上手なクマの育て方

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　ポケットの中の財布には、クチャクチャになった文豪の姿が二枚と、あとはコインが合計300円足らず…
　それが現在の柊一の全財産だった。
　だからといって、喧嘩の末に啖呵を切って飛び出てきたコンビニに、どの面下げて２週間チョイ分の給料を請求に行けるというのか。
　この２千円ちょっとの金で、どうやって次の収入まで生き延びるかを考えたら、すっかり滅入ってきて、自棄寝をしていた冬の朝なのだった。
　クマの耳が付いている子供は、たぶん、保育園児くらいの年頃だろう。
　どうしたわけだかこの子供は、寒空の下、袋に穴を開けて首と腕を突き出したようなモノ（つまり病院で手術を受けるような衣服）しか身につけていなかった。
　裾をペロリとめくりあげてみると、パンツすら履いておらず、プリプリした子供の尻が恥ずかしげもなく丸見えになっている。
　しかもその尻には、たっぷり毛の生えた丸っこいシッポが付いていて、前から覗いてみると、股間はソフビ人形のようにツルツルだった。

「……おまえ、やっぱし、人間じゃないんだなぁ」

　クマの耳とシッポを生やした子供が、なんなのかは、柊一にも薄っすらと察しがついた。
　しかし本当にそうなのだとしても。
　普通ならそんなもの、柊一の手に届くところにいるはずがない。
　この状況はやっぱり不可思議なものだった。
　しかし不思議であろうがなんだろうが、こんな脱走患者みたいな姿の子供をこのまま連れ歩くわけにはゆかない。
　柊一は貧弱なクローゼット（正確には古びたファンシーケース）を引っかき回し、サイズが小さめのシャツとショートパンツを引っ張り出した。
　それにジャンパーまで着せつけて、頭にはニットキャップをかぶせる。
　毛深い耳と直径５センチ強のハゲを隠すと、クマの子はどうやら普通の人間の子供っぽく見えるようになった。

「pissssu～」

　耳が包まれたことが不快なのか、小さな手が帽子を脱ぎ捨てようとする。
　それを制して柊一は言った。

「ガマンしろ、それかぶってないと、一緒に連れてってやらないぞ」
「pupu～」

　クマの子の鳴き声を柊一が聞き分けているように、クマの子もまた柊一の言葉を聞き分けているようだった。
　不服そうに頬を膨らませながらも、帽子を脱ぎ捨てることは諦めたようで、ただ未練がましく衣服のアチコチを引っ張っている。（どうやら尻尾が包まれているのも不快らしい。）
ブカブカの衣類に包まれた雪だるまみたいな子供と、情けないくらい薄べったい札入れを共にして、柊一は近所の商店街へと出掛けていった。