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7.悪魔の趣味(完)
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バキッ
有言実行通りわしはキョウタロウの頬を殴った。いつもよりかは幾分か手加減した。
「お前がわしを恋人扱いなんてするからこんな所に連れてこられた!どーしてくれる!」
「あ?」と、殴られた事を不本意に思っているキョウタロウ。
「罰としてちゃんとわしの手当てをしろ。家まで送っていくように。それがお前の償いだ。それだけで今回は許してやる。感謝せい」
この悪魔相手にわしにしては譲歩した方だ。
「っ、い、いいのか!?」
おい。何を頬を赤らめてんだこいつは。ただここへ連れてこられた際に足をすりむいたから、その手当てをお願いしているだけだ。なんの意図もないから誤解をするな。
その後、わしは奴の家に行く事になった。
手当てのためとはいえ、わざわざ家に行く事などないというのに心配性である。
そんなキョウタロウの家だからどんなものかと思っていれば、いたって普通サイズの家だった事に茫然。
ヤクザ事務所も兼用している超ウルトラ大豪邸だと思っていたのに、質素な平民の家だなんて信じられない。
玄関の扉を開けると、いきなり玄関に可愛らしいグッズで埋め尽くされている光景を目の当たりにした。
わしの目が華やかになっている。キョウタロウ、家間違えてないよな。
下駄箱の上にはキャラ時計、キャラ花瓶、キャラの写真立て。玄関マットは毛糸で編まれた手作りのキャラマット。どれもが城下で大人気のウサギがバツ印の口をしたキャラクターである。
「おい、これ「オレが作った」
「はい?」
「だから……オレが……ごにょ」
キョウタロウが少し恥ずかしそうだ。
「な、なんだ……と!?」
わしは今世紀最大に驚いた。顎が外れそうなくらい驚きすぎて顎がなかなか戻りそうもない。
「なんだよ、変か」と、不満そうに見てくるキョウタロウ。
「や、お前がこんな可愛らしいのを作ってるなんてびっくりというかなんというか、いろいろ驚くだろ」
だってこの悪魔がだぞ。
あの極悪不良のキョウタロウがウサギのキャラクターのマットを編んだんだぞ!?編み棒でっ!無愛想な悪魔顔で!しかもこんな可愛いキャラのを!意外過ぎるだろ。
なんか想像したらすごくシュールな光景だ。笑いがこみあげてくる。
うぷぷ、だめだ。口より腹に力が入って……こ、こらえきれん。
「ぶっはぁ!!」
ぐうううう~~~~。
笑いと同時にわしの腹の虫も盛大に鳴ってしまった。
そういえばもう六時くらいだったか。猿軍団に捕まったせいでもうこんな時間。急いで帰ろうか。せっかく上がらせてもらって悪いけど。
「何か食うか?」
「へ!?」
「腹が減ったんだろう。丁度夕食の時間だからな」
キョウタロウがフリルのエプロンをつけている。
「い、いや……わしは手当てをしたいだけで……」
「それでも腹は減っているだろう。ついでに夕食も食べていけ」
そのままキョウタロウはキッチンへ行ってしまった。わしはそばにあるソファに座っていろと待たされる。
それにしてもここはあのキョウタロウの家なんだよな。女の子の部屋ではないよな。
夢と現実がごっちゃになりそうでどうなっているんだ。
だって、部屋の模様が淡いというか、乙女ちっくそのものだ。
カーテンは薄いピンク色で、テーブルクロスはピンクと赤色のチェック柄。絨毯は玄関で見たウサギのマット模様。ソファの上には可愛らしいクッションやぬいぐるみがいっぱい。至る所にそのキャラのグッズが壁やら棚に所狭しと飾られている。
向こうの方にある本棚には恋愛小説や少女向けの本がいっぱいだ。読んでいるのかあの顔で恋愛小説を。
趣味を否定するわけではないが、ギャップがすごいというか想像がつかないというか、脳内でのキョウタロウのイメージが180度変わっていく。
