恋する夢見鳥

うめめ

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恋する夢見鳥

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真崎 透流(しんざき とうる):気分屋な高校二年生。男
柊木 彩乃(ひいらぎ あやの):お淑やかに見えて意外としたたかな高校二年生。女

山田 雄二(やまだ ゆうじ):透流の友達、クラスのムードメーカー。男
園山 里香(そのやま りか):彩乃の友達、ウワサ好き。女

~モブ~
男子生徒①
男子生徒②
女子生徒

透流(語り) 修学旅行も残すところ二泊。旅館は今日までで、明日からは千葉にある夢の国と提携しているホテルで一泊となっている。山の近くにある旅館だから、雰囲気も出てて、結構好きだったんだけどな。

雄二 「というわけで、肝試しなんてどう?」

透流 「なにがというわけでなんだよ」

雄二 「いや、なんか透流がモノローグで名残惜しそうにしてたからさ」

透流 「当たり前のように心を読むんじゃねえよ、気味悪りぃな」

雄二 「まあ、肝試し、良い案じゃね?」

男子生徒① 「なになに、肝試し?」

男子生徒② 「女子も呼ぶっしょ?」

雄二 「当然! 隣のクラスの園山に声はかけたぜ」

男子生徒① 「おお、それは期待できるな」

雄二 「だろう?」

里香 「うちのクラスは乗り気だったけど、他はちょっとって感じだったわよー」

雄二 「園山、いたのか」

透流 (……雄二、もしかして、園山と一緒に肝試ししたいってわけか?)

雄二 (いや、別にそういうわけじゃ……。って、お前に黙ってても仕方ねえか。まあ、そういうことだ)

透流 (そうなのか。俺は隣のクラスのやつとは、全然交流ねえからなー)

里香 「それで、肝試しってどこでやるの?」

雄二 「あ、まだ決めてない」

里香 「もう何やってんのよ」

雄二 「すまんすまん」

里香 「じゃあ、旅館の裏の森に神社があるんだけど……」

透流 (流れるように決まっていくな)

里香 「っていうウワサがあって……、どう?」

雄二 「へえ、面白そうじゃん」

里香 「男女ペアでいいわよね」

雄二 「ルールは、この森の中に入っていって、神社の境内にある石を賽銭箱の上に置いてくるってことで」

 夜、裏の森入り口。

女子生徒 「……えっと、よろしく、真崎君だよね」

透流 「あ、ああ、よろしくな」

女子生徒 「あ、もしかして、真崎君も巻き込まれた感じ?」

透流 「そんなところだ」

女子生徒 「やっぱり。って、意外とこの森、雰囲気あるね」

透流 「そうだな、さっさと終わらせて帰ろうぜ」

女子生徒 「……意外とドライなんだね」

 一方その頃、山田雄二は。

雄二 「えっと、確か、柊木彩乃だったっけ。よろしく」

彩乃 「よろしくお願いします、山田くん」

雄二 「珍しいな、お前みたいなのが肝試しなんて」

彩乃 「本当は、部屋で本でも読んでいたいと思っていたんですけど、たまたま里香に誘われてしまって」

雄二 「なるほどなー。それで、お前は信じるか? あのウワサ」

彩乃 「ウワサ……、あー、あの対になる石を手に取った男女は結ばれるっていうやつですか? 信じてないですよー」

雄二 「まあ、面白そうっちゃそうだけど、眉唾もんだよな」

彩乃 「あれ、山田くんは、里香と結ばれたいのかと思ってました」

雄二 「な、そんなわけないだろう」

彩乃 「そうですか、そういうことにしておいてあげますね」

雄二 「はあ……。っと、ここがその神社か。なるほど」

彩乃 「この石で、いいんですよね」

雄二 「お、結構無難な石を選んだんだな」

彩乃 「はい、無難な方が対になる可能性は低いと思って」

雄二 「そんなもんか。じゃあ、俺は特徴的な石にしよう」

彩乃 「それじゃ、帰りましょう」

雄二 「おう」

 視点は戻って透流チーム。

透流 「おー、雄二」

雄二 「透流か、神社はこの先だ、俺と対の石を取るんじゃねえぞ」

透流 「わかってるって、そんなおぞましいことはしねえよ」

雄二 「それはそうだが、面と向かって言われるのはムカつくな」

透流 「というか、お前園山と一緒じゃないんだな」

雄二 「くじに仕込みを入れようとしたら、園山が邪魔してきてな……って、いいから早く行けよ」

透流 「へいへい」

彩乃 「…………」

女子生徒 「そ、そういえば、真崎君、ウワサって信じる?」

透流 「ウワサ? 知らねえけど、石を置けばいいだけだろ」

女子生徒 「うん……。まあ、あたしも信じてないけど」

透流 「じゃあいいじゃねえか。さっさと行こうぜ」

女子生徒 「多分もうすぐだよ」



透流 「……ここか。……石は、適当にこれでいいか」

女子生徒 「見せて見せて、なるほど……。結構無難だね」

透流 「お前は結構選ぶんだな、別にどれでもよくないか?」

女子生徒 「お、女の子は、たとえウワサでも本気になっちゃうの!」

透流 「そういうもんかよ」

女子生徒 「そ、そういうものなの! ……これ、かな? いや違うか」

透流 (本気だ……)

女子生徒 「……仕方ない。これにしよう」

透流 「ようやく終わったか」

女子生徒 「……さあ帰ろう」



透流(語り) その夜、夢を見た。ぼんやりと浮かぶ女子の影。見覚えはない、いやあるのか? わからない。

透流 (おい、お前誰だよ)

透流 (……消えた)



翌日、新幹線車内。

透流 「雄二、最後までチョコたっぷりなやつをくれ」

雄二 「座って早々……、ほらよ」

透流 「やっぱこれだな」

雄二 「お前、なんかあった?」

透流 「なにが?」

雄二 「いや、肝試し、効果あったかなって思って」

透流 「ばかばかし……、あ」

雄二 「なんかあったのか?」

透流 「いや、なんでもねえよ」

雄二 「あっそ」

透流 「お前こそ、園山とはどうなんだ?」

雄二 「痛いとこつくな。なんもねえよ」

透流 「そうかよ、って噂をすれば……」

里香 「山田と真崎、昨日はありがとう。楽しかったわ」

雄二 「おう、楽しかったんならなによりだ」

透流 「俺はなんもしてねえけどな」

里香 「ついでよ、ついで。行きましょう、彩乃」

彩乃 「うん。……って、キミ……」

透流 「お前、……なんだよ?」

彩乃 「あ、いや、なんでもない」

透流 「……そうだよな、勘違いだよな」

彩乃 「え?」

透流 「あ、悪りぃ」

彩乃 「…………」

里香 「行こう、彩乃」

彩乃 「う、うん……」

透流 「…………」

雄二 「柊木彩乃のことが気になるのか?」

透流 「別に、そんなんじゃねえよ」

雄二 「……まあ、そういうことにしといてやるよ」

透流 「寝るわ、着いたら起こしてくれ」

雄二 「ん」



透流 (……また、夢か)

透流(語り) さっき顔を合わせたからか妙な違和感を彼女から感じたからかはわからないが、柊木彩乃の姿があった。そして、その唇が動いた。

彩乃 (真崎くん、好きだよ)



透流 「うおいっ!!」

雄二 「なんだよ、驚かせやがって……! まだ着いてねえぞ」

透流 「え、ああ、悪りぃ」

雄二 「悪夢でも見たかー?」

透流 「そんなんじゃねえよ」

雄二 「じゃあエロい夢か」

透流 「だったら起きねえよ」

雄二 「じゃあ、柊木か」

透流 「違うって、ほら、落下する寸前で目を覚ますこと、あるだろ? あれだよ、あれ」

雄二 「なるほど」

透流 「まったく、なんで俺が柊木の夢なんか見なくちゃいけないんだ。いくらさっき顔を合わせたからって……」

雄二 「……お前、やたら饒舌になるな」

透流 「そうか?」

雄二 「ああ、柊木のことになるとな」

透流 「か、関係ねえよ。柊木とは、話したことすらないんだぞ」

雄二 「ほら、聞いてもないことをベラベラ話す」

透流 「なっ! おい、雄二」

雄二 「ほらよ、最後までチョコたっぷりだぞ」

透流 「見透かされてるみたいで怖いって」

雄二 「都合が悪くなったお前が取りそうな行動を予想しただけだ」

透流 「だから怖いって」

雄二 「つまり、都合が悪いのは認めるんだな? ということは、お前は柊木に関してなにかあるってことだ」

彩乃 「私が、どうかしました?」

雄二 「お」

透流 「ひ、柊木こそ、どうしたんだよ、東京まで待ちきれなくなったか?」

彩乃 「いや、ちょっと用を足してただけですけど」

透流 「おっと、それは悪かった」

彩乃 「普通は想像つきますよね……」

雄二 「そういえば、柊木はなにか変わったこととかないか?」

彩乃 「え、いや、そんな、ないですよ」

雄二 「ふーん、そうか。悪かったな、変なこと聞いて」

彩乃 「そ、それじゃ、自分の席に戻ります」

雄二 「……あいつもなにかあるな」

透流 「雄二、目が怖いぞ」



 夕方、ホテルのロビー。

透流 「講習受けて思ったけど、夢の国のキャストも大変なんだな」

雄二 「まったくだ」

透流 「それにしても、これからの自由時間どうするよ」

雄二 「21時までだろ? それを男二人でってのもな」

透流 「いっそのこと舞浜に亡命するか」

雄二 「それもありっちゃありだな」

里香 「なしでしょ」

雄二 「って、園山と柊木か」

里香 「まったく二人とも、せっかくの夢の国なのに、楽しまなきゃ損でしょう?」

雄二 「男二人で遊園地回る趣味はねえってだけだ」

彩乃 「あ、だ、だったら、私たちと回りませんか?」

里香 「あ、いいわね、それ。ちょうど誰かを誘おうと思ってたのよ」

雄二 「そうか、じゃあご相伴に預からせてもらおうか。……いいよな、透流」

透流 「え、ああ。そうだな」

彩乃 「あの、私がいたら、不満、ですか?」

透流 「なんでそうなるんだよ」

彩乃 「え、なんか、私を避けてるような気がして……」

雄二 「いやー、悪い悪い、透流のやつ、柊木が好みだからって、照れてるんだ。許してやってくれ」

透流 「おい、変なこと言うなって」

彩乃 「そ、そうなんですか?」

透流 「……ノーコメントだ」

里香 「……あんたたち、面識あったっけ?」

透流 「ない」

彩乃 「ないです」

透流・彩乃 「たぶん……」

里香 「息ぴったり!」

透流 「それで、一緒に行動するんだろう?」

彩乃 「そうですよ!」

里香 「まあ、そうね。ずっとここにいても仕方ないし」

雄二 「じゃあ出ようか」



 夢の国。 

里香 「次どこ行くー?」

雄二 「俺はどこでも」

透流 「同じく」

里香 「あんたたち、なんでそんな消極的なのよ」

彩乃 「あ、できれば待ち時間長い方がいいです」

里香 「なんで!?」

雄二 「お、だったら、あそこ行こうぜ。結構並んでるぞ」

里香 「まあ、話しながら順番を待つのも醍醐味か」

透流 「結構待ちそうだな」

雄二 「まあ、いいんじゃねえか。透流、あんまり話したことないだろう、柊木と」

里香 「なに、好みって話、本当だったの?」

透流 「関係ねえよ、とっとと行こうぜ」

里香 「確かに、さっさと行かないと時間なくなっちゃうわね」

雄二 「じゃあ行くか」

彩乃 「きゃっ、すみません……」

透流 「柊木……? って、あれ、あんなところに……」

彩乃 「あれ、ない」

透流 「おい、はぐれんなって」

彩乃 「真崎くん……」

透流 「どうしたんだよ」

彩乃 「それが、ぶつかった拍子に本を落としちゃったみたいで」

透流 「本? なんでこんなところに、持ってきてんだよ」

彩乃 「待ち時間暇だと思って」

透流 「そうかよ、で、本のタイトルは?」

彩乃 「『ハムレット』です」

透流 「シェイクスピアか……。まあ、本ならすぐに見つかるだろう」

彩乃 「え、探してくれるんですか?」

透流 「当たり前だ。お前ひとり置いてくわけにはいかないだろ」

彩乃 「……ありがとう、ございます」

 数分後。

透流 「お、あった」

彩乃 「それです、ありがとうございます」

透流 「一件落着だな。じゃあ、あいつらと合流するか……」

彩乃 「そうですね」

透流 「って、どこだっけここ」

彩乃 「山田くんに連絡は?」

透流 「ああ、そうだな……って、充電がない」

彩乃 「えー、なんで充電してないんですか!?」

透流 「そう言うお前は、園山に連絡しないのかよ」

彩乃 「ふふん、私はちゃんと持ってますよ。それにさっきまで充電してましたし……、あれ?」

透流 「どうしたんだよ」

彩乃 「部屋の充電器に刺さったままです……」

透流 「本は持ってきて、スマホは忘れるんだな」

彩乃 「うう、ごめんなさい」

透流 「まあ、これでお互い様だ」

彩乃 「……どうします?」

透流 「しょうがない、二人を探しつつ、このまま回ってみようぜ」

彩乃 「そうですね、……っ」

透流 「柊木、行かねえのか?」

彩乃 「……えっ、あ、行きます……」

透流 「……まあ、ちょっと疲れたし、どっかで休まないか?」

彩乃 「ええ、行くのか行かないのかどっちなんですか」

透流 「お、あそこに座るか」

彩乃 「……いいですけど、里香たちを探さないと」

透流 「……悪かったな、気づかなくて」

彩乃 「え?」

透流 「いや、足……、痛めてたのか」

彩乃 「あ、さっき、ぶつかったときに……」

透流 「なんですぐに言わねえんだ」

彩乃 「歩けましたし」

透流 「痛むんだろ?」

彩乃 「痛みません……っ」

透流 「じっとしてろ、……よっ」

彩乃 「ちょっと、なんで持ち上げるんですか! これ、お姫様だっ……」

透流 「ここは夢の国なんだろ? これくらい普通じゃないのか」

彩乃 「普通じゃないです!」

透流 「だあーっ、もう、騒ぐな! 余計目立つだろ」

彩乃 「真崎くんが目立つことしてるからです!」

透流 「ったく、ほら、座れよ」

彩乃 「…………」

透流 「見せてみろ」

彩乃 「…………」

透流 「そんな目で見るなよ。冷却シート、持ってるから」

彩乃 「なんで持ってるんですか?」

透流 「いや、一昨日、雄二が足ひねって、そのときに買ったんだ」

彩乃 「そうなんだ」

透流 「ってそんなことはいい。ちょっと見るぞ」

彩乃 「え、ちょっと、きゃっ」

透流 「やっぱり、ひねってんじゃねえか」

彩乃 「…………」

透流 「……貼るぞ」

彩乃 「ちょっと、あっ」

透流 「変な声出すな」

彩乃 「…………」

透流 「よし、とりあえずはこれでいいだろう」

彩乃 「……ありがとうございます」

透流 「今日は、もう戻ろう。部屋にスマホあるんだろ?」

彩乃 「そうですね、そうします」

透流 「肩を貸すよ」

彩乃 「ひとりで歩けます」

透流 「そう言うな、このままお前ひとりで歩かせるわけにはいかない」

彩乃 「…………」



ホテル。

透流 「ここでいいよな」

彩乃 「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

透流 「いや、いいよ。あ、そうだ、園山に連絡頼むな」

彩乃 「わかってますよ」

透流 「それと、安静にな、軽いとはいえひねってるんだから、無理は禁物だ」

彩乃 「……それじゃ、これで」

(SE 扉が勢いよく閉まる音)

透流 「っておい……! ったく、そんな勢いよく閉めなくてもいいじゃねえかよ」

透流 「……部屋に戻って寝るか」



透流 (夢か。次はなにがくるんだ? また柊木か?)

