魔法使いのお店はいつも閑古鳥が鳴いている

うめめ

文字の大きさ
7 / 63
Ⅰ 魔法使いのお仕事

第5話 決心

しおりを挟む
アリア・エインズワース:帝都のはずれにある森に店を構える魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:ひょんなことからアリアの助手をすることになった青年。21歳。
ソフィー:皇女を模したホムンクルスだと思われる少女。18歳くらい。

シルヴィア:アーロンに恋をしている少女。17歳。
ジョン:行商人の男性。44歳。

パーシー:帝都に居を構える変態貴族。35歳。

モブ
男1・2・3
女1・2



 ある日の昼下がり。魔法使いの店では、今日も今日とて穏やか過ぎる時間が流れていた。

ソフィー 「……このお店、儲かってるんですか?」

アーロン 「生活がちゃんとできるくらいには、稼げてるはずだ」

ソフィー 「暇、じゃないんですか?」

アーロン 「暇だ」

ソフィー 「ですよね」

アーロン 「あ、紅茶飲むか?」

ソフィー 「飲みまーす」

アーロン 「了解」

(SE 紅茶を淹れる音)

ソフィー 「…………」

アーロン 「なんだよ」

ソフィー 「紅茶淹れるの、上手ですよね」

アーロン 「まあ酒場とはいえ、飲食店で働いていたからな。こういうのは、なんとなくできるんだ」

ソフィー 「へえ、酒場、ですか。……やっぱり美味しい」

アーロン 「それと、茶葉が良いっていうのもあるだろうな」

ソフィー 「あ、そっちの方が納得できます」

アーロン 「どういう意味だ」

ソフィー 「それはいいとして、アーロンさん、酒場で働いていたんですか?」

アーロン 「まあな」

ソフィー 「……お酒ってどんな味なんですか? 飲んでみたいです」

アーロン 「もうちょっと大人になったら教えてやるよ」

ソフィー 「むぅ、私、自分の年齢も思い出せないんですよ? いいじゃないですか」

アーロン 「よくねーよ。ソフィー、見るからに未成年じゃねえか」

ソフィー 「若作りなだけかもしれないですよ。だからいいじゃないですか」

アーロン 「よくない。コンプライアンスどうこう言われたくないからな」

ソフィー 「……なに言ってるんですか?」

アーロン 「なんでもねーよ」

(SE 爆発音)

ソフィー 「ひっ、なんですか?」

アーロン 「気にするな」

(SE アリアの部屋の扉が開く音)

アリア 「ケホッケホッ、アーロン、採取に行こう」

アーロン 「天才も失敗するんだな」

アリア 「数多の失敗を乗り越えてこその天才なんだよ」

アーロン 「そうかよ」

(SE 店の扉がノックされる音)

ソフィー 「あ、誰か来たみたいですね」

アリア 「待て、キミ、これで顔を隠しておくんだ」

ソフィー 「え、ローブ? なんで……」

アリア 「理由はあとで説明する。頼む」

ソフィー 「……はーい」

アリア 「すまない、今開けるよ」

(SE 店の扉を開ける音)

ジョン 「ああ、取り込み中だったか?」

アリア 「すまない、少し調合をしていてね」

ジョン 「確かにススだらけだな。せっかくの美人が台無しだ」

アーロン 「うちの店主を口説かないでくれるか、ジョン」

ジョン 「へいへい。ああ、今日は依頼を持ってきたぞ」

アーロン 「依頼か。まあ、入れよ」

ジョン 「はいよ」

(SE 店の扉を閉める音)

ジョン 「……あれ、新顔だな。……ローブ、暑くねえのか?」

ソフィー 「えっ」

アリア 「ああ、彼女は、顔にケガをしていてね。ローブで隠しているんだ。あまり触れてやらないでくれ」

ジョン 「そうだったのか。そりゃ悪かったな、許してくれ」

ソフィー 「い、いえ……」

アーロン 「……それで、依頼ってのは?」

ジョン 「ああ、調査依頼なんだが、これまた厄介なやつでな」

アリア 「厄介……?」

ジョン 「なんでも、帝都近辺で平民の失踪が相次いでるらしいんだ」

アリア 「失踪……」

ジョン 「貴族のお遊びにしちゃ、大規模なんだよ」

アーロン 「つまり、魔物の仕業だって言いたいのか?」

ジョン 「魔物の仕業とわかれば、さすがの帝国騎士様も動くだろう。帝国自体にも被害が出ているわけだしな」

アリア 「……失踪者が最後に目撃されたのは?」

ジョン 「ああ? 帝都の外に出たっきり、もしくは帝都に戻る最中だったりだ。いずれも帝都近辺で起こっている」

アーロン 「ふうん、とりあえず、調査をして、魔物がどこにいるのか、調べればいいんだな?」

ジョン 「そういうことだ」

アリア 「わかった、調べてみるよ」

ジョン 「ありがとよ、それじゃ」

(SE 店の扉の開閉音)