もっと男らしいものを想像していただけに、想像とはかけ離れすぎていて驚くばかりだ。
「できたぞ。テーブルに座って食え」
それからしばらくして奴が声を掛けてきた。
赤いチェックのテーブルクロスの上には、おいしそうな料理の数々が並んでいる。
色とりどりのパエリアと、ほうれん草ときのこのスープと、シーザーサラダである。毒とか入ってないだろうな。マムシのスープとかドクロとへびの炒め物とか出てこなくてよかった。
「こ、これ……お前が作ったんだな……」
当然、見た目もとても綺麗でプロ並みである。
「い、いただきます」
悪魔顔なのにまともな料理もできるとか信じられん。しかも味もとても美味い。
「デザートにはプリンがある。それ食い終ったら食え」
キョウタロウは黙々と後片付けをし始めた。
その後姿を見ながら、わしは悪魔だろうが殺人鬼だろうが、ガチで嫁にほしいとそう思ってしまった。
胃袋で絆されるわしって案外チョロいのかもしれん。
「ここまででいいか」
「あ、ああ。ありがとう」
食後、少し会話をして家まで送ってもらった。
「飯が食いたきゃいつでも家に来い」
「あ……い、いいのか?」
「オレはお前を気に入っていると言った。だからだ」
「キョウタロウ……」
極悪不良で、悪魔顔で、恐ろしい女泣かせな野郎だと思っていたけれど、料理上手で乙女趣味持ち。
案外この世界はちゃんと乙女げぇむなのかもしれんな。それに、
こいつの事……悪くない……かも。
「なあ、お前の苗字ってなんだ?」
なんとなく知りたくなって訊ねた。
「知らなかったのか。キョウタロウ・キョアクだ」
「な……」
まさかの生前のわしの旦那と同じ名前だった。
同姓同名だなんて聞いてない!!
その後、そのキョアク・キョウタロウ……たぶん爺様の転生した相手と壮絶なロマンスを繰り広げる事になるのを、この時のわしはまだ知らなかった。
終
この後いろいろあってくっついたと思います(笑)
有言実行通りわしはキョウタロウの頬を殴った。いつもよりかは幾分か手加減した。
「お前がわしを恋人扱いなんてするからこんな所に連れてこられた!どーしてくれる!」
「あ?」と、殴られた事を不本意に思っているキョウタロウ。
「罰としてちゃんとわしの手当てをしろ。家まで送っていくように。それがお前の償いだ。それだけで今回は許してやる。感謝せい」
この悪魔相手にわしにしては譲歩した方だ。
「っ、い、いいのか!?」
おい。何を頬を赤らめてんだこいつは。ただここへ連れてこられた際に足をすりむいたから、その手当てをお願いしているだけだ。なんの意図もないから誤解をするな。
その後、わしは奴の家に行く事になった。
手当てのためとはいえ、わざわざ家に行く事などないというのに心配性である。
そんなキョウタロウの家だからどんなものかと思っていれば、いたって普通サイズの家だった事に茫然。
ヤクザ事務所も兼用している超ウルトラ大豪邸だと思っていたのに、質素な平民の家だなんて信じられない。
玄関の扉を開けると、いきなり玄関に可愛らしいグッズで埋め尽くされている光景を目の当たりにした。
わしの目が華やかになっている。キョウタロウ、家間違えてないよな。
下駄箱の上にはキャラ時計、キャラ花瓶、キャラの写真立て。玄関マットは毛糸で編まれた手作りのキャラマット。どれもが城下で大人気のウサギがバツ印の口をしたキャラクターである。
「おい、これ「オレが作った」
「はい?」
「だから……オレが……ごにょ」
キョウタロウが少し恥ずかしそうだ。
「な、なんだ……と!?」
わしは今世紀最大に驚いた。顎が外れそうなくらい驚きすぎて顎がなかなか戻りそうもない。
「なんだよ、変か」と、不満そうに見てくるキョウタロウ。
「や、お前がこんな可愛らしいのを作ってるなんてびっくりというかなんというか、いろいろ驚くだろ」
