【完】初恋相手が皇子とか勘弁しておくれよ

いとこんドリア

文字の大きさ
18 / 51

18.路地裏

しおりを挟む
 ――って、あれ……ここどこ?

 気が付けば、人通りが少ない繁華街の路地裏にいつの間にか迷い込んでしまっていた。近くの看板を見れば花町裏通りと立っている。

 あれだけ花町通りの路地裏は治安が悪いと言われていたのに、その路地裏に早くも迷い込んでしまう私は危機感がなっていないかもしれない。はやく大通りの方に出なくちゃ。

 元来た道を慌てて戻ろうとした時、突然背後からゴツイ手が伸びてきて口を塞がれた。もう片方の空いた手であっという間に体を引きずり寄せられる。

「んんっ!」
「結構な上玉だなオイ」
「ちょっと地味なのが残念だけどな」

 獰猛な男共数人が自分を取り囲んでいた。しまった。気配を読んでいなかった。

「娼館や女郎宿で売ったら相当儲かるだろうぜ」

 しょうかん?じょろうやど?
 聞き慣れない単語の数々に私は首を傾げたが、きっとよくない助平な所なんだろうと察する。

 すぐに連中達を振り払おうと力を込める前に、奴らの仲間からの不意打ちをくらって私は意識を飛ばしかかる。

 む、無念。この程度の奴らに後れを取るなんて弱くなった。気を失う前の朧げな意識の中で、人相の悪い奴らの笑う顔が不愉快だった。

 

 *



「なんだフレッド。こんな場所で」

 路地裏の奥にあるひっそりとした酒場。親戚であり公爵のフレッドとカウンター席で話し合っている。

 客の連中はどいつもこいつも人相が悪い。今日来ている大半の奴らは、頭の中は女と金の事しか考えてなさそうなバカそうなツラばかりだ。

 俺としても気に入らない場所だが、立場上公の場には姿を表せないのでここを指定された。嫌な場所ではあるが、皇室が反社と裏取引きをするのに持って来いなバーだ。

 善良な一般市民はもちろんの事、警察すら近寄れないし介入もできない治外法権同然な特殊な店。経営している者はすべて反社の者達で賄われている。だが、こんな奴らでも事前にみかじめ料を高額で支払っておけば連中達は余計な口出しはしてこないし、ある程度の秩序が守られれば攻撃もしてこない。一般市民より口は堅くなってくれるので助かっている。

 ただ、何も知らない善良な市民が入れば、あっという間にカモにされてしまう金と誘惑にまみれた汚い世界の入り口だ。

 当然ながら俺はこんな場所には慣れている。何度か獰猛な男達やヤクザに絡まれた事もあるが、全て返り討ちにしてやっている。だから俺に挑んでくる命知らずはだいぶいなくなった。一応その手の連中からは皇太子という立場は知られているし、顔も割れているので、金と実力を示しておけば俺の中ではダントツの安全な場所といえよう。

 小さい頃はてんで弱かった俺だが、カーリィが惚れ直すくらいいい男になりたくて、嫌いな勉強や剣術などを死ぬ気で頑張ったからこそ今がある。


「悪ぃね。皇宮だといろんな連中の目があるでしょ。仕方なく人目もつかなくていい酒が飲めるここを選んだの」
「……それほど込み入った話か。用件はなんだ」
「それがね~」

 その時、入口の扉がバンと勢いよく開いた。数人のこれまた一段と人相の悪い奴らが御大層に客として入店してきて、フレッドが舌打ちをする。

 面倒くさい連中がやってきたな。あいつらはたしかここら辺一帯を牛耳っているヤクザ者。綺麗そうな女子供や果ては小さな少年を金で釣って騙してさらって、娼婦館やら女郎宿で働かせて自分好みの奴隷にしている連中だとこの界隈では有名な話である。

 裏社会での闇の部分に当てはまるので、当然ながら表沙汰にはならないし、新聞に載る事も世間に知られる事もない。

「面倒なのがきたねー。あいつらがいるとここじゃあアレだ」
「場所を移すか」

 席を立とうとすると、入って来た奴らの会話が耳に入った。

「さっき手に入れた珍しい黒髪の女。何もしてないだろうな?」

 幹部クラスの奴が下っ端に訊ねている。黒髪の女?

「してねぇっす。今は檻に閉じ込めて仕込み部屋に入れてありますぜ」
「黒髪なんてここらじゃ珍しいからな。地味顔なのは減点箇所だが」
「暴れて抵抗が激しいメスガキだったが、そういう子猫ちゃん程壊しがいがあるだろ。滅茶苦茶にして喘がせて肉便器にして調教する。おれは処女を犯すのが好きだからな。貫通する瞬間ってたまらなくね?」
「わかるぜ。貫通した瞬間に流れる純潔喪失の血ってエロいよな。そっから女がどんどん精神崩壊していく様子を見ながら腰を振る。快楽と支配欲が興奮度を高めてくれてたまんねーよな」

 相変わらず胸糞悪い話をしていやがるな、この馬鹿共は。聞いていていい気分にはならない。そんな事より――……黒髪。

 ダンスを踊ったあの少女も黒髪だった。ここら辺では珍しい髪色なので、きっとあの少女はカーリィ本人だろうと確信めいた予想はしている。

 彼女の出身地が辺境の北の山と聞いて、すぐにオリーブ山だろうと察する事ができた。一番の決め手は、彼女が落とした人形の縫い目が俺の持っている猫の人形のものと酷似していて、俺をより確信させる。だが、彼女の居所は未だに確認がとれていない。

 あの少女の正体はジャレッドに無理を言ってなんとか探させてもらっているが、もしこの馬鹿共の言っている黒髪の女がカーリィだったら………俺は嫌な予感が走る。

「おい。貴様らそれはどういう事だ。教えろ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...