上手なクマの育て方

ROKU

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 そういえば、ここしばらく、まともな食事をしていなかった。
 コンビニに勤めていた間は、店に出せなくなった弁当をもらって食べていたから、まだマシだったが。
 今にして思えば、あの特典を逃したのは痛かった。
 お陰でここ連日、白米に醤油をかけて食べている。
 醤油飯が格別好きなわけではなく、懐が乏しいから、他のモノを食べられないのだ。
 それでも米の買い置きがあっただけマシで、でなきゃ醤油だけ舐めて餓死してたかもしれない。
 勤めていた当時も不思議に思っていたが、数時間前の商品だいうだけで、どうしてあの弁当が商品価値を失ってしまうのか、柊一にはサッパリ分からなかった。
 格安割引販売でもしてくれたら、自分だったら大喜びで買うのに。
 でも、古くなった揚げ物をパリッとさせるため、水をぶっかけて揚げ直したものは、格安でも買いたくない。
 スーパーでバイトしたとき(これまた一ヶ月と保たなかったが)は、そういうものをもらって食べていた。
 あれはあとで胃もたれがして、どうにもありがたくなかった。
 でもあれは揚げ直しが悪いんじゃなくて、元々の油自体が悪かったのかもしれない。
 悪い油で揚げたものはどう転んでもマズイからな……、などと柊一が一人夢想の世界に入っていたら、ふいにジャケットの裾が軽くなった。

「ん?」

 見ると今まで裾を掴んでいた手が離れ、クマの子が、あらぬ方向に駆けて行く。

「あ! おいこらピス、どこへ行くんだよ!!」

 鳴き声から即席で付けた名前を呼びながら、慌てて後ろ姿を追いかける。
 ピスがまっしぐらに駆け寄ったのは、肉屋の店先だった。
 肉屋では、店先で様々な揚げ物を作っていた。
 肉屋の揚げ物といえば、なんといってもコロッケが旨い。
 良心的な油でカラリと揚げられたコロッケは、控えめながらも懐かしい味がして、柊一の大好物のひとつだ。
 揚げたてのコロッケにソースを掛けてもらって、その場でパクついて食べるのを美味いと思わないヤツなんて、この世にいないんじゃなかろうか?
 ピスも当然のようにショーケースの前に取り付き、並べられた揚げたてコロッケを食い入るように見つめながら、鼻をひくひくさせていた。
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