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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心

逃げる黒仮面と逃げるアレクシス嬢

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 止まぬ落胆に大きなため息をついた。

「はあ、どうしてあなたほどの方が……なぜ悪事に手を染めたのです? これをアルフォンス様を知っておりますの? それとその趣味の悪い仮面は脱いだほうがよろしいですわ」
「……なんのことだ? カルメン? 人さらいなど人聞きの悪い」
「まあ、この期に及んでとぼけますの? よろしいですわ、今晩はその性根を治すまでとことん付き合ってあげますわよ!」

 アレクシスは拳を握って身構えるが、

「拙は分が悪い戦はしない……」

 黒仮面は夜空を指さした。次の瞬間、周囲が昼間のように明るくなった。

「照明弾!?」

 あまりの明るさに視界が遮られてしまう。

「勝負はお預けだ。次に会う時、貴殿の命を貰い受ける」

 視界が戻らないうちに黒仮面は建物の屋根まで飛び跳ね撤退した。引き際もスマートだった。

「おい、今の光はこっちからだ!」
「不審者だ! おそらく連続誘拐犯のココだ!」

 衛兵たちが集まってくる。

「別に逃げる必要がありませんが……ここは私もおさらばとしますわ!

 アレクシスも騒ぎが起きると面倒なため、早々にその場から撤退する。
 黒仮面は追跡しようと思えばできたが逃げ場所はロデオ城と決まっている。今の状態で敵の領域に踏み込むのはリスクが大きいと判断した。
 そして何より、

「もしも深夜に外出していたとドーニャ・マリカにバレたら怖いですわ!」

 あの手の人間は怒らせたら怖い。
 よく知っているアレクシスだった。
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