彩乃 (…………)

透流 (やっぱり、また柊木か。確かに、今日はなにかと縁があるからな)

彩乃 (真崎くん、好き)

透流 (ちょっと待て、展開が早いんだよ)

彩乃 (……もう、我慢できない)

(SE 衣すれの音)

透流 (おい、冗談だろ)

彩乃 (冗談でこんなこと、しないよ、透流くん)



透流 「……なんて夢だ。溜まってんだろうな」

透流 「ふぁあ、今何時だ? ……20時半、雄二のやつ、まだ帰ってきてねえのか」

(SE スマホのバイブ音)

透流 「……電話? 雄二か。……もしもし?」

雄二 『あー、透流、もうちょっとで戻るんだけどよ……』

透流(語り) その電話の後、雄二は21時ギリギリに戻ってきた。なんでも俺たちとはぐれたあと、園山とうまくいったらしい。曰く、心配していたらしいが、俺と柊木が二人きりになりたくて抜け出したと思っていたという。

雄二 「……透流、ちょっと頼みがあるんだが……」

透流 「なんだよ」

雄二 「ここに、最後までチョコたっぷりな菓子が三つある」

透流 「あるな」

雄二 「この部屋から出てってくれないか」

透流 「廊下で寝ろって言うのか?」

雄二 「そうじゃない、誰か他のやつのとこに行ってくれないか」

透流 「なんでだよ」

雄二 「いやだから、里香と付き合うことになったって言ったろ?」

透流 「里香、ね。……それ三つだけか」

雄二 「もう二つある」

透流 「わかった、他のとこ行く」

雄二 「すまねえ」

透流 「まあ、夢の国ではぐれた俺たちを心配してくれたカップルには優しくしないとな」

雄二 「悪かったって」

透流 「冗談だよ。まあ、うまくやれよ」



(SE 自販機で飲み物を買う音)

透流 「にしても、あいつらがな」

彩乃 「あ、真崎くん」

透流 「よ、よう」

透流 (……あんな夢を見たあとだから、少し気まずいな)

彩乃 「なに、してるんですか?」

透流 「見りゃわかるだろう、飲み物買ってたんだよ」

彩乃 「そんなことを聞きたいんじゃないです、どうしてこんなところにいるんですか?」

透流 「あーそれはな……」

彩乃 「当ててあげましょうか?」

透流 「は?」

彩乃 「……山田くんに部屋を追い出されたんでしょう?」

透流 「正解だ」

彩乃 「ふふん」

透流 「それじゃあ、お前はなんでこんなところにいるんだよ」

彩乃 「なんとなく、って言ったら、どうしますか?」

透流 「どうもしねえよ」

彩乃 「本当は、真崎くんに会えるんじゃないかと思って」

透流 「なっ!」

彩乃 「ふふ、冗談ですよ」

透流 「ったく……。というか、お前足大丈夫なのか?」

彩乃 「それは、もう大丈夫ですよ。ほら」

透流 「おい、だからって跳ぶな」

彩乃 「ふふ、心配してくれてるんですか?」

透流 「当たり前だ。目の前で足くじかれても困るだろ」

彩乃 「やっぱり、優しいですよね、真崎くん」

透流 「……それで、こんなところにいる本当の理由は?」

彩乃 「いや、同室の里香が他の部屋に行っちゃって……」

透流 「それで、暇を持て余してたってことか」

彩乃 「はい。……でも、真崎くんに会えるかもって思ったのも、本当、ですよ?」

透流 「は? そもそも、俺とお前は、絡むこと自体は今日が初めてだろう?」

彩乃 「……夢を、見るんです」

透流 「…………」

彩乃 「キミの」

透流 「俺の……」

透流(語り) 柊木もか、とは言えなかった。そんな雰囲気を柊木から感じた。

彩乃 「正直、誰だこいつって感じでしたけど、不思議と魅力は感じたんです。一目惚れみたいな……」

透流 「夢に出てきた俺に一目惚れ? それは光栄だ」

彩乃 「でも、タイプじゃないです」

透流 「そうかよ」

彩乃 「それに、キミには相手がいるんでしょう?」

透流 「はあ? 相手? あいにく、彼女はいねえよ」

彩乃 「……ということは、彼はいるんですか?」

透流 「なんでそうなるんだよ!?」

彩乃 「山田くんですか?」

透流 「そんな趣味はねえ!!」

彩乃 「でも、昨日の肝試しでペアになっていた子、真崎くんに好意を持っていたと思いますよ?」

透流 「あいつが?」

彩乃 「気づいてなかったんですか? てっきり、キープしているのかと」

透流 「キープって、そんな趣味の悪いことはしねえよ」

彩乃 「意外……」

透流 「言っておくが、彼女なんていねえし、できたこともないからな」

彩乃 「そうなんですか……、ふうん」

透流 「っていうか、今何時だ?」

彩乃 「あ、22時半ですね」

透流 「とっくに外出禁止の時間じゃねえか」

彩乃 「そうですね、こんなところを見られたら不純異性交遊の現行犯ですよ」

透流 「なにをのんきに言ってるんだ。それはお前も同じだろ」

(SE 革靴の足音が近づいてくる)

