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28.激重愛※

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 申し訳なさそうな、しょんぼりした様子のノア君。まるで親に怒られた後の子供みたいで、庇護欲をそそられる。でも、それ以上に私だってひどい目にあったんだ。仄暗いノア君に強姦されるあの恐怖は今までで一番怖かった。

「しかも中で思いっきり出しやがって。妊娠したらどうするんだよっ!嫁入り前の娘の、しかも皇太子の子供がデキタだなんて……いろんな意味で大変じゃないかっ!」
「責任取る、一生。可愛いカーリィと俺の子供だから」
「そんな簡単に言うなよっ!私は平民であなたは皇子なのに」
「身分なんて関係ない。その気になれば駆け落ちしてでもお前と一緒になるから」
「何言って……」
「好きだよ……カーリィ。皇太子の立場も、俺の前では無意味なんだ」

 俺の手を手繰りよせて、そっと掌に口づけを落とす。

「だから……許して。俺を見捨てないで。どうしようもなくお前が好きで、愛おしすぎて……止まらないんだ。俺には、ほんとうに……カーリィだけだから……」

 ノア君の憂いを帯びた瞳が徐々に潤んでいく。許しを請うような切ない顔が可哀想に思えてくる。そして、可愛いとも思ってしまう。そんな様子が、十年前の天使のような可愛さの面影と重なる。

「十年も片想いを我慢していたせいか、もう我慢なんてしたくない。お前を失うくらいなら死んだ方がマシ」
「そこまで……」
「ずっと……ずっとお前のために生きてきたようなものだから……」

 ノア君の目尻には涙が浮かんで流れた。私はもう何も言えなくなった。まるで私が泣かしたみたいでアタフタする。先ほどまで泣かされていたのは私の方なのに。

「な、泣かないでよ。わかったからっ。キミの気持ちはよく、わかったから」

 そんなに一途すぎるほど求められたら私はキミを受け入れざるを得ない。放ってはおけない。

「自分の気持ちに逃げてごめんね。私もノア君が好き。こんな酷い事をされても、嫌いになんてなれないくらいノア君が大好きだよ」

 私もはっきりと自分の気持ちに正直になる。このまま言われっ放しじゃ自分が情けなくなるから。ノア君にも悪いからはっきりしなきゃな。

 そうしたら、ノア君から痛いくらい抱きしめられた。苦しい。苦しいってば。そうを言おうとしたら今度は勢いよく唇を塞がれて、舌で求められた。

「っ……んんっ」

 唇をじっくり味わって、歯列を割って入ってくるノア君の舌。
 つい私もその気になってしまい、おずおず舌を差し出す。互いに舌を出しあってチロチロとなめ合ったり、吸ったり唾液を求め合ったりする。 

 ああ、キスだけでまた……

「は……ぁ」

 唇を離して目を開けてノア君を見つめると、愛おしそうに私を視線に閉じ込めてくれている。こちらもまた愛おしくなって胸がぎゅっと締め付けられた。


「カーリィの告白を聞いたら、またシタくなった」
「っ……さすがに勘弁して。初めてだったんだからっ。しかも中で……出して……っ。それより私……仕事の途中だったんだけど……」

 考えるだけでぞっとする。メイド長などになんて説明すればいいだろうか。怒られるだけで済めばいいけど。さぼってこんな事をしていました、なんて馬鹿正直に言ったら私が社会的に死ぬだけである。

「カーリィの上司にはちゃんと伝えてあるから」
「え、は?」

 どういう事だと顔を勢いよくあげた。

「仕事中に倒れたからこっちで安静にさせているとジャレッド経由で報告を頼んだ。俺から言おうものなら大騒ぎになるから。お前の上司は慌てていたが、お前は最近働きすぎだからこちらとしても休ませたかったと言ってた。だからこの際休んでくれと向こうは言ってたよ。何も心配する事はない。カーリィの日頃の行いがよかったおかげ」
「そ、そーか。よかっ……じゃない!日頃の行いとかそういう問題じゃない!私をこんな風にクタクタにしたのはノア君じゃないか!それにこんなの、まるで仮病で休んでるみたいで……罪悪感が……」
「仮病じゃないだろ。動けないお前は体調不良には変わりない」
「っ……ノア君のスケベ!」
「スケベで結構」

 
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