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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心
エルメスとアレクシス嬢
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「取り乱してもすみませんでしたわ。ゆっくりお話ししましょうか」
屋台の傾きを直し再び席に着く。
「と言ってもあなたは商人。取引相手をペラペラ喋ったりはしませんわよね」
軽口を叩くよりも口の軽い商人は長く続かない。
「淑女としてあまりこういう強引な手は使いたくありませんが国の根本を揺るがす緊急事態、それにカルロス様の命、美貌にもかかわっています。お覚悟をよろしくお願いしますわ」
「あ、あの、何を言ってるかわかりませんが、アレクシス様にだったらお話ししますよ? 取引相手のこと」
「え、よろしいのですか? いえ、素直に話してくださるのであれば大変喜ばしいことなのですが……ですが……」
アレクシスは肩を落とす。
「……どうして私をそこまで信用してくださるのですか? 私は冤罪とはいえ指名手配されている身なんですよ?」
エルメスは事もなげに答える。
「ひとめ見ればわかりますよ。あなたはそういうことをする人じゃないって。俺、人を見る目だけには自信があるんで」
「……」
その言葉はずしりと乗っかかっていた肩の力を抜かせた。
「エルメス様……今のあなた、ちょっとかっこ──」
「それにそもそも国家っていうの信用してないんですよ! すーぐに自分勝手の事情で金を刷っては経済をガタガタにする! 商売あがったりなんですよ、もう!」
「──早く取引相手が誰だか教えてくださります?」
話が長くなる気配を感じたので早々に軌道修正。
本気のトーンで怒るエルメスの評価はプラスマイナスゼロ。
「これはちょうど一か月前に卸した商品です。間違いありません。さっきも言いましたが特徴的な傷に見覚えがあります」
「それで相手の名前は?」
「マリアンヌ・フォンテーヌです。初老の女性でした。あ、でもこれは偽名の可能性がありますので悪しからず」
「いいえ、間違いありませんわ。マリアンヌ・フォンテーヌ……彼女がやったに違いありませんわ」
「彼女をご存知なのですか?」
「王室に長く仕える給仕ですわ。元は聖オルゴール王国出身で魔法もそれなりにできる才女でしたわ」
イバンに彼女の記憶がないのも仕方がない。貴族がいちいち給仕の名前を聞かないし覚える必要がない。
(それに年も離れていましたし、火遊びの対象にならなかったのですね……)
彼らしさを感じて少し笑いが出る。
「日常生活ではよくお世話になっていましたわ。とても温厚な女性でしたがでもまさか不滅の魔女の遺産を使ってまで私を葬ろうとするなんて」
「え、メディアってもしかしてこの魔封じの腕輪のことを言ってます?」
「……違いますの?」
「まっさかー! 確かに魔法を封じることをできますが至って普通の商品ですよ! それに俺は模造品でもメディアを取り扱ったりしません。ええ、それは絶対ありえません」
「何やら信念じみたものを感じますわね……ですがどうしてあんな嘘を言う必要があったのかしら」
「王子が勝手に思い込んだとか? はは、なーんてね、これはいくらなんでも失礼でしたねってなんでアレクシス様頭をお抱えに?」
「……ありえますわ。何も説明していないのに雰囲気だけで勝手に考えてしまうところがありますのよ」
「ええ、大丈夫なんですか……この国の未来は」
「そ、そうならないためにも私がいるんですわ! みんなで力を合わせて、エイエイオーですわ!」
「……それにしても、どうして彼女はこんな大事件を引き起こしたのでしょう。他国のスパイとかでしょうか」
「それについては考えるまでもありませんわ」
「おや、聡明なアレクシス様はとっくにお気づきなのですか?」
アレクシスは冗談抜きではっきりと答えを言ってのける。
「横恋慕に決まってますわ!!!」
エルメスは一呼吸を置いてタオルで汗を拭き、
「……正気ですか? 横恋慕のためにたった一人のメイドが王子をたぶらかしたのですか」
「正気で本気ですわ! 顔を偽っても名前を偽らないのは本名のマリアと呼んでほしいからでしょう!」
「な、なんか筋が通っているように思えてきました……そうですよね、女性って、たまにとんでもないことをしでかしてくれますよね」
アレクシスの耳がぴくりと動く。
「たった今、恋話センサーが反応しましたわ」