彩乃 「……!!」

透流 「やばい、先生だ」

彩乃 「こっち……!」

透流 「お、おい……!」

彩乃 「…………」

透流 「…………」

(SE 革靴の足音が遠ざかる)

彩乃 「…………行ったみたいですね」

透流 「……ああ」

彩乃 「ハラハラ、しましたね」

透流 「まったくだ。……というか、その、そろそろ離れてくれないか? 色々当たってるぞ……?」

彩乃 「へ? あ、ごめんなさい」

透流 「にしても、ここからどうする?」

彩乃 「そうですね、真崎くんは誰の部屋に行くかとか決めてるんですか?」

透流 「いや、これから決めようと思ってたんだけど……、ってあれ?」

彩乃 「どうしたんですか?」

透流 「スマホ、部屋に忘れた」

彩乃 「……スマホも満足に使えないんですか?」

透流 「スマホより本を優先するお前には言われたくねえよ」

彩乃 「それは置いといて、まずい状況ですね」

透流 「話逸らしやがって……。まあ、朝までこの状況というわけにもいかないし、かといって今部屋に戻ったら雄二と園山がいるしな」

彩乃 「……私の部屋、来ます?」

透流 「は? どうしたんだよ、いきなり」

彩乃 「いえ、里香が真崎くんたちの部屋に行ったなら、私たちの部屋に真崎くんが来ても、おかしくないですよね?」

透流 「いや、おかしいだろ」

彩乃 「なにもしませんよ?」

透流 「そうじゃないだろ。お前は、その、いいのかよ」

彩乃 「真崎くんなら、私、大丈夫ですよ」

透流 「やめとけって。それに、先生に見つかったらどうするんだよ」

彩乃 「里香たちも道連れにして、みんなで謝りましょう」

透流 「……はあ、でも、たしかに、それ以外に助かる道はないか」

彩乃 「そうですよ」

透流 「悪いけど、邪魔していいか?」

彩乃 「はい」



 彩乃・里香の部屋。

透流(語り) 俺たちは、先生たちの監視を潜り抜け、なんとか部屋にたどり着いたのだった。

彩乃 「適当に座ってください」

透流 「おう。……あ、そうだ、これ食べるか?」

彩乃 「ポッ〇ー派ですけど、食べます」

透流 「〇ッキー派って言う必要あったか? ほら」

彩乃 「ありがとうございます。……そういえば、お風呂、入りました?」

透流 「いや、柊木を部屋に送ったあと、すぐ寝たからな、入ってる暇なかった。臭うか?」

彩乃 「臭ってたら、見捨ててましたよ。でも、お風呂は入ったほうがいいですよ?」

透流 「柊木は入ったのか?」

彩乃 「なんですか、私が入ったあとじゃなかったら入らないんですか?」

透流 「そんなんじゃねえよ。というか、お前がそれ言わなかったら意識すらしてなかった」

彩乃 「私はまだ入ってないですよー、残念でしたね」

透流 「そりゃ残念。じゃあ、先もらっていいか?」

彩乃 「でも、男の人が入ったあとっていうのもなー」

透流 「どうしたいんだよ!」

彩乃 「一緒に入ります?」

透流 「何言ってんだ。俺は湯舟につからねえから、お前が先入れ」

彩乃 「覗かないですか?」

透流 「一緒に入るとか言ってたやつのセリフじゃねえだろ」

彩乃 「それもそうですね」

透流 「ああ、だから、さっさと入れ」

彩乃 「はーい」

透流 「…………」

透流 (柊木、なんかテンション高いな)

(SE シャワーの音)

透流 「…………ふぁあ」

透流 (……成り行きとはいえ、まさかこんなことになるなんてな)

透流 「……ふぁあ」

透流 (眠くなってきたな。なにか暇を潰せるようなものは……)

透流 「……お、『ハムレット』か。確か、さっき落としたやつだよな」

透流 「……他には、『夏の夜の夢』か。そういえば、これは読んだことないな」

透流 「……意外と面白いな」

(SE 浴室の扉が開く音)

彩乃 「あがりましたよー」

透流 「おう」

彩乃 「あ、私の本、読んでるんですか?」

透流 「あ、悪い、つい気になって」

彩乃 「いいですけど、お風呂あきましたよ」

透流 「わかった、入るよ」

彩乃 「私が入ったあとだからって、変なことしないでくださいね」

透流 「しねえよ」

(SE 浴室の扉を開ける音)

透流(語り) 浴室に入ると、柊木の匂いが鼻腔をくすぐった。一瞬、劣情が走ったが、すぐに振り払い、シャワーを出した。

(SE シャワーの音)

透流(語り) 顔に当たる湯が心地いい。……柊木も妙な夢を見ると言っていた。恐らく、俺と同じような夢だろう。つまり、俺と同じような感情を抱いているのかもしれない。柊木と一緒にいることは、正直心地いい。割れた石の欠片が再びひとつになるような、そんな感覚。……そういえば、あの肝試しからか、夢に柊木が出てくるようになったのは。例のウワサってのが、関係しているのかもな。

透流 「ふう……。ふぁあ」

透流 「それにしても、今日は眠気がすごいな」

透流 「……出るか」

(SE 浴室の扉を開ける音)

透流 「……おい、出たぞ」

彩乃 「すぅ……」

透流 「寝てるのか……」

透流 (まったく無防備なやつだ)

彩乃 「……ん」

透流 「あ、悪い、起こしたか?」

彩乃 「……とうる、くん?」

透流 「寝ぼけてんのか? ……っておいっ」

(SE ドサッ)

彩乃 「んちゅ……」

透流 「ん、んんっ……」

彩乃 「……っはあ、もっと……」

透流 「柊木、待て、いい加減にしろ」

彩乃 「……あれ、ふぁあ、……変な夢を見ていた気がします」

透流 「変な夢、か。俺を押し倒しておいてよく言うよ」

彩乃 「……私、そんなことしてたんですか?」

透流 「そうだ、これでも初めてだったんだぞ」

彩乃 「初めてって……、私、いったい何を?」

透流 「寝ぼけてキスしてきたんだよ」

彩乃 「ええ? 私も初めてだったのに……」

透流 「ま、事故みたいなもんだ、ノーカンじゃねえの?」

彩乃 「ふう、そういうことにしておきます」

透流 「……実は、俺も変な夢を見るんだ」

彩乃 「本当ですか? いつぐらいから?」

透流 「昨夜からだ」

彩乃 「もしかして、眠気もひどいのでは?」

透流 「ああ、今日はいつもより寝てる気がする。だけど、今はなんともないな」

彩乃 「私も今は眠くないです」

透流 「いや、お前は起きたばっかりだからだろ」

彩乃 「えへへ、そうかもしれません」

透流 「……俺も、今日は眠気がひどいくせに、柊木と顔を合わせているとなんともないな」

彩乃 「言われてみれば、そうかもしれないですね」

透流 「やっぱり、例のウワサってやつか」

彩乃 「ウワサって?」

透流 「いや、昨日やった肝試しのときにさ、ウワサがどうのってあっただろ。どうせ、眠気がひどくなるような、呪いみたいなやつだろうけど」

彩乃 「あれ、真崎くん、知らないんですか? 縁結びのおまじないのこと」

透流 「縁結び?」

彩乃 「はい、あの神社の境内にある石には、対となる石があるんです。それを見つけた男女は、結ばれるっていう……。真崎くん、昨日、どんな石を見つけました?」

透流 「え? 確か、あんまり特徴的な石じゃなかったような……」

彩乃 「無難な石、ですか?」

透流 「そう、石に無難っていうのもあれだけど、まさにそんな感じだ。って、なんでお前が……、あっ!」

彩乃 「私も、そんな感じの石を拾ったんです」

透流 「なるほど……」

彩乃 「……それじゃ、この気持ちっておまじないのせいなのかな」

透流 「え?」

彩乃 「……私、真崎くんのこと、好きだよ」

透流 「え、いや、待て、だからそれは……」

彩乃 「真崎くんは、どうなの?」

透流 「……確かに、俺も柊木に惹かれている、たぶん好きだ。だけど、それは縁結びの呪いみたいなもんだろ」

彩乃 「きっかけは、そうかもしれません……」

透流 「だろ? だからこのことは、お互い触れないようにしようぜ?」

彩乃 「ですけど、今日、私が本を落としたとき、一緒に探してくれましたし、足をひねったことにもすぐ気づいて処置をしてくれました」

透流 「それは、当然のことをしただけだ」

彩乃 「真崎くんにとっては、そうかもしれません。でも、私にとっては嬉しかったんです」

透流 「…………」

彩乃 「それって、好きになる理由としては、充分じゃないですか?」

透流 「……時間をくれ。今すぐには、答えられない」

彩乃 「そうですよね……。ごめんなさい、まだ少し寝ぼけてるのかもしれません」

透流 「……いいや、俺も柊木のことは好きだ。だけど、それは縁結びのおまじないのせいかもしれない。本当に柊木のことを好きと言えるまで、待ってくれないか」

彩乃 「……わかりました」



 翌日。東京。

透流(語り) その後、俺たちはそのまま眠りについた。あの夢は見なかったが、それはおそらく俺と柊木の距離が近づいたからだろう。そして、夜明け前に俺は部屋に戻った。少し臭ったが、察せる男である俺は何も言わなかった。ただ、俺が柊木とドキドキしながら夜を過ごしたというのに、雄二は良い思いをしていたと思うと、ムカつく。

雄二 「今日で修学旅行も終わりか。飛行機の時間まで東京で自由時間だけど、どこ行く?」

透流 「……そうだな」

雄二 「おい、透流?」

透流 「え? ああ、悪い、なんだっけ?」

雄二 「お前、なんか今日おかしいぞ」

透流 「そうか? いつも通りだけどな」

雄二 「そうは見えないぞ。今朝戻ってきてからそんな感じじゃないか」

透流 「…………」

雄二 「そういえば、昨日は誰の部屋に行ってたんだ?」

透流 「……ぎのところだ」

雄二 「え、誰だって?」

透流 「だから、柊木のところだ」

雄二 「柊木? 柊木彩乃?」

透流 「ああ、成り行きでな」

雄二 「ふうん、じゃあ、そういうことにしておこう」

(SE スマホの着信音)

雄二 「……あ、悪い」

透流 「おう」

雄二 「……もしもし、里香か、どうした?」

雄二 「ああ、ああ、スカイツリーの近くの、そう、そこだ」

雄二 「おう、了解、じゃ、後で」

透流 「……どうした?」

雄二 「いや、今から里香たちと合流することになった」

透流 「ってことは、柊木もくるのか……」

雄二 「そうだろうな、里香と一緒に行動しているはずだから」

透流 「そうだよな」

雄二 「まあ、いいじゃねえか、ダブルデートってことで」

透流 「…………」

透流 (まあ、柊木に答えを言わないとな)

雄二 「じゃあ、決まりってことで」

透流 「まだ何も言ってないだろ」

雄二 「顔に書いてあった」

透流 「ぐっ」

里香 「雄二!」

雄二 「お、早かったな」

里香 「近くにいたからね」

透流 「よ、よう」

彩乃 「う、うん」

里香 「あら、あらあら? なにその反応」

彩乃 「いや、なんでもないですよ!」

透流 「そ、そうだ、俺たちは何も……」

雄二 「まあ、なんもないわけないよな。昨日、一緒に寝た仲なんだろう?」

里香 「あ、そうだったの?」

彩乃 「う、うん、成り行きで……」

里香 「ふうん、そう……」

透流 「ああ、だから、俺と柊木はそういう関係じゃないんだ」

彩乃 「……それはそれで、ちょっと……」

里香 「へえ、そう。飛行機まで、まだ時間あるわよね。じゃあ、水族館に行きましょう」

雄二 「いいな、それ。水族館なんて、北海道じゃ、あまり行けないからな」

里香 「そういうこと」



 水族館。

透流 「こうして来たのはいいけど、また雄二たちとはぐれちまった」

彩乃 「そうですね」

透流 「こりゃ、変な気を遣われたか、あいつらが二人きりになりたかったかだな」

彩乃 「……私と、一緒じゃダメでした?」

透流 「え、いや、悪い、そんなつもりで言ったわけじゃ……」

彩乃 「ふふ、ごめんなさい。ちょっとイジワル言っちゃいました」

透流 「…………」

彩乃 「あ、ごめんなさい、気を悪くしちゃいました?」

透流 「あ、悪い、なんか見惚れてた」

彩乃 「……! もう、ずるいです……!」

透流 「仕返しだ。……ほら、せっかく来たんだし、回ろうぜ」

彩乃 「う、うん」

透流 「水族館なんて初めて来たけど、結構きれいなところだな」

彩乃 「そうですね。……あ、クラゲ」

透流 「お、このカラージェリーフィッシュってやつ、かわいいな」

彩乃 「そうですね、あ、ミズクラゲの赤ちゃんだって……」

透流 「いるのか?」

彩乃 「ほら、よく目を凝らすと……、ここです」

透流 「おお、見えた」

彩乃 「ふふ、結構楽しんでるんですね」

透流 「た、ただの水族館だろ。はしゃいでなんかないからな」

彩乃 「そう言って、初めての水族館にわくわくしてるんじゃないですかぁ?」

透流 「う、うるせえ。ほら、次行くぞ、次」

彩乃 「はーい」



透流 「お、アシカだ」

彩乃 「……オットセイですね」

透流 「オットセイなのか、アシカと違いがわからないな」

彩乃 「そこの夫婦のお客さんが話してました」

透流 「盗み聞きかよ」

彩乃 「聞こえてきただけです」

透流 「そういうことにしといてやるよ」

彩乃 「あ、見てください。オットセイがなんかアピールしてますよ」

透流 「おお、遊んでくれてるのかもな」

彩乃 「ふふ、かわいい。……くるくる~っ」

透流 「…………」

彩乃 「……オットセイ、ちゃんと見てます?」

透流 「ちゃんと見てるっつの」

彩乃 「……答え、聞いてもいいですか?」

透流 「……ああ」

彩乃 「…………」

透流 「俺も、柊木のことが、好きだ。おまじないとか関係なく、好きになった」

彩乃 「……!! 嬉しい……!」

透流 「悪かったな、返事待たせて」

彩乃 「ううん、私こそ昨夜はごめんなさい」

透流 「いやそれはいい。だけど、寝ぼけていたとはいえ、いきなりキスはビビったよ」

彩乃 「……じゃあ、やり直し、する?」

透流 「おい、こんなところでか?」

彩乃 「誰も見てないですよ」

透流 「ちょっと待てって」

彩乃 「待ちません。それに、昨夜もしたじゃないですか……」

里香 「あ、やっぱり、そういう関係だったのね」

雄二 「透流、お前も隅に置けないな」

透流 「雄二と園山か」

透流 (ナイスタイミングだったような、邪魔をされたような)

