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前編
1話 事後
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ふっ…と。
いつもの時間、いつもの部屋。
雲十は静かに目を覚ました。
ぼんやりと混濁する意識の中、彼は静かに目を開ける。
「…」
視界に広がるのは、もう何度も見慣れた白い天井。
壁、床、ベッド。
すべてが真っ白に包まれたその殺風景な空間は、まさに罪人を閉じ込める監獄のようだった。
ごそり、と。
布団を押し上げ、雲十はゆっくりとシーツから身を起こす。
(…また、あの夢)
久しぶりに懐かしい夢を見たな、と彼は小さく息をついた。
…あの出来事は二年前、雲十がまだ十五歳だった頃に起きたものだ。
別に今となっては特段思い入れもない思い出なのだが、こうも頻繁に夢に出てくるのは、連日の勤務で疲れているからなのだろうか。
それとも。
「んん…ぅ」
「…」
ちら、と、雲十は顔を前に向けたまま目だけを動かし、隣でぐっすりと眠る金髪の青年に目を向けた。
それとなく雲十の腰に腕を回し、むにゃむにゃ…と気持ちよさそうに寝入っている青年は服を着ておらず、適度に鍛えられた胸板の白い上半身を無防備にさらけ出していた。
しかしそれは雲十も同様で、彼も前のボタンは全開きのまま、自身の白いシャツを羽織るだけの形になっている。
(…また、成世と寝た)
雲十はまるで何か汚らしいものでも触るかのような手つきで青年の腕を脇によけると、昨夜のことを思い出し、重々しくため息をついた。
この金髪の、軟派な不良のような容姿をしている青年の名は、不破成世。
雲十より二つ年上の、今年十九歳になる仕事上の同僚だ。
とある過去の出来事が原因で、不本意にも上層部から共に仕事を命じられることの多い、雲十にとってまさに腐れ縁のような人物であるのだが。
「…」
実を言うと、彼らは一年半ほど前から、肉体を伴う性的な関係―いわゆる、セフレという関係を築いていた。
先に関係を持ち出したのは雲十だ。
男ばかりの閉鎖的な空間で、暇を持て余した雲十がたまたま面白そう、と興味を惹かれたのが成世だった。
別に自分も彼も、男が好きだったわけではない。
ただ、あの時は本当に退屈でしょうがなくて、ほぼ成世を襲うような形で、遊び半分の生半可な気持ちで相手を犯した。
最初のうちは成世も激昂して抵抗していたものの、何度か体を重ねて懐柔していくうちに意気消沈したのか、徐々に彼も行為を受け入れるようになった。
結果的に関係は一夜では収まらず、ずるずると先延ばしになっては、今では両者とも「自分で自慰をするよりかは効率がいい」という認識までに至っていたのだが。
コンコン。
その時。
突如、誰かが雲十の部屋の扉をノックした。
一瞬不審に思いドアの方に顔を向けるも、こんな早朝から彼を尋ねてこれる者など数えるほどしかいない。
案の定、廊下から聞こえてきたのは、聞き慣れた低い男の声だった。
「…2番様、3番様。お目覚めでしょうか」
2番、という男の言葉に、雲十はぴくりと反応した。
その数字は、運営人の中で成世を指し示す番号だ。
どうやらこの男は、昨夜自分と成世が一夜を共にしたことを知っていたらしい。
雲十はドアの向こう側へ、ぶっきらぼうに返事を返す。
「…起きてるけど。何の用?」
「先程1番様より、ただちに管理室へ運営人の皆様をお連れするよう、指示を承りました。準備が出来次第、どうぞ二階へ」
「…」
何かあったのか、と。
壁越しに話を聞き終わり、雲十はすぐさまそう察した。
滅多にない招集命令が下るなど、おおかた、現在進行中のゲームで何かイレギュラーが発生したに違いないが、今日の担当は確かあの真堂だったはずだ。
よほどの異常事態だったのだろう。
わかったよ、と雲十が扉の向こうに軽返事を返すと、部屋の前の男はすたすたと廊下を立ち去っていった。
いくら上層部に意図的にそうさせられたとはいえ、相変わらず機械的な人物だと感じる。
「…ねえ、呼ばれた。起きて」
「…」