ソフィー 「……フード、取っていいですか?」

アリア 「あ、ああ、いいよ。すまないね」

ソフィー 「いいですけど、なんで顔を隠さなくちゃいけないんですか?」

アリア 「……キミの立場は、少し特殊だからね。キミが記憶を取り戻すまでは、あまり顔を晒さない方がいいだろうと思って」

ソフィー 「なるほど……。それもそうですね」

アーロン 「それで、今から調査に行くのか?」

アリア 「……そうだね。だけど、少し待ってくれないか?」

アーロン 「珍しい。すぐにでも行くと思ったのに」

アリア 「……ススだらけなんだ、察してくれ」

アーロン 「なるほど、水浴びか」

アリア 「覗くなよ」

アーロン 「覗かねーよ」

ソフィー 「私も一緒に行っていいですか?」

アリア 「すぐに終わるから……」

ソフィー 「あ、はい……」

アーロン 「アリア……?」

アリア 「すまない、すぐに戻ってくるから」

(SE 店の扉の開閉音)

ソフィー 「……やっぱり、アリアさん、私のこと、避けてますよね……」

アーロン 「……え」

ソフィー 「ああ、いえ、避けてるというより、必要以上に関わらないといいますか……」

アーロン 「……関わらない、か」

ソフィー 「やっぱり、私がここにいるのは、まずいんでしょうか?」

アーロン 「いや、それはないはずだ」

ソフィー 「記憶、早く取り戻さないといけないですね」

アーロン 「ソフィー、気負うことはない。アリアには、俺から言っておく」

ソフィー 「……ありがとうございます」

(SE 店の扉がノックされる音)

ソフィー 「あ、顔……」

アーロン 「ああ、隠しとけ」

(SE 店の扉を開ける音)

アーロン 「シルヴィアじゃないか。今日は、薬の日だったか?」

シルヴィア 「ああ、いえ、ここで貰ってる常備薬を切らしてしまって……」

アーロン 「なるほど」

(SE 店の扉を閉める音)

シルヴィア 「……この人は?」

アーロン 「あー、アリアの新しい助手だ」

ソフィー 「ソフィーです。傷があるので顔は見せられないですけど、よろしくお願いします」

シルヴィア 「シルヴィアです、よろしくお願いします。……女の子、ですか。アーロンさん、両手に華でいいですね」

アーロン 「おい、シルヴィア? なんか、怖いぞ」

シルヴィア 「え、そうですか?」

アーロン 「コワクナイ」

ソフィー 「へえ、そういうことですか」

アーロン 「あ? どうした、ソフィー」

ソフィー 「いやあ、アーロンさん、隅に置けないですねぇ」

シルヴィア 「……アリアさんは、どうしたんですか?」

アーロン 「ああ、ちょっとはずしてる」

シルヴィア 「あ、そうなんですか」

アーロン 「あ、薬だよな。どんな薬だ?」

シルヴィア 「傷薬なんですけど……」

アーロン 「ああ、わかった、アレか。それにしても、傷薬を切らしたって、シルヴィア、ケガしたのか?」

シルヴィア 「いえ、近くに住んでいる子が、貴族付きの兵士に襲われて、ケガしたんです」

アーロン 「また貴族か。それで、そのケガした子は、どうしたんだ?」

シルヴィア 「それは、知らない女の人が、助けてくれました……」

アーロン 「そうなのか。……はい、これ」

シルヴィア 「あ、ありがとうございます」

アーロン 「でも、その女の人が助けてくれたんだろ? だったら、なんでそんな暗い顔してるんだよ」

シルヴィア 「女の人は、兵士を殺したんです。私たちの目の前で」

アーロン 「あ、悪い」

シルヴィア 「いえ……。でも、その女の人も怖かったです」

アーロン 「そうか……」

シルヴィア 「あ、ごめんなさい、長居してしまって。ありがとうございました」

アーロン 「あ、ああ、気を付けて帰れよ」

シルヴィア 「はい」

(SE 店の扉の開閉音)

