竜宮島の乙姫と一匹の竜

田村ケンタッキー

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謀でつついて蛇を出す

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「遅い! 高千穂め、どこで油を売っている!」

 山吹邸で陣を構え、報せを待つ西方将軍。踵を何度も地面に打ち付けては鎧を鳴らす。
 ほとんどの部下が彼の側で仕え、来るかもわからない敵に備えていた。
 山に火を放ったのは町でうろついていた浮浪の者たち。焼畑の仕事を与えると嘘をつき、汚い仕事を押し付けた。後々に罪状をでっちあげて口封じにするつもりだ。
 西方将軍は物腰柔らかな誠実な男に見え、その実はどんな非道な謀をも伴わない下郎だった。

「よもや……帝を切った大罪人に……いや、ありえぬ……熟練の忍びが、あんな若造に後れを取るはずが……いや、いや、しかし……」

 落ち着かない様子の大将。
 彼の感情は部下にまで伝播する。しかし指示がない以上、突っ立ていることしかできない。厠へだって行くことも許されていない。

「誰かに様子を見に行ってもらうか……いやしかしそれでは守りが疎かになる……」

 風が吹く。松明から舞う火の粉が西方将軍に兜に降りかかるが思い詰めているために気付かない。部下も指摘しようとしない。
 風が運んだのは火だけではない。

「将軍様ー! 高千穂様がお戻りになられましたー!」

 部下の言葉の通りに黒装束の男が正門から堂々と凱旋する。
 血まみれの竜之助の服を携えて。
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