「コ、コイバ……なんです?」
「エルメス様、単刀直入にお尋ねしますわ。あなた、今、恋してますわね?」
「あの、今、国家存亡の危機の話をしてるんですよね? そんな暇あります?」
「まあ、まあ、まあ! 否定しないということは恋をなされているのですね? お相手はどんな方ですの!? お年は? 身分は? どこに住まわれてますのー!?」
エルメスは笑顔を崩さないまま、屋台の柱に吊った時計を見る。
「あの、盛り上がっているところ、そろそろお引き取りお願いできますか? 次のお客様が来る時間ですので」
「椅子なんていりません! 立ちながらでも聞きますわよ!? もしよろしければこの淑女の中の淑女である私がご相談に乗ってもよろしくてよ?」
「ちなみに来る予定のお客様は衛兵の方々です。深夜まで営業している飲食店ここぐらいなものでして」
「淑女の中の淑女が注文もせずに立ち話なんてはしたない真似しませんわー! 営業妨害になってしまいますもの!」
切り替えが早く、即座に暖簾をくぐって屋台を離れていった。
「やれやれ……」
と思ったら、すぐに戻ってきた。
「お代忘れてましたわ! その魔封じの腕輪でよろしくて!?」
「お代ですか? お代なら結構ですよ。魔封じの腕輪も持って行ってください」
「いけませんわ、無銭飲食になってしまいます!」
「いいんですよ、ぼちぼち畳もうと思っていた商売ですし」
「まあ、それはもっといけません! チャーシュー以外はそれなりにおいしいのですよ!」
「そのチャーシューが足を引っ張ってるんですよね。俺は所詮余所者なのでなかなか上質な肉が手に入らなくて……良い仕入れ先を見つけるか、もしくは肉の扱いに詳しい人に助言がほしいのですか」
「あ、それならちょうどいい人を知ってますわ。この街にベンって方がいますの。元お肉屋さんですわ。ドーニャ・マリカと知り合いですので紹介してもらえるはずですわ」
「なるほど。それならあたってみようと思います。情報ありがとうございます」
「ラーメンの代金ははしたないですがツケにしてくださいまし。それと恋が叶うことを応援しておりますわー!」
そして再び暖簾をくぐって退散する。
あっという間に場が静まり返った。
「ありがとうございます……それと余計なお世話です」
エルメスは予約客のために支度を始める。
繁盛はしないがせっかく来てくれた客をがっかりはさせられない。
それでも彼の作る豚骨ラーメンはチャーシューだけは微妙な出来になった。
屋台の傾きを直し再び席に着く。
「と言ってもあなたは商人。取引相手をペラペラ喋ったりはしませんわよね」
軽口を叩くよりも口の軽い商人は長く続かない。
「淑女としてあまりこういう強引な手は使いたくありませんが国の根本を揺るがす緊急事態、それにカルロス様の命、美貌にもかかわっています。お覚悟をよろしくお願いしますわ」
「あ、あの、何を言ってるかわかりませんが、アレクシス様にだったらお話ししますよ? 取引相手のこと」
「え、よろしいのですか? いえ、素直に話してくださるのであれば大変喜ばしいことなのですが……ですが……」
アレクシスは肩を落とす。
「……どうして私をそこまで信用してくださるのですか? 私は冤罪とはいえ指名手配されている身なんですよ?」
エルメスは事もなげに答える。
「ひとめ見ればわかりますよ。あなたはそういうことをする人じゃないって。俺、人を見る目だけには自信があるんで」
「……」
その言葉はずしりと乗っかかっていた肩の力を抜かせた。
「エルメス様……今のあなた、ちょっとかっこ──」
「それにそもそも国家っていうの信用してないんですよ! すーぐに自分勝手の事情で金を刷っては経済をガタガタにする! 商売あがったりなんですよ、もう!」
「──早く取引相手が誰だか教えてくださります?」
話が長くなる気配を感じたので早々に軌道修正。
本気のトーンで怒るエルメスの評価はプラスマイナスゼロ。
「これはちょうど一か月前に卸した商品です。間違いありません。さっきも言いましたが特徴的な傷に見覚えがあります」
「それで相手の名前は?」
「マリアンヌ・フォンテーヌです。初老の女性でした。あ、でもこれは偽名の可能性がありますので悪しからず」
「いいえ、間違いありませんわ。マリアンヌ・フォンテーヌ……彼女がやったに違いありませんわ」
「彼女をご存知なのですか?」
「王室に長く仕える給仕ですわ。元は聖オルゴール王国出身で魔法もそれなりにできる才女でしたわ」
イバンに彼女の記憶がないのも仕方がない。貴族がいちいち給仕の名前を聞かないし覚える必要がない。
