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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心

ドーニャ・マリカと出くわしてしまうアレクシス嬢

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「さーてあとはシャワーを浴びて歯を磨いてお肌のケアをして寝るだけですわー!」

 開けておいた部屋の窓に目掛けて跳躍。

「ふう、無事に怖い人と会うことなく戻ることができましたわ」

 アレクシスは額で汗を拭う。すると手首にマスカラが付着する。

「あら、出る前に消灯したはずなのに明かりが……」

 そして部屋にはアレクシス以外の人影。

「ほーん、その怖い人ってのは一体誰のことなのかね」
「も、もしや、その声は……」

 ベッドに腰を掛け足を組み煙草を吸いながら悠々と新聞を読んでいた。

「邪魔してるよ、カリーナ・サルスエラ」

 眼鏡をかけたドーニャ・マリカだった。

「げげえ、ドーニャ・マリカ!? どうしてここに!?」
「どこで新聞を読んでようが勝手だろう。ここの宿泊代、誰が払ってると思ってるんだい」
「ドーニャ・マリカですが……ですが、うら若きの乙女のプライバシーは守ってほしいですわ」
「アタイが守るのはフラメンコとそれに関係するやつらだよ」
「今すぐ寝ますわ! 明日の公演は絶対に踊りますので! だからどうかお許しを!」
「……明日踊れる体力はあるかい?」
「ありますわ!」
「怪我はしてないだろうね」
「一切!」
「ふん、なら良しとしよう……」

 ドーニャ・マリカはベッドから腰を上げて出口へと向かう。

「あ、あの、ドーニャ・マリカ……」

 アレクシスはうっかり呼び止めてしまう。

「……怒らないのですか? 勝手に夜の街を出歩いたというのに」
「……アタイのもとに来る連中なんてのは大抵ワケありさね。いちいち聞いて回るほど暇じゃないよ。仲間内の誰かが深夜に誰と会おうと何をしようと勝手さ。ただしフラメンコはきっちりとやってもらう。フラメンコさえちゃんとやってくれりゃ……それだけだよ」
「それはなんだか……仲間で楽しむフラメンコなのに……寂しいですわね」
「今日踊り始めた小娘がわかったような口を聞くんじゃねえ。とっとと糞して寝ろ」
「まあお下品! 言われなくたって寝る前のトイレは忘れませんわ!」
「そりゃよかった。この宿はシーツ汚したら別料金だからね、枕もだよ。汚したら自腹だよ」
「淑女はシーツも枕も汚したりしませんわ! 余計なお世話ですわ!」

 アレクシスは舌を出した。

「……」

 ドーニャ・マリカはじっとアレクシスの顔を見る。

「なにか私の顔についてまして?」
「いいや、見れば見るほど間抜け面だと思ってね」
「まあひどい! ドーニャ・マリカも見れば見るほどシワが多いですわ!」
「お前も年取ればシワ顔になるぞ。夜更かしすればなおさらな。覚えておけ」

 ドーニャ・マリカはそう脅かしながらもあっさりと帰っていった。
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