ソフィー 「シルヴィアちゃん、良い子でしたね」

アーロン 「ああ、アリアも気に入ってるみたいだしな」

ソフィー 「へえ、そうなんですか」

(SE 店の扉の開閉音)

アリア 「ただいま。そこでシルヴィアに会ったけど、来てたのかい?」

アーロン 「ああ、さっき帰ったところだ」

ソフィー 「顔は見せてないですよ」

アリア 「良い心がけだね。それでは、調査に行こうか」

ソフィー 「…………」



 帝都へ続く道。

ソフィー 「……私も来て、よかったんですか?」

アリア 「キミは、いつ記憶を取り戻すかわからないんだ。それまで、あまり一人にはさせたくないからね」

ソフィー 「そう、ですよね」

アーロン 「ソフィーは、治癒術を使えるんだから、戦闘になったら頼りになるだろ」

ソフィー 「私、頑張りますね」

アーロン 「おう」

アリア 「……ふむ」

アーロン 「お、どうしたんだ、アリア」

アリア 「これを見てくれ」

アーロン 「なんだよ、ただの石じゃないか。って言うと怒るんだろ?」

アリア 「ふふ、わかってきたじゃないか。これは凄いよ」

ソフィー 「……確かに、魔力の感じが他とは違いますね」

アーロン 「ソフィー、わかるのか」

ソフィー 「はい、なんとなくですけど」

アリア 「彼女にも魔法の素養があるからね」

アーロン 「なるほどな」

アリア 「この石、魔力の密度が高いんだ。これなら、良いものが作れそうだ」

アーロン 「でもなんかこの石、不気味だな」

アリア 「ふふ、魔力を秘めているんだ、そういう風に見えることもあるさ」

アーロン 「そういうもんなのか」

ソフィー 「……お二人って、仲良いですよね」

アーロン 「そうか?」

アリア 「まあ、なんだかんだアーロンが来てから、二か月くらい経つからね」

アーロン 「あれ、もうそんな経ったのか」

アリア 「ふふふ、劇的な日々は、一瞬で過ぎ去ってしまうからね」

アーロン 「退屈すぎて時間の感覚がなかったんだよ」

アリア 「退屈だって? この美人魔法使いである私と同じ屋根の下で暮らしていながら、退屈だって?」

アーロン 「おいおい、自分で言うか?」

ソフィー 「ははは、やっぱり、仲良いじゃないですか」

アーロン 「良いってことにしといてくれ」

アリア 「なんだい、その言い方は?」

ソフィー 「ははは。……これ、なんです?」

アーロン 「どれだよ」

ソフィー 「あ、ほら、この茂みから何かがちょっと出てるじゃないですか」

アリア 「これは……。辿ってみよう」

(SE 草を搔き分ける音)

ソフィー 「これって……」

アリア 「やはりか」

アーロン 「……蛇の抜け殻か? にしてはデカいな」

アリア 「バジリスク、と呼ばれる蛇だろうね」

ソフィー 「バジリスク?」

アリア 「ああ、その牙には毒があり、バジリスクに睨まれたものは、石になるんだ。この近くには生息していないと聞いていたけど……」

アーロン 「抜け殻がここにあるんだ。このあたりに巣があるんじゃないのか?」

アリア 「どうだろうね。案外、街の中に巣があったりしてね」

アーロン 「冗談じゃないな」

アリア 「まったくだ」

ソフィー 「でも、睨まれただけで石になっちゃうんですよね? そんな怪物に勝てるんですか?」

アーロン 「ああ、それは気になるな」

アリア 「大丈夫だ。私みたいに魔法の素養がある者は石にならない。少し身体が強張る程度だろうね」

アーロン 「そうか。それじゃあ、俺は戦えないのか」

アリア 「いいや、そんなことはないよ。キミはこの二か月間、私の店で暮らしているんだ。魔法は使えなくても、魔法に対する耐性は強くなっているはずだ。石になることはないだろう」