雲十は成世に目線を戻すと、ゆさっと、その意外と細い肩を一度だけ揺らした。
普段なら起こしてやるなどという親切なことは一切せず、成世が寝過ごそうが、勤務に遅れて真堂に怒られようが知ったことではない雲十であったが、今日ばかりは急を要するため、特別に声をかけてやることにした。
しかし。
「んー…あともうちょっとぉ…」
当の本人は、むぎゅ、と雲十の腰に再び手を回し顔をうずめるだけで、一向に起きる気配がない。
「…」
そんな成世の態度にむっと苛立った雲十は、無言で彼の額を思いきり指で弾く。
バチン!という鈍い音が、突如静かな部屋に響き渡った。
「いっだッ!?」
「…」
「え、ちょっと何!?急に何事!?」
「…うるさい。起きなかった成世が悪い」
雲十はそう成世に吐き捨てるとベッドから立ち上がり、ふわりと白いワイシャツを羽織り直した。
一方成世の方は「もっと優しく起こしてくれたっていいのに~…」とわざとらしく赤くなった額をさすってこちらを見てくるが、そんなもの雲十の知ったことではない。
「むー…」
不平を言いいつつもすぐさま服を着始めることから、眠たげなふりをしつつ、彼もさっきの男の話は聞いていたのだろう。
脇に置いてあった髪ゴムに手を伸ばすと、成世は肩まで伸ばした金髪を一本にまとめあげながら言った。
「なに、イレギュラーかなんか?」
「知らない。呼びに来たの、真堂さんじゃなくて桜さんだったし」
「あー、あの人…え、ねえ。ていうか、今回のゲームって真白ちゃん参加してなかったっけ?」
「…」
「え、うそ、あの二人いてもイレギュラーとかあんの?だったらもう俺たちが手に負える状況じゃなくない?」
「…それならとっくに強制終了してるでしょ。プレイヤーなんて、いくらでも替えがきくんだし」
ていうかこのやり取り自体が不毛、と雲十が言うと、成世は、まあねぇ…と肩をすくめてみせた。
くしゃ、と成世は寝癖のついた前髪を荒く掻き上げる。
シャツの上に白衣を着込み、「ま、とりあえず」と言葉を発した彼の顔は儚げで、男ながらにもどことなく妖艶に見えた。
成世はその顔に、薄い笑みを貼り付けて言う。
「…俺たち運営側にとって、とてつもなく面倒なことになってるってのは、確かなんだろーね」
いつもの時間、いつもの部屋。
雲十は静かに目を覚ました。
ぼんやりと混濁する意識の中、彼は静かに目を開ける。
「…」
視界に広がるのは、もう何度も見慣れた白い天井。
壁、床、ベッド。
すべてが真っ白に包まれたその殺風景な空間は、まさに罪人を閉じ込める監獄のようだった。
ごそり、と。
布団を押し上げ、雲十はゆっくりとシーツから身を起こす。
(…また、あの夢)
久しぶりに懐かしい夢を見たな、と彼は小さく息をついた。
…あの出来事は二年前、雲十がまだ十五歳だった頃に起きたものだ。
別に今となっては特段思い入れもない思い出なのだが、こうも頻繁に夢に出てくるのは、連日の勤務で疲れているからなのだろうか。
それとも。
「んん…ぅ」
「…」
ちら、と、雲十は顔を前に向けたまま目だけを動かし、隣でぐっすりと眠る金髪の青年に目を向けた。
それとなく雲十の腰に腕を回し、むにゃむにゃ…と気持ちよさそうに寝入っている青年は服を着ておらず、適度に鍛えられた胸板の白い上半身を無防備にさらけ出していた。
しかしそれは雲十も同様で、彼も前のボタンは全開きのまま、自身の白いシャツを羽織るだけの形になっている。
(…また、成世と寝た)
雲十はまるで何か汚らしいものでも触るかのような手つきで青年の腕を脇によけると、昨夜のことを思い出し、重々しくため息をついた。
この金髪の、軟派な不良のような容姿をしている青年の名は、不破成世。
雲十より二つ年上の、今年十九歳になる仕事上の同僚だ。
とある過去の出来事が原因で、不本意にも上層部から共に仕事を命じられることの多い、雲十にとってまさに腐れ縁のような人物であるのだが。
「…」
実を言うと、彼らは一年半ほど前から、肉体を伴う性的な関係―いわゆる、セフレという関係を築いていた。
先に関係を持ち出したのは雲十だ。
男ばかりの閉鎖的な空間で、暇を持て余した雲十がたまたま面白そう、と興味を惹かれたのが成世だった。