彩乃 「見られちゃいましたね」

透流 「まあ、こういうわけだ。俺と柊木は付き合うことになった」

雄二 「やっぱり、昨日から様子が変だったからな」

里香 「いつぐらいから関わりあったのよ」

彩乃 「ふふ、きっかけはね、あの縁結びのおまじないなんです」

透流 「こう言っても信じてもらえないだろうけどな」



透流(語り) その後、俺と柊木は二人から質問責めを受けてから飛行機に乗ったのだった。きっかけこそ偶然だったかもしれないが、俺たちが結ばれたのは必然だったのかもしれない。……おっと、柄にもなく詩的になってしまった。
 空港から学校までのバスでは、運よく柊木の隣に座ることができた。

透流 「ふう、やっと家に帰れるな」

彩乃 「そう言って、結構名残惜しいんじゃないですか?」

透流 「なに、飛行機から降りて北海道の空気に触れた瞬間から名残惜しさなんてなくなったよ」

彩乃 「確かに、東京は暖かったですよね」

透流 「ああ、それに疲れたし、自分の家のベッドが恋しいよ」

彩乃 「ふふふ、5日間も自分でできてなかったら、それは恋しくなりますよね」

透流 「今は疲れの方が溜まってるって……。柊木、意外と下ネタ言うよな」

彩乃 「ふふ、ごめんなさい。……あ、そうだ、私のことは彩乃でいいですよ? 透流くん」

透流 「じゃあ、彩乃」

彩乃 「はい、透流くん」

透流 「……なんかむずがゆいな」

彩乃 「ふふふ」

 ふと雄二や里香たちの寝息が聞こえてくる。

彩乃 「……やっぱり、みんな疲れて眠ってますね」

透流 「そうだな、あ、先生陣も寝てるみたいだ」

彩乃 「本当ですね」

透流 「……修学旅行が始まる前は、彩乃と付き合うことになるとは思ってなかった」

彩乃 「それはそうですよ。まさかあの縁結びのおまじないで本当に結ばれることになるなんて」

透流 「……今思えば、夢の中の彩乃は、結構積極的だった」

彩乃 「そうだったんですか?」

透流 「ああ、急に告白してきたり、服を脱いだりな。……そういえば、彩乃はどういう夢見てたんだ?」

彩乃 「私、ですか? 私は、その……」

透流 「彩乃? 夢は夢なんだし、そんなに恥ずかしがることじゃないだろ」

彩乃 「恥ずかしいです……! だって、私と透流くんが……」

透流 「俺と彩乃が?」

彩乃 「……言わせる気ですか?」

透流 「バレた?」

彩乃 「ちゅ……。はい、これで我慢してください。私は寝ます」

透流 「おい、付き合って初めてのキスがこれでいいのかよ」

彩乃 「いいじゃないですか、あの夜にしたんですし」

透流 「言い方が生々しいな」

彩乃 「着いたら起こしてくださいね」

透流 「はいよ。ったく」

透流(語り) こうして、俺と彩乃のちょっと奇妙な修学旅行は終わりを迎えた。隣に座っている彩乃は、もう寝息を立てている。目を閉じて3秒で眠ったんじゃないか? まったく、どこののび〇君だよ。……なんだか俺も眠くなってきたな。



雄二 「最後までチョコたっぷりだぞ~」

透流 「…………雄二か?」

雄二 「お前の寝顔が気色悪かったから、到着前に起こしてやった、感謝しろ。そして謝れ」

透流 「なんで謝んなきゃいけないんだよ」

雄二 「お前の気色悪い顔を見て気分を損ねたんだ。謝罪を要求するのは当然だ」

透流 「理不尽だ。……そういえば、彩乃は?」

雄二 「彩乃? あ、柊木か。園山と一緒なんじゃねえの?」

透流 「あ、そう」

雄二 「それよりも、夢の国着いたらなにするよ」

透流 「あ?」

雄二 「いっそのこと脱出して、駅周辺で遊ぶとかどうだ?」

透流 「なに言ってんだ、もう修学旅行は終わっただろ」

雄二 「まだ1泊あるだろうが。どんだけ夢の国嫌いなんだよ」

透流 「…………」

雄二 「……お、柊木いたぞ。探してたんじゃないのか?」 

彩乃 「なんですか?」

透流 「え? ……あ、彩乃、俺のことわかるか?」

彩乃 「はい? 真崎透流、くんですよね。確か、1年の頃、一緒のクラスでしたよね」

透流 「あ、ああ、悪いな、こいつと去年の話になって……」

彩乃 「あ、そうだったんですか。それじゃ」

透流 「お、おう……」

透流(語り) さっきまで俺は夢を見ていたのか? それとも、これが夢なのだろうか? 今となってはわからない。ただ、恋が終わったのか、始まったのかは俺が決める。

透流 「……柊木、あー、雄二が園山と一緒に夢の国を回りたいって言うから、俺たちと一緒に行動しないか?」

END
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