(それに年も離れていましたし、火遊びの対象にならなかったのですね……)
彼らしさを感じて少し笑いが出る。
「日常生活ではよくお世話になっていましたわ。とても温厚な女性でしたがでもまさか不滅の魔女の遺産を使ってまで私を葬ろうとするなんて」
「え、メディアってもしかしてこの魔封じの腕輪のことを言ってます?」
「……違いますの?」
「まっさかー! 確かに魔法を封じることをできますが至って普通の商品ですよ! それに俺は模造品でもメディアを取り扱ったりしません。ええ、それは絶対ありえません」
「何やら信念じみたものを感じますわね……ですがどうしてあんな嘘を言う必要があったのかしら」
「王子が勝手に思い込んだとか? はは、なーんてね、これはいくらなんでも失礼でしたねってなんでアレクシス様頭をお抱えに?」
「……ありえますわ。何も説明していないのに雰囲気だけで勝手に考えてしまうところがありますのよ」
「ええ、大丈夫なんですか……この国の未来は」
「そ、そうならないためにも私がいるんですわ! みんなで力を合わせて、エイエイオーですわ!」
「……それにしても、どうして彼女はこんな大事件を引き起こしたのでしょう。他国のスパイとかでしょうか」
「それについては考えるまでもありませんわ」
「おや、聡明なアレクシス様はとっくにお気づきなのですか?」
アレクシスは冗談抜きではっきりと答えを言ってのける。
「横恋慕に決まってますわ!!!」
エルメスは一呼吸を置いてタオルで汗を拭き、
「……正気ですか? 横恋慕のためにたった一人のメイドが王子をたぶらかしたのですか」
「正気で本気ですわ! 顔を偽っても名前を偽らないのは本名のマリアと呼んでほしいからでしょう!」
「な、なんか筋が通っているように思えてきました……そうですよね、女性って、たまにとんでもないことをしでかしてくれますよね」
アレクシスの耳がぴくりと動く。
「たった今、恋話センサーが反応しましたわ」
「コ、コイバ……なんです?」
「エルメス様、単刀直入にお尋ねしますわ。あなた、今、恋してますわね?」
「あの、今、国家存亡の危機の話をしてるんですよね? そんな暇あります?」
「まあ、まあ、まあ! 否定しないということは恋をなされているのですね? お相手はどんな方ですの!? お年は? 身分は? どこに住まわれてますのー!?」
エルメスは笑顔を崩さないまま、屋台の柱に吊った時計を見る。
「あの、盛り上がっているところ、そろそろお引き取りお願いできますか? 次のお客様が来る時間ですので」
「椅子なんていりません! 立ちながらでも聞きますわよ!? もしよろしければこの淑女の中の淑女である私がご相談に乗ってもよろしくてよ?」
「ちなみに来る予定のお客様は衛兵の方々です。深夜まで営業している飲食店ここぐらいなものでして」
「淑女の中の淑女が注文もせずに立ち話なんてはしたない真似しませんわー! 営業妨害になってしまいますもの!」
切り替えが早く、即座に暖簾をくぐって屋台を離れていった。
「やれやれ……」
と思ったら、すぐに戻ってきた。
「お代忘れてましたわ! その魔封じの腕輪でよろしくて!?」
「お代ですか? お代なら結構ですよ。魔封じの腕輪も持って行ってください」
「いけませんわ、無銭飲食になってしまいます!」
「いいんですよ、ぼちぼち畳もうと思っていた商売ですし」
「まあ、それはもっといけません! チャーシュー以外はそれなりにおいしいのですよ!」
「そのチャーシューが足を引っ張ってるんですよね。俺は所詮余所者なのでなかなか上質な肉が手に入らなくて……良い仕入れ先を見つけるか、もしくは肉の扱いに詳しい人に助言がほしいのですか」
「あ、それならちょうどいい人を知ってますわ。この街にベンって方がいますの。元お肉屋さんですわ。ドーニャ・マリカと知り合いですので紹介してもらえるはずですわ」
「なるほど。それならあたってみようと思います。情報ありがとうございます」
「ラーメンの代金ははしたないですがツケにしてくださいまし。それと恋が叶うことを応援しておりますわー!」
そして再び暖簾をくぐって退散する。
あっという間に場が静まり返った。
「ありがとうございます……それと余計なお世話です」
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それでも彼の作る豚骨ラーメンはチャーシューだけは微妙な出来になった。
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