別に自分も彼も、男が好きだったわけではない。
ただ、あの時は本当に退屈でしょうがなくて、ほぼ成世を襲うような形で、遊び半分の生半可な気持ちで相手を犯した。
最初のうちは成世も激昂して抵抗していたものの、何度か体を重ねて懐柔していくうちに意気消沈したのか、徐々に彼も行為を受け入れるようになった。
結果的に関係は一夜では収まらず、ずるずると先延ばしになっては、今では両者とも「自分で自慰をするよりかは効率がいい」という認識までに至っていたのだが。
コンコン。
その時。
突如、誰かが雲十の部屋の扉をノックした。
一瞬不審に思いドアの方に顔を向けるも、こんな早朝から彼を尋ねてこれる者など数えるほどしかいない。
案の定、廊下から聞こえてきたのは、聞き慣れた低い男の声だった。
「…2番様、3番様。お目覚めでしょうか」
2番、という男の言葉に、雲十はぴくりと反応した。
その数字は、運営人の中で成世を指し示す番号だ。
どうやらこの男は、昨夜自分と成世が一夜を共にしたことを知っていたらしい。
雲十はドアの向こう側へ、ぶっきらぼうに返事を返す。
「…起きてるけど。何の用?」
「先程1番様より、ただちに管理室へ運営人の皆様をお連れするよう、指示を承りました。準備が出来次第、どうぞ二階へ」
「…」
何かあったのか、と。
壁越しに話を聞き終わり、雲十はすぐさまそう察した。
滅多にない招集命令が下るなど、おおかた、現在進行中のゲームで何かイレギュラーが発生したに違いないが、今日の担当は確かあの真堂だったはずだ。
よほどの異常事態だったのだろう。
わかったよ、と雲十が扉の向こうに軽返事を返すと、部屋の前の男はすたすたと廊下を立ち去っていった。
いくら上層部に意図的にそうさせられたとはいえ、相変わらず機械的な人物だと感じる。
「…ねえ、呼ばれた。起きて」
「…」
雲十は成世に目線を戻すと、ゆさっと、その意外と細い肩を一度だけ揺らした。
普段なら起こしてやるなどという親切なことは一切せず、成世が寝過ごそうが、勤務に遅れて真堂に怒られようが知ったことではない雲十であったが、今日ばかりは急を要するため、特別に声をかけてやることにした。
しかし。
「んー…あともうちょっとぉ…」
当の本人は、むぎゅ、と雲十の腰に再び手を回し顔をうずめるだけで、一向に起きる気配がない。
「…」
そんな成世の態度にむっと苛立った雲十は、無言で彼の額を思いきり指で弾く。
バチン!という鈍い音が、突如静かな部屋に響き渡った。
「いっだッ!?」
「…」
「え、ちょっと何!?急に何事!?」
「…うるさい。起きなかった成世が悪い」
雲十はそう成世に吐き捨てるとベッドから立ち上がり、ふわりと白いワイシャツを羽織り直した。
一方成世の方は「もっと優しく起こしてくれたっていいのに~…」とわざとらしく赤くなった額をさすってこちらを見てくるが、そんなもの雲十の知ったことではない。
「むー…」
不平を言いいつつもすぐさま服を着始めることから、眠たげなふりをしつつ、彼もさっきの男の話は聞いていたのだろう。
脇に置いてあった髪ゴムに手を伸ばすと、成世は肩まで伸ばした金髪を一本にまとめあげながら言った。
「なに、イレギュラーかなんか?」
「知らない。呼びに来たの、真堂さんじゃなくて桜さんだったし」
「あー、あの人…え、ねえ。ていうか、今回のゲームって真白ちゃん参加してなかったっけ?」
「…」
「え、うそ、あの二人いてもイレギュラーとかあんの?だったらもう俺たちが手に負える状況じゃなくない?」
「…それならとっくに強制終了してるでしょ。プレイヤーなんて、いくらでも替えがきくんだし」
ていうかこのやり取り自体が不毛、と雲十が言うと、成世は、まあねぇ…と肩をすくめてみせた。
くしゃ、と成世は寝癖のついた前髪を荒く掻き上げる。
シャツの上に白衣を着込み、「ま、とりあえず」と言葉を発した彼の顔は儚げで、男ながらにもどことなく妖艶に見えた。
成世はその顔に、薄い笑みを貼り付けて言う。
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