【完】別の番から略奪して溺愛してやるから覚悟しろ

いとこんドリア

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10.話し合い

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「怪我はだいぶよくなったな……」
「……うん」

 甲斐の怪我は骨折以外はよくなった。
 しかし、オメガ肺炎の症状は少しずつ進んでいる。

「病気の進行が進み始めてて、げほっげほっ」
「甲斐……」

 オメガ肺炎が治らないのは、心のどこかで奴に対して否定する気持ちがあるからだと聞いた。
 ならば、早くオレが甲斐を番にして楽にさせてやりたい。助けてやりたい。運命の番であるオレが相手なら治るってなんとなく確信がある。

 でも焦っては甲斐を困惑させてしまう。
 まずはちゃんと離婚させてからだ。


「単刀直入に言うが、そんな夫と早く別れるべきだ。もうお前をそんな場所に置いておけない」
「………さすがに、こんな事になったもんな」

 甲斐は目を伏せながら苦笑している。見舞いにきた近所の住人からも、不倫やDVをした夫に情けをかけるなと言われたようだ。

「死にかけたんだ。あんな奴らに気を使う必要はないだろ」
「……うん。前から不満だらけだったし、別れたいと思ってた。でもアルファの威圧感がすごくて逆らえなかった。たとえ別れられても俺のようなレアオメガが一人で生きてはいけないと思ったから。若干洗脳気味だったかも」
「一人じゃないだろ」

 甲斐の両手を握りしめた。

「オレがいる。オレがいるから……頼れよ」
「直……」

 甲斐を愛しているからこそ、頼ってほしい。

「直に迷惑かけちゃうけど」
「迷惑なんかじゃない。お前がオレから離れる方が迷惑だ。お前を愛してるんだから」

 真剣に求愛すれば甲斐の頬が赤くなる。

「弁護士の手配などはオレがしておく。当日はオレも同席するからお前は言いたい事を全部吐き出せばいい。何も心配する事はない」
「……直、ありがとう……頼りにさせてもらうよ」


 
 後日、病院の会議室を借りてバカ親子を呼び出した。
 そこにはすでにオレと甲斐と弁護士が待機している。離婚についての話し合いの場を設けたのだ。

「話ってなんだ。こっちはそれどころじゃないのに」

 明らかに顔色がよくないバカ夫。今じゃオレや弁護士がいる前であっても好青年風を装う余裕すらない。借金取りの押しかけや近所の住人からの村八分に参っている様子だ。

 その隣にいるババアもいつものような覇気がない。顔などには殴られたような痕があり、息子に対して過度に怯えている。
 あれだけ溺愛していたムチュコタンから逆恨みされて毎日殴られているようだ。そんなモラハラDV息子に育てた自分が悪いので責任とって面倒をみるべきだ。


「俺、あなたと離婚したい」

 甲斐は淡々と話を切り出して結婚指輪を目の前に置いた。緑色の紙・・・・も一緒に。

「………は」
「離婚してください。もうあなたと一緒に生活したくない。明らかな暴力とモラハラに耐えながら結婚生活を続ける意味が見いだせない。苦しいし辛い」

 甲斐が真っ直ぐな目でそう言った途端、バカ夫の目が見る見るうちに吊り上がっていく。隣のババアも眉間に皺を寄せた。

「レアオメガの分際で生意気な口をほざきやがって……っ」
「おっと暴力はいけませんよ」

 バカ夫が腕を振り上げたので、オレがぎゅっとバカ夫の腕を掴んで押さえた。もはや本性を隠す気もないらしい。

「なんなんだあんたは!たかが甲斐を助けたからって口出ししすぎだろ!」
「奥さんはレアオメガだからですよ。あなたのアルファとしての威圧感のせいで奥さんが言いたい事を言えなかったり、今みたいに暴力に出られるのを押さえるためにいるんです。野蛮なアルファを抑える代理人の仕事もしているんでね」
「や、野蛮って」
「暴力を働くアルファ全般の事ですよ。今のあなたもそれに当てはまりますね」
「ッ……」

