドレス……濡れちゃって……」

 架谷がちらりと濡れているスカート部分を見せた。濡れると下着が見えてしまう構造だ。

「だから、こんな格好じゃあの場にいられないし、恥ずかしいから帰る事になってだな」
「クソバカ野郎だろお前」
「あ!?」

 突然のクソバカ発言に架谷は怒りを見せるが、オレはそれどころじゃなかった。泣きそうだった。

「っテメーは……オレがどれだけ悩んでたと思ってやがるんだよ。人の気も知らないで」
「何言ってんだよ。ていうかなんでそんな顔」
「オレをやきもきさせる天才だな、テメーはッ!」

 言いながら、オレは自然と架谷を抱きしめた。

「ちょっ!な、なにすんだよ!離れろって!何のつもりだよっ!」

 抱きしめられて動揺する架谷。男であった時より柔らかくて、低くなった身長は小柄で、まるで小動物のように動くコイツは妙に庇護欲をそそる。

「それくらいオレに頼れよ」
「は……」
「だから、困った事があったならオレを頼れって言ってんだ」
「え、あ……いや、お前に言うのが屈辱で」
「あ?屈辱ってなんだよ!」

 そんな風に思ってやがったのかお前は。

「お、お前にはいろいろ……その、助けてもらったから、また助けてもらうわけにはいかないって思ったんだよ。あまり弱い所なんて見せたくないし、元男としてのプライドってもんがある。まあ、お前には感謝してるし、迷惑かけたくなくて「いいんだよ迷惑くらい」
「は……?いや、でも」
「お前がオレに遠慮する方がムカつくから。だから遠慮しなくていい。お前の事ならなんだって受け止めてやるから」
「変な奴。どうしてそこまでするんだよ」

 そんなの決まっているだろう。お前は鈍感だから気づかなかったと思うが。

「好きだから」
「は……」
「お前が好きだからだよ……」

 いつもより優しい響きと甘い声でそう愛を告白した。面食らったままの架谷に顔を近づけて、そっと唇を重ねる。架谷からの抵抗はない。オレのキスを黙って受けている。

 前からずっとこうしたかった。いつだってこいつをオレのものにしたかった。溢れる好きという感情がさらに後押しして、何度も何度も架谷の唇を味わって堪能した。


「ッ――」

 その様子を遠く離れた場所で見ていた人物は、体を震わせて拳を握りしめていた。嫉妬と憎悪が燃え滾り、表情が醜く歪んでいる。このままでは済まないと言いたげに、鋭い視線をこちらにぶつけていたのだった。
 


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