だってこの悪魔がだぞ。
あの極悪不良のキョウタロウがウサギのキャラクターのマットを編んだんだぞ!?編み棒でっ!無愛想な悪魔顔で!しかもこんな可愛いキャラのを!意外過ぎるだろ。
なんか想像したらすごくシュールな光景だ。笑いがこみあげてくる。
うぷぷ、だめだ。口より腹に力が入って……こ、こらえきれん。
「ぶっはぁ!!」
ぐうううう~~~~。
笑いと同時にわしの腹の虫も盛大に鳴ってしまった。
そういえばもう六時くらいだったか。猿軍団に捕まったせいでもうこんな時間。急いで帰ろうか。せっかく上がらせてもらって悪いけど。
「何か食うか?」
「へ!?」
「腹が減ったんだろう。丁度夕食の時間だからな」
キョウタロウがフリルのエプロンをつけている。
「い、いや……わしは手当てをしたいだけで……」
「それでも腹は減っているだろう。ついでに夕食も食べていけ」
そのままキョウタロウはキッチンへ行ってしまった。わしはそばにあるソファに座っていろと待たされる。
それにしてもここはあのキョウタロウの家なんだよな。女の子の部屋ではないよな。
夢と現実がごっちゃになりそうでどうなっているんだ。
だって、部屋の模様が淡いというか、乙女ちっくそのものだ。
カーテンは薄いピンク色で、テーブルクロスはピンクと赤色のチェック柄。絨毯は玄関で見たウサギのマット模様。ソファの上には可愛らしいクッションやぬいぐるみがいっぱい。至る所にそのキャラのグッズが壁やら棚に所狭しと飾られている。
向こうの方にある本棚には恋愛小説や少女向けの本がいっぱいだ。読んでいるのかあの顔で恋愛小説を。
趣味を否定するわけではないが、ギャップがすごいというか想像がつかないというか、脳内でのキョウタロウのイメージが180度変わっていく。
もっと男らしいものを想像していただけに、想像とはかけ離れすぎていて驚くばかりだ。
「できたぞ。テーブルに座って食え」
それからしばらくして奴が声を掛けてきた。
赤いチェックのテーブルクロスの上には、おいしそうな料理の数々が並んでいる。
色とりどりのパエリアと、ほうれん草ときのこのスープと、シーザーサラダである。毒とか入ってないだろうな。マムシのスープとかドクロとへびの炒め物とか出てこなくてよかった。
「こ、これ……お前が作ったんだな……」
当然、見た目もとても綺麗でプロ並みである。
「い、いただきます」
悪魔顔なのにまともな料理もできるとか信じられん。しかも味もとても美味い。
「デザートにはプリンがある。それ食い終ったら食え」
キョウタロウは黙々と後片付けをし始めた。
その後姿を見ながら、わしは悪魔だろうが殺人鬼だろうが、ガチで嫁にほしいとそう思ってしまった。
胃袋で絆されるわしって案外チョロいのかもしれん。
「ここまででいいか」
「あ、ああ。ありがとう」
食後、少し会話をして家まで送ってもらった。
「飯が食いたきゃいつでも家に来い」
「あ……い、いいのか?」
「オレはお前を気に入っていると言った。だからだ」
「キョウタロウ……」
極悪不良で、悪魔顔で、恐ろしい女泣かせな野郎だと思っていたけれど、料理上手で乙女趣味持ち。
案外この世界はちゃんと乙女げぇむなのかもしれんな。それに、
こいつの事……悪くない……かも。
「なあ、お前の苗字ってなんだ?」
なんとなく知りたくなって訊ねた。
「知らなかったのか。キョウタロウ・キョアクだ」
「な……」
まさかの生前のわしの旦那と同じ名前だった。
同姓同名だなんて聞いてない!!
その後、そのキョアク・キョウタロウ……たぶん爺様の転生した相手と壮絶なロマンスを繰り広げる事になるのを、この時のわしはまだ知らなかった。
終
この後いろいろあってくっついたと思います(笑)
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