63 / 99
くじらの祠
しおりを挟む
島のどこかにある祠。
その所在は島民の一部にしか知られていない。
パチリ、パチリ。
火が爆ぜ骨爆ぜる。
「……」
祈祷師くじらは顔にまで届く火花に眉一つ変えない。
彼は島で一番の年長者であり、この島の生まれの人間。その生涯を占いに捧げてきた。
パチリ、パチリ。
火と水が交わり、運命を知らせる。
「……」
くじらは袖を捲り、突如として火の中に手を突っ込む。
「てええや!」
握りしめるは高温に熱せられた鯨の骨。
勢いそのままに傍らの水瓶に突っ込む。
ジュワァ!
水蒸気が舞い上がる。
くじらの額にも汗が浮かぶ。白い眉を超えて瞳に流れるも瞬き一つしない。
「……」
骨を布の上に置く。
骨は丈夫で火に熱せられても完全な形を保っていた。
「…………ふぅ」
呼吸を一つ。
くじらはようやく生者らしい仕草に感情らしい感情を見せた。
占いの結果に一喜一憂しない。祈祷師として大局を見なくてはいけない。
しかし年を取ってからというもの、心の奥が結果に左右されてしまう。
運命はありのままに受け入れよ。
運命が死を知らせたとしても受け入れなくてはいけない。
高齢の身。自分の死はありのままに受け入れられる。充分長生きしたので後悔もない。
しかし島は違う。自分の生が途切れた後も島はあり続ける。平和に、豊かに、変わらず笑顔に溢れていてほしい。
「……飯にするか」
一仕事を終えてようとしたその時、
ビキッ……!
ひときわ大きい破裂音。祠中に響き渡る。
「こ、これは……!」
音の正体は鯨の骨。時間差で反応を示した。
ビキ、バキ、ギィキ、バギ!
骨は音を立てながら複雑に割れていく。
「あ、ああ……! そんな、まさか……!」
くじらは慌てて式神を編み出す。
「すぐに知らせなければ……! 姫様に……! 一大事だと……!」
波乱はすぐそこまで迫っていた。
その所在は島民の一部にしか知られていない。
パチリ、パチリ。
火が爆ぜ骨爆ぜる。
「……」
祈祷師くじらは顔にまで届く火花に眉一つ変えない。
彼は島で一番の年長者であり、この島の生まれの人間。その生涯を占いに捧げてきた。
パチリ、パチリ。
火と水が交わり、運命を知らせる。
「……」
くじらは袖を捲り、突如として火の中に手を突っ込む。
「てええや!」
握りしめるは高温に熱せられた鯨の骨。
勢いそのままに傍らの水瓶に突っ込む。
ジュワァ!
水蒸気が舞い上がる。
くじらの額にも汗が浮かぶ。白い眉を超えて瞳に流れるも瞬き一つしない。
「……」
骨を布の上に置く。
骨は丈夫で火に熱せられても完全な形を保っていた。
「…………ふぅ」
呼吸を一つ。
くじらはようやく生者らしい仕草に感情らしい感情を見せた。
占いの結果に一喜一憂しない。祈祷師として大局を見なくてはいけない。
しかし年を取ってからというもの、心の奥が結果に左右されてしまう。
運命はありのままに受け入れよ。
運命が死を知らせたとしても受け入れなくてはいけない。
高齢の身。自分の死はありのままに受け入れられる。充分長生きしたので後悔もない。
しかし島は違う。自分の生が途切れた後も島はあり続ける。平和に、豊かに、変わらず笑顔に溢れていてほしい。
「……飯にするか」
一仕事を終えてようとしたその時、
ビキッ……!
ひときわ大きい破裂音。祠中に響き渡る。
「こ、これは……!」
音の正体は鯨の骨。時間差で反応を示した。
ビキ、バキ、ギィキ、バギ!
骨は音を立てながら複雑に割れていく。
「あ、ああ……! そんな、まさか……!」
くじらは慌てて式神を編み出す。
「すぐに知らせなければ……! 姫様に……! 一大事だと……!」
波乱はすぐそこまで迫っていた。
0
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜
ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。
草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。
そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。
「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」
は? それ、なんでウチに言いに来る?
天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく
―異世界・草花ファンタジー
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる