イケメンに婚約破棄されましたが面食いなのでぜってえ復縁してみせますわ!

田村ケンタッキー

文字の大きさ
36 / 87
【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心

黒仮面と拳を交えるアレクシス嬢

しおりを挟む
 アレクシス嬢の逆時計回りの蹴りを黒仮面は左腕でガードするも止められないと判断するとあえて蹴り飛ばされる。空中で回転し、両手で着地しながらバク転し、勢いを殺す。

「ちっ、なんだこの馬鹿力は……!」

 それでもダメージは大きかった。左腕を振って痛みを和らげる。

「むむむ、受け止められるだけでなく躱されてしまいましたわ! 少し演技が過ぎましたでしょうか」

 アレクシスにとっては一撃で腕の骨一本持っていくつもりだった。

「あなた、ただの変質者じゃありませんわね」

 一度だけの攻防で実力を見極める。
 黒仮面の首から下は黒の燕尾服。しかしアレクシスは見た目で騙されない。

(小柄のお方……そして身のこなしが軽く、しなやかでしたわ……おそらく女性ですわ……)

 淑女の中の淑女は一瞬の立ち振る舞いで何もかも見通す。数少ない情報で黒仮面の正体を探る。

(それと非常に残念ですわ……誘拐犯はイケメンではないのですね……イケメンでしたら仮面の上からでもオーラでわかりますのに……)

 淑女の中の淑女はいついかなる時も面食いだ。

「今ので実力差ははっきりしましたでしょう? 無用の怪我をしたくなければ投降してくださいまし。大人しく罪を認めればアルフォンス様も寛大な心で刑罰を軽くしてくれますわ」
「アルフォンス様……」

 黒仮面は呟いた。

「正気と思えない、頭のおかしい女……これしきで拙が逃げると思うなよ」

 そして拳を固く握り直す。

「む、なにかしらの因縁の気配ですわね。いいですわ、決めました。その分厚い仮面を剥いでアルフォンス様の前に突き出してやりますわ」
「……やれるものなら、やってみろ!」

 黒仮面は一歩で跳躍し、アレクシスとの距離を縮めた。

(この方、速いですわね!)

 もしも最初からこの速度で背後に詰め寄られていたら不意を突かれていたかもしれない。

「ですが今はお生憎様正面ですわ!」

 助走の勢いそのままの右ストレートを手の甲で弾く。
 次にハイキックが左後頭部の死角から襲い掛かってくるのでバックステップで回避。

「これも避けるだと!?」
「次は私の番ですわ! お師匠様より教えていただいた拳法を自己流アレンジした淑女拳法ですわー!」

 左足を軸にして右足を突き出し仮面を狙う。

「ふんっ」

 仮面は顔をずらし、これを回避。
 追いかけて足を何度も突き出すが首を左右に動かすだけで回避される。

(身体能力だけでなく動体視力もよろしくて!? 本当に只者じゃありませんわね!?)

 すると黒仮面が視界から消えた、と思った瞬間に視界がぐらり落下する。

「もらった!」

 回転蹴りでアレクシスの体勢を崩した黒仮面はここぞとばかりに拳を振り下ろす。

「なんのですわ!」

 アレクシスは両手で地面に着き、両足を思い切っり突き出す。

「っ!!?」

 両足の踵は的確に黒仮面の脛を突いた。

「特製のフラメンコシューズで釘が打ちつけられていますわ~! 想像するだけでも痛いですわねー!?」

 そしてアレクシスは両手で地面を叩き、身体を浮遊させる。
 空中で身をよじり、再び回し蹴りを放った。

「何度も通用するか!」

 黒仮面は今度はパンチで回し蹴りの勢いを相殺する。

「これも当たりませんの!!?」

 手加減抜きの攻撃を塞がれる。今度はアレクシスから距離を置く。
 目の前の実力者の正体が気になり、格闘に集中できなくなっていた。

(このまま肉弾戦を続けても負けはしませんが勝ちもしませんわ……それほどの実力者が何故ロデオに……)

 ありえない。王都でも見つけるのに大変なのに、たかが誘拐犯として野心を持たずにここロデオに?

(いや、ロデオに……一人だけいますわ……でも、まさか……)

 ついに一つの仮説にたどり着く。

(カマをかけてみましょうかね……)

 事実を確認するべくアレクシスはマスカラを取り出して睫毛に塗る。

「なんだ、いきなり化粧などして……」
「化粧もしますわ。たくさん汗かいてしまいましたもの」
「化粧だと……女め、ふざけやがって」
「ふざけているのはどちらかしら。あなた、さっきから誰と話していると思ってるの? 夜だから知れませんが、いい加減気づいてください。よおく……

 言われたとおりに律儀に目を凝らしたのだろう。黒仮面の身体が固まる。

「ま、まさか、お前は……アレクシス・バトレ!? 指名手配されているお前がどうしてここに!?」
「どうやら……決まりのようですわね」

 今の答えをもって確信した。事実に行き着いた喜びよりも落胆が大きく肩を落とす。
 ロデオに滞在し格闘だけでなく魔法にも精通している者……そんなの一人しかいない。

「……はっ!? マスカラによる認識阻害魔法!? しまった!」
「もう遅いですわ。いやはやどうしてあなたが……失望しましたわよ」

 指をさし、仮面の下の正体を暴く。

「カルメン・エチュバリア。あなたなのでしょう?」

 カルメン・エチュバリア。アルフォンスの護衛をカルロスから直々に命を下された元親衛隊黒鷲部隊副隊長。戦場で数々の戦果を挙げた彼女には通り名があった。
 小戦争ゲリーリャ。彼女を表すにふさわしい言葉はこの他にない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...