アーロン 「そういうもんなのか」

アリア 「ただし、バジリスクの目を直視してはいけないよ」

アーロン 「わかったよ」

アリア 「……とりあえずバジリスクの痕跡を追う」

アーロン 「了解だ」



 セレーネ山の麓。

アーロン 「……ここは、セレーネ山か」

アリア 「バジリスクは、湿った場所を好むからね。水源があって、洞穴があるここは、絶好のポイントだ」

ソフィー 「…………」

アーロン 「とりあえず、進んでみるか」

アリア 「……ここには帝都に繋がる抜け道があるとかないとか」

アーロン 「そんなものがあるのか」

アリア 「ああ、彼女が命からがら逃げ延びたと仮定するなら、ここを調べない手はないだろうね」

アーロン 「仮定、ね」

ソフィー 「アリアさん、私のこと、なにか知ってるんですか?」

アリア 「いいや、何も知らないよ。ただ、状況証拠だけでわかることもある」

ソフィー 「そのわかることって?」

アリア 「ふむ、キミが帝国の関係者ってことくらいかな」

ソフィー 「それ、私が初めてあの店に来たときに言ってたことじゃないですか」

アリア 「つまり、そういうことだ」

アーロン 「どういうことだよ」

アリア 「それも、ここを調べればわかることだ」

ソフィー 「…………」

アーロン 「ここがその抜け道か?」

アリア 「そうだったはずだよ。私も久しくここには来ていないから……」

アーロン 「アリア、この抜け道を使ったことあんのか?」

アリア 「……すまない、聞かなかったことにしてくれ」

ソフィー 「…………」

アーロン 「わかった、アリアにも言いたくないことはあるだろうからな」

アリア 「助かる」

アーロン 「だけど、必要なことは話せよ。あんたにその覚悟ができたらでいいから」

アリア 「善処するよ」



 洞穴内部。内部は湿度が高く、雫がぽたぽたと落ちている。

アーロン 「ここに入ってから、周りの雰囲気が変わったな」

ソフィー 「はい、ひんやりとしていますね」

アリア 「……魔素の濃度が高いんだ。昔、とある錬金術師がここに工房を構えていたからね」

アーロン 「へえ」

アリア 「なるほど、ますますバジリスクの根城に相応しい場所だな、ここは」

アーロン 「……だけど、帝都に繋がる抜け道なんだろう? とっくに騎士団が気づいて対処してるんじゃないのか?」

ソフィー 「確かに、それもそうですよね」

アリア 「……あ、やはりか」

アーロン 「どうした?」

アリア 「これを見てくれ」

アーロン 「これ、なんだ?」

ソフィー 「なんか高価そうですね」

アリア 「これは、貴族に仕える者が身に着けているものだろうね」

アーロン 「おいおい、それって……」

アリア 「考えられるのは、貴族がバジリスクを飼い慣らしているとか、ね」

ソフィー 「そんなこと、あるんですか?」

アリア 「一人、心当たりがある。歪んだ快楽主義者だろうね」

アーロン 「あいつか」

アリア 「そういえば、キミには因縁があったね。……そう、パーシーだよ」

アーロン 「あいつか……!」

ソフィー 「あ、アーロンさん?」

アリア 「これは、ジョンに追加報酬を頼まないといけないね」

ソフィー 「どういうことですか?」

アリア 「なに、バジリスクを倒してしまおうってことさ」

ソフィー 「ええ!? ほんとですか?!」

アーロン 「当然だ」

(SE 蛇が這う音)

アリア 「今のは……」

アーロン 「やっぱり、ここにいるんだな」

アリア 「行こう」



アーロン 「こっちの方だったよな」

アリア 「ああ、気を付けるように」

ソフィー 「あ、あれ、そうじゃないですか……?」

バジリスク 「シュルル……」

アリア 「おでましか」

アーロン 「ソフィー、さがってろ」

ソフィー 「あ、はい!」

アーロン 「にしても、でっかいな」

アリア 「ここじゃ、あまり強い魔法は使えない。頼んだよ、アーロン」

アーロン 「了解だ!」

(SE 剣を振る音)

(SE 剣が弾かれる音)

アーロン 「ちっ、硬いな」

アリア 「アーロン、来るぞ!」

(SE バジリスクの攻撃)

アーロン 「おっと、アリア、ヤツの弱点は!?」

アリア 「外皮はダメだ。一か八か口の中を狙うんだ」

アーロン 「簡単に言ってくれるな」

アリア 「でも、キミならできる」

ソフィー 「……アーロンさん!!」

(SE バジリスクの攻撃)

