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神婚(比率:女:1)
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六月十二日。どれほどこの日が来ないで欲しいと願ったことか。今日で私は。なぜ、私はこの村に生まれてしまったのだろう。こんな忌まわしい風習がある村に。神様なんて、いるはずはないのに。外では、六月に結婚することは、縁起がいいと言われているらしい。忌々しい。
六月十五日。あれから三日が経った。痛い。なぜこんなことをしなくてはいけないのだろう。悲鳴を上げるとぶたれた。だから、口を閉ざした。それでもぶたれた。声を出したら、少しは和らいだ。それでも、傷は刻まれていった。
六月二十二日。あれから十日。雨は、嫌いだ。夜を思い出すから。夜には、あの男がやってくる。もう嫌だ。この部屋で、夜を待つことが。この雨は、すべてを洗い流してくれるだろうか。あの男につけられた傷を、すべて。
今日は暑い日だった。今が何月の何日かはわからない。両手の指を超えたあたりから、わからなくなっていった。本当に、神様がいるのならば、私を救ってほしい。解放してほしい。私が子を身籠れば、この地獄から解放される。そろそろ、できてもおかしくないはずだ。神様でも誰でもいい。私を助けてほしい。
今日は、身体が重い。吐き気もする。とうとう私に、できたのだろうか。だとしたら、ようやくこの地獄から解放される。これで、マレビトであるあの男は、もういなくなるんだ。もうあの男に抱かれずに済む。そう思うと、できているかもしれないお腹の子が愛おしく思えてきた。
今日は、気分がいい。神様であるあの男が、とうとういなくなったからだ。私の目の前で、あの見たくもなかった顔を歪ませて、逝った。四肢をもがれ、匣に詰められたその神様は、神の世界とやらに帰っていった。大きくなったお腹をさすると、中の子が動いた気がした。私の憎しみは、この子にも伝わっているのだと感じた。
子が、産まれた。憎きあの男の子が。なぜ、私はこの子のことを愛おしいと思っていたのだろうか。この子は、あの男の種からできた子だというのに。この子を一目見たときに、それまで思っていた感情はすべて消え去った。あの男に似ている。あの男が、この世に戻ってきたのだ。そうとしか思えない。
子が泣き止まない。五月蠅い。泣きたいのは私の方だ。やっとあの男から解放されたと思ったのに。私は、その呪縛から未だに逃れられていない。ああ、地獄はまだ続く。そう思ったら、私の何かが切れる音がした。子は、泣き止んだ。
今日、私は座敷牢に入れられた。居心地は悪くない。あの男のことも、子の泣き声も聞こえない。私は、ようやく解放されたのかもしれない。
今日は、外が騒がしい。どうやら、マレビトが来たらしい。招かれたわけではないという。山奥にある村だというのに、珍しい。迷い込んだのだろうか。なんにせよ、あの男のように招かれた存在ではないということだ。
見てしまった。村に来たというマレビトを。目が合ってしまった。彼が二階の窓を見てくれた。心が跳ねたような気がした。彼は、画家なのか、この村の風景を描いていた。その姿を見ているだけで、時間を忘れられた。
その翌日、私は牢から出ることになった。そして、またあの部屋に戻ってきた。私が汚されたあの部屋に。だけど、ほどなくして彼が来てくれた。彼もマレビトなのだから、神様なのだ。異例ではあるが、神婚の儀が再び行われた。彼も、私のことを気に入ってくれたらしい。汚れたこの身でもいいと言ってくれた。嬉しい。
七月十五日。ずっとこの幸せな時間が続けばいい、と願った。だけど、私は知っている。巫女を孕ませたマレビトの末路を。マレビトを神として崇め、巫女と婚姻を結ばせる神婚の儀。役目を終えた神様は、神の世界へ送られる。あの狭い匣に入れられて、湖に沈められるのだ。彼には、そうなって欲しくない。
七月十六日。私は、彼にこの村を出ようと提案した。彼は、快く引き受けてくれた。外の世界を知っている彼なら、私を本当の意味で救ってくれる。この村の腐った風習から逃れられる。そうしたら、普通の生活ができる。昼間は彼の帰りを待ちながら家事をして、夜は彼の仕事の話を聞きながら夕食を食べる。そんなごく普通の暮らしが。
七月二十日。明日、彼とこの村を出る。彼は、最後にこの村の景色を描いてくると言っていた。その帰りが待ち遠しい。そういえば、外から妙な話声を聞いた。断片しか聞き取れなかったが、匣の準備はどうなっている、というようなものだった。嫌な予感がする。
汚れたこの身には、過ぎた幸せだったらしい。彼は、いなくなってしまった。初めて愛した人を、初めて愛してくれた人を、失ってしまった。もう、この世にいる意味はない。私も、そちらへ行きます。
六月十五日。あれから三日が経った。痛い。なぜこんなことをしなくてはいけないのだろう。悲鳴を上げるとぶたれた。だから、口を閉ざした。それでもぶたれた。声を出したら、少しは和らいだ。それでも、傷は刻まれていった。
六月二十二日。あれから十日。雨は、嫌いだ。夜を思い出すから。夜には、あの男がやってくる。もう嫌だ。この部屋で、夜を待つことが。この雨は、すべてを洗い流してくれるだろうか。あの男につけられた傷を、すべて。
今日は暑い日だった。今が何月の何日かはわからない。両手の指を超えたあたりから、わからなくなっていった。本当に、神様がいるのならば、私を救ってほしい。解放してほしい。私が子を身籠れば、この地獄から解放される。そろそろ、できてもおかしくないはずだ。神様でも誰でもいい。私を助けてほしい。
今日は、身体が重い。吐き気もする。とうとう私に、できたのだろうか。だとしたら、ようやくこの地獄から解放される。これで、マレビトであるあの男は、もういなくなるんだ。もうあの男に抱かれずに済む。そう思うと、できているかもしれないお腹の子が愛おしく思えてきた。
今日は、気分がいい。神様であるあの男が、とうとういなくなったからだ。私の目の前で、あの見たくもなかった顔を歪ませて、逝った。四肢をもがれ、匣に詰められたその神様は、神の世界とやらに帰っていった。大きくなったお腹をさすると、中の子が動いた気がした。私の憎しみは、この子にも伝わっているのだと感じた。
子が、産まれた。憎きあの男の子が。なぜ、私はこの子のことを愛おしいと思っていたのだろうか。この子は、あの男の種からできた子だというのに。この子を一目見たときに、それまで思っていた感情はすべて消え去った。あの男に似ている。あの男が、この世に戻ってきたのだ。そうとしか思えない。
子が泣き止まない。五月蠅い。泣きたいのは私の方だ。やっとあの男から解放されたと思ったのに。私は、その呪縛から未だに逃れられていない。ああ、地獄はまだ続く。そう思ったら、私の何かが切れる音がした。子は、泣き止んだ。
今日、私は座敷牢に入れられた。居心地は悪くない。あの男のことも、子の泣き声も聞こえない。私は、ようやく解放されたのかもしれない。
今日は、外が騒がしい。どうやら、マレビトが来たらしい。招かれたわけではないという。山奥にある村だというのに、珍しい。迷い込んだのだろうか。なんにせよ、あの男のように招かれた存在ではないということだ。
見てしまった。村に来たというマレビトを。目が合ってしまった。彼が二階の窓を見てくれた。心が跳ねたような気がした。彼は、画家なのか、この村の風景を描いていた。その姿を見ているだけで、時間を忘れられた。
その翌日、私は牢から出ることになった。そして、またあの部屋に戻ってきた。私が汚されたあの部屋に。だけど、ほどなくして彼が来てくれた。彼もマレビトなのだから、神様なのだ。異例ではあるが、神婚の儀が再び行われた。彼も、私のことを気に入ってくれたらしい。汚れたこの身でもいいと言ってくれた。嬉しい。
七月十五日。ずっとこの幸せな時間が続けばいい、と願った。だけど、私は知っている。巫女を孕ませたマレビトの末路を。マレビトを神として崇め、巫女と婚姻を結ばせる神婚の儀。役目を終えた神様は、神の世界へ送られる。あの狭い匣に入れられて、湖に沈められるのだ。彼には、そうなって欲しくない。
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