 バカ夫は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

 そもそも代理の仕事なんて嘘だが、実際に立場の弱いオメガやレアオメガの代理をする仕事はある。オレがしているのはそれと似たようなもの。

「甲斐さんは離婚を強く希望されております。DVなどの虐待、職場での不貞行為など、こちらにはたくさんの証拠がございます。これらに相違はございませんね?」
「っ……はい」

 バカ夫は観念したのか静かに頷いた。机の上には巷で騒がれている写真の一部や、暴力行為を行っている動画とハメ撮り動画がノートPCの画面上に出ている。
 久瀬が弁護士免許まで持っているとはさすがオレの有能秘書だ。

「お、俺は離婚したくない。だって、せっかく俺と愛を誓いあって結ばれたのに」
「今更愛なんて言われても靡かない。信じられない。散々俺を痛めつけたくせに」
「あ、あれは愛ゆえに……っ」
「愛があれば暴力をしてもいいと?俺は暴力を受けて悲しかった。まるでストレス発散のようで参った。家事をしていないってだけでひどい暴力を受けたあの夜、死ぬかと思った」
「っ、あの時はバカな母さんが泣きながら言ったから……ついカッとなって……本当にごめん。癇癪出てしまったんだ」

 さすがにあの夜の事は自分でもやりすぎたと少しは負い目を感じているようだ。それでも絶対許さんが。

「でも、辛いなら辛いとそう言ってくれたら俺は改善しようと「何度も言ったから」
「何度も言ったのに聞く耳もたなかったのはそっちだ。俺が何かを言おうとすれば笑ったり、レアオメガの分際でとか言葉で遮ってきた。そんな事をされたらこちらが折れるしかないし、言う気もなくす。次第にあなたへの愛も信頼も枯渇した」
「ッ、ごめん!本当にごめん!別れたくない。俺はお前を愛しているんだ。不倫はしたがあれは遊びで心はお前だけなんだっ。だからっ……」
「何を言われても何も感じない。情もわかない。俺を解放してください」

 はっきり言われて今更ショックを受けているバカ旦那。散々甲斐を苦しめて傷つけておいて何が愛しているだ。別れたくないだ。お前に否定する権利はない。

「離婚届を書いていただけない場合は、このまま被害届を出させていただきますがよろしいですか」

 久瀬が笑顔で圧をかけて言うと、バカ夫も義母もさすがに警察沙汰はまずいと思ったのかそれ以上は何も言わなかった。
 そのまま離婚届に渋々サインして各種手続きを終えると、補助金を手放すのが惜しいのか今度は泣きながら土下座をしてきた。

「甲斐、俺が悪かった!戻ってきてくれ!もう暴力はしないし不倫もしない!お前を一番に大事にするからっ!頼む、この通りだ!」
「もういいよそういうの」

 甲斐は冷めた目で夫を見下ろしている。

「お前に甘えてたんだ。お前はよく考えたらいい妻だったのに。飯は美味いし、掃除洗濯もてきぱきこなせる。夜の方だってお前ほど満たされた事はなかった!たしかに不倫女の色香に騙されたが、お前とのセックスが一番よかった!」
「……何を言ってももう遅いから。土下座なんてしても意味ないから」

 そう。今更甲斐の良さに気づいても遅い。甲斐のよさがわかるのはオレだけで十分。

「甲斐……待ってくれ!甲斐!俺が悪かったからぁ!」
「サヨナラ。もう二度と逢う事はない。というか二度と逢いたくない」
「行くな!行かないでくれぇ!!」
 
 甲斐は毅然として言い放ち、泣きべそをかいているバカ夫を無視してオレと共に部屋を出た。背後でバカ夫の泣き声や義母も嫁の癖にだとか薄情者だとか喚いていたが扉を閉めた。
 あとは有能な秘書が弁護士として勝手に手続きを進めてくれるだろう。

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