(SE 剣で攻撃を流す音)

アーロン 「クソッ! アリア、こいつの動き、止められないか?!」

アリア 「……一瞬だけ止める。……なにっ!?」

(SE バジリスクの攻撃)

(SE アリアが倒れる音)

アリア 「グァッ! ……毒、か」

アーロン 「アリア!?」

ソフィー 「アリアさん!」

バジリスク 「シュルルルル……」

アリア 「うぐぐ……」

アーロン 「はああああっ!」

(SE 剣を振る音)

(SE 剣が弾かれる音)

(SE アーロンが壁まで飛ばされる音)

アーロン 「ぐぁ……っ!」

ソフィー 「アーロンさん!!」

アーロン 「俺より、アリアを……!」

ソフィー 「……アリアさん、しっかりしてください!」

(SE 治癒術が発動する音)

アリア 「……キミ、なにを、している」

ソフィー 「なにって、治癒術ですよ!」

アリア 「このままじゃキミも、バジリスクに……!」

アーロン (クソ、立てよ、俺……!)

バジリスク 「シャアアアッ!」

アリア 「私のことはいいから、早く離れるんだ!」

ソフィー 「うぅっ!!」

アーロン 「間に合えええええええっ!」

(SE ナイフを投げる音)

(SE ナイフがバジリスクの目にヒットした音)

バジリスク 「キシャアアアアッ!」

アーロン 「今なら!」

(SE バジリスクが切り裂かれる音)

(SE バジリスクが消滅する音)

