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18.路地裏
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――って、あれ……ここどこ?
気が付けば、人通りが少ない繁華街の路地裏にいつの間にか迷い込んでしまっていた。近くの看板を見れば花町裏通りと立っている。
あれだけ花町通りの路地裏は治安が悪いと言われていたのに、その路地裏に早くも迷い込んでしまう私は危機感がなっていないかもしれない。はやく大通りの方に出なくちゃ。
元来た道を慌てて戻ろうとした時、突然背後からゴツイ手が伸びてきて口を塞がれた。もう片方の空いた手であっという間に体を引きずり寄せられる。
「んんっ!」
「結構な上玉だなオイ」
「ちょっと地味なのが残念だけどな」
獰猛な男共数人が自分を取り囲んでいた。しまった。気配を読んでいなかった。
「娼館や女郎宿で売ったら相当儲かるだろうぜ」
しょうかん?じょろうやど?
聞き慣れない単語の数々に私は首を傾げたが、きっとよくない助平な所なんだろうと察する。
すぐに連中達を振り払おうと力を込める前に、奴らの仲間からの不意打ちをくらって私は意識を飛ばしかかる。
む、無念。この程度の奴らに後れを取るなんて弱くなった。気を失う前の朧げな意識の中で、人相の悪い奴らの笑う顔が不愉快だった。
*
「なんだフレッド。こんな場所で」
路地裏の奥にあるひっそりとした酒場。親戚であり公爵のフレッドとカウンター席で話し合っている。
客の連中はどいつもこいつも人相が悪い。今日来ている大半の奴らは、頭の中は女と金の事しか考えてなさそうなバカそうなツラばかりだ。
俺としても気に入らない場所だが、立場上公の場には姿を表せないのでここを指定された。嫌な場所ではあるが、皇室が反社と裏取引きをするのに持って来いなバーだ。
善良な一般市民はもちろんの事、警察すら近寄れないし介入もできない治外法権同然な特殊な店。経営している者はすべて反社の者達で賄われている。だが、こんな奴らでも事前にみかじめ料を高額で支払っておけば連中達は余計な口出しはしてこないし、ある程度の秩序が守られれば攻撃もしてこない。一般市民より口は堅くなってくれるので助かっている。
ただ、何も知らない善良な市民が入れば、あっという間にカモにされてしまう金と誘惑にまみれた汚い世界の入り口だ。
当然ながら俺はこんな場所には慣れている。何度か獰猛な男達やヤクザに絡まれた事もあるが、全て返り討ちにしてやっている。だから俺に挑んでくる命知らずはだいぶいなくなった。一応その手の連中からは皇太子という立場は知られているし、顔も割れているので、金と実力を示しておけば俺の中ではダントツの安全な場所といえよう。
小さい頃はてんで弱かった俺だが、カーリィが惚れ直すくらいいい男になりたくて、嫌いな勉強や剣術などを死ぬ気で頑張ったからこそ今がある。
「悪ぃね。皇宮だといろんな連中の目があるでしょ。仕方なく人目もつかなくていい酒が飲めるここを選んだの」
「……それほど込み入った話か。用件はなんだ」
「それがね~」
その時、入口の扉がバンと勢いよく開いた。数人のこれまた一段と人相の悪い奴らが御大層に客として入店してきて、フレッドが舌打ちをする。
面倒くさい連中がやってきたな。あいつらはたしかここら辺一帯を牛耳っているヤクザ者。綺麗そうな女子供や果ては小さな少年を金で釣って騙してさらって、娼婦館やら女郎宿で働かせて自分好みの奴隷にしている連中だとこの界隈では有名な話である。
裏社会での闇の部分に当てはまるので、当然ながら表沙汰にはならないし、新聞に載る事も世間に知られる事もない。
「面倒なのがきたねー。あいつらがいるとここじゃあアレだ」
「場所を移すか」
席を立とうとすると、入って来た奴らの会話が耳に入った。
「さっき手に入れた珍しい黒髪の女。何もしてないだろうな?」
幹部クラスの奴が下っ端に訊ねている。黒髪の女?
「してねぇっす。今は檻に閉じ込めて仕込み部屋に入れてありますぜ」
「黒髪なんてここらじゃ珍しいからな。地味顔なのは減点箇所だが」
「暴れて抵抗が激しいメスガキだったが、そういう子猫ちゃん程壊しがいがあるだろ。滅茶苦茶にして喘がせて肉便器にして調教する。おれは処女を犯すのが好きだからな。貫通する瞬間ってたまらなくね?」
「わかるぜ。貫通した瞬間に流れる純潔喪失の血ってエロいよな。そっから女がどんどん精神崩壊していく様子を見ながら腰を振る。快楽と支配欲が興奮度を高めてくれてたまんねーよな」
相変わらず胸糞悪い話をしていやがるな、この馬鹿共は。聞いていていい気分にはならない。そんな事より――……黒髪。
ダンスを踊ったあの少女も黒髪だった。ここら辺では珍しい髪色なので、きっとあの少女はカーリィ本人だろうと確信めいた予想はしている。
彼女の出身地が辺境の北の山と聞いて、すぐにオリーブ山だろうと察する事ができた。一番の決め手は、彼女が落とした人形の縫い目が俺の持っている猫の人形のものと酷似していて、俺をより確信させる。だが、彼女の居所は未だに確認がとれていない。
あの少女の正体はジャレッドに無理を言ってなんとか探させてもらっているが、もしこの馬鹿共の言っている黒髪の女がカーリィだったら………俺は嫌な予感が走る。
「おい。貴様らそれはどういう事だ。教えろ」
気が付けば、人通りが少ない繁華街の路地裏にいつの間にか迷い込んでしまっていた。近くの看板を見れば花町裏通りと立っている。
あれだけ花町通りの路地裏は治安が悪いと言われていたのに、その路地裏に早くも迷い込んでしまう私は危機感がなっていないかもしれない。はやく大通りの方に出なくちゃ。
元来た道を慌てて戻ろうとした時、突然背後からゴツイ手が伸びてきて口を塞がれた。もう片方の空いた手であっという間に体を引きずり寄せられる。
「んんっ!」
「結構な上玉だなオイ」
「ちょっと地味なのが残念だけどな」
獰猛な男共数人が自分を取り囲んでいた。しまった。気配を読んでいなかった。
「娼館や女郎宿で売ったら相当儲かるだろうぜ」
しょうかん?じょろうやど?
聞き慣れない単語の数々に私は首を傾げたが、きっとよくない助平な所なんだろうと察する。
すぐに連中達を振り払おうと力を込める前に、奴らの仲間からの不意打ちをくらって私は意識を飛ばしかかる。
む、無念。この程度の奴らに後れを取るなんて弱くなった。気を失う前の朧げな意識の中で、人相の悪い奴らの笑う顔が不愉快だった。
*
「なんだフレッド。こんな場所で」
路地裏の奥にあるひっそりとした酒場。親戚であり公爵のフレッドとカウンター席で話し合っている。
客の連中はどいつもこいつも人相が悪い。今日来ている大半の奴らは、頭の中は女と金の事しか考えてなさそうなバカそうなツラばかりだ。
俺としても気に入らない場所だが、立場上公の場には姿を表せないのでここを指定された。嫌な場所ではあるが、皇室が反社と裏取引きをするのに持って来いなバーだ。
善良な一般市民はもちろんの事、警察すら近寄れないし介入もできない治外法権同然な特殊な店。経営している者はすべて反社の者達で賄われている。だが、こんな奴らでも事前にみかじめ料を高額で支払っておけば連中達は余計な口出しはしてこないし、ある程度の秩序が守られれば攻撃もしてこない。一般市民より口は堅くなってくれるので助かっている。
ただ、何も知らない善良な市民が入れば、あっという間にカモにされてしまう金と誘惑にまみれた汚い世界の入り口だ。
当然ながら俺はこんな場所には慣れている。何度か獰猛な男達やヤクザに絡まれた事もあるが、全て返り討ちにしてやっている。だから俺に挑んでくる命知らずはだいぶいなくなった。一応その手の連中からは皇太子という立場は知られているし、顔も割れているので、金と実力を示しておけば俺の中ではダントツの安全な場所といえよう。
小さい頃はてんで弱かった俺だが、カーリィが惚れ直すくらいいい男になりたくて、嫌いな勉強や剣術などを死ぬ気で頑張ったからこそ今がある。
「悪ぃね。皇宮だといろんな連中の目があるでしょ。仕方なく人目もつかなくていい酒が飲めるここを選んだの」
「……それほど込み入った話か。用件はなんだ」
「それがね~」
その時、入口の扉がバンと勢いよく開いた。数人のこれまた一段と人相の悪い奴らが御大層に客として入店してきて、フレッドが舌打ちをする。
面倒くさい連中がやってきたな。あいつらはたしかここら辺一帯を牛耳っているヤクザ者。綺麗そうな女子供や果ては小さな少年を金で釣って騙してさらって、娼婦館やら女郎宿で働かせて自分好みの奴隷にしている連中だとこの界隈では有名な話である。
裏社会での闇の部分に当てはまるので、当然ながら表沙汰にはならないし、新聞に載る事も世間に知られる事もない。
「面倒なのがきたねー。あいつらがいるとここじゃあアレだ」
「場所を移すか」
席を立とうとすると、入って来た奴らの会話が耳に入った。
「さっき手に入れた珍しい黒髪の女。何もしてないだろうな?」
幹部クラスの奴が下っ端に訊ねている。黒髪の女?
「してねぇっす。今は檻に閉じ込めて仕込み部屋に入れてありますぜ」
「黒髪なんてここらじゃ珍しいからな。地味顔なのは減点箇所だが」
「暴れて抵抗が激しいメスガキだったが、そういう子猫ちゃん程壊しがいがあるだろ。滅茶苦茶にして喘がせて肉便器にして調教する。おれは処女を犯すのが好きだからな。貫通する瞬間ってたまらなくね?」
「わかるぜ。貫通した瞬間に流れる純潔喪失の血ってエロいよな。そっから女がどんどん精神崩壊していく様子を見ながら腰を振る。快楽と支配欲が興奮度を高めてくれてたまんねーよな」
相変わらず胸糞悪い話をしていやがるな、この馬鹿共は。聞いていていい気分にはならない。そんな事より――……黒髪。
ダンスを踊ったあの少女も黒髪だった。ここら辺では珍しい髪色なので、きっとあの少女はカーリィ本人だろうと確信めいた予想はしている。
彼女の出身地が辺境の北の山と聞いて、すぐにオリーブ山だろうと察する事ができた。一番の決め手は、彼女が落とした人形の縫い目が俺の持っている猫の人形のものと酷似していて、俺をより確信させる。だが、彼女の居所は未だに確認がとれていない。
あの少女の正体はジャレッドに無理を言ってなんとか探させてもらっているが、もしこの馬鹿共の言っている黒髪の女がカーリィだったら………俺は嫌な予感が走る。
「おい。貴様らそれはどういう事だ。教えろ」
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