アーロン 「はあっ、はあっ……、やった、な」

アリア 「アーロン、はは、さすがは、私の助手だ」

ソフィー 「アリアさん、まだ喋らないでください」

アリア 「キミ、治癒術を使っても大丈夫なのかい?」

ソフィー 「どういうことです?」

アリア 「治癒術は、魔力の消費が激しいと聞く」

ソフィー 「病人が心配しないでください」

アリア 「……ふふ、言うね」

アーロン 「アリア、今はソフィーの言うとおりにしとけ」

アリア 「わかったよ」

 しばらくして。

アリア 「ありがとう、毒はすっかり抜けたみたいだ」

ソフィー 「よかったです……」

アーロン 「大分疲れてるみたいだな」

アリア 「バジリスクの毒は強力だから、その分魔力の消耗も激しいようだね。まったく、ただでさえ治癒術は魔力の消費が激しいというのに」

ソフィー 「あはは、これぐらい、なんてことないですよ」

アーロン 「ソフィー、空元気はよせよ。アリア、薬出してくれ」

アリア 「なるほど、折れてるようだね。なら、これを使ってくれ」

アーロン 「さんきゅ。……やっぱり、効くな」

ソフィー 「へえ、アリアさんの薬、凄いですね。もう治ってますよ」

アリア 「魔法使いだからね。これぐらいはお手の物さ」

ソフィー 「私、役立たず、ですね」

アリア 「え?」

アーロン 「お、おい、ソフィー?」

ソフィー 「治癒術は魔力の消費が激しいんですよね? アリアさんの薬があれば、私、いらないじゃないですか」

アーロン 「そんなこと……」

アリア 「そんなことはないよ。実際、キミが解毒してくれなかったら、私はあのまま死んでいただろう。だから、役に立たないだとかいらないなんて、言わないでくれ」

ソフィー 「アリアさん……!」

アリア 「ほ、ほら、いなくなってしまったという人たちを探そう」

ソフィー 「はい!」



 しばらく奥に進むと、石が並べられた部屋に行きついた。

アーロン 「ここは……、悪趣味だな」

アリア 「なるほど、石にされた人をここに集めていたわけだ」

アーロン 「……! アリア、さっき拾った石、見せてくれないか?」

アリア 「いいけど、どうしたんだい?」

アーロン 「……これ、この人の指じゃないか?」

アリア 「なんだって?」

ソフィー 「確かに、欠けてますね」

アリア 「……ふふ、私は、人の指を見て、素材がどうこう言っていたのか? ははは、飛んだお笑い種だ……」

アーロン 「アリア?」

アリア 「人の命をモノのように扱うなんて、私は昔から変わっていない、ということか」

アーロン 「アリア……」

アリア 「すまない、今はそれどころじゃないね。石化を解く薬を作る」

ソフィー 「今からですか!?」

アリア 「ああ。ここはかつて工房だったんだ。幸い、釜も炉も使えるようだし、ここで調合するよ」

アーロン 「必要なものはあるか?」

アリア 「バジリスクのの素材があれば大丈夫だ」

アーロン 「それなら、これで大丈夫か?」

アリア 「大丈夫だ。……私はこれから調合を始めるから、そこの部屋でキミたちは休んでおくといい」

アーロン 「おう、それじゃあ休ませてもらうわ。ソフィー、あっちで休もうぜ」

ソフィー 「……わかりました」



ソフィー 「それにしても、アリアさん凄いですね。石化を解く薬を作っちゃうなんて」

アーロン 「あいつ、なんだかんだ天才だからな」

ソフィー 「私、アリアさんを誤解してたかもしれません」

アーロン 「誤解?」

ソフィー 「私、アリアさんってちょっと怖いなって思ってたんです。私と必要以上に関わろうとしないですし」

アーロン 「まあ、そうだな」

ソフィー 「でも、さっき、私がアリアさんに治癒術をかけていたときに、私のことを心配してくれていましたし、本当は優しい人なんだろうなって」

アーロン 「そうだな、俺もアリアに助けられたからな」

ソフィー 「え、アーロンさんが?」

アーロン 「ああ、俺が兵士に刺されたところを助けてくれたんだよ。なんでも、心臓が止まってたとかなんとか。考えてみれば、俺、一回死んだんだな」

ソフィー 「えー、刺されたんですか?!」

アーロン 「まあ、ちょっとドジってな」

ソフィー 「……やっぱり、凄いですね、アリアさん。それなのに、私なんかが、出しゃばっちゃって」

アーロン 「さっき、アリアにも言われただろ。そんなことはない……」

ソフィー 「でも、私、アリアさんみたいに迅速な判断なんてできないですし、治癒術は何度も使えません。私なんて……」

アーロン 「あのな、ソフィーはアリアじゃないし、アリアはソフィーじゃないんだ。ソフィーは、ソフィーができることをやればいい。治癒術なんて、アリアでも使えないんだぜ? すげーじゃねえか」

ソフィー 「……! 私、頑張ってみます」

アーロン 「おう、その意気だ」

(SE 部屋の扉が開く音)

アリア 「薬ができた。手伝って欲しい」

アーロン 「お、できたか」

アリア 「この粉末を振りかけるだけでいいから」

アーロン 「わかった。ほらソフィー、行こうぜ」

ソフィー 「わかりました」



(SE 石化が解ける音)

男1 「……こ、ここは?」

女1 「私、なんでこんなところに?」

男2 「確か、蛇の怪物に……」

アリア 「これで、全員かな」

女2 「あなた方は……?」

男1 「まさか、あんたらが俺たちを助けてくれたのか?」

アーロン 「ああ、ここ最近、人がいなくなってるって聞いてな」

アリア 「出口まで案内しよう」

女3 「……痛っ!」

アリア 「……ああ、この薬を塗ろう」

女3 「……凄い。もう痛くないです」

アリア 「いいや、指、すまなかったね」

女3 「え?」

アリア 「すまない、こちらの話だ」

男2 「いやあ、こんなべっぴんさんに助けてもらうたあ、俺も捨てたもんじゃないな!」

男1 「そっちのローブの子もかわいいっぽいぞ」

アリア 「そこ、氷漬けにしてあげてもいいんだよ?」

男1・2 「ひっ、すみません」



 帝都。住民たちが行方不明者たちと再会し、各々が喜びを露にする。

女2 「私たちを助けていただき、ありがとうございました」

アーロン 「礼には及ばねえよ」

アリア 「私たちは、森の方で店を営んでいる。怪我や病気の際に、是非利用してくれ」

男1 「え、そっちのローブの子、店員なの? 俺常連になっちゃおうかなあ」

アリア 「言っておくけど、馬鹿に付ける薬はないからね」

男2 「そんなこと言われたら、おじさん感じちゃうよ」

女1 「あ、あの、お店に行けば、会えますか?」

アーロン 「え、ああ、出かけてなけりゃいる」

女1 「今度、行きます!」

アーロン 「おう、うちの店をよろしくな」

アリア 「こら、アーロン、女の子に色目を使うんじゃない」

ソフィー 「……アリアさん、焼きもちですかぁ?」

アリア 「キミは、なにか勘違いをしてるようだね」

ソフィー 「勘違い? いったいなんのことやら」

アリア 「さあ、帰るとしようか」

パーシー 「久しぶりに散歩に出てみれば、これはこれは、いつぞやの下民じゃないか」

アーロン 「パーシー……っ!」

(SE ざわざわ)

パーシー 「まさか、生きていたなんてね。ボクの兵士は、甘いんだね」

アーロン 「いいや、おかげさまで殺されたよ」

パーシー 「ふむ、確か、キミの父親はアルトの町にいるんだってね。確か、行商人にかくまわれているんだったか」

アーロン 「なにが言いたい……?」

パーシー 「その行商人が、ボクの楽しみを調べていてね。煩わしかったんだよ」

アーロン 「だから、なにが言いたいんだよ……!」

パーシー 「言うより、見せる方が早いね。兵士」

(SE 中身が詰まった袋が投げられる音)

アーロン 「…………」

(SE 袋が解かれる音)

アーロン 「……ッ!!」

ソフィー 「ひっ……!」

アリア 「…………」

パーシー 「先ほど、その行商人を見つけてね。今しがた、アルトに兵士を送ったところなんだ」

アーロン 「パーシー!!」

アリア 「アーロン、ダメだ!」

アーロン 「離せ!!」

ソフィー 「アーロンさん……!」

パーシー 「……ふむ、下民たちの様子を見ると、バジリスクはやられちゃったか。ボクのコレクションだったのに」

アーロン 「……だあっ!!」

(SE アーロンがアリアを振り解く音)

アリア 「あっ!」

アーロン 「パーシー!」

(SE 剣を抜く音)

アリア 「仕方ないね」

(SE 爆発とともに煙が巻きあがる音)

アリア 「すまない、アーロン、しばらく眠ってくれ。……ここは、逃げるよ」

ソフィー 「は、はい!!」



 魔法使いの店。

アリア 「キミは、なにをしたのか、わかっているのかい?」

アーロン 「あんたこそ、なにしたかわかってんのかよ!」

アリア 「あそこであの行動に出れば、今日救ったあの人たちを危険に晒したことになっただろう」

アーロン 「だけどあいつは親父を! ジョンを!」

アリア 「わかっている! あそこで平然としていられる薄情者じゃないということもわかっている。だけど、私たちはアルトリウスを皇帝にして、この帝国を変えるんだろう? そう約束をしたのは、キミだろう」

アーロン 「……クソっ!」

アリア 「私も、あそこであの貴族をぶちのめしてやりたかった」

アーロン 「なんだよ、慰めてんのか?」

アリア 「……アーロン、今日は、その怒りを私にぶつけてもらって構わないよ」

アーロン 「…………」

ソフィー 「……あ、私、部屋に戻ってますね」

アリア 「ほら、好きにするといい」

アーロン 「……」

(SE アーロンがアリアの肩に手を置く音)

アリア 「ひ……」

アーロン 「あんたにそこまで言われてやるほど、バカじゃねえよ。それに、怯えてんじゃねえか」

アリア 「お、怯えてなどいない。これは、そう、武者震いだ」

アーロン 「アリア、意外と経験ないんだな」

アリア 「う、うるさいっ! わ、私としてはキミに抱かれるのも、やぶさかではないんだけどね」

アーロン 「無理すんなよ。……まあでも、悪かった。確かに、あそこで突っ走ったらすべてが無駄になってた」

アリア 「わ、わかってくれたら、それでいいんだ」

アーロン 「……まあ、かわいいところも見れたし、俺はもう寝る」

アリア 「寝る!?」

アーロン 「はあ、あんたも休め。疲れてるんだよ、お互いに。また明日から頑張ろうぜ」

アリア 「……ふふ、まさか、この私がアーロンのような童貞君に後れをとるとはね」

アーロン 「……処女がなに言ってんだよ」

アリア 「ぐぬぬ、アーロンから余裕を感じる……」

アーロン 「それじゃ、おやすみ」

アリア 「あ、ああ、おやすみ」

(SE 部屋の扉の開閉音)

アーロン 「親父……。俺は、絶対にこの腐った国を変える」

アーロン 「だけど、どこかであのパーシーとは決着をつけなくちゃな」



 一方その頃。

ソフィー 「……ああ、今頃アーロンさんとアリアさんは激しく……」

ソフィー 「むふ、